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トライアディック・デスティニー  作者: シマフジ英
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16 乙女ゲーム・ギャルゲー協力バトル

 本来ならボスの巨人をレスリーとメルビンが協力して倒す。その過程でカレンの絡むイベントもあるらしい。しかし、同系統の巨人がもう一体出て来たし、小型の魔物まで追加されているという状況だ。


 出し惜しみできる状態ではなく、俺はショットガンの引き金を引いて魔物を撃った。轟音と共に魔物は吹っ飛び、地面に転がって痙攣している。所詮、暴徒鎮圧用のゴム弾だがそれなりの物理的衝撃はある。魔物にも通じているようだった。


 そのまま逃げる魔物は放置し、ゴム弾を当ててもなおこちらを攻撃しようとする魔物には(かける)が棍棒での一振りを加える。また、カレンが素手で触ることで、魔力を吸収して魔物を倒したりもした。


 問題は二体の巨人だ。ゲームではレスリーとメルビンがいざこざを乗り越えてようやく一体を倒すことになるらしい。少なくとも、いざこざをしている余裕など無い。


 しかし、今この場にはアマンダがいる。敵の編成がゲームと違うというなら、こちら側も違うのだ。絶体絶命という状況ではないはずだ。


「くそ、杖が無いから上手くいかないなぁ!」

 アマンダが愚痴りながら素手で魔法を繰り出す。


「いいや、あなたのその力は驚異的だ! 助かります!」

 レスリーが叫んだ。アマンダの魔法に怯んだ巨人に魔法剣の一撃を加える。レスリーを攻撃しようとしたもう一体の巨人を、メルビンが魔法で撃つ。


 三人で二体を相手にしているため、ロベルトが魔力増幅をする余裕が無い。それには多少の時間が必要だからだ。しかし、スキを見て魔力増幅を実行できるように、ロベルトはアマンダたちに集中している。残りのメンバーは魔物を迎え撃つことに専念した。


「リロードする!」

「了解!」

 俺がゴム弾を装填する間、翔が前に出る。棍棒だけで戦うのは危険なので、威嚇だけだ。場合によってはカレンも飛び出せるように準備をしている。


「オーケー、代わるぞ!」

 俺は、翔が対峙していた魔物にショットガンを向けて引き金を引いた。


 しかし、このやり方ではすぐに弾切れになる。早く決着をつけてこの遺跡を出るべきなのは明らかだった。



    ◇◇(視点変更)



 武器を持っていない美樹(みき)は、静かに戦況を見守っていた。翔と共にラザードの元で簡単な訓練は受けていたものの、転移する時に武器を手にすることができなかった。筋力もパワーもある翔はともかく、一般的な女子高生である美樹にできることは少ない。しかし、それでも自分が転移した意味を見出すためにも逃げるわけにはいかないと、美樹は思った。


 これまで、ゲーム通りにいかないこともあればゲーム通りのこともあった。それは山和(やまと)が体験しているギャルゲーの世界でも同じだったらしい。美樹は、ゲームと同じ展開をすぐに見破ることができた。


 小型の魔物に集中しているカレンに向かって巨人の一体が魔法を唱え、風の刃がカレンを襲う。カレンは気づいていない。


「危ない!!」

「姉さん!!」

 美樹が警告を発するのとメルビンがそれに気づくのはほぼ同じタイミングだった。メルビンは魔法による高速移動でカレンと風の刃の間に入り、カレンを攻撃から守った。


 しかし、メルビンの身体から血が飛び散り、転倒する。


「メルビン!?」

 カレンが叫ぶ。


 ゲーム通りになってしまったと美樹は思った。ゲームではメルビンは戦闘後、失血で気を失う。ゲームと違うのなら、メルビンは失神だけで済むのだろうかと、美樹は気が気ではなかった。


「だ、大丈夫だよ、姉さん……!」

 しかし、メルビンは強気のセリフを言い、立ち上がる。まだ戦えると主張しているようだ。


「で、でも……!」

「落ち着いて、カレン! 大丈夫だ!」

 ロベルトがカレンの肩を掴んで諭す。


「メルビン、平気なら戻って!」

 怒鳴ったのはアマンダだ。


 見れば、アマンダの左手に赤い光が浮かんでおり、メルビンも赤く光っている。どうやら、防御力アップの魔法をかけたらしい。出血を避けることはできなかったが、大きなダメージにはならなかったのだ。ロベルトはアマンダの様子を目で追っているからそれを理解できていたようだった。


 また、左手が塞がっているアマンダをレスリーが上手くカバーしていた。


「やりますね、アマンダ。うちの騎士団にスカウトしたいぐらいです」

「軽口を叩けるなら、あなたもまだまだヘバっていませんね、レスリー様」

「ふっ、ご冗談を! 私も騎士団を統括する王族の身。奮闘する異世界からの客人より先に力尽きるわけにはまいりませんので!」

 レスリーはそう言うと気合を入れ、身体が青色に輝く。魔力を展開する力を強めたようだ。


「うおおお!!」

 メルビンもオレンジ色に発光しながらそれに続く。


 二人の気迫を感じたのか、アマンダはその場から飛び退き、美樹の近くにまで後退した。


「レスリー様、メルビン! 少し持たせて!!」

 アマンダはそう言うと、ロベルトを呼び寄せた。ロベルトと手を繋ぎ、集中する。


 これが山和の言っていた魔力増幅だなと、美樹は思った。アマンダ単体では攻撃を通せない魔物を一撃で倒せるほどに強化されると聞いている。


 レスリーとメルビンも、ロベルトとアマンダが何かをしようとしていることが分かったようで、二人で声を出して連携しながら巨人二体を食い止める。


 そして、アマンダが叫んだ。


「二人とも、どいて!」

 言葉に反応し、レスリーとメルビンがアマンダの攻撃の射線から退避した。そして、アマンダの右手から強烈な火炎魔法が巨人の一体を襲う。


 巨人は咆哮を上げ、消滅した。


「す、凄い……!」

 美樹は思わず呟いた。美樹だけでなく、乙女ゲーム『混沌のホーリーナイト』の世界の面々も驚愕の顔を浮かべている。


「メルビン、惚けるな! まだ終わっていない!」

「は、はい!!」

 レスリーとメルビンはすぐにもう一体に攻撃を加え始めた。強烈な一発を放ったアマンダは疲労なのか座り込んでしまったが、残り一体となったため、レスリーとメルビンで倒し切ることができた。


 巨人が倒されると、魔物たちも逃走した。


「お、終わったのか……」

 山和が座り込んだ。翔もだった。美樹は二人に近寄り、労いの言葉をかける。


「メルビン……」

「姉さん……」

 カレンはメルビンと向き合い、泣きそうな顔でメルビンの胸に顔を埋めた。


「無茶しないで……」

 悲しそうなその声に、メルビンはカレンの両肩に手を置くことしかできない。それは仕方のない事だ。姉弟であっても素肌同士を触れ合わせることはできないのだから。


 ゲームでは、失神したメルビンに取り乱したカレンが全てを忘れてすがり、魔力を