最終話 そのハッピーエンドは誰のため?
「今みたいにシーナはすぐに顔に出るから腹芸は無理でしょ?」
「むぅ、つまり信用はできても信頼できないと」
「そんな事ないわ。適材適所よ」
そんな慰め要りません(泣)
私が力不足だからお嬢様の信頼を得られなかったのですね。
「私はシーナを信用もしてるし、信頼もしているわ」
「ですが、えっぐ、えっぐ…」
「もう、泣かないで……私はシーナが大好きよ」
お嬢様が? 私を? 好き?
ぐへへへ……い、いえ、もう騙されませんよ!
「ヒック、ヒック……ホントに?」
「ホントに。だからシーナの事は誰よりも理解しているわ」
「ですが、私はお嬢様のご期待に応えられないのではありませんか?」
「まさか!」
だから、蚊帳の外にされたのだと思ったのですが?
「シーナは私の期待通りの働きをしてくれたわ」
「えっ、私は何もしておりませんが?」
最後にお助けしたのだって、お嬢様にとっては不必要だったみたいですし。
「何も教えなければ私を大事に思ってシーナはブラックシー先生とのお付き合いに反対するって信じていたから」
お陰で信憑性が増してレッド・ブラックシーを簡単に堕とせたのだそうです。
「婚約偽装の件も黙っていたら予想通りに明後日の方向に動き回ってくれて……ヴァルト様も良い隠れ蓑になったとおっしゃっていたわよ」
「お二人は私を囮にされていたのですか!?」
私はお嬢様の手の平の上で踊らされていたと?
つまりそれは……
「お嬢様は私の行動を完璧に読めるほど私を良く理解してくださっているのですね!」
ああ、お嬢様はそんなにも私が好きだったんですね!
「うん、シーナのそんなおバカな所も好きよ」
ん?
お嬢様、なんで苦笑いされているのです?
「だけど、シーナが男子の制服を着て飛び込んで来たのには驚かされたわ」
「学園に潜入するのに変装していたもので」
「お陰でシーナは学園でちょっとした有名人よ」
やはり、不法侵入はまずかったですかね?
「身を挺して私を庇ったシーナはカッコいいって令嬢達の間で大人気よ」
「捕まるわけではないんですね?」
「学園へ行けば可愛い子達に捕まるかもね」
ぐへへへ……私モテモテですか?
「何よ、嬉しそうな顔しちゃって」
「嫉妬ですか?」
「ふんだ。浮気は許さないんだからね」
「もちろん私はお嬢様一筋です」
「どうだか」
あ〜、ヤキモチ焼いてプイッとそっぽを向いて拗ねちゃうお嬢様が可愛すぎる……眼福です!
「信じてください。このシーナ、お嬢様以外は眼中にございません」
「ホント?」
「もちろんでございます」
「私がお嫁に行ってもついて来てくれる?」
チョンと私の袖を掴んで上目遣いでお願いしてくるお嬢様――最凶に可愛い!!
もう一生ついて行きます!
「お嫁と言えば、殿下との婚約はどうなったのです?」
「あの婚約はお芝居だって言ったじゃない」
「ですが、実際に婚約話はあったわけですよね?」
「そう言えばそうねぇ」
あれ?っと首を傾げてお嬢様は考え込まれましたが、抜け目が無いようで意外と隙がある所も可愛いです!
「殿下とは息が合っていたようにお見受けしましたが、お嬢様のお気持ちはどうなんですか?」
「えっ、そう聞かれても私は今回の作戦を遂行する同志としか考えてなかったし……」
「殿下の方はお嬢様に気があるようでしたが?」
「そうなの!?」
お嬢様、顔を真っ赤にされて……これは意識してないだけで殿下を好きなんじゃ?
熱くなった頬を手を当てて冷やしながら、あわあわするお嬢様が激カワです!
「名前呼びや甘えろ発言など殿下はお嬢様にアプローチなさっていたでしょう?」
「あれってアプローチされてたの!?」
気付いてなかったんかい!
「まあ、お嬢様は腹黒はお嫌いらしいから眼中になかったのですね」
「ヴァルト様は粗雑に見せてはいるけど意外と理知的でお優しい方よ」
おやおや?
お嬢様、やけにヴァルト殿下を擁護なさるんですねぇ。
にひひひ……
「それではお嬢様的に殿下はアリと?」
「ありとかそう言う問題じゃないでしょ」
「そう言う問題です」
「どのみちヴァルト様とは婚約はしてないんだから」
「もう一度マリーンに婚約を申し込めばどうにかなるのか?」
「えっ!?」
突然、会話に聞き覚えのある男性の声が割り込み、お嬢様は振り向いて凍りつきました。
「で、殿下ぁ!?」
ヴァルト殿下が背後に立っているのにびっくりして、珍しく取り乱し声がひっくり返るお嬢様――してやったりです。
「おいおい、ヴァルトと名前で呼ぶ約束だろ」
「あうあう……」
「それでは私は席を外しておきます」
混乱したお嬢様は東屋から退出しようとした私の袖をガシッと掴む。
「ど、ど、ど、どういう事!?」
「意趣返しにございます」
私もやられてばかりではないのです。
「こらこら、今は俺の方が優先だろ」
「で、殿下、近い、近い!」
私の袖を握る手を殿下にグイッと掴んで引き寄せられてお嬢様は短い悲鳴をあげる。
「ヴァルトだ」
「うっうぅぅ~……ヴァルト様」
「それじゃあ婚約を改めて申し込ませてもらおう」
「そ、それは性急すぎはしませんか?」
「これからはストレートに迫ることにした」
「えぇぇぇ!?」
「マリーンはいくら俺がアプローチしても気がつかない鈍感のようだからな」
そのやり取りを背中で聞きながら私は静かに離れました――にやにやが止まりませんな。
少し距離を取ったところで振り返れば、殿下に迫られたお嬢様が顔を真っ赤にしているのが目に入りました。
ふふふ、どうやらお嬢様の方もまんざらではないようです。
やっぱり、フィナーレはお嬢様のハッピーエンドで飾っていただかないと。
これで正真正銘の大団円です!……にひっ。




