2話 転生
翌朝、私は頭痛と発熱で体が思うように動かない状態だった。痛みで目が覚めた。
「ここは…って…寝坊してるじゃないの!?」
思いっきり寝坊をしていたようで既に太陽は天高く昇っていた。
昨晩から続く激しい頭痛と発熱によく分からない記憶、そして気分は最悪、でもこのままでは埒が明かない。まずはこの地獄の正体を知らないといけない。
普通に考えてみれば頭痛と発熱なら風邪としか考えられない、でもこの記憶は何?神秘の類?
この様な神秘の類に関しては教会が強い、正直彼らのことはホラ吹きだと思ってた。でもこうもおかしな現象に遭ってしまった以上、神秘の類を否定はできない。もはや彼らをホラ吹きと見下すことはできないわね…。
彼らの協力を仰ぐためにはこちらから赴く必要がある。差し当たって最初の目的地は父のところである。許可を得なければならない。
思うように動かない体に鞭を打つように動かしお父様の執務室に向かった。
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〜国王執務室〜
コンコンコン
「アリシアです。入ってもいいですか?」
「入れ」
ガチャッ
「おぉ、アリシアよ、どうしたのだ?侍女からは体調が優れぬと聞いているが…」
扉の先にいらっしゃるはこの国の国王であるお父様、当然お父様も私の様子は聞いていたらしい。
「お父様、王都大聖堂に行きたいのですが許可貰えますか?」
「王都大聖堂…?」
体調が悪いのに何処出掛ける気だ?と言わんばかりの態度で返された。
「風邪で苦しんでる状況で王宮の外に出るべきではあるまい。賢明なお前ならそれくらいは理解できるだろう」
お父様の言いたいことは解る、それでも私は向かわなければならない。
「体の調子が悪い状態で王宮の外に出るのは避けるべき、それは理解してます。ですが私の見立ではこの風邪の原因は神秘の類だと思います。神秘の類ならばこの国の教会の頭たる大聖堂の神官を頼るべきと判断しました」
「神官に用があるのならば王族としての呼び出せば良かろう。王族とならばそれが許される。だがな、そもそも神秘の類が実在するとは思えんし、体調の悪い王族が態々大聖堂まで赴く必要があるのであろうか?」
お父様の言うことは間違ってはいない、普通ならば。でも私はここで引くわけにはいかない。
「大聖堂には様々な神宝がございます。私は今の状態を『正確に』知りたいのです。神官を呼んだだけでは『正確さ』が足りません。だから私は大聖堂に行きたいのです」
「何もそこまでしなくても良かろう。神官なら大抵のことは分かるであろう」
「大抵では駄目なのです。もっと確実な手を取りたいのです。いえ、取る必要があります」
正しく、確実に、今の状態を知ることが未来に繋がる、そんな予感がする。
何故あの記憶が私に流れ込んできたのか、もう訳が分からない。訳が分からない事象に悩まされるくらいなら私は直感を大切にしたい。
「わかった、その代わり護衛の騎士は多めに連れて行かせる。侍女も何人か連れて行け、それと一人で動くようなことは無いように気をつけろ」
お父様は溜息をついていたが認めてくれた。
「わかりました、すぐに準備します」
「あくまでも護衛の者たちが準備できて連絡がくるまでは駄目だぞ!お前はすぐに単独行動したがる困った娘だからな」
「うぅ…わかりました。では失礼します」
はぁ~やはり見抜かれてた…。
正直なところ私は少人数で大聖堂に乗り込むつもりでいた。
見抜かれてる上に体も思うように動かない以上は無理はできない。大人しくするしかないわね。
退室して部屋に戻った私は外出の準備をして護衛の準備ができるまで2時間待った。
その2時間、私は記憶の整理と自ら導いた仮定をどうやって証明するのかを考えていた。その答えを求めて大聖堂に向かうにしても少しでも早くその答えを得たかったからに他ならない。
しかしその2時間は答えが出ることなく終わってしまった。
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馬車の中でも侍女から釘を差されてしまった。
「気分がこれ以上悪くなればすぐに言ってください」
「そうさせてもらうわ…」
「殿下は無理をされてるのですから特に注意が必要です」
「………」
私は黙るしか無かった。
侍女が妙に目を光らせて言ってくる内容、それが普段の自分の行いに原因があるのも理解はしていた。普段、あまりにも元気が良すぎて何をしでかすか分からないと思われてることも知っていたし、無理を言った自覚もある。
流石の私も今日は大人しくするつもりでいるんだけどね…。
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〜大聖堂大神官執務室〜(sideミハイル)
私は王都大聖堂の大神官を務めるミハイルです。かれこれ40年以上神官として活動しております。
神官は民を導くため、神官として身を正すため、修行を行い、伝道活動をするのが務めです。神官として出世すると私のように教会の中の仕事を神官たちに振分けたり、教会の予算をつけたりする仕事をするようになります。
昨晩、私は大聖堂の地下にある洞窟の聖像が光り輝くのを見ました。そしてすぐに聖像が光り輝いた原因を探るべく調査を始めました。神官として、聖像が起こしたこの現象を見逃すわけにはいきません。しかし今のところ手掛かりは見つかっておりません。
しかし調査だけに時間を費やす訳にはいきません。私には大神官としての恒常業務をしなければなりません。各地の教会より大聖堂へと届けられる報告書を確認しつつ、今後の伝道活動の進め方を考えていたその時、大聖堂の受付を担当していた神官が1つの急報を届けに来ました。
「失礼します。大神官様、アリシア殿下が急遽お越しになられるそうです」
王女殿下が?彼女の立場なら私を呼びつけることも可能なはずですが…。
「殿下が?」
「はい、急な体調不良に陥ったそうです。しかし奇妙な違和感があるとのことです。その違和感の正体を知りたいとのことでした。殿下の見立では神秘の類ではないかと仰せです」
怪しい、これは何か裏がある。その類いの話であれば私たちが王宮に赴く方が自然である。とは言え、来てしまった以上は出迎えねばならない
「用向きは理解した。しかし王族なら我々を王宮に呼べたはずです。態々こちらにお越しになられることに私は違和感を感じます」
「はい、私も同感にございます」
「まぁ何であれ我々のやることには変わりはない。第一応接室の準備を整えておきなさい。私は王女殿下の出迎えに向かうとしましょう」
「はい、それでは失礼します」
受付の神官が部屋から退出したのを見てから礼装に着替えた。流石に普段の修行着で出るわけにはいかない。着替えながらぼやいてしまった。
「さて…流石に王女殿下は無下にはできませんな。とは言え、私には昨晩の件の方が気になりますが…」
本音を言えば王女殿下の相手よりも実務よりも研究に打ち込んでいたい。でもお越しになられた以上、導くのが神官の仕事だ。さぁ玄関に向かいますか。
玄関に出てきたところでちょうど王女殿下の馬車が大聖堂に到着した。
この場の代表者は私である。私は代表者として声高らかに挨拶をした。
「王女殿下の御来訪、神官一同心よりお待ちしておりました。神々の加護があらんことを祈ります。それでは案内差し上げます」
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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