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3話 残歴転生

「王女殿下の御来訪、神官一同心よりお待ちしておりました。創造神の加護があらんことを祈ります。それでは案内差し上げます」


 挨拶を述べると左右の神官が大聖堂の扉を開け控えの回廊、そして第一応接室へと私を通した。


 大聖堂に入るのは私だけである。

 騎士と侍女たちは大聖堂の外で待機となった。

 大聖堂の中で私を世話と護衛は女性神官と修道騎士の仕事となる。

 今回、教会側が私につけた人員はこういう場に慣れた者たちばかりだった。情報が無くとも私の体調不良にはすぐに気がついた。体調不良がかなり目立ってるのがよく分かる。


「殿下、体の調子がすぐれないようですが…」

「隠すつもりは無いわ、確かに体の調子は良くはない。でも直ぐにでも調べるべきことがあるから少し無理してでもここに来ているの」

「わかりました、何かありましたらすぐにお声掛けください」

「そうさせてもらうわ」


 応接室に入って数分後、先程真ん中で出迎えてくれた神官が入室してきた。


「第2王女殿下、改めましてよくぞいらっしゃらいました。私は大神官を務めております、ミハイルと申します。大まかな話は聞いておりますが、一度詳しく教えていただけますかな」

「えぇ、分かったわ」


 アリシアはミハイルに体調不良の内容、そして何があったのかを説明した。この大神官なら何かしらの助けになると信じて。


 ミハイルにとって、私の話は気になる話であったようだった。


「成る程、魂に関わる分野は神秘の領域、我々に頼るのは正解かと思います。恐らくは残歴転生であると考えられます。残歴転生とは輪廻神様が強く気高き魂を持つ者のうち、気に入った者を輪廻転生の際に流歴を行うことなく転生させることを指します。流歴とは記憶などを消し魂を漂白されるこの世界の理を指します」


 なるほど、つまり大神官様は私が残歴転生を果たした稀有な偉人や英雄であり、あの記憶は私のモノと考えてるのね。でもそれはそれで疑問が残る。


「あれが私の記憶だとするならおかしな点があるわ。前世の記憶を持って産まれてるなら産まれた時点で前世のことについて知っていたと考えるべきでは無いでしょうか?」

「御尤もな疑問ですな。残歴転生と言いましても産まれた時に既に記憶を取り戻してる場合もありますが、後天的に思い出すことが多い様です。そして私が残歴転生と判断した理由の一つとして、殿下の症状が後天的に記憶を取り戻した場合の副作用とほぼ一致していたことが挙げられます」

「副作用?」

「残歴転生に関する資料にこの様な記述がありました。流れ込んできたかのように思い出した記憶は体に恐ろしい程の負担がかかる。特に後天的な場合は発熱、食欲不振、精神病等の様々な症状を起こす例がある。…と言うものです、症状も一致します。廃人になるだけならマシらしく、死に至る例もあったそうですのでこうして普通に話せるのは幸運なのかもしれません」


 死に至る例は想像したくないわね…

 確かに症状的には一致しているわね。これは私も認めざるおえない。


「認めるしかないのね。私は大厄災で戦死したはずのアンであると言うことを」


 そう、私に流れてきた記憶が本物であるなら私の正体はアン、あのグランリア大厄災の中心地で戦死した冒険者であり、一度死んでいるということを認めるしかなかった。


「殿下はかの高名な英雄、アンですか。まぁあの御方であれば残歴転生されても然程驚くことでもございません。あれだけの実績を残された戦士であれば納得できます。となれば使命は戦士としての役割を求められてると予想出来ます」


…え?


「し、使命ですか?」

「残歴転生について、もう少し設定しますと、記憶を残すその対価として世界のために使命を与えると言われております。そして使命を拒んだ者は悲惨な死に方をするそうです。あまりにも酷い話なので詳細は語りませんが過去に例があるそうです」


 使命を拒むと死ぬのね。いや、悲惨な死に方はしたくないわね。まぁ受け入れるしかないみたいだわ。


「残歴転生については分かったわ。記録があるならば残歴転生をしたことを確認する術はあるわけですね?」

「あるにはあります。しかしあれは1つ間違えば魂が完全に崩れ落ちます。死と隣り合わせとなります。我々としては安易に受けさせるわけには行きませぬ」

「構わないわ、死と隣り合わせだろうと何も解決しないで生きるよりはマシよ」

「本当によろしいのですね?」

「ええ、受けるつもりよ」

「…わかりました、聖堂の地下に案内いたします」


 私はミハイルの案内で地下の聖域に入った。

 聖域は光る苔等で明るい洞窟となっておりそこには1つの聖像が安置されていた。


「この像は…?」

「神々より与えられし聖像です。神々の意思が宿ると言われております」

「神々の意思?つまり神様が宿ってるわけですか?」

「本体は神界にありますが、人間に神意を伝える為に神々はこの像に意識を繋げることが出来ます。分かりやすく言うならば魔術師たちの使い魔に意識を繋げる魔術に近いものです。あれはこの御業の再現を目指したものでしかありませんが…」

「へぇ〜」


 何故か私が近づくと聖像は光り、その輝きを増していた。何が起きてるのかしら?


「え?そんなまさか…聖像が…」

「あれ?光ってる?」

「あの時と同じだ…まさか姫様がお越しになられるのをお待ちになられてたのか…?」

「どういうこと?」

「聖像の光、それは吉兆にございます。先日も同様に光りましたが我々ではその内容までは読み取ることが出来ませんでした。故にその吉兆はアリシア殿下に関することと推測できます」


 驚愕の事実ね。聖像の話だけでもとんでもない話なのに、こんな事になるなんて予想もしてなかった。


「よろしければ手で触れてみてください。本来高位神官以外が触れると死に至るのですが神が求める者は例外にございます。恐らく殿下もその1人ではないかと」


 私が聖像に手を触れるなり聖像の周りは光の結界で遮断された。神官長は少し恐怖を抱えつつもその前例のない現象を見届けるつもりらしい。


「やはり昨晩のはアリシア殿下が関わっていたと見るべきか…」


 その言葉を最後に私は意識を失った。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 転生の概念の設定が非常にしっかりしてますね。 通常のなろう作品なら、 この辺は曖昧やなあなあで済ませるんですが、 こういう風にきっちりと設定を練るのは、 この作品の強みのように感じます。 …
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