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トライアディック・デスティニー  作者: シマフジ英
19/54

19 海イベント

 俺が美樹(みき)を連れて寮に戻ると、美樹は自室に戻っていった。(かける)はもう戻っているのだろうか。そうだとしたら、美樹は翔を連れて再び街に出るのだろうか。


「ふぅ……」

 俺は再びため息をついた。すると、誰かに背中を叩かれた。


「えっ?」

「やあ、ヤマト」

 そこにはアマンダがいた。満面の笑みだ。


「アマンダ、用事があったんじゃ……?」

「薄々、気づいてたんじゃないの? 私とロベルトとで、ちょっと仕掛けたのよ。ヤマトとミキを二人にしてみようって」

「ええ……??」

 本当に仕組まれていたのか。相手がいる美樹に対して男をけしかけるような真似をアマンダがしたのは本当に意外だった。


「どうしてこんなことを……?」

「だって、ヤマトは気になってるでしょ、ミキのこと?」

「そ、そんなことはない……!」

「ヤマト、自分の心に素直になるのは悪いことじゃないよ」

「っ……!?」

 アマンダのその言葉は、俺の内面を見透かしているようだった。想いを否定するなということだろうか。たとえ、美樹が誰と付き合っていたとしても。


「ま、どこまで行っても決断するのはヤマトだけどね。だけど、私も相談には乗れるからさ。ロベルトの問題をどうするかも大事だけど、自分のことも考えてみてよ」

「……そっか。分かった、ありがとう」

 俺はそう言うとアマンダと別れ、自室に戻った。


 ベッドに横になりながら俺は自問する。俺の美樹への態度は、傍目からでも分かるほどなのだろうか。好きになってはいけないと自分に言い聞かせているだけで、本当はもうずっと前から……。


 それ以上のことを考えたくはなく、俺はバッドエンド回避のための戦略に思考をシフトさせた。



    ◇



 その後の数日間、異能研究グループでは、ロベルトを中心にした魔力増幅の調査と訓練が行われた。美樹と翔も合流し、色々と手伝いをしている。


 ゲームではロベルトが男性キャラとペアを組むことはなかったが、現実は調査の一貫として試されていた。しかし、どうも男性への魔力増幅は相手が女性の場合に比べて効果が半減している。ロベルトの意志ではないのだから仕方のないことだが、ロベルトはグループ員から随分とからかわれていた。


 そして、グループとしての二回目の実地研修の日が来た。向かう先は海であり、ゲームでも色々とイベントがあった。現実にも随分と盛り上がっており、海水浴をする日や、バーベキューをする日などの遊びの予定も着々と立てられている。


 実際、上級生が魔物退治に駆り出されるほど魔物が大発生していて、世界の情勢がおかしくなっている。いつ自分たちも同じように本格的な学徒動員に巻き込まれるか分からないから、皆、遊べるうちに遊んでおこうという気持ちが強いのだ。


 俺もその雰囲気に乗った。青春すればするほど、ロベルトの相手が見つかる可能性も高くなるのだから、積極的に催し物の企画に参加した。このイベントには例によってボス級の魔物も登場するはずなので、油断もできないのだが。


 移動当日となり、複数の馬車が手配され、20人近くになっているグループ員がそれぞれに乗り込む。例によって俺はロベルトとアマンダと同じ馬車だ。美樹と翔もいる。道中は、元の世界のちょっとしたゲームを教えて暇つぶしをしたり、この世界のゲームをしたり、目の覚めるような青空の下の景色を眺めたりした。他の馬車からも騒ぎ声が聞こえてくる。


「あ、見えてきたよ!」

「うわー、解放感!」

 海が見えてきたことにアマンダと美樹が反応する。やがて小さな村も見えてきた。宿の一つに全員で移動し、女将さんに挨拶をして、各自、割り当てられた部屋に移動した。


 俺はロベルトと翔を含む男子部屋だ。翔と美樹は同じ部屋ではない。今回は男子部屋と女子部屋がはっきりと分かれた形だ。荷物を置いた後、全員が食堂に集まった。


 実地研修をまとめるのはあくまで教師なので、彼が魔物退治のリーダーとなる。大型の海の魔物、クラーケンが出没するようになり、漁が妨害されているという。まだ村民に犠牲者は出ていないが、その前に退治してほしいという依頼を魔法学校が引き受けた形だ。クラーケン自体は倒し方が確立された魔物なので、魔法学校の実地研修でも対処可能という判断だった。


