21話 国務卿会合(上)
翌日、国務卿会合が開催された。
国務卿会合は全ての国務卿、国王並びに王太子が基本的な参加者である。尚、今回については王太子が不祥事で謹慎中の為に不参加となり、オブザーバーとしてドリビア子爵のフリードが参加している。
国務卿とはこの国における重要役職である宰相、国財卿、内務卿、外政卿、軍務卿の5人のことである。
「何故我々は召集されたのだ?我々が集まらねばならぬほどの事件は起きてないはずなのだが?それに何故下級貴族の者が来ているのだ?」
外政卿ドルガ・フォン・ソンムスティ侯爵は疑問を呈した。彼からすれば戦争が起きたわけでも飢饉が起きたわけでもない。さらに言えば職務上、あまり諸外国に不安を与えるような状況は極力避けねばならない。
彼からすれば魔物の発生など些事でしかない。アリシアが襲撃されたのも無事に帰ってきたのだから何の問題があるのだろうと考えていたくらいであり、政治的に対立しがちなフリードがこの場にいることが気に食わなかった。
「確かにドリビア子爵が喚ばれているのも妙な話だな。下級貴族であれ陛下が必要があると判断された以上否は言うまい」
国財卿スタスオーガ・フォン・タルシュアント侯爵もフリードの参加を不思議に思っていた為、その部分だけ軽く同意を示したものの陛下の意向に従うとした。
そんな中、内務卿ピエール・フォン・ドラバタザス伯爵は興味深い目線をフリードに向け、軍務卿ネーコフ・フォン・ヘルヴィルム伯爵は青褪めていた。軍務卿が青褪めるのも無理はない、昨日の事件は彼にも責任が問われるような事態だったからだ。
「間もなく陛下がお越しになられる。私語は終わりだ。今日、ここに我々が集められた意味を考えよ」
宰相を務める男は真面目だった。リチャード・フォン・マンノルディー、先々代国王の王弟の一族にして公爵、その圧倒的優秀さから「最も王位に就くべき男」と呼ばれた英傑だ。『王国を支えよ、王国を見せるな、王国の忠臣たれ』と言う家訓に従い持ち上げようとした貴族を内乱を企む愚か者と見做し敢えて敵対した過去を持つ。王国を見せるなと言うのは自分の王国を作り世に出してはいけないと言う意味だ。彼の一族の忠誠は王家ではなく王国に向けられている。
その性格ゆえに国務卿の中で最も国王より信頼を得ている。
そこに国王が入ってきた。
「諸君、よく集まってくれた。昨晩、急な招集をかけて申し訳なかった。だが今の王国は極めて危うい状況にある。故にお前たちに招集をかけた」
参加者のほぼ全員が頭を下げた。しかし1人だけ反論したものがいた。
「陛下、不躾ながら申し上げます。戦争や反乱の危機ならば外交を司る外政卿たる私の耳にいち早く届くはずです。しかし私のもとには何の情報も来ておりません。国家存亡の危機は来ていないと考えます。仮に国家存亡の危機だとして下級貴族をここに喚ぶ意味がありますか?」
「貴様!陛下に何をいう!」
外政卿の反論に国財卿がキレた。
危ういと判断した国王は事情を説明し無理に先に進めることにした。
「双方落ち着け、外政卿の下に情報が行ってないのも当然だ。昨日の段階ではまだ何も解ってなかったのだからな。それとドリビア子爵を喚び出したのは彼が貴族の中で最も魔物に詳しい人物だからに他ならん」
「魔物如き何が脅威となるでしょうか?騎士団ならば問題なく狩れると思うのですが…」
「内務卿の言う通りだ。早急に討伐すれば外交には影響しないはずだ」
「確かに魔物の大量発生の類の話であれば本来なら軍務卿と騎士団長を喚び出せば終わる話ですな…。しかし我々がこうして集まっている、つまりはそんな可愛い話ではないことを示している。違いますかな?陛下」
内務卿は疑問を呈し、外政卿は明らかに嫌そうな顔をしていた。そんな中、宰相は非常に冷静だった。
「宰相が正解だ。魔物の棲息域の変化しているの可能性がある。そしてその影響と考えているが王都周辺に本来現れるとは考えにくい強力な魔物が出現した。それも群れでだ」
「昨日、王国騎士団から派遣したアリシア殿下の護衛団が無視できない被害を出しております。騎士団が出れば何とかなるという考えは危険かと」
「ふん、自分のところの失態を有耶無耶にしたいだけだろ?」
軍務卿の説明に外政卿はすぐさま軍務卿を批判した。
国王はそれをスルーしてフリードに解説を求めた。
「ドリビア子爵はその戦地に居合わせてる。説明してもらいたい」
「うむ、まず敵はウィズダムデビルボア20匹だった。この時点で異常だと言えるだろう。45人の護衛団のうち実に30人が戦死もしくは負傷している。確かにウィズダムデビルボアを見抜けなかった間抜け共は処罰すべきだろう、その失態のせいで被害はより大きくなった側面はある。だが王都周辺で見かけない魔物の群れ、それもあの規模の群れを見るのは異常だ。何かしらの異常事態が起きてると推測できる」
フリードの解説は会議の参加者に大きな不安を抱かせた。誰もが受け入れたくない推測だった。