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36話 上級貴族夫人の世界

「さて、貴女がすべきことはわかりますわよね?」


 王太子代行業務をこなしつつも戦闘訓練に勤しむ日々を過ごしていたある日、私はお母様に呼び出されていた。

 普段は穏やかな笑顔をしているお母様が非常に不機嫌な顔をしている…。

 さて、どう答えたものか…。

 というのもお母様は私が貴族女性らしくない感性の持ち主であることに不満があったらしい。それでもこれまでは私の自主性の強化の名目や教養面で優れていることもあって、私を好きなようにさせていたところがあったんだけど…。


「貴女は妾の娘、王女として王太子になるのですよ。その意味を考えなさい。夜会にも出ない、お茶会も身内ばかり、社交の重要性を認識しなさい」


 お母様はさっさと婚約者を決めて身を固めて女性王太子として相応しい実務能力を持つ淑女になってほしいのは明らかね。

 王太子就任が決まったのが切掛ね…。


 私はことが済むまで結婚する気もないし純潔を散らすつもりもないんだけどね。だっていざ戦う時に出来ちゃってたら満足に戦えないじゃん。そんな状態での戦死なんて絶対にありえないわよね。恥も良いところだわ。

 お父様にもお母様にも悪いんだけどそもそも王家どころか貴族社会に残る気すらないんだよね。平凡な平民暮らしの方が気が楽だし自由で良いの。


「そもそも王位継承権そのものが要らないんだけどね」

「この期に及んで貴女は何を言っているのですか!それが許されるワケがないでしょ!貴女は立場を考えなさすぎです。今までの妾が甘過ぎました。これからは妾が直接貴女の生活を管理します。王家に相応しい淑女になってもらわないと困りますからね!」

「えぇ〜?」


 お母様の監視がつくと逃げ道探しが大変になってしまう…。これはマズすぎるわ…。

 さてどうしようか…。どうやってお母様の監視の目を逃れるか…、なんて考えていたらお母様は有無を言わせぬ顔で今日の予定を告げてきた。


「この後は私と一緒にお茶会です。今日はマンノルディー公爵夫人を筆頭に国の重鎮たる上級貴族の夫人4人招いてます。目的は今後の国の運営方針に関する意見交換です。そして貴女を参加させる目的は新王太子の内々でのお披露目です。なのでまだ貴女の参加はマンノルディー公爵夫人以外の参加者には伝えていません」

「で、どこが来んの?」

「嫌そうな態度を見せない!態度に滲み出てたらそこを突かれるわよ。そうね、妾の実家であるアヌーキテ公爵家、海運業界に強い伝手を持つフルケン侯爵家、そして最も長い歴史を誇る侯爵家たるブランデン侯爵家よ。分かりますか?国内有数の大貴族の夫人が来るのです。態度に気をつけなさい」

「フルケン侯爵家は良いとして、ブランデン侯爵家ねぇ…。あそこ鼻につくのよね…」


 前世の私はAランクだったこともあり、多数の指名依頼や高ランク依頼を受けていた。もちろんブランデン侯爵家の依頼を受けたこともある。

 特にブランデン侯爵家は貴族至上主義で平民蔑視が強い家だった。強い冒険者に指名依頼はガンガン出すのに実入りは大した事なく、追加報酬(想定より大きな成果を出した際に依頼者が追加で払う報酬)は一切出さないというクソっぷりで悪いイメージしかない。私はブランデン侯爵領には入らないようにしてたし指名依頼が被った時もブランデン侯爵家は無視していた。


 逆にフルケン侯爵家は本当にお世話になったのよね。海を越えての移動や、海賊対策の護衛依頼とお世話になる機会が多かった。更に言えば、ビジネスに明るいだけあって平民の大切さをよく理解していた。無論、当主直々の呼び出しを受けて感謝状と特別報奨(本当はギルドを介して追加報酬にしなければならない)を受け取ったこともある。そして特別報奨の理由も立派なものだった。曰く「感謝とは人を介して行うものではない、直接行うものだ。ギルドには慰謝料は払っておく」だった。無論、ギルド側も追加報酬の手数料よりも多い額でそんな論理ぶつけられたら黙るしかない。今日、フルケン侯爵家は代替わりしているけど当代も先代と同じように義理を通し、平民を蔑視しない気風が維持されていた。


 因みにどちらの家も国務卿は断っていた。断る理由は自領や庇護下の者達を優先したいとするフルケン家と王妃を出したのだから他の家の顔を立ててやるとしたブランデン家という真逆っぷりだった。


「ブランデン侯爵家は先代王妃の御実家です。歴史に誇りを持っている貴族の中の貴族です。間違えてはいけません」

「お母様はブランデン侯爵家の真の評判をご存知で?人でなしの家と言われておりますよ」

「はて?聞いたことがありませんわね。出鱈目を言ってはなりませんよ」

「いえ、私は貴族の中でも多数を占める下級貴族と多くの繋がりがありますので裏はとれてます。次いでに話しておくと冒険者ギルドからの評判は最悪ですね。既に関係者出禁を検討してるそうですよ?」

「文句を言ってる下級貴族は質の低い者達ばかりでしょう。相手にしてはいけません。ギルドのことは知りませんが冒険者は文化を理解せぬ者が多いではありませんか」


 本当に周りが見えてないわね…。今の王国の身分絶対主義の弊害だわ…。



 そうして私はお母様の侍女たちの手でお茶会用のドレスに着替えさせられお茶会の会場である王宮大庭園の一画に連行された。とは言っても最初っから参加するわけではない。私は途中で登場なのだ。

まずはお母様が出席者と話をする、タイミングを見計らって私が参加する流れだ。


 私以外の全員が集まり少し話したところで合図がでた。当然だけど席が多い事は気にならない者はいなかった。恐らく読まれてるわね。

 案の定、私が来るなり皆笑顔になっていた。目は誰一人として笑っておらず猛禽類のような獰猛な目をしていたけどね。


「あらあら、セルシア王妃がアリシア殿下をここに連れてきたと言うことは醜き鷲は撃ち落とされ、美しきパルムが伸びたということでしょうか。」


 フルケン侯爵夫人は初手から本質を言ってきた。なんとお母様が私を紹介する前に…。かなり豪気な夫人ね…。

 パルムとは年がら年中、一定時間毎に美しい花を咲かせる樹木で私の象徴として認識されてる植物だった。鷲はあのクズ野郎の象徴だ。フルケン侯爵家にとっては私の方が都合が良い、あの家にとっては優秀な者が国王になってくれた方が商機拡大に繋がるからね。


 要するに現王太子の権威は地の底に落ち、代わりに私が上に立ったことを歓迎すると言ったのと同義だった。流石は女性社交界の最上位最前線で戦う女性たちだわ、嫌味・隠語のレベルが違いすぎる。

1章1話以来の母親、セルシア妃の登場です。

半ばモブキャラ化してましたが流石に名前はしっかりあるのにモブと言うのはなかなか酷いなと思い登場シーンを作りました。

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