41話 出奔
時が経ち、私は10歳になった。
10歳の誕生日が近くなってきたあたりから私は荷造りを進めていた。冒険者として活動するために必要な道具を集めていた。お父様が認めてくれたおかげでこちらとしては非常に動きやすかった。
元の計画では武器や金銭だけ持ってひとまず出奔してそれから生活基盤を整える計画だったので幾分楽だった。
因みに王太子代行業務は今も続いてるし対外的には王太子候補として名が残っている。
幼くして優秀という評価は以前より増していた。
でも何を言われようと何を望まれようと私はここに残ることはない。その時の為に私は少しずつ準備を進めてきた。
そして全ての準備を整えた私は手紙を残すことにしていた。幾らここから離れようとも私が王族の出であることには変わりはない。私が離れる以上、誰かに国の運営を託さなければならない。特に私は王太子候補として王太子代行として権力を行使してきたのだから。
送る相手は決まっていた。お父様、ローラン、そしてマリアと決めていた。
分かってたことだけど転生した訳でもない本当に幼い子供に過ぎないローランには分不相応の責任を負わせることになる。あのクズ野郎の様に責任に押し潰され人として終わってしまってる様な存在になってしまう可能性すらある。そのことを十分に理解していたので特に配慮した。激励と謝罪をその文に残した。
当然彼一人でその重荷を背負える訳が無い。だから私はその補佐をマリアに頼むことにしていた。
彼女は内政官を志望していた。ならば更に上の立場である執政官や王太子補佐官は本望じゃないかなと考えていたからだ。彼女にも相応の負担は掛ける、そして友人として別れを告げるべき相手だった。
お父様には私の意向を伝える手紙を残すことにした。ローランを王太子にしてマリアを補佐官にする意向をだ。彼女自身もマイラスーンの排除によって動きやすくなっていたし上を目指しやすくなっていたので丁度良かったわね。
私もこんな使命に巻き込まれなければと思うこともある。私だって王女として生まれたのだから前世とは大違いな快適な暮らしを続けたい気持ちはあった。それでも逃げない、私は逃げない。私が逃げることで世界に危機が訪れるのだから。ここで逃げれば、かつて私と共に散っていった仲間達に申し訳が立たない。
手紙を書き終え自ら封を閉じた。あえて紋章はつけない。宛先だけを書いて隠した。
明日の夜、私は使命の道に歩みを進める。
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翌朝
「ここに座るのも今日が最後か」
王太子代行を命ぜられてから私は1年半に渡りここで執務を執り行った。それだけここに座れば愛着も湧かないことはない。でもここは私を縛るための場所でしかない。ふと考えた私はペンをとった。
時少なくして 頂遠し 道歩むは我が責務なれば 身命全て 賭さんとす
一筆書き、その紙を王太子執務室の私が使っていた机の引き出しに入れた。
恐らくこの席にはローランが座ることになるだろう。彼には私の覚悟を見せておきたい。
卒なく、余すことなく仕事をこなし夜を待った。
夕方、私は侍女の目を欺き寝室に武器やマジックバッグを持ち込んだ。
今宵、ここを抜け出し使命の旅路に出る最後の支度が整った。
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深夜
私は目を覚ますとマジックバッグより庶民向けの服を取り出し着替えた。貴族らしい服装など今の私には不要、さっさと動きやすく目立たない服装にしてしまうのが1番だ。
着替え終わった私は窓を開けた。
荷物は持った、出発口は開いた!さぁ征こう!使命と自由の旅路へ!
「さよなら、グレイシア王家」
私は窓の外へ飛び出した。魔法を使って屋根の上に登った。防犯のために結界が張られてるので飛んで王宮を出ることはできない。上から警備の弱いポイントを探すとそこを目掛けて降り立ち、一気に王宮の地下まで忍び込んだ。途中何人かに見つかったけど魔法で眠らせることで発覚を遅らせた。
地下からは緊急脱出用の通路が王都の外まで伸びているので、これを利用して王都の外まで脱出する。因みにここは特に結界は張られていないけど人の手で作動させる緊急遮断装置が仕掛けられている。万が一、敵が緊急脱出通路を利用して侵入を試みた場合の備えだった。無論、王族が緊急時に王宮からの脱出に使う為、ここは近衛騎士が見張っていた。でも容赦なく魔法を使って眠らせて私は通路を駆け抜けた。
駆け抜けた先は王都の南にある森林地帯である。
当然出口は分かりにくい位置にあり尚且つ偽装されてるので見つかりにくくしている。
夜明けまであまり時間はない、見つかる前に見つからないようにしなければならない。
私は森林地帯に出て水蹴靴に履き替え川を渡り、渡った先でもう一度着替え髪を切る予定だった。
しかし運の悪いことに私は山賊に見つかってしまった。
「ヒャッハー!上玉がうろついてるぜ!こりゃ良い、手籠めにしちまうか!」
「仕方無いわね、斬る」
恐らく集団の下っ端が夜中に一人で遊んでいたってところだろう。時間がない、一気に片付けるしかない。
私は刀を抜き突撃した。
「へぇ、俺たちに勝てるつもりか?」
下手くそな振り方の棍棒を避け左肩を斬り落としてやった。
「ぎゃあああ!」
「騒ぐな、死ね」
サクッと首を斬り落として私は川を渡った。
因みに遺体は凍結させてマジックバッグの中に放り込んだ。街で山賊がいる証拠として突き出してやればカネにもなる。
私は髪を切り服を着替えて簡単に王女とわからないようにした。
ついでだから顔に傷を付けておこう。戦闘もあったことだし。
そうしてるうちに夜が明けた。隣町のハルタルはすぐ近くだった。
こうして私の出奔は成ったのだった。
ー第1章 転生せし王女 完ー
本話を以て1章完結となります。
ところどころ抜いたエピソードがあったりしますが、気が向いたら書こうかなと思います。
2章からは本格的にアリシアちゃんの改名しての戦いが始まります。乞うご期待ください。
さて2章については来週月曜日6月17日開始となります。
1章完結まで読んでくださり誠にありがとうございました。
引き続き理を越える剣姫を宜しくお願いします。




