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18話 英雄の本領

 フリードの参戦はアリシアの護衛団は士気を上げた。生きる伝説の登場に湧いたのだ。

 かつて冒険者として大成し貴族に成り上がった正真正銘の武人であり多くの実績を残した大英雄が駆けつけてくれたのだ。武人として憧れる者は多い。


(この数の護衛をつけられた令嬢が剣を握られてるのも大いに疑問だが…こやつら…何故この程度の魔物にやられておるのだ?確かに珍しい魔物だが見れば分かるだろうに…)


 戦場についた儂は一目みて強烈な違和感を感じていた。


「距離をとらせるな!避ける手間が増えるぞ!それから鼻を狙え!魔法を無力化しろ!」

「殿下の指示と似ている…!?まさか本当にウィズダムデビルボア…?」


 護衛団の兵士から飛び出した言葉に儂は呆れ返ってしまった。殿下以外の者達はそもそも襲ってきた魔物がウィズダムデビルボアと気づいてなかった。その上、護衛対象の王女殿下に剣を振らせてる。ある意味救いようがない。

 そしてすぐさま理解してしまった。イノシシの突撃レベルと判断し正面から迎え撃って陣が崩れたと…。

 分ってる者からすればただの愚行でしか無い。しかし起きてしまったことは致し方ない、やることは変わらない、戦況の挽回を図るしかないのである。


 儂の参戦に気がついた2匹が突っ込んできたがそれを余裕で捌いた。アレは分かっていれば大したことはない、儂なら簡単に捌ける。

 1匹目は突撃を避けるなり鼻を潰し蹴飛ばし転ばせた。尚、トドメはグレンが頭から腹を真っ二つにしてみせた。2匹目は鼻を突くなり魔力を剣に纏わせそのまま脳まで切り抜いて絶命させた。


 突っ込んできた個体を蹴散らしたところで目線を移すと衝撃的なものが見えた。

 護衛団が苦戦する中、殿下は何故かウィズダムデビルボアを苦にしてないのである。

 さらに言えば彼女の剣術は王国騎士団の主流たるベルタグル流ではなくかなりマイナーな上にこの国では絶えていたトーイス流のものだった。フリードはそれを知っていた。数十年前、アンと模擬戦したときのソレだとすぐに気がついた。


(馬鹿な…あの剣術はこの国では絶えたはず…何故アリシア殿下がそれを使われてるのだ…)


 アリシアはウィズダムデビルボアにそこまで苦戦していた訳では無い、得物が違う事によるズレに困っていたわけだが。

 思ったように剣を振れないのは隙を晒すのと何も変わらない。その隙は魔法で何とか補えていたがやはり限度はある。

 それでも周りの護衛団よりマシな状況だった。正しい情報と度胸は正義である。


 約10分後、何とか20体全てのウィズダムデビルボアを倒すことに成功した。

 しかし被害は甚大だった。護衛団45名中戦死者が12名、負傷者が18名も出してしまった。儂が参戦してなかったらもっと被害が出たのは間違いなかった。

 尚、一人いた魔道士は結界魔法に閉じ籠もり自分の身だけを守っていた。完全にダメな奴である。


 儂は怒り心頭だった。


「フリード卿、助けていただき」

「馬鹿者!敵を正しく理解せずこの様な被害を出すとは何事だ!それでも騎士団の人間か!」


 アリシアの護衛団は震え上がった。感謝の意を伝えられない程にフリードが怒ってたからだ。


「幼い王女に剣を振らせおって…挙句の果てに結界に閉じ籠もってた腑抜けもいたな。お前らどうなってるんだ?それが王家に仕える者達の所業か?いい加減にせよ!今日の件とお前達の行いは全て陛下に報告させてもらう」

「わ、私は戦闘力がないのでどちらにせよ戦えば命はなかったかと…」

「愚か者!結界魔法が使えるなら他の攻撃魔法も使えよう、同じく戦闘力が低いはずの殿下が戦われてるのに貴様だけ逃げるのか?巫山戯るな!」

「ひっ!!」


 ふと気がついた。

 殿下が儂の逆鱗に触れ魔法の先生含む従者全員が怒られてるのを傍目に儂の服装を観察しているようだった。そしてマジックバッグに目がいっていたのを理解した。


「ドリビア子爵、その…マジックバッグお借りしてもよろしいでしょうか?戦死者の遺体や魔物の骸を放置しておくのは疫病や害獣発生の元だと思いますわ」

「尤もですな。さぁお前ら、さっさと働け」


 儂はアリシアの要請を認めると縮こまっているアリシアの護衛団を働かせた。有無を言わさずに。

その間に儂はアリシアに尋ねるべきことを尋ねていた。


「殿下、無礼を承知でお伺いしたいことがございます。その剣術、どこで習得されたのでしょうか?」

「元冒険者の子爵がその剣術に見覚えがあるのも当然よね。トーイス流剣術…、昔の冒険者の一部が使っていたマイナーな剣術であり今となっては見かけることのない技…。その心得がある理由はまた今度話すわ。この場で話すわけにはいきませんので」


 知りたいことは知ることができなかった。

 だが裏のない人間など存在しない。儂はアリシアの裏の一端を知れただけでも今回は良しとした。


「じいちゃん、トーイス流って何?何故廃れたの?」


 グレンは空気を読まなかった。彼の正直なところは美点でもあり欠点でもある。場が場であるだけに儂は頭を抱えたくなった。流石に王女殿下の前でこれはない。


「グレンよ、知りたい気持ちは分からんでもない。だが今は殿下の前だぞ、少し考えよ」

「私が答えるわ。あの流派は東方から伝わった少し特殊な剣術よ。あの流派が廃れた理由は幾つか考えられるわ。流派に最適化された武器の流通量は少なかったのが1つ、この国の国民気質と合わなかったのが1つ、結果的に流行る下地は無かったのです。流行らなければ消滅も当然早くなるのは必然と言えますわ」


 後で教えるつもりだったのだがな…。その場で殿下が答えてしまった。教える手間が省けただけなので然程問題はなかったが…。


「あ、そう言えばですがドリビア子爵、あの流派に最適化された刀と呼ばれる剣は今でも入手出来るのでしょうか?」


 何故その質問をするのか、気になるところではあるが答える分には問題はない。確かにアレに最適化された刀はかなりの貴重品で扱える鍛冶師は少ない。


「バリネット伯爵領の領都パルメルン市にそれを扱える鍛冶師が移住したという噂は耳にしたことがありますな。とは言いましてもかれこれ11年前の話になりますが…」

「名はご存知ですか?」

「ヤツスナと聞いております。あの武器鍛冶の名匠モリトナの一番弟子でしたな。…もしや殿下、その刀を欲されてるのですかな?」

「勿論!あ、お父様には秘密にしていてください」


 何故父親である国王陛下に隠すのか解らなかった。が、これ以上探るべきではないと判断した儂は話を進めた。


「分かりました…。それと荷物の回収が終わったようですので殿下も帰城の準備をお願いします」

「ドリビア子爵も登城される予定ですか?」

「えぇ、そうするしかないですね…。現状殿下の護りは弱くなっておりますれば私が就くべきでしょう。それにあの愚か者どもの所業は一刻も早く陛下にお伝えせねばなりませんのでね…。グレン、お前も付いて来い」

「僕だけ帰るのは駄目?」

「駄目だ」

「よろしく頼むわ」

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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