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24話 バリネット伯爵

「バリネット伯爵か…よく来たな…」

「陛下、気分が優れないようですが…」

「あぁ…問題が起きた上にアリシアがまた妙なことを考えてるものでな…」

「殿下がこの場にいらっしゃるのはそれ故ですか?」

「簡潔に言うならばな」


 微妙な空気が漂っていた。

 私はお父様の後ろで控えお父様とバリネット伯爵のやり取りを聞いていた。


「その問題について詳しく伺ってもよろしいでしょうか?」

「この話はまだ公表できぬこと、口外せぬと誓えるか?」

「誓いましょう」


バリネット伯爵は気を引締めた。顔が真剣そのものだった。


「切掛は一昨日のことだった。アリシアが王都の外で攻撃魔法の練習してたときに魔物の群れに襲われてな…。まぁここまではよくある話だ。だが襲ってきた魔物はウィズダムデビルボア、本来王都周辺では現れないはずの魔物だった」

「まさか…その群れにウィズダムデビルボアが混じっているわけではなく…全てウィズダムデビルボアだったと言うことですか…」

「そうだ…」

「確かにそれは脅威ですな…しかしアリシア殿下はご無事なわけです。それを騎士団で討伐できるなら然程問題はないと思われますが…」


 お父様は言いづらそうにして私に目を向けた。現地で当時何があったのかを言えと言う指示だとすぐに気づけた私は口を開いた。


「ドリビア子爵の加勢がなければ危ういところでした。護衛団45人のうち無事だったのはそのうち15人、死者も12人にのぼりました。被害拡大の一番の原因は正しい知識が無いことでした。接触時に無駄な犠牲をだしてます」

「何…?それは本当か?どれくらいの規模の群れだったのだ?幾らなんでも被害が大き過ぎる!」

「20体、かなり大規模な群れでしたね。接触するなり先鋒10人が纒めて瞬時に戦闘不能に陥りました。ご理解いただけたでしょうか?」

「戦い方にも問題があったのは事実でしょうが…その規模は異常すぎます!隣の領地から稀にウィズダムデビルボアが流れてくることはありますが大きな群れでも15匹を超える群れは聞いたことがない!」


 バリネット伯爵は激しく動揺していた。

 でも事実は事実だ。


「異常な規模の群れがいた、という事実から魔物の棲息域の変化が疑われているわけだ。伯爵よ」

「つまり調査が行われておりその結果が明らかになるまでは伏せられる、ということですか…」

「その通りだ」


 バリネット伯爵は考え始めた。まぁ仕方無い、だって領地に向かって王都から出発する予定なのにそんなイレギュラーが起きてたら本当に魔物に襲われるリスクを考えなくてはならない。

 領地の帰還の断念をも検討しなくてはならなくなった。


「状況は理解しました。明日、王都を発ち領地へ向かう予定でしたが、少し時間をいただいても良いでしょうか?」

「知ってしまった以上、そうなるのも無理はない」


 バリネット伯爵は戦えないことはないが然程強いわけではない。フリードが鍛えたとも聞いているのでそこそこの実力はあるだろう。でも上位の魔物の群れと遭遇しても生き残れる保証はない。

 ましてや娘のレーナ嬢は全く戦えない。

 一昨日の様な群れと遭遇すれば生き残れないのは自明だった。


「伯爵、お前に示せる道は3つ、1つ目は予定通り領地に向かう選択、2つ目は領地に向かうのを中止もしくは延期する、3つ目はお前だけで向かう選択だ」


 伯爵は少し考え答えを出した。


「領地に向かうのは延期といたしましょう。一応伝令は何人か向かわせます」

「わかった」

「領地へ向かう時期については調査結果次第とさせていただきます」

「妥当な判断だな」


 バリネット伯爵の答えを聞いたお父様は安堵していた。

 国王陛下として要人たる上級貴族が襲撃されその命を落とすのは非常に困るからだった。私がお父様の立場なら王都に留まるよう要請するしね。


「話を戻しますが、アリシア殿下がここにいらっしゃるのは現場の状態を説明する為だけでは無いと思います。その真意をお聞かせ願いたい」

「お前に頼み事をしたいらしい」

「頼み事ですか?」

「何でも王都の職人では作れぬものらしい、詳細は聞いておらぬがな」


 伯爵の表情が妙なものになった。


「伺っても良いですか?」

「鍛冶師のヤツスナという者が領都パルメルンに住んでいると聞きましてね。噂通りであれば特殊な剣を注文をしたいと考えてるわ」

「ヤツスナ…思い出しました。やたらプライドが高くて技力の良いのですが御用工房の認定は毎度断られています。注文は無駄に終わるかと」

「ふーん、彼は多分、量産を求められる御用工房の名誉は求めて無いんだと思うわ。技を尊び傑作を好む、生粋の職人じゃないかしら?」

「つまり…?」

「一点物の注文は断られにくいと思うわ」


 真の職人は量産ではなく一点物に力を注ぐ、良いものは出来るけど極めて高価な代物となる。


「根拠は?」

「彼の師匠の話は知っているかしら?その人も一点物に拘る職人だったそうよ。王都のコンテストで優勝しながら何処の王侯貴族の御用工房の誘いも乗らず、ひたすらに一点物に向き続けた。その精神を引き継いでいてもおかしくはないわ」

「理解しました。では手紙を書いてもらえますか?依頼人直筆の手紙があれば当家の家臣が顔を出しても誤解は避けられるかと…」

「はぁ…どんなけしつこく御用工房の勧誘したらそうなるのよ…王宮の役人連れてったほうが良さそうね…」


 思わず私は頭を抱えた。


「今の情勢じゃ文官は連れていけないから武官に頼むことになるけど、武官は武官で騎士から下っ端まで例の調査で大忙しだし…」


 ふと護衛に目をやるとなんかソワソワしてた。

 なので発言の許可を与えた。


「知合にバリネット伯爵領出身の騎士がいます。その者は今は任務で大規模な山賊狩りをしてます。今日帰還して休暇を取って故郷を見に行くと言ってましたが如何しますか?」

「丁度良かろう、任務を付与する故、休暇は取り消させてもらうが羽休めにはなるだろう。お前は騎士団長にその話をしてこい」

「はっ!失礼します!」


 思わぬ形で解決してしまった。


「伯爵もご苦労だった。ひとまず解決と見て良いだろう。下がって良い」

「失礼いたします」


 こうしてバリネット伯爵との会合は終わった。

 尚、休暇を取消された騎士はこの世の終わりのような顔をしていたらしい。事情と任務を知って少し安堵していた。まぁ取消された上、ひたすら魔物の調査するよりは故郷に出張するほうがマシだよね。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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