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トライアディック・デスティニー  作者: シマフジ英
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04 主人公もヒロインも手強い

 俺は自室で状況を整理した。


 この世界には、大いなる闇という存在が封印されている。かつての魔王との戦いの時に生み出された憎しみの化身で、ゲームのラスボスだ。大いなる闇は世界を滅ぼすために究極の闇魔法でビッグクランチを起こそうとしている。


 それを止められないのがバッドエンド。ゲームの主人公ロベルトとヒロインが大いなる闇を倒すのがグッドエンド。グッドエンドでも世界は半壊し、残された世界で生きる人々が描写されることになる。


 ヒロインとしてアマンダを選んだ場合はトゥルーエンドとなり、世界の半壊も阻止される。他のヒロインとアマンダとの違いは、ひとえに魔法師としての才能だ。元々の素質として持ち合わせていたアマンダの能力が、彼女自身の研鑽(けんさん)とロベルトの助力とで世界を救うにまで至る。


 だから、基本的に目指すべきはロベルトとアマンダをくっつけることだ。アマンダはロベルトが好みでないなどと言っていたが、それにめげている場合ではない。ロベルトを焚き付けてやる!



    ◇



 翌日。

 魔法学校の放課後になり、俺はロベルトに会いに行った。


「やあ、ロベルト」

「あ、ヤマト、こんにちは」

 そのままロベルトを誘い、俺は二人で喫茶店に入った。


「ここは俺が奢るよ」

「え、いや悪いよ」

「俺、異世界人ということで特別に支給金が出てるから、そこは利用してくれ」

 それは本当だ。無制限に金を使って良いと言われている。もちろん、派手にやり過ぎたら制限をかけられるとは思うが。


 ロベルトはこの世界のお勧めのお茶を選んでくれた。日本で飲んだものに引けを取らず、良い香りに良い味だった。しばし談笑した後、俺は本題を切り出した。


「ロベルト、お前、アマンダをどう思う?」

「えっ? どう思うって?」

「あの()、可愛いと思わないか?」

「そ、そりゃ……。うーん、どうだろ……」

 ロベルトはあまり積極的に話題に乗ってこようとしなかった。


 そういえば、ゲームでも、明らかにヒロインから向けられている好意に対して『何故か○○は自分に優しくしてくれる』などと(とぼ)けていたな。何でそういうところだけゲーム通りなんだよ!


「俺は美人だと思うんだが」

「ん? もしかしてヤマト、アマンダに惚れたのか?」

 CHI☆GA☆U!! そりゃあ、あんなに美人で気立ても良けりゃ俺もお近づきになりたいけど、今はそんな場合じゃないんだ!!


「いや、言葉を間違えた、ごめん。俺のことはよくて、ロベルト、お前の気持ちを知りたいんだよ!」

「まあ……アマンダは美人だと思うよ……」

「だろ!」

 俺は机に身体を乗り出してロベルトに迫って言った。ロベルトは驚いて身をよじっている。


「デートに誘ってみたらどうだ?」

「え、俺がアマンダを? 何で?」

「いや、傍目からだと、二人の相性が良いと思うんだよ」

「ちょっと会っただけなのに?」

「だからこそ、だ! 俺の直感を信じろ!」

「は、はぁ……」

 クソ、この朴念仁め! なら、最後の手段だ!


「ほら、このペアチケット!」

「ええ!? 王立魔導具博物館のチケット! よく手に入ったな、そんなもの!」

 俺の特権を利用して融通してもらったチケットだ。ゲームではアマンダがロベルトをデートに誘うために準備するものだったが、現時点で彼女がそういう行動を起こしそうもなかったから俺がやるしかなかった。


「アマンダと一緒に行くなら譲ってやる」

「ええ……、何でそうなるんだ……??」

 アマンダを誘うことに抵抗感があるようだが、きっとお前は誘う! 元々持っていた欲望には勝てまい!


