23話 狂った予定
お父様から開放された私はすぐに部屋に戻り手紙を書いていた。
宛先はレーナ、目的はフリードに教えてもらったバリネット伯爵領に住む鍛冶師ヤツスナへの注文の依頼をすることである。依頼をする以上は私から彼女に詳しい話をするしかない為、お茶会と言う形で会うことにした。
しかも都合の良いことに彼女は領地ではなく王都に滞在していた。
比較的簡単に会えると考えていた。
しかしそんなに甘くはなかった。
翌朝、私のところに知らせが届いた。
「え?明後日王都を発ち領地へ向かう?」
「はい…バリネット家からはそのように伺っております。それに伴いバリネット伯爵が明日登城されるそうです」
「分かったわ、明日、バリネット伯爵を待ち伏せするわよ。バリネット伯爵家に頼みたいことがあるから」
「殿下!無理矢理過ぎます!バリネット伯爵から抗議が来ますよ!」
「うーん、急ぎなんだけどね…」
実は手紙を書き終えて送った後の晩餐の時にお父様からフリードによるグレンの訓練に同行することに関して許可された。もしかしたら剣術を使うこともあるかもしれないと考えていた。これも急ぎの理由だった。
「ひとまずお父様に訊いてみるわ。お父様とバリネット伯爵の面会に同席したいとね…」
「あまり良い顔はされないと思いますが…」
侍女の意見を無視して私はお父様の執務室に向かった。
「あれ?不在?」
「現在陛下は国務卿会合に出席されております。お下がりください」
国務卿会合…?なんで?
お父様が不在なのは分かるとして侍従がわざわざ断りをいれるって…。そもそもあんなのが開かれるなんて国家存亡の危機とかじゃないとありえない。
私が襲われたくらいじゃ開く対象だとは思えない。明らかに異常、きな臭いモノを感じるわ…。
「国務卿会合なんて開く意味あるかしら?そんな重要な問題は起きてなかったと思うわ」
「いえ、かなり危うい状況です。陛下とドリビア子爵は先日の件は異常とおっしゃっておりました」
「ウィズダムデビルボアは確かに王都周辺では見かけない魔物だけど…」
「魔物の棲息域の変化が疑われており、その対応の為に国務卿会合が開かれております」
「開いたところであの脳天気な貴族がその程度で危機感覚えるとは思えないんですけど…」
「仰る通りです。しかしながら騎士団の失態は脅威の実在性に十分な根拠を与えております」
騎士団の残念なところは名誉を重んじるばかり戦いに隙が多い、それに対して冒険者は名誉より金のための勝利を求め如何にして勝つかを追求する。故に私は彼らは基準として見ていなかった。
「馬鹿馬鹿しい…。彼らだって万能じゃない、戦い方だって綺麗過ぎる。あれでは戦場では役には立たない。戦場は勝利こそ正義、死ねば言い訳も許されない。やっぱり頭の中お花畑なんだね…」
「殿下…何故それを…?あたかも戦場を見てきたかのように言われておりますが戦場に出たことはないはずでは?」
「戦場に出る必要はありますか?歴史が証明してると思います。私は王女として多くのことを学んでます。あなたなら私が図書院に籠もってたこともご存知でしょう?」
侍従は驚いていた。確かに私の見聞は前世のモノ、しかし歴史は繰り返す、人は学んだようで学ばない生き物、私は長年の冒険者生活でそれを学んだ。たとえ本であってもそこからその程度のことを読み取る程度なら簡単だった。
「よく…学んでおられますね…。であればここに殿下が居続ける意味がないこともお判りでしょう?」
「そのようね。また後で来るわ」
そう言い残して私はお父様の部屋を去った。
「陛下はお忙しい、些事で邪魔してはならぬのに…」
侍従が呆れていたようだったけど私は気にしなかった。要するに見て見ぬふりをした。
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昼食後、私はお父様から呼び出された。
「昨晩言ったことは覚えてるか?」
「ドリビア子爵の孫の特訓について行っても良いと言う話ですね。まさか取消は無いですよね?」
「取消ではない」
…?
お父様は何を考えてるのかしら?
「延期だ」
「延期?」
何を引き伸ばすのかしら?
「今日、国務卿会合があったのは知っているか?」
「えぇ、侍従から聞きました」
「何故侍従から聞いたのかは訊かないでおこう、昨日の件で魔物の棲息域の調査が行われることになった。異常事態が疑われておる」
「その話も聞きました」
「ならば話は早い、その危険見積もりが出来るまでは王都の外に出ることは許さぬ」
お父様も何を考えてることやら…私は問題なく戦えるんですけど…
「本当にくだらないわ…まるで毒が通じない蝶を毒霧から離す行為ね」
「幾ら耐性があろうと冒されるときは冒される。お前が戦えることは知っている、だがお前が外に出れば現実を見ぬ者に隙を見せる事になる。余計なことをされて王家の威信を下げてはならん!大人しくしていなさい」
「仕方無いわね…。その代わり明日のバリネット伯爵の登城に合わせて面会を要求するわ」
取り下げさせられるのなら容赦なく私だって要求する。やられっぱなしなんて性に合わないし…
「今度は何を始めるつもりだ?」
「バリネット伯爵領にいる職人に珍品を頼みたくてね。その依頼をしたいのよ」
「王都の職人で十分だろう。何故態々バリネット伯爵領の職人の手が必要なのだ?」
「今となってはかなり『珍しい代物』が目的よ。王都では中古ですら手に入らないような代物だから…」
「詳しくは聞かぬ、だがその程度なら何とでもなる。明日の謁見に同席せよ」
「わかったわ…」
お父様はどうしても私に首輪をつけておきたいらしい。まぁ良いや、どうせ大して問題もないし。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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