16話 愚かなる王太子
私は魔法を学び始めて1月ほどで部屋で試せる程度の魔法はほぼ習得していた。
難易度もそんなに高くない魔法がほとんどとは言え苦手だったとはいえ下地があったのは大きかったみたいでした。
ここから先はお外や専用の訓練場が必要になるのでお父様の許可が必要になる。それに専門の教師もつけられるだろう。あ、外に行くなら剣も持ってくのも認めてもらえたら良いな。多分「危険だ!」とか言われて雷が落ちるけど…。
そうとなれば直ぐに実行!時は金なり!ってね!
お父様の執務室に向け廊下を歩いてたら会いたくない人物と遭ってしまった。
「やぁ、可愛い妹よ」
兄である王太子マイラスーンだった。
「何用で?私は生憎者の兄さんには用事はないの、邪魔だからどいてくれる?」
「いや、君の将来の事を考えた大事な提案があるんだ」
「愚かな兄さんには悪いけど自分の将来は自分で決めるつもりなの、余計なこと考えなくて良いよ」
「誰が愚かな兄だ!素晴らしき兄の間違いだろ!兎も角お前にはこの国の未来の賢臣と婚約してもらう。次期トスリロテ侯爵たるワタッキルムがお前の夫となる。素晴らしい提案だろ?」
「賢臣ではなくて佞臣の間違いじゃなくて?トスリロテ侯爵家には悪いイメージしか無いの。あんなゴミクズの家なんか興味ないし嫁ぎたくもない。私は愚かな兄さんの駒でもないしね。それと言ったでしょ?自分の将来は自分で決めるってね。その中には結婚も含まれるの。あぁ、あの家には制裁を課すわ。当然よね?私の邪魔をするのだから」
「何だと!?次期国王たる王太子の私の言うことが聞けんのか!?」
「黙らっしゃい、私はお父様に急ぎの用事があるの」
「お前が黙れ!大人しく従え」
完全にキレた愚かな兄は実力行使に出て私のドレスを掴むとそのまま引っ張っていこうとする。
向こうが手を出してきたのだからやり返しても問題はないよね。それにこのお馬鹿さんは武術は苦手なはず、喧嘩売る相手を間違えてるわ。そのことを思い知らせてやる。
ドゴッ!ボキッ!バコッ!ボコッ!
「グハッ!」
……………………
2歳年上だけど体術の心得のある私の相手ではなかった。無論相手は全く鍛えてない雑魚であるのに対し私はしっかり鍛えてるのでどう考えても勝てる要素しかなかったので徹底的に反撃してやった。
元Aランク冒険者をナメんな!
「このクソガキが…手間取らせやがって…さてお父様のところ向かいますか…」
あ…イライラしすぎてつい冒険者時代の口の悪さが出てしまった…。
ボッコボコになり気絶した無謀で愚かな兄を放置してお父様の執務室に向かった。
トンットンットンッ
「入れ」
ガチャッ
「アリシアか…どうかしたか?」
「お父様、頼みごとがあって参りました」
「嫌な予感しかせぬが…とりあえず聞こうか…」
「はい、魔法の練習がしたいため、王都の外に出たいのですが…許可してもらえますか?」
「お前は…今度は何をしでかすつもりだ…?そうでなくとも王都の外は必ずしも安全とは言えぬ、また良からぬことでも企んでないだろうな?」
「企んではいないです。ただ攻撃魔法の習得と訓練がしたいと思っております」
「魔法が使えるのか?そもそも攻撃魔法は危険を伴う、しかも必要には見えんのだが…」
「生活魔法の類なら既に習得してます。攻撃魔法ほど強力な護身術はありません。王族だからこそ強力な護身術を身に着けておく必要があります」
「分かった分かった、少し考えておく、結論は暫し待て」
「はーい…」
「拗ねたところで変わらぬぞ…ん?」
バタッ!