 クラーケンの調査と討伐をするのは翌日となる。教師の説明が終わると、宿屋の娘が冷たいお茶の入ったコップをお盆に載せて入ってきた。


「皆さん、長旅お疲れ様でした。村のお願いを聞いてくださってありがとうございます」

 その娘は、そう言いながらコップを配る。


 男子生徒からは歓声が上がっていた。それもそのはずだ。アマンダやシャネットといった美女揃いのこのグループからしても、その『看板娘』はかなりの美人だ。素朴な村の衣装は夏の暑さに対抗するためか解放的で、動きやすそうな反面、色っぽさを感じる。金髪のサラサラとした髪もその印象を引き締めている。


「美っ人ね~。あの()が?」

「第三ヒロインのベラだ」

 美樹の言葉に俺が反応した。


 ベラは魔力は強いものの家の仕事もあって早々に勉強を諦め、魔法学校などへの進学はしなかった人物だ。ゲームだとこの滞在中にロベルトと絡み、彼を追いかけて魔法学校に入学することになる。


 もう都合良くそうなることは無いと判断しているため、何とか美樹にベラと仲良くなってもらい、学校で企画してきた催し物にベラも参加してもらう計画だ。あわよくばロベルトと恋仲になってくれれば、大いなる闇への切り札となる。


 美樹は早速ベラに声をかけた。宿がほぼ異能研究グループで貸し切りとなっているため、ベラも一緒に遊びに出ようと誘う。仕事中だからと渋るベラ本人だったが、女将さんが『行っておいで』と声をかけた。この人が本当はベラにも青春らしい日々を送ってほしいと思っているのはゲーム通りのようだった。


 海水浴場に移動し、更衣室で水着に着替える。水着は、異能研究グループの面々で街に繰り出して買ったものだ。日本のものとは素材は違えど、よくできた代物だった。


 男子が先に砂浜に出てしばらくすると、女子勢も出て来た。男子勢からは黄色い声が上がる。


 アマンダはもう、解説するのも馬鹿らしいくらいの神々しさだった。水着自体はゲームと同じもののようだったが、実物を見せつけられると、それはもう、とんでもない破壊力だ。美し過ぎて近寄りがたいのか、男子たちが声をかけるのを躊躇っているのも感じる。


 こういう時、朴念仁っぷりを発揮して堂々と近付いていくのはロベルトだ。やれやれと言った感じで俺はロベルトについてアマンダの元に向かった。


「綺麗だねぇ、アマンダ」

「そう? ありがと」

「ロベルトって、そういう素直な感想も言うんだな」

「俺を何だと思ってるんだ、ヤマト……」


 一方、『時空の果てに響く旋律』の第二ヒロイン、シャネットは近寄ろうとする男子生徒をリオノーラが追っ払っている。リオノーラ一行は女子生徒で固まりそうな雰囲気だ。その他の生徒たちは、男子も女子も混じってガヤガヤと騒いでいる。


「あれ、美樹ちゃんと翔は?」

「気になってるの……?」

「ほほう……!」

 俺はただ美樹と翔の所在を確認しただけなのに、アマンダとロベルトがニヤけながら言った。アマンダはともかく、朴念仁ロベルトにまでこんな態度を取られるとは……。


 何か言ってやろうと思案したその時、美樹と翔がやってきた。


「お待たせ~」

「ミキ、来たね!」

 美樹にアマンダが答えた。


 俺は美樹から目を離せなかった。ビキニの水着姿の美樹が、俺の脳をフリーズさせてくる。その後、隣に翔の存在感を感じてテンションが下がるのはいつもの通りだったが。


 しかし、翔もとんでもない体型していやがる。普段の服装からもゴツいのは分かっていたが、水着姿はヤバい。筋肉が盛り上がっているし、身長だけでなく横幅が凄い。美樹の隣にいると対比が効いてその体格が一層ゴツく見える。


 美樹は、あの剛腕と巨体に抱かれたりしているのだろうか……。うっかりそんな想像をしてしまい、俺は頭を抱えて悶絶した。


「ど、どうしたんだヤマト?」

「気にしないでくれ。自分には(あらが)えない運命に打ちのめされているだけだ……」

「は、はぁ……」

 ロベルトに返答したものの、俺のテンションは明らかに落ちていった。


 一方で、美樹はベラを連れてきた。ベラは特に街で選んだ水着というわけではなく、海辺の村に住んでいるだけあって普段から使っている泳ぎやすいもののようだった。


 ベラを上手く輪の中に入れてロベルトと交流してもらう。アマンダからは打算的にやっても上手くいかないのではないかと言われていたが、やはり試すくらいはすべきだろう。ロベルトとベラなら、大いなる闇を倒すことができるはずなのだから。

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