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第14話 その種明かしは誰のため?

 

「それでは、お嬢様は最初からアドリア様の報復を果たす目的でレッド・ブラックシーの恋人となるべく近づいたのですか?」



 翌日、何事も無かったように東屋(ガゼボ)で優雅にお茶を楽しむお嬢様に話を切り出しました。


 単刀直入に聞かないと、お嬢様はずっとはぐらかしそうでしたので。



「アドリアのお見舞いに行った時に彼女からブラックシー先生の所業を聞いたの」



 お嬢様はあのクソ野郎(レッド・ブラックシー)がアドリア様以外にも手を出していると知って彼に近づいた。



「そこまでする必要があったのですか?」

「令嬢達は事件を公にできないから協力してくれないし、犯人から証拠を入手する他に方法が無かったの」



 それに、お嬢様が近くにいれば、その間は被害者が出ないと踏んだそうです。



「最悪、私が囮となって彼の悪業を暴く事も視野に入れていましたし」

「それはあまりに危険ではありませんか?」

「これでも私は武闘派で知られるアトランテ家の娘よ。他の令嬢と違って自分の身を守れるわ」

「お嬢様の力量は存じておりますが、模擬戦と実戦は違います」



 嘯くお嬢様に却って私は不安を覚えました。


 練習でいかに優秀な者でも本番では空気に呑まれて実力の半分も出せないケースなど幾らもあるからです。



「実際、お嬢様は婚約破棄の時に二人の男子生徒にねじ伏せられたではありませんか」

「あれはわざとよ」



 ひらひら手を振って大丈夫、大丈夫と私の諫言にも堪えた様子がありません。



「私に暴力を振るったという事実が必要だったから演技してただけ」

「ホントですか?」

「ホント、ホント」



 事実、彼らは高位貴族の令嬢を乱暴に扱ったとして廃嫡されたそうです。



「だけど、ブラックシー先生の犯罪行為を暴けず、いよいよ本当に最悪の手段を取らないといけないと思っていた矢先に……」

「ヴァルト殿下の婚約話が来てしまったと」

「あれは焦ったわ。これでは最悪の手段が取れなくなるから」



 最終手段ではお嬢様とブラックシー先生が恋人関係であると表沙汰になりますから、殿下と婚約状態でそれをやればお嬢様も不貞を働いたとお咎め無しとはいかなくなります。



「ところがお見合いの席でヴァルト様が私に提案をしてきたの。ヴァルト様の計画に加担するなら令嬢達の名誉を守り且つレッド・ブラックシーの悪業を公に裁いてくれると」

「殿下はお嬢様の目的を知っておいでだったのですか!?」



 私も気づいていなかったのに!



「ええ、驚いたわ。事前にかなり調査をしていたようよ。ヴァルト様は粗野な振る舞いをされていて大雑把な方に見えるけど、かなり緻密な策謀家みたい」

「確かに、今回のご自分の側近達を嵌める作戦はかなり腹黒そうでした」



 どうやら、お見舞いから今回の婚約破棄まで全てヴァルト殿下の描いたシナリオ通りなのだとか。



「ふふふ、周囲には私と婚約しているように誤解させたり、ピスカ様とは距離を取っているのに親密だと情報操作したり、その中でもブラックシー先生の悪業を調べ上げてくださっていたの」



 そして、レッド・ブラックシーを拘留している間に被害者女性を直接ご自身で訪ね回って聞き取り調査をしてくださったのだそうです。



「彼女達の素性を隠した状態で名誉を守りながらブラックシー先生を裁くと誓約して聞き出してくださいました」

「個人的な事件に普通は王族が出張るはずもありませんから、そこまでされれば被害者女性も証言せざる得なかったでしょうね」

「彼女達だってできれば先生を裁いて欲しかったでしょうし、それを王族のヴァルト様が確約してくれれば安心できたでしょう」



 あらましを語り私の疑問をお嬢様は解いてくださいました。



「ヴァルト様はアドリアと想い人との橋渡しまでしてくださったのよ」

「意外と細やかな配慮をされるお方ですね」



 お嬢様のレッド・ブラックシー恋人問題から始まり婚約破棄騒動にまで発展した今回の事件も、これで全てが解決です。



 悪は滅び大団円……なのですが……



「一つだけ納得がいきません」

「うん?」



 むっとした顔で不満を口にする私に不思議そうな表情をするお嬢様……そんな可愛い顔しても私は誤魔化されませんから!



「どうして私には打ち明けてくださらなかったのですか!」

「ああ、そんな事?」



 そんな事ですって!?


 私にとってお嬢様は全て!

 絶対の忠誠をお嬢様に捧げておりますのに。


 それなのに、レッド・ブラックシーへの恋人擬態も婚約破棄の策謀もお嬢様は事前に教えてくださらなかった。



「このシーナはそんなに信用できませんか?」

「何を言っているの。私は誰よりシーナを信じているわよ」

「だったらどうして!?」

「信じているからこそよ」

「はあ?」



 私が間の抜けた声を漏らすと、お嬢様はくすくすと笑われました。



「信じているからこそ教えなかったの」

「おっしゃっている意味が分かりかねます」

「だってシーナは私が大好きでしょ?」

「はい、三度の飯より大好きです!」



 断言しよう――

 諸君、私はお嬢様が好きだ!

 諸君、私はお嬢様が好きだ!

 諸君、私はお嬢様が大好きだ!

 お嬢様の笑顔が好きだ

 怒った顔が好きだ

 驚いた顔が好きだ

 困った顔が好きだ

 寝顔なんて大好物だ

 唖然とした顔も良い

 間の抜けた顔も可愛い


 自室で、居間で、食堂で、中庭で、お風呂で、グフッ、トイレで、ゲヘヘへ……


 ありとあらゆるお嬢様が大好きだ!



「変なイヤらしい顔になってるわよ」



 はっ!

 いけません、変態が顔に出てしまいました。


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