10話 断罪
僕が陛下の私室に来たとき、扉の前にいたのは近衛騎士団長以下、近衛騎士5名だった。彼らは部屋の外にいるということは人払いの命が降りてるのは明らかだった。彼らはどうするか迷っていたようだった。放置しておくわけにはいかないと判断したのか近衛騎士団長は部下に僕の相手と周囲の警備を任せて入室していった。彼は一応この状況下でも入室は可能であるため僕の取り扱いを伺うために入室したのだと思う。
「喚び出されておりましたグレン殿が来られました。如何致しましょう」
「密議は終わりだ、連れてこい」
部屋から出てきた近衛騎士団長に手を引かれながら僕は国王陛下の私室へと足を踏み入れた。
「陛下、命に従い参りました」
僕は青褪め震えながら挨拶をした。父の妨害があったとはいえ遅刻は遅刻、処罰を恐れていた。
「よく来た。先ずは何故遅刻したか一応問うておこう。まぁ何となく予想はつくがな…」
僕は恐怖のあまり震えだした。予想はつく、もしや翻意があると疑われてるのではないかと思っていた。しかしそうではなかった。
「まぁ怯えるな、翻意があるとは思っておらぬ。気軽に話せ」
安堵した僕は覚悟を決めすべてを話すことにした。親父の縛りをもう抜け出したい。その一心で…。
「親父が王宮に行かせないようにと邪魔してきました。反省してないとか当主だけ行けば良いと言ってました。挙句の果てに陛下宛にそれを弁明する書状まで書き始める始末でした」
抵抗までしたのは国王の予想を越えていたらしい。怒りと落胆、呆れが混ざったような感じだった。
じいちゃんに至っては顔つきが厳しくなっている。これは完全に激怒している。
「やはりか…」
「そこまで酷いとは…」
これが国を背負うということか、国を背負う為には幾ら個人の感情があろうとそれを圧し殺す必要がある。そのことを嫌という程思い知った。
「それで如何様にして出てきたのだ?」
「偶然なのですが夜会帰りのフラジミア公爵が当家の邸宅前を通りました。公爵様は当家の様子がおかしいと踏み込むと親父を取り押さえて僕を出してくれました」
筆頭公爵たるユーグ・フォン・フラミジアが関与したことを知るとじいちゃんは激怒した
「フラミジア閣下が動かれただと!?あの愚か者め!」
「お、落ち着かれよフリードよ」
「じいちゃん…」
「こんなことなら奴を締め上げておけば…」
「いや、奴が愚かなお陰で大義名分が出来た。こちらとしては奴を処分しやすい。ユーグとも近い内に話をしよう。良いな、フリード」
「ハッ!」
陛下は本題に入る為、話を切らせたようだった。
「さて、本題に入ろうか」
陛下とじいちゃんの立会の下、事実の確認の為の取り調べが行われた。
アリシア殿下とのやり取りがメインに確認が行われた。そこで発覚したのは親父の暴走についてである。殿下の前でも暴走気味であり、殿下も良い印象をもっていないのは間違いないだろうと結論付けた。じいちゃんにとってはある意味頭の痛い話だと思う。だって子育てに失敗したようなものだし。
陛下はジャンの更生は完全に不可能であると理解されたようだった。本当に高官の側近にしていい器ではないのだろう。これで親父が失脚してくれれば僕は動きやすくなる。
「結論は言うまでもあるまい、ジャンは反逆罪で引っ捕えるのが早いな。なに、安心して良い奴以外は処罰せぬ」
「御恩情痛み入ります」
「陛下、恐れながら僕の立場はどうなるのでしょうか?」
「お前が知らぬのは無理はない、祖父の養子となればよかろう。フリード、良いな?」
「承知しました」
全員が納得したところで国王は近衛騎士団長に命を下した
「即刻ジャンを捕らえよ。逃げるとは思わぬが万が一逃げられても困る。罪状はあえて反逆罪の容疑とする。言いたいことは分かるな?現当主のフリードと罪人の嫡男による密告として家自体には恩赦とする」
「ハッ!直ちに衛兵に取次ぎます」
本来、反逆罪は一族は勿論のこと、家臣や関係者まで類の及びうる大罪として規定されている。その処分も良くて犯罪奴隷や斬首であり、最悪の場合は衆目に見られながら残虐極まりない形で処刑される程だ。罪が罪だけに正しく救いがない。
「まぁ処刑は公爵と話してからで良いだろう。彼の証言も聞きたいからな。さて手紙を書くゆえ下がって良い。夜中に済まなかったな」
退出しようとした時、部屋の外が騒がしかった。じいちゃんは僕を部屋に戻すと剣の柄に手をかけ部屋の外に飛び出した。武人たるじいちゃんは襲撃事件の可能性があると判断していたはずだ。しかしその懸念は杞憂に終わった。噂をすればなんとやら、突如王宮に参内したフラミジア公爵が緊急の面会を求めたせいで混乱しただけだった。
すぐに陛下の私室にじいちゃんは戻り状況を報告する。手紙を書く手間が省けた陛下はすぐに部屋に通した。
「夜中にこの様な形で面会を求めしてしまい申し訳ございません。しかし王命に背く者を見過ごしておくわけにはいきませぬ故に参りました」
「ジャン・フォン・ドリビアのことで相違ないな?」
「陛下が何故その名を?」
「先程までその話をしていたからだ。無礼を承知で騒ぎとなっていたドリビア家邸宅に飛び込んだと聞く、状況はどうであった?」
「とにかく愚息を出せば問題を起こすなどと言って王命に歯向かっておりました。何故あの様な強硬手段に出たかは知りませんが勅命を授けられた騎士に立ち向かうなど貴族としてありえません」
「なるほどな、愚かにも程がある。それよりもだ、奴は今はどうしてる?」
「当家の兵士を入れておりますので逃げられるとは思っておりません。奴は部屋に閉じ込めて監視しております」
「よし!良くやってくれた。反逆者の身柄の確保は国王として喜ばしい限りよ。さて、何があったかイチから説明しよう」
じいちゃんと陛下は僕とアリシア殿下の接触から全てを話した。フラジミア公爵は少し困惑していた。殿下のやったことは異例であり、王女の常識的な動きではなかったのた事実だ。過ぎたことを言っても仕方ないし然程問題は無いと判断したのか殿下のことは一度置いておいて親父の処罰に関して意見を述べた。
「普通に考えればジャンは犯罪奴隷でも良いでしょう。しかし奴は奴隷にしても働くとは思えません。内密に斬首で良いかと思います」
「やはりそれが無難であろうな」
フラジミア公爵が納得したところで国王は話を終わることにした。
「皆、本当に助かった。夜中に無理に参内させたのは申し訳ない。今日は休まれるが良かろう」
この一言が解散の一言となった