22話 国務卿会合(下)
フリードの解説に国務卿達があれやこれや言い始めた。
「確かに群れの規模が大き過ぎる。調査はすべきだろう。とは言えただの猪だろ?騎士団の方陣なら止められるのでは?」
「いや、一々騎士団派遣していたら同時多発的に起きたら対応しきれんぞ!」
「そもそも重装甲の兵士たちが防御の構えをとって吹き飛ばされてると聞いている。方陣で耐えられるのか?」
「魔物の調査に意味があろうか?そんなもん冒険者ギルドに勝手にやらせておけば良い、王国が出る案件ではあるまい」
様々な意見が交わされるのを見て国王が決定事項を告げた。
「王都周辺の魔物の調査は決定事項だ。現状を放置しておけば国への悪影響を及ぼしかねん。具体的な対処については調査結果を確認してから検討することになろう。今求められるのは調査結果がでた直後の動きを理解しておくことだ。市民への発表、公使への対応などやるべきことが山積みとなる」
「予算を担当する私としては頭の痛い話ですが想定しうる活動とその予算額を算出しておく必要がありますな…」
国王の宣告を受け国財卿と宰相はすぐに頭を切替えた。
「成る程、それほどまでに悪化しているのならば国内の各領主や代官にも警戒を呼びかける必要がありますな。対策を取ろうにも想定される被害の内容と規模を予想する必要があります。規模はともかく内容はすぐにでも考える必要がある」
宰相の言葉を内務卿と外政卿が続けた。
「まず対策せねばならぬは流通の遮断かと、王都50万の民の活動を支えねばなりません。主要街道の連絡体制の確立が最優先かと」
「それに関しては輸送護衛団を検討すべきだな。纏まって動けば費用削減にもなる」
「護ってばかりでは徒に不安を煽る。打って出るべきだろう。なるべく市民や諸外国の使節に見えんようにな」
フリードは元平民として思うことがあるのか意見を出した。
「いや、出兵するなら戦果だけでも見えるようにした方が良い。景気の良い話が飛べば市民は安心する。それが国の安定に繋がる。この際、諸外国に隠し通すのは不可能だ。割り切った方が良いと思いますが?外政卿殿」
「ぬぅ…しかし…」
「ここで国の体制が盤石であることを示せれば外交も有利になる。完全に隠すのは悪手かと」
フリードの正論に外政卿は黙り込んだ。既にフリードの意見に宰相と国財卿、軍務卿も賛同している。孤立しているのは明らかだからだ。
そんな中、内務卿は別の懸念をしていた。
「街道と流通も守る必要があるが各地に点在する村落はどうなる?そちらの対策も考えるべきかと」
「それならば以前検討された二重城郭都市計画を進めるべきかと、農村まで城壁で保護してしまえば…」
「いや、それは非現実的だ。それより各村落の集住化と囲いの構築をすべきかと」
宰相は議論を眺めながら如何にして纒めるかを考えていた。
成る程、確かに魔物の動き次第では非常に大きい被害が懸念される。民や流通の保護も重要だが、魔物を先んじて叩くことで被害を予防できるところもある。また、後者は魔物以外の害獣も叩く対象にすれば民は歓迎するだろう。
最終的には予算と人員のバランス調整が重要であると理解した。
そしてこの議論には終わりがなく、派閥争いが勃発仕掛けてることも理解した。それを抑え込むためにそろそろ会議を無理矢理にでも纒めて終わらせる必要がでてきてる。
意を決して纏めにかかった。
「皆様、宜しいか。ここまでの議論を纒めましょう。まず対処案は大きく分けて3項目に分けられます。民の保護、流通の保護、そして被害予防の討伐です」
この会議の参加者全員が注目し続きを待った。
「民の保護に関しては二重城郭都市計画の再考、村落等の簡易防壁の構築、集住推進による防御拠点の明確化が意見として挙げられている」
民あっての王家や貴族である。王国を維持するために民を護るのは絶対である。
「次に流通の保護である。流通無くして我々人間の活動は大きく制限される。これは軍事活動にも影響を及ぼす。策としては警報体制確立を含む街道整備、そして輸送護衛団の設立が挙げられた」
これも皆が理解している。
流通は民の活力、経済の生命線である。これを疎かにして国の運営などできる訳が無い。
「最後に被害防止の為の討伐活動だな。これを実現するためには人手が足りぬ。実現の為には冒険者の支援と騎士団を中心とする王国軍の増員が不可欠と言える。今からでも増員に着手すべきであろう。できるだけ早期にこれは実現せねばなるまい」
今すぐにでも増員と言う宰相の一言に外政卿、国財卿、軍務卿は顔を顰めた。
外政卿は外国からの警戒されることを気にしており当然と言える。国財卿も予算を捻出せねばならず頭の痛い話である。軍務卿にとっても兵士は数だけ増やせばよいわけではなく、軍人としての知識や技量を身に着けさせるのは時間がかかることを理解していた。3人とも非常に大変な業務を投げつけられた格好になった。
無論宰相もそれは理解している。その仕事のサポートも自分の仕事であることもだ。
「無論、関係各所に凄まじい負担が掛かる。私はその全ての支援に回る」
己の為では無い、自家の為でもない、王家の為でもない、国の為に全力を注ぐマンノーディー家の家訓に実直な男の姿がそこにはあった。
「陛下、よろしいでしょうか?」
「うむ、流石だな。マンノーディー公、良くぞ纏め上げた。皆も良いな?準備は抜かり無く進めよ」
こうして会議は終了した。