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第2話 その専属侍女は誰のため?

 

 伯爵が部屋を出ていくと、お嬢様は折っていた膝をスッと立て背筋を伸ばされました。


 この誰よりも優美なカーテシーの所作を見れば伯爵の期待も理解できるというものです。



「本当にマリーンお嬢様は容姿だけではなく、立ち振る舞いの一つ一つもお美しい」



 ほぅ、と私はため息を漏らしてしまいました。こんなの同性の私でも見惚れてしまいますよ。



「しかも聡明で魔力も大きく、それでいて奢ったところのない人柄。若い令嬢達からの人望も厚いとなれば伯爵でなくとも期待してしまうのも無理ありませんね」

「シーナ・サウス!!」



 沈着冷静なお嬢様には珍しく私の名を口にする声は荒いものでしたが、原因は分かっております。



「あなたは私の専属侍女よね?」

「はい、私シーナ・サウスはマリーン・アトランテ様の忠実な侍女にございます」



 私がしれっとした態度で対応すると、むっとしたお嬢様は傍に立つ私を()め上げました。


 ですが、そんな恨みがましい目で睨まれても可愛いだけですよ。そんなの私が萌えてしまうだけですから意味ありませんよ?



「だったら私の気持ちは知っているでしょう?」

「知っているからこそヴァルト殿下との婚約話は喜ばしいのです」

「私はレッド様とお付き合いしているのよ!」

「伯爵には内緒で、ですがね」



 お嬢様は伯爵には秘密でレッド・ブラックシーなる人物に熱を上げていらっしゃいます。



「棘のある言い方ね」

「私はレッド様とのお付き合いには最初から反対だったのです」



 お嬢様がお付き合いなさっているレッド・ブラックシーは学園の教師なのですが、色々と良くない噂が多い御仁なのです。



「何よ! シーナは私に味方してくれないの?」

「私は世界の全てを敵に回しても最後までお嬢様の味方ですよ」



 何言ってるんですか?

 お嬢様の敵になるものなど一億の軍勢が相手でも粉砕してやりますよ。



「やだもう! シーナったらぁ、それじゃまるで熱烈な告白じゃない」



 ああ、お嬢様がテレテレしてます――可愛いかよ!



「まるでではなく本心からの告白(ラブコール)です!」

「やだぁ〜もうもう! あのね、私もシーナが大好きよ」



 お嬢様からの告白返しがっ――最高かよ!



「えへへへ、言っちゃった」



 お嬢様が恥ずかしそうに赤くなった頬を両手で押さえて照れております――くっカワ!


 可愛い、かわいい、カワイイ――いかん、鼻血が……



「私もお嬢様を誰よりも大切に想っております」

「でも、だったら私の恋を応援してくれてもいいじゃない」

「確かに私はお嬢様の幸せを第一に考えておりますが……」

「だったら!」

「だからです!」



 この私シーナ・サウスはお嬢様の幸せのため、お嬢様が真に愛を捧げる相手を私は全力で応援する所存です。


 ただし、レッド・ブラックシーてめぇはダメだ!



「あの男はお嬢様に相応しくございません」

「どうして?」



 そんな可愛く小首を傾げてもシーナは一歩も引きませんよ。



「お嬢様も聞き及んでおいででしょう。レッド様の女性遍歴を」



 レッド・ブラックシーは教師の立場を利用して、まだ未熟で隙の多い学園の若い令嬢に手を出しているようなのです。


 まさに女の敵!



「そんなの根も葉もない噂だわ。レッド様はカッコいいし、女性に優しいから勘違いする令嬢が多いのよ」

「それはお嬢様のご学友のアドリア様にもおっしゃいますか?」



 そんな被害者の中にはお嬢様の親友であられるアドリア・ベンガル伯爵令嬢も含まれているのです。



「アドリアはレッド様との関係は否定したわ」

「そんなの当たり前です!」



 噂とか「のようだ」とか断定できないのは、被害に遭われた令嬢達がみんな黙して語らないからからです。


 このような男女の関係を暴露されれば令嬢は結婚できなくなる可能性もあり、どんなに男性の方が悪くとも女は泣き寝入りしなければなりません。


 レッド・ブラックシーは卑劣にもそれを利用している節があります。


 最初はアドリア様への仕打ちに激怒なさっておられたのに、いつの間にかあの卑劣漢(レッド・ブラックシー)に堕とされていたなんて!


 やはり、どんなに聡明でもまだ15歳。

 お嬢様も恋に恋するお年頃なのですね。



「お嬢様があんな男の毒牙に掛かったなんて」

「毒牙とか失礼ね。レッド様とは清い交際しかしてないわよ」

「そのうち本性を現します」



 理知的なお嬢様でも恋の前には盲目になられるとは!



「しかし、こうなると今回の殿下との婚約話は渡りに船」

「え〜嫌よ私は」



 ブスッと口を尖らせ不貞腐れるお嬢様……こんなお姿も可愛い。



「ヴァルト殿下は優秀でなかなかの美男子だそうですよ……ちょっと俺様みたいですが」

「俺様なんて嫌いよ!」

「キザな女の敵より万倍マシです!」

「そんな事を言うシーナは嫌いよ!」

「うぐっ!」



 私が狼狽すると勝ち誇った顔のお嬢様がふふんっと鼻を鳴らす。



「くっ、例え嫌われようともお嬢様の未来のためなら私はお止めします!」



 これもお嬢様のためなのです!

 ここは心を鬼にしてでも……



「じゃあ、シーナなんて大っ嫌い」

「うわ〜ん」



 ――嫌いになっちゃイヤァァァ!


 お嬢様に嫌われたら私は生きていけません。



「それじゃ、どうすれば良いか分かっているわよね?」



 膝に縋りついて泣く私の頭をよしよしと撫でて、お嬢様はにっこり笑いかけてくださいました。



「協力しろとまでは言わないけど誰にも内緒だからね」

「ゔゔゔ、え゙っぐえ゙っぐ、わ゙、わ゙がり゙ま゙じだ〜」



 ぐぬぬぬ!

 やはり、私ではお嬢様に逆らえません……

 かくなる上はヤツがお嬢様に不埒なマネをしようものなら刺し違えてでもコロス!


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