「王太子殿下が倒れております!侵入者がいるかもしれません!」
「何っ!マイラスーンがだと!?」
「あ、アイツが暴力を振るってきたので反撃して倒しました」
「「は…?」」
予想外の顛末に報告しに来た騎士と国王は絶句しているわね。そもそも王太子が怪我して倒れてる時点で相当な問題ではある、が、まさか王太子の失態が原因で兄妹喧嘩に発展した結果が王太子負傷等とは想定外の極みと言っても過言じゃないだろうね。
更に私は続けてやった。彼を失脚させるために越権行為をバラしてやった。
「無謀で愚かなアイツは私にワタッキルム・フォン・トスリロテとの婚約を強要してきました。当然、トスリロテ家も当人も嫌いですし、アイツに駒扱いされるのは嫌なのでハッキリ拒否しました。そしたら掴みかかってきた形ですね。そもそも王族の婚姻については国王権限ですので明らかに許されざる越権行為です」
「そ、それは本当か?アリシアよ…」
「えぇ、嘘じゃないですよ。あのクズは本当に救いようがないです。頭も悪い、運動能力も低い、将来の佞臣となりうる悪人やクズの類の友人ばかりと本当に酷いものです。それと魔法は使ってません。あんなクズ体術だけで十分です」
「あ…あの…殿下…仰ることが全て真実だとしてもあれは流石にやる過ぎかと思います。彼処までの怪我をさせるのは…」
「あんなクズの好きにさせてやるほど私は甘くはないわよ」
「それより現場とマイラスーンの様子はどうなっている?」
「王太子殿下は自室に運び入れ宮中医から手当を受けております。現場についても何か犯人の痕跡がないかの捜査が始まっております。まぁ捜査は無駄になりそうですが…」
「分かった、ワシが見に行く。案内せよ!それとアリシアもついてこい」
「はい…」
アイツのもとに行きたくはないけど行かざるおえなくなってしまった…。
ーーーーーーーーーーー
「これは…」
現場を見たお父様は驚いていた。あらゆるところに血痕が残っている。体術だけで血痕が出来るなんて思ってもいなかった。娘の戦闘センスの高さは認めつつもここで魔法を使われてらと思うとゾッとした。
「何故ここまでの惨状となる負傷を負わせたのだ」
「無能なコイツは拘束して無理矢理結婚させようとしたでしょう。それこそ問題なのでは?だったらそんな事ができないよう徹底的に痛めつけ行動不能にしてしまう方が安全でした」
お父様は真剣に考え始めたわね。確かに私の戦闘センスは高い、そりゃ元Aランク冒険者だもん。その戦闘センスで高威力の魔法をぶっ放されたら流石に怖いわよね。その気持ちは分かるわ。
お父様にとってメリット・デメリット共に大き過ぎる話なのは事実、でも私は引かないわよ。
だから外で練習したいというのはある意味理性を保った要求だったはず。危険を理解し安易に使わないと言ってるに等しいのだから。それが妥協への最後の一押しとなった。
「王都の外で魔法の訓練することを認めよう…。出るときは護衛はつける。勝手に行くなよ」
「はいっ!」
「さて次は息子の様子を見てくるか…」
王太子の部屋についたお父様は呆れていた。どうしたらこうなるのだと…。
そして遊びに来てたワタッキルム・フォン・トスリロテに聴き取り調査して呆れ果てた。
「お前というやつは…やり過ぎだ…。まぁ明らかに越権行為と王子としての作法がなってないのは事実だから今回は見逃してやる。コイツは謹慎処分が良いところだろう。それとワタッキルムとの婚約は私が許さぬ、いや、ワタッキルムと王族との婚姻は許さぬ」
「王族並びに王家の血を引く者との婚姻そのものを許さぬとは…」
「そのままの意味だ。越権による婚約を認めてしまえば問題だ。そして他の王族や王族の血を引く者を娶れば替玉と映ろう。故に許さぬ。…権力欲に任せて楯突く気か?ワシは構わんがな」
ワタッキルムが黙り込んだわね。ここで言い返せば即座に自分と友の首が飛ぶ、それくらいのことは簡単に予測できるわよね。どんなに愚かでも権力欲がある以上はこの程度で嵌るような真似はすまい。
「何も言わぬなら去るが良い」
「し、失礼します!」
慌てて逃げるワタッキルムは青褪めていた。
その光景は見てて胸がすく気分だった。
来週より投稿時間を変更します。
このまま5:00掲載のつもりでいましたが、19:30に変更したいと思います。
方針が二転三転して申し訳ありません。
引き続き「理を越える剣姫」をよろしくお願いします。