1話 お転婆な王女様
史上最悪と言われグランリア大厄災と名付けられたスタンピードから28年の月日が経った。前代未聞の大災害で王国はグランリア地方を中心に凄まじい規模の被害を被った。グランリアのスタンピードに連動するように各地でも規模の大きさ問わず魔物が暴走したのだ。
耕作地帯がやられたり、城壁の無い街では壊滅したところもあった。
王国全土での死者は全人口の約3%に相当する約36万人に達した。負傷者数はそれを大きく上回る数字となった。
この厄災の被害によって国土は荒廃し、国家存亡の危機に陥ることとなる。
無論近隣諸国でも似たような魔物暴走事件が多発し、多くの国がその立て直しにかかりきりになった。グランリア付近でグレイシア王国と隣接していた小国に至っては首都陥落したことで無政府状態となり近隣諸国に難民が押し寄せたりもした。
世界的に被害を与えたこの厄災は人類史の中で永遠に語られることになる。
この大災害から立ち直るために王国は復興に全力を注いだ。その結果、一番大きな被害を受けていたにも関わらず、最も早く復興を成す事ができた。逸早く復興がなされたことで国内の情勢は安定し、王家は国内外から高い信頼と威信を得ることができた。
そしてこの日、グレイシア王国宮殿には福が降りた。
「おぎゃー!」
「王女誕生!すぐに陛下に報告を!」
侍女たちが慌ただしく動き回る。この日、王妃セルシア・フォン・グレイシアが第三子目となる第二王女を出産したのだ。
夫である国王ガイスト・フォン・グレイシアが入ってくる。
「おお!産まれたか!」
「ええ…可愛いですわね」
「この子はお前に似て美しい姫君になろう」
王女はアリシアと名付けられた。
しかしアリシアは様々な秘密を抱えていた。そして歴史に名を残す偉業をなすであろうことをまだ誰も知らないのである。
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私はアリシア・フォン・グレイシア、グレイシア王国第2王女です。8歳です。
私は王侯貴族の子女の中でも特に美少女で出来も良いらしく『グレイシアの華』と呼ばれ称えられています。
好きなことは体を動かすこと、走り回ることです。「王女らしくない!」「はしたない!」と周りの大人たちからは文句言われるけど、大人たちが求める王女像って退屈で仕方ないのよね…。
ある日の朝、私は礼儀作法の先生が部屋に来る前に庭園に逃げて楽しく走り回ってました。
あっ……先生が庭園に入ってきた。
よし、隠れよう。見つかると授業に連行されちゃうもんね。
私は庭園の茂みに身を隠した。
しかし…
「見つけました。こんなところに隠れてないで部屋に戻りますよ。それと王女として相応しい行動をおとりください。ドレスも汚れますし何よりはしたないです」
見つかってしまった。もう逃げられない。
「はーい」
生返事で返した。だって授業つまらないもん。
授業で教わることは歩き方やら言葉遣いに始まり、お茶の飲み方、おやつの食べ方1つとっても王侯貴族には作法がある。正直細かすぎてやってられないわ。
こんなつまらない淑女教育を何時間も受けなければならない。苦痛だわ…。
数時間経った。
私は嫌々ながらも授業を受けていた。
「本日はここまでです。明日は逃げ出さず授業を受けるのですよ」
今日の授業が終わってテレジアは退室していった。
「ふぅ…やっぱり授業より外で走り回ってた方が楽しいわ…」
思わず愚痴が漏れてしまった。つまらないものはつまらない、明らかに王侯貴族としては感覚や価値観がズレてるのは確かだとは思う。もっと好きなことができたらとも思う。
でも王女である以上、その振舞はひとつひとつ注目される。だから嫌いでもなんでも受けなきゃいけない。
とは言っても私は優秀らしい。兄や姉にあたる第一王子と第一王女は我儘三昧で物覚えも良くはなかったので教育係は毎回大変な思いをしていたらしい。彼らは口を揃えて「あの子達のことを思えばアリシアの指導はまだ楽」と言う。
昼過ぎ
昼からは剣術の訓練があった。王族たる者、自ら身を護らなければならない。いざという時に民を護る力が求められると同時に王族という立場上、いつ襲撃されるかしれたものではないからである。私だって死にたくない。
剣術師範は平民上がりの叩き上げで高い評価を得た騎士、マイケル卿が担当だった。
「殿下、本日も素振りから始めましょう。口酸っぱく申し上げますが素振りは心を研ぎ澄ませる効果がございます」
「フフフ、やはり剣は楽しいわ。剣を振るうのが心地良く感じる」
私は高揚していた、まるで剣に焦がれるように、己の本来の在り方を表すように。
「殿下は筋が良いです。何事も基礎が大事にございますが殿下はその基礎がしっかりしていらっしゃる。素振り一つその人の心の在り方が現れます。殿下の剣は美しい」
「フフ、何故か剣は手に馴染むのよ。これは一体何なのでしょうか?」
「ハハハ、その答えは解りませぬが馴染むのであればその問は気にすることではございません。とは申しましてもいずれその答えが出るやもしれませんな」
不思議なことに今までこの疑問が解消されたことはなかった。答えは掴めそうで掴めていなかったのである。
それでも楽しいことをしている時ほど時の流れは早くなる。何時の間にか時間が過ぎ、修練は終わりとなった。
「本日の修練はおしまいです。お疲れ様でした」
「ありがとうございました!」
訓練を終えて部屋に戻った。
また1日が終わる。普段なら明日は楽しもうと思ってただろう。でも今は違った。
やけに今日は手に剣が馴染む、まるで剣を振るうことが私の本分かのように、一体これは何故なのか?今までは剣に手が馴染む程度だった…。それが強い疑問となり、気になって仕方がなかった。
この感覚は何なのか?考えていても答えはでない。導きだすことすらできなかった。
その晩のこと、私は強烈な頭痛と発熱に見舞われた。
苦しい、痛い、何かが湧き出てくるような……
頭に浮かぶ風景はまさに地獄、多くの戦士が打倒され魔物が押し寄せてくる。そんな中、大剣を振るっていた?それも見たこともない少し反った形状の…もうよく解らない…
これは誰の記憶?私の?それとも他人の…?しかし何故か私自身の記憶のように思える。
私は一体何者なの?。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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