プロローグ
初投稿の作品となります。
何となく書いてみようと思って書き始めた作品になります。
グレイシア暦496年
グレイシア王国グランリア市郊外で史上最悪の大狂乱が発生していた。凄まじい数の魔物が押し寄せてきている。
あたり一面戦場となりあちこちで魔物と人間が激突していた。剣閃の音、悲鳴、雄叫び、鬨、見るもの全て、聴こえるもの全てがこの世の地獄のようだった。
「おい!こっちも限界だ!」
叫ぶ声が聴こえる。
ここは大狂乱の最前線、戦士たちは圧倒的物量に押され戦線は崩れかけていた。
魔物の種族もゴブリンのようなザコから鬼の様な強さを誇るオーガの様な魔物まで混じっていた。その魔物たちの特性もバラバラであり対処を困難にしている。
さらに敵を削るうちに徐々に上位種族をはじめとする高ランクの魔物が増えだしている。
「ぎゃあああっ!!」
「上位種のグレートオーガが現れたぞー!」
「誰か高ランク冒険者を呼んできてくれ!」
「駄目だ!あちこちで敵の質が上がってる!どこもかしこも限界が近いぞ!」
グレートオーガ、体に多数の角を生やしたオーガ種の中でも特に凶暴で剛腕なことで知られる魔物だった。
絶望的な戦況の中、私は呟いた。
「やれやれ…あっちもこっちもボロボロじゃない…『狂剣の花』もここが死地になりそうね……」
私はAランク冒険者アンだ。
グレイシア王国の貧困層出身だった。貧困故の不自由な幼少期を経て自由を求め、身を一つで冒険者になり、ソロでありながら血が滲む程の努力の末に技術を身につけ戦闘力を磨き、若くして二つ名を持つほどの存在になった。
愛用している湾曲した大剣を強く握った。東方から流れてきた刀と言う剣の一種でありその中でも大太刀と呼ばれる部類の代物である。刃渡り4尺5寸、私のトレードマークとも言える長大な武器だ。
私はグレートオーガに目をつけると一気に距離を詰め袈裟斬りで切捨てた。血が飛び散りグレートオーガが力無く倒れる。
「助かった!流石『狂剣の花』だ!」
「戯言言ってる余裕あるなら突撃してきな!」
「ああ、そうさせてもらう。それが俺たち冒険者の仕事だからな」
そう言うと助けられた男たちは戦線に復帰した。
私たちが戦っているこの戦場の後方には街がある。街への侵入を許せば一般市民が虐殺されてしまう。
私達には自覚があった、自分たちの敗北はすなわち街の壊滅に繋がることを……。そして覚悟があった、この身に換えても街を守る覚悟が……。
そうして現れたのがこの屍山血河の状況である。
覚悟があろうと士気が高かろうと現実は無慈悲だった。遠目で何かデカいモノが迫ってきているのが分かる。状況的に飛行能力を持つ魔物と思われた。
近づくにつれ、その正体は明らかとなった。
顎には鋭い牙を生やし頭には優雅な角を生やし雄大な羽で飛ぶ厄災の象徴、竜だった。
前線に竜が現れたのは最悪の状況だった。魔物の波の中に竜が混じっている。竜は私のような高位ランクで初めて勝負になる相手である。
「オイ、マジかよ……この状況で竜なんてどうすれば……」
「俺たちはここで死んじまうのか……」
竜の存在が明らかになったことで屈強な男たちの士気は大きく下がった。
中には泣き崩れてしまった者もいた。竜ほどの脅威ともなれば如何に覚悟があろうと流石に部隊が動揺するのは避けられなかった。中には心が折れ絶望から崩れ落ちたその隙に魔物に襲われ命を落とす者すら現れる始末、戦況はより一層悪化してしまった。
正しく壊滅寸前に追い込まれた。
最早一刻の猶予も無い。
私は決心した。
「殿は私がやる!皆は後退して建て直して!」
