第11話 その偽装は誰のため?
「それでは俺がシーホワイトは信用のならん女狐で嘘つきで、マリーンは品行方正なお手本となる淑女だから嘘はつかんと言えばいいのか?」
「「「は?」」」
殿下の切り返しの意味が理解できず側近どもは口を開けて間の抜けた顔を晒しています。
「俺の証言は立派な証拠になるのだろ? これでマリーンの潔白が証明されたな」
「そんな!」
「いや、ですが……」
「それは横暴です!」
「不思議だな。先ほどまで自分達がマリーンにやっていた事は横暴にならないのか? お前らは俺の主観よりも自分達の主観こそが正しいとでも主張するのか?」
いやぁ、まさか側近の癖に自分の主人に逆らったりしませんよねぇ?
「証拠もなしに片方の意見のみ信じて相手の話に耳を傾けない自分達の拙さが理解できたか?」
「「「……」」」
「あーだが、一つだけ確かな事実がある」
「あっ、ヴァルト様!?」
なんと!
お嬢様の傍まで歩み寄ると殿下がグイッと肩を抱き寄せましたではありませんか――ヒューッヒューッ!
囃したくらいで睨まないでくださいお嬢様。
「お前達はマリーンに暴力を振るった。それはこの場の全員が目撃している」
「そ、それは……」
「アトランテ家の令嬢に無実の罪を被せ乱暴を働いた罪が軽いものとは思うなよ」
ハッハァ!
これはもうザマァ確定――ザマ確ですな!
「それだけではない。お前らは俺の許可もなく勝手に婚約破棄などと騒いでいたな?」
「で、ですが、それはこの女が殿下に相応しくないからで」
「そうです!」
「だから我らが殿下に代わり悪女に引導を渡してやったのです」
殿下のこめかみがぴくぴくしてますよ。
今までこんなバカ者どもに良く耐えましたね。
「王の取り決めを何の権限があってお前達が反故にできるのだ? 俺にも無い権限だが……なるほど、お前達は王よりも偉いのだな」
その時になってこの側近達は自分の失言に気づいて真っ青になりました。
「待ってください」
「確かに我らに過失はありました」
「ですが、ピスカは被害者なんですよ」
「虐め受けていたピスカがあまりに哀れです」
「たわけ!!」
側近達のあまりの無理解に殿下がついにキレた!?
「無実のマリーンにあらぬ噂を立てて冤罪をかけたのが罪にならないと思っているのか!」
「私は本当にマリーンに酷い事をされて……」
「ピスカはとても清らかな女性です」
「嘘をつくはずがありません」
「揃いも揃ってアホウしかおらんな」
あまりに目の腐った側近達に、ため息を吐き出しヴァルト殿下は呆れ果てたご様子です。
「マリーンにはこの女を害する理由がない」
「り、理由なら、ヴァルト様と仲の良い私に嫉妬して……」
「俺がお前と仲が良いと思われるのは心外だが、例えそうであってもマリーンにはまったく関係がない話だ」
勘違い女と仲が良いと言われて、殿下は本当に嫌そうな顔をしております。
「婚約者が他の女と仲良くすれば嫉妬するものでは?」
おいおい、それを分かっていてピスカ・シーホワイトを殿下に近づけたのですか?
あなた達、ちゃんと側近としての仕事をしなさい!
「そもそも、それが勘違いだ。俺とマリーンは婚約をしていない」
「「「はあ!?」」」
はあ!?
えっ、えっ、えっ?
「ですが、お見合いをされましたよね?」
「ああ」
「お互い名前で呼び合っておられますよね?」
「許可したからな」
ですよねぇ?
「だが、彼女と婚約したとは一度も言った覚えはないが?」
「はい、私はヴァルト様と婚約は結んでおりません」
「今はまだ……な」
殿下、なんか意味深な笑いをされますね。
「つまり、お前らの前提が最初から間違っていたのだ。今回の騒動は美貌と才能、家柄まで全てを持っているマリーンに嫉妬した愚かな女による自作自演に馬鹿な俺の側近が踊らされたと言うのが事の顛末だ」
「ち、違います……私は嫉妬なんて……」
「いずれにしてもマリーンに冤罪を被せようとしたのは間違いない」
連れて行けと殿下が指示を出すと、ピスカ・シーホワイトは筋肉隆々の騎士達に会場から摘み出されたのです――ザマァ!
「離せぇ! 私はヒロインなのよぉ! こんなの間違ってる!!」
最後まで猛獣娘は暴れていましたが……
「さて、次にお前らだが――」
側近達がビクッと体を震わせ、殿下に縋るようなワンコの目を向けていますが――可愛くないので止めろ。
「お前らは不貞を働き婚約者を不当に扱ったな。しかも、証拠もなく彼女達を断罪した」
その他にも許しもなく殿下の名前を使って傲慢な振る舞いをしていた件などなど……殿下が罪状を述べる中で側近達がプルプルと震えながら許しを請うています。
「高位の貴族令嬢の名誉を不当に傷つけた罪、その女性に暴力を振るった罪、王家の取り決めを蔑ろにする言動に対する罪、他にも調べれば余罪が色々と出てきそうだな」
ですが、殿下はお構いなし。
側近達は項垂れ、殿下は彼らを見下ろしてにやりと笑われ言い放ったのです。
「お前らの愚行の代償は安くないぞ」




