14話 グレンの特訓(下)
グレンはフリードに連れられブルダブル洞窟にやってきた。
ブルダブル洞窟は魔物も少なく強くも無いことから初心者クラス向けとして有名な迷宮である。初心者向けとあって技術の低くまだ冒険者として低ランクに位置する人達が多かった。そんな中、如何にも質の非常に良い装備をしていたら非常に目立ってしまう。
「オイッ!そこの小綺麗な装備した金持ちのジジイとクソガキ!ここは金持ちの散歩道じゃねぇ!迷宮だ!死にたくなきゃさっさと帰りな!」
何も識らなければ普通にナメて絡んでくるのである。
しかし相手が悪過ぎた、武人として名を馳せ貴族となった元冒険者の大英雄とその孫である。
「やれやれ…若い冒険者は血の気が多いな…。残念ながらお前の考えてることは見当違いだな。ワシはかつて『迷宮の剣聖』と呼ばれた武人、老いて少し衰えたがこんなところで遅れをとるほど耄碌しておらんぞ。たとえ孫1人護りながらでもな」
「なんだ?爺さん、『迷宮の剣聖』とやらは自称だろ?そんな二つ名聞いたこと無いぜ」
フリードは適当にあしらうつもりだったがそうは問屋が卸さない。絡んできた若い冒険者は完全に無知であり、未熟であり、血の気が多過ぎる。
因みに周りに居る冒険者は皆注目していた。その中でも少しでも知ってるものは冷汗をかきながら注視していた。何しろフリードは伝説の冒険者の1人であり貴族でもある。どう足掻いても実力でも権力でも勝てる相手ではないのだ。
「あの爺さん大丈夫か?」
「お前、『迷宮の剣聖』ってなんだ?知ってるか?」
「オイッ!知らないのか!?元Sランク冒険者の貴族だぞ!」
「貴族!?じゃ、じゃあアイツは不敬罪で…」
「可能性はあるがその場で武力制裁だと思うが…」
「あの大厄災の生き残りにして大英雄たるあのお方に喧嘩を売るとは…馬鹿だな…」
周囲は完全に野次馬となっていた。しかも洞窟の入口周辺だけに人が多い。
多くの野次馬が見てる中、喧嘩を売った血の気の多い冒険者は遂に一線を越えた。
「そんなに自信があるならやってやろうじゃねぇか!俺はCランクのビダリーだ!」
「やれ致し方ない、相手してやるか…。ドリビア子爵家当主フリード・フォン・ドリビアだ。来いっ!小僧!このワシをナメてかかったこと後悔させてやる!」
「貴族!?」
「しっ、子爵!?」
「なんでそんな大物がいるんだよ!」
「隣りにいる子供は孫か?もしかして孫の世話でこんなところまで来たのか?」
「というかこんなところで決闘するとかアホか!」
もはや大騒ぎである。
ビダリーは完全に喧嘩を売る相手を間違えた事を悟った。貴族に喧嘩を売ったともなれば不敬罪に処されてもおかしくはない。もう謝罪は認められない、退けないならば進むしか無い、なんとか老いの隙をついて勝利し国外に逃げるしか無い。
ビダリーは腹を決めた。
「ほぅ…腹を決めたか…。だがその程度抜けるほどワシは老いてはおらん」
「うおおおぉぉぉああ!」
ビダリーは大声を挙げて突撃した。
間合いに入ると上段から剣を思いっきり振り下ろした。しかしフリードには当たらなかった。横に半歩で避けたのだ。
避けられるなり直ぐに剣を振り上げるように斬り掛かった。フリードはそれすらも軽く避けてのけて間合いを取った。
「勢いに任せた剣なぞ、どうとでも捌けるわ」
フリードは追撃してきたビダリーの剣を避けるとそのまま顔面に峰打ちを打ち込んだ。
顔面で諸に受けることになったビダリーは気絶した。顔面には峰打ちを受けたところが出血していた。
「ふんっ!これからは見た目で判断せぬことだな」
「じいちゃん、歯向かった奴を放置して良いのか?」
「若さゆえの過ちゆえ、大目に見てやるつもりだ。まぁ手当はしてやるつもりはない。運が良ければ再起の目はあろうな。さぁこんなところで時間食ってる余裕はない、進むぞ」
フリードはグレンに魔物との戦いを教えた。グレンが20体くらい倒したくらいのところで撤収を始めた。グレンが体力的に疲弊してるのが見て取れたからだ。
「よしっ!今日はここまでにするぞ!撤収だ」
「まだだ、この機会を逃したく」
「駄目だ。ここは一応危険地帯だ、こんなところで力尽きるなどあってはならん。引際を見抜けぬ武人はすぐに死ぬぞ。死にたくなければ引際を見抜け!まぁ初めてだから判らぬは仕方ないがな」
「分かった」
「王都に戻ったら帰る前にギルドに向かうぞ。魔物を屍は素材として売れるからな。1ムルに笑うものは1ムルに泣くからな」
「だからこのバッグを持ってきたんだね」
「そうだ、自立するなら早期に買っておくことを奨めるぞ。小さいものならそんなに高くもないしな」
フリードはマジックバッグを持っていた。素材を収納するためである。実はマジックバッグ自体は容量の小さいものならそんなに高くはない。しかし彼が持ってきたのは正真正銘の高級品、元Sランクの子爵は太っ腹なのだ。
王都に戻った二人はギルドに顔を出した。
注目はされどもブルダブル洞窟の時のように絡まれることはなかった。混み合ってはいたが貴族の特権を使うこと無く律儀に並んで素材売払カウンターまで進んだ。
「ライセンスカードを見せてもらっても良いでしょうか?」
「ライセンスカードか…返納して久しいな。これでも良いか?」
フリードが出したのは冒険者ライセンスカードではなくて貴族証明手帳だった。
まさか老貴族が孫と思われる子供を連れてくるなんて思わなかった受付嬢は焦りに焦っていた。
「ほれ、焦ってないで確認することを確認せい!貴族が現れたぐらいで狼狽えておっては受付嬢は務まらんぞ」
「は、はい!確認させていただきます…。え!?冒険者から貴族に列した英雄フリード様ですか!?」
「うむ、ワシがフリードだがどうかしたか?」
「いえ、伝説の冒険者とお会い出来るとは思っておりませんでしたので…」
「ワシは既に引退した身…、今日は孫のグレンを鍛えるためにブルダブル洞窟に行っていた。それより買取を頼みたい」
「分かりました。素材はこちらのカウンターにお願いします」
30体近い魔物の屍を売り払った。
因みに素材は魔道具によって地下の素材集積場に順次移送されるようになっているため、カウンターはそこまで大きく無くても大丈夫なのだ。
「合計で6240ムルになります。グレン君は冒険者を志願されてる感じかな?」
「はい、騎士か冒険者になろうと思ってます。出来ればじいちゃんみたいに冒険者として身を立てたいと思ってますが…」
「そうなんだねー、歳はいくつかな?」
「9歳です」
「まだ登録は出来ないけど将来ここに来るのは歓迎するわ」
「うん、ありがとう!」
「フリード様は良いお孫様をお持ちですね。羨ましい限りです」
「お前の歳なら子供だろ…。まぁうちのグレンはまだひよっこに過ぎん」
「はい、それではありがとうございました。またお待ちしております」
素材を売り払った二人は家に帰った。
尚、喧嘩を売ったビダリーの件にシャルは激怒した。Cランク風情が貴族に喧嘩を売るなど論外であるからだ。フリードは己にも若く周りが見えてない時期があったが故に彼を見逃すことにしていた。ここに生粋の貴族と元冒険者の違いが出ていた。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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