「どういうことだ…?」
「このままだと総崩れで被害が大きくなるわ。準備が整ってる後方の陣地に退きなさい!彼処ならまだ対応出来る」
「でもお前は…」
「私が時間を稼ぐ、私ですら時間稼ぎが限界よ」
次々襲いかかってくる魔物を斬り伏せながら私は仲間に後退を促した。陣地なら簡易的な防壁もあればバリスタと言った大型防衛兵器も配備されている。まだそちらの方が勝機はあるだろう。
この場では私が一番の強者であり慕われている。そして私の催促に対する周りの反応は大きく2つに別れた。
「分かった…オマエの犠牲は無駄にはしねぇ…」
力量差を理解した低ランクの冒険者を中心とする組は素直に前線からの後退を始めた。彼らとて命あっての物種である。無駄死には避けねばならない。
一方、高ランクや死に場所を求めてるような特殊な部類の人間の反応は大きく異なった。
「俺も残る、アンタほど強くは無いがそれなりに力になるだろう。それにアンタ一人にデカい顔されてたまるかよ!」
「パーティーの仲間はもう居ない…パーティー最後の生き残りだ…自分だけ生きて帰ろう等とは思わねぇ!止められようと果てるまで残る!」
「姉貴、別に殿は一人じゃなきゃ行けないわけじゃないだろ?」
どこまでも熱い思いを抱くものたちがこの死地に残ると決断したのだ。その奥には、名誉、復讐心、覚悟、あらゆる感情が渦巻いていた。
「そうか…私達は死兵となる。共に命を捨てて敵を少しでも喰い止めよう!」
「おう!」
「やってやんよ!」
「しゃあ!行くぞ!」
残った者たちは数は極めて少ない、竜が出る直前は100名近くこの付近に集まっていた。しかし今や残ってる者は私を筆頭に15名前後、だけど残った者たちの士気は極めて高い。全員が命を捨てる覚悟を決め一秒でも長く敵を抑え込むことを己の使命と自覚していた。たとえ隣の仲間が死のうとも最後まで抵抗し続ける死兵しか残ってない。
死兵と化した私達が突撃するたびに魔物の波が止まる、高い技量の持ち主の集団が恐ろしい程の気迫で死を恐れず捨身の特攻を仕掛けてるのだ。敵の被害が少ないわけがない。
「グッ…致命傷か…死ぬその瞬間まで…ガハッ…」
それでも1人また1人、櫛の歯が欠けるように屈強な戦士が倒れていく。少しでも後方の負担を減らすために、1匹でも多く屠る為に、彼らは自らが倒れるのすら利用して彼らは魔物を殺し続けた。
それでもいつかは限界が来る。この様な滅茶苦茶な殿が1時間ほど続いた。
そして最後まで生き残った私も遂には限界に達してしまった。
私の眼の前にいるは防衛線に配備されていた部隊の心を圧し折った竜、奴は無傷なのに対して私は満身創痍で力もほぼ尽きていた。もはや抵抗する術は無い。
「ここまでか…」
私は死ぬことを理解した。それでも歩みを止めない。最後の力を振り絞って大剣を投げつけた。
竜は息を吸った。こんなボロボロの相手にブレス等やり過ぎにも程がある。爪で切り裂けばそれで終わる、しかし竜はブレスを使うと決めたようだった。
竜は高潔な魔物だ。竜は私が殿部隊の中心になっていたことにも気がついていた。ここでブレスを使うのは状況を理解しても尚、歩みを止めない私への敬意である。
そしてブレスは放たれたあたり一面が焼野原になった。
しかし投げつけた剣は運命の悪戯か、ブレスに負けることなく飛んでいき頭に突き刺さって竜を絶命させた。相討ちである。
私達は仲間の後退再編成のために最大限時間を稼ぎ散っていった。
後退する中、後ろを振り向きその戦果を確認した冒険者の手によって私は英雄として名を残し、その生涯を終えたはずだった。