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26話 子供達のお茶会

 例のウィズダムデビルボア襲撃事件から10日経った。

 魔物の棲息域の調査は予定より遅れていた。

 そんな中、私はレーナとマリアを呼んでお茶会をしていた。


「マリアもレーナもよく来てくれたわ」

「ご無沙汰しております」

「殿下がご無事で何よりです」


 レーナがいきなり不穏な発言をぶつけてきた。あまりの発言にマリアが驚いていた。


「ウィズダムデビルボアの襲撃事件ね…。アレのせいでレーナは領地に行くのが延期になりましたからね」

「魔物の襲撃?初めて聞きましたわ」

「10日前、王都の外に出てたのですけども、そこで襲撃されたのです。ドリビア子爵のおかげであの群れを何とか討伐出来ました。しかし被害も甚大でして…騎士団から派遣された護衛団45人中30人以上が何等かの負傷をしたか戦死となったのですよ」

「私もお父様から聞いた時は驚きました。何故そんな高位の魔物が大量発生したのか、何故騎士団はそれを見抜けなかったのか、何故殿下が王都の外に出ていたのか、疑問だらけですわね(クスクス)」


 何故そこでクスクス笑われなきゃいけないんだ…。しかもなんか含みのある言葉を付け加えてきたあたりがなんか怖い。


「よくご無事でしたね…。ところで殿下、レーナは何故王都の外に出ていたのか疑問と言いましたけど、私は心当たりあるんですよね」

「え?マリア様?そうなのですか?」


 マリアの笑顔を見ていると何故か背中が凍るような感覚がする…。嫌~な予感がするわ〜。


「お外で魔法か戦闘技術の訓練してたのではないですか?最近の殿下の行動を見てると思うことがあるんです」


 図星!図星だよ〜!

 というか行動から予測するなんて…!


「アハハ〜…当てられちゃった〜…。確かに攻撃魔法の訓練はしていたわ」

「やっぱりそうだったのですね。急に殿下が魔導書を読み出したのは不自然でしたわ」

「それは知らなかったわ…てっきり殿下は剣技に興味があると思ってましたわ…」

「剣もそれなりに振るえるよ」

「あら、戦闘術全般に興味があるわけですね。武闘派の中の武闘派じゃないですか〜」


 武闘派って…マリアは私のことを一体何者だと思ってるのだろう?


「武闘派と言うほど過激ではないですー!」

「うちの領地の職人に武器の注文するお姫様が言っても信じられませんわ〜」


あ、レーナにネタバレされてしまった…。


「あら?そうなのですか?」

「えぇ、ヤツスナと言う職人に依頼状を送ってます。…彼なら知ってるわよね…きっと…」

「「???」」


 あ、漏れてしまった…。

 そう、私は手紙に1つの詩を載せていた。

 転生する前、彼の師匠と私は長い付き合いがあって深い繋がりがあった。長く付き合っていく中で職人と顧客の関係を超え友人の関係に発展していた。

 その詩は…


春咲き誇り花は舞う

戦起こりて血肉飛ぶ

似れど似合わず

如何なるものとて

終には荒野に吹く風なり


 かつての私は『狂剣の花』と呼ばれチヤホヤされた。しかしその心に宿るは無情だった。いつ死ぬか分からない冒険者稼業、命を落としていく同業者たち、如何なる名誉があろうと最後は全てが無へと帰る、その理を私は悟っていた。

 特に高ランクともなれば責任も増え、指名も増え、制約も増え、自由も無くなっていき心に余裕が無くなっていたのだと思う。冒険者で自由に伸び伸び出来るのはCランクまで、B以上だと少しずつ自由が効かなくなっていくのだ。

 そう、最後の戦いで殿を務めたのもあの頃の私は全てを諦め生きていたのだから引き受けたところがあった。無に帰る場所、死に場所を探していたのかもしれない、そう思うと皮肉に感じた。死に場所を求める者に次の生を与える、まるで残酷な罰の輪廻を想起させる。


 ふと笑ってしまった。

 二人は困惑を顔に描きながら私を見ている。


「あぁ、失礼しましたわ…。少し思うことがありましたので…」

「そう、なのですね…」


ーーーーーーーーーー


side マリア


 あの笑みはいったい…

 何処か哀しみを感じ、憐れみを感じ、苦しみを感じた。


「あぁ、失礼しましたわ…。少し思うことがありましたので…」

「そう、なのですね…」


 何処か殿下の心に深い闇の深淵を感じた。

恐ろしくも美しいその姿に私は困惑しつつも目が離せなかった。

 その瞳は何を映し、その心は何を思っているのだろうか?

 私にはもう何もわからない。


 冒険者志望すらブラフかもしれない、全ては闇の中に思われたり

 意を決して私は尋ねた。


「殿下は…その…最近様々な書物をお読みになられておりますが…いったいどこを目指されてるのでしょうか?」

「歯切れが悪いわね…。まぁ隠しても無駄だから言っちゃうけど、王女としてお姫様暮らしするのは飽いてるのよね…。正直に言えば柵の少ない世界で自由に暮らしていきたい。まぁお父様やあのクズは私を逃したくは無いでしょうけど…」


 やっぱり、と言う思いが私の中に湧いていた。

 彼女は王女であることに興味は無い、むしろ嫌がってすらいた。

 冒険者志望の可能性は高いとは思えた。でも実際のところ、どこを目指してるのかは全くを持って読めない。


「やはり…そうなのですね…」

「あなたは薄々気づいてるわね。私の本性にね」


 確かに普通じゃないのは判る。しかしその先は不透明すぎる。


「それと今は知る必要はないわ。私も言うつもりはないけど」


 何かを隠してるようだった。

 教えないと言うことは余程知られたくない秘密があるか、知らない方が良いと判断されてることを意味している。


 私はこの事について考えることを止めた。


「何故隠されるのですか?」


 レーナ…察して…


「真実が優しいとは限らないわ。真実とは時に人を傷つける、深く消えない恐ろしい傷を…、それを知っているからこそ言わないのよ。悪いことは言わないわ、余計な探りは止めなさい」

「知るということは残酷よ。あなたも貴族ならそれは理解されてますよね?」


 レーナの顔が青褪めていく、事を察したのだろう。

暗い雰囲気が立ち込めたところでお茶会は終わりを迎えた。

 私は今日のことは一生忘れないだろう。


ーーーーーーーーーー


 お茶会が終わった後、私の下に一通の手紙が届いた。

 差出人はヤツスナ、面会を希望するとあった。

 本来王族が一般的な平民と面会することは余程のことがない限りはありえないし、するべきではない。私は面会を承諾した。お父様は良い顔をしないとは思うけどこればっかりは逃げられない。

 鍛冶屋シュウソウは相手を見極める、見極めた相手にしか商品を売らない。だから面会に臨む必要がある。


 その夜、私はお父様にこの話をした。無論渋い顔をされた。と言うか傲慢だと怒り気味だった。

 彼の師匠が御用工房の打診を蹴り続け、その上でこの様な暴挙とは何事だ、大人しく命じられた通り作らせれば良いと言い出し、宥めるのは大変だった。

 とは言え、彼を引き摺り出したことは正直に驚かれた。王族だろうが貴族だろうが彼や彼の師匠を引き摺り出せたことはなかったからだ。


 最終的には3日後の面会を許可された。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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