19話 王宮の騒動
王宮は大騒ぎとなった。
アリシアが訓練から帰ってきた時に護衛の人数が減っていて、なにかと思えば戦死者が発生し多数の負傷者が発生していたからだ。王宮まで同行したドリビア子爵も当然事情聴取を受けることになった。
「ドリビア子爵、それは本当なのですか?本来ウィズダムデビルボアはこの辺には出没しないと思うのですが…」
「うむ、本当だ。何故現れたかは解らぬ。冒険者ギルドに連絡して合同で調査を行った方が良いかもしれぬな。ウィズダムデビルボアは本来北西の森林地帯を中心に生息する魔物であることはご存知であろう。つまりそこに何かあった可能性は否定できない」
「分かりました。ではその方向で調整します」
「うむ、そうしてくれ。それとこのマジックバッグに魔物すら見分けられぬ愚か者共の遺体と魔物の死体を入れてきた。中身の回収を頼む」
「はっ!」
フリードに事情聴取をした騎士は愚か者共の一言に内心震え上がった。そんな動揺をあからさまに出すほど弱くはなかったが…。
「この後、陛下には用事があるのでついでに私の方から話しておこう」
「お願いします」
「はぁ…行ったか…早く陛下の下にいかねばな…」
儂は陛下の執務室に向かっていった。
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その頃、アリシアは国王の呼出を受けていた。
「話は聞いた、魔物に襲われたそうだな。やはり危険だったのではないか?」
「いえ、適切に対処出来ていれば問題なく討伐できたはずです。護衛団は誤った認識に基づいて迎撃し無駄な犠牲を払うこととなりました。ウィズダムデビルボアと他のイノシシ系の魔物を見間違えるなんて酷すぎます」
「何…?想定してたのとは別種だったのか?」
「彼らからすればそうでしょうね。私は一目みて見抜きましたが…」
お父様は頭を抱えてるわね。
私の護衛団が無能と呼ばれてもおかしくない失態を犯したのは流石に予想外だっただろう。
ホント、私やフリードがいなかったらヤバかったわね。
「にしてもドリビア子爵がいなければ危うかったな…」
「えぇ、流石に今回は全滅してたかもしれません。情報の重要性を認識しました。それとドリビア子爵は激怒してましたよ。その場で護衛団にお説教してましたので…」
「ほう…?」
「護衛団だけじゃなくて魔法の先生も怒られてましたよ。王女が戦ってるのに何故お前は防御結界に閉じ籠もってるのか?と…」
「魔法学者に勇を求める方がおかしいと思うがな…、お前も戦ったのか?」
「当然です。相手が悪すぎましたから…逃げきれないなら戦うしかありません」
「そうか…お前が戦えたのは意外だがな…。どのみちそのクラスの魔物が現れるとなるとやはり危険だ。信用できる護衛が居ない今、お前を外に出すわけにもいくまい。少し大人しくしてるが良い」
「駄目…ですか?」
「駄目だ」
悔しい…
戦闘力を少しでも伸ばしたかったのに…戦えることを証明しても周囲の過ちで制限されるとは…
悔しいので食いつくことにした。
「ではグレン殿の訓練に同行する形では駄目でしょうか?今回の件からもドリビア子爵なら信用できると思います」
「確かに彼は高い戦闘能力がある上に知識も豊富だ。無論私個人の信頼もある。が、貴族家当主に頼むべき内容では無いな」
やはり駄目らしい
「それに彼だけで対処できる不測事態だけしか起こらぬなら問題はないが今回の件もある。さらに言えばグレンの訓練内容が同一かすら怪しい、違う目的の者を同行させるわけにも行くまい」
多分3つ目はグレンに実戦経験積ませる為だからそこに混ざるのは私としては望むところなんだけどね…。そんなこと言えば怒られるのは目に見えてる。あー、何とかして外で訓練できないかな〜。
因みに脱走の選択肢は無い。脱走して抜け穴塞がれれば出奔時の障害になりかねないからね。
「気になることがある。お前は何で戦ったのだ?攻撃魔法が実戦でしかも最前線で使えるようになるにはかなり大変なはずだ」
「勿論魔法も使いましたが戦闘不能に陥った兵士の剣を拾って使いました」
「一応戦闘の推移を聞いておこうか。如何にして接触したのだ?」
「魔物に追われていた人の悲鳴により発見、兵士の中に大声を出した者がいまして、そちらに釣られてその魔物が進路を変えて襲ってきた形になります」
お父様は十分に起こり得る話だと考えたようだった。
しかし疑問はそれだけではなかったようだった。それを知るべく私に続きを促した。
「私は襲ってきた魔物がウィズダムデビルボアだと見抜き効果的な迎撃法を提案しましたが、ただのイノシシの魔物の突進と誤った判断を下した護衛隊長が重装を活かし正面から受け止め反撃することを指示しました。悪手の見本と言わんばかりの体制であった為に、ものの見事に前衛が吹き飛ばされてしまいました」
「何故、ウィズダムデビルボアにその体制は悪手なのだ?」
「あれは突進時に鼻にある魔法器官を使い魔力によって大幅に強化された極めて強力な突進をしてきます。その破壊力たるや薄めの城壁なら一匹の突進で崩せるほどです」
「なに…?相当な危険種ではないか!それでは確かに正面から受けきれるわけもないだろう」
「その通りです。しかし対処法がないわけではありません。上手く突進を避けて鼻を潰せば魔法は使えなくなります。そう出来ればあとは体の割に力強いだけのイノシシと変わらなくなります」
「つまりその後は突進を避けながら鼻を潰しつつ数を減らし、そうしてるうちに近くにいたドリビア子爵が参戦してくれて全滅させることに成功したと…」
「簡単に言うならばその通りです」
「状況は粗方分かった。さて…どうしたものか…?」
話が途切れてしまった。他にもやることがあるのでここで抜けることにしよう。
レーナへの手紙も書いてしまいたい。モリトナの弟子がバリネット家の領地にいるのなら彼女を通じてコンタクトを図るのも良いだろう。
「あの…お父様?私、そろそろ下がっても良いのでしょうか?」
「ん?あぁ、分かった。今日はここまでしておこう」
そうして私はお父様の執務室から退出した。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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