「うーん、まあ、分かったよ」

「よし、いいぞ!」

 俺があまりに大きなガッツポーズをしたため、ロベルトは再びビックリしていた。



    ◇



 次の日は魔法学校の休日だった。デートには絶好の機会だ。俺はこっそりとロベルトとアマンダを尾行して様子を伺うことにしている。


 やがて待ち合わせ場所にロベルトとアマンダが現れた。


「おお、あれは……」

 アマンダは気合の入った服装をしていて、それはもう絶世の美女という言葉が相応しい。俺が対峙していたらフリーズしていたかもしれない。


 しかし、ロベルトは持ち前の朴念仁ぶりを発揮して上手く表情を誤魔化しているようだ。


「冷静なのは良いけど、褒めるくらいはしていてくれよ……」

 やがてロベルトとアマンダは並んで歩き始めた。


 二人は仲良く談笑している。悪印象ではないはずだ。そうであったならアマンダはこの誘いを受けてはいない。ロベルトがアマンダを誘う現場もこっそりと見ていたが、アマンダは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたものの、誘いを受けたのだ。


 頑張ってくれ、ロベルト……。この世界の命運はお前にかかっているぞ……。



    ◇◇(視点変更)



 ロベルトはアマンダと共に魔導具博物館に入った。なかなか手に入らない貴重なチケットをくれた山和(やまと)に感謝しつつ、ロベルトは夢中で展示物をチェックし、メモを取るなどした。


「ロベルト、こういうのが好きなのね」

「浪漫があるよ。古代の魔導具の数々。今より人間の知識も乏しかったはずなのに、今より優れた物も多いんだから」

「ふふっ、ロベルト、楽しそう」

「アマンダはこういうの平気だった?」

「うん、結構好きよ」

 そんなことを言いながら二人で館内を回った。


 一通り見た後、館内のレストランで昼食を取ることにした。随分と歩き回ったからお昼時からは少し外れている。二人で食事を楽しみ、食後のお茶がテーブルに運ばれて来た。


 ふと、アマンダが口を開く。


「ロベルト、今日はありがと。楽しかったよ」

「こちらこそ。学年主席のアマンダとご一緒できるなんて光栄だった」

「何よそれ。というか、一つ聞きたいんだけど」

「ん?」

「今日、私を誘ってくれたことにヤマトが絡んでいたりしない?」

「え……?」

 ズバリ言い当てられ、ロベルトは口をつぐんでしまう。ロベルトにアマンダを誘うよう仕向けたのは山和なのだから。


「やっぱりか……。何がしたいのかしらね。今日も()けてきてるし」

「え、本当に?」

「変装してるけど、全く隠せていない」

「君は、凄いんだな。俺には全然分からなかったよ」


 そう、アマンダは凄い。魔法の実技も知識もぶっちぎりの学年一位。そして、山和に言われた通り、ロベルトから見てもアマンダは驚くほどの美人だ。しかし、だからこそロベルトは気後れする。男女の関係として自分と釣り合うとはとても思えないのだった。


 しかし、気の合う点は多いし、友達としてやっていけそうだという確信はあると、ロベルトは思った。



    ◇◇(山和視点)



 俺は博物館の端の目立たない席でロベルトとアマンダを見守った。しばらくすると、アマンダが席を立った。トイレだろうか。そのため、俺は少し集中を解き、両手で伸びをした。


 すると、テーブルの隣の席でドスンという音がした。


「え……?」

「こんにちは、ヤマト」

 俺は隣を見る。そこにはアマンダがいた。席に座ってきたのだ。


「な、何で……??」

「隠せてるとでも思ったの? 全く、何がしたいのよ」

「そ、それは……」

「ヤマトは私とロベルトが近づくように仕向けたのよね? それはどうして?」

 俺は言い淀む。ゲームの知識があるから、世界を救うためにロベルトとアマンダをくっつけようとしていた、などと説明できるはずもなかった。


「相性が良いように思えたから……」

「ふーん。ま、全部言いたくないのなら、とりあえずそれでいい。異世界からやってきて不安だったはずのあなたが、それを忘れるくらいに夢中だったみたいだし」

 そ、そんな風に思ってくれるのか。本当に良い()だな、アマンダ……。


「逆に聞いても良いか? ロベルトはどう?」

「気は合うよ。これからも仲良くやっていけると思う。友達としてね」

「……ただの、友達か?」

「ごめん、やっぱりそうとしか思えない」

「ごめんを言う相手は、俺じゃないだろ……」

「まあ、そっか。ロベルトがそう想ってくれる日が来たのならちゃんと伝える」

 それは、ロベルトもまた、アマンダと恋仲になりたいわけではないだろうということだ。


「人は変わるものだよ。ロベルトもアマンダもそう思える時が来るかもしれないじゃないか」

「そうかもね。でも、それは、もしその時が来たら考える」

「そっか……。分かった」


 こうして、ロベルト✕アマンダ作戦は失敗に終わった。ギャルゲーの主人公と第一ヒロインだぞ? 何で少しも矢印がお互いに向く気配が無いんだよ!


 だが、まだバッドエンドが決まったわけじゃない。まだ大いなる闇を倒し得るヒロインは3人もいるのだから……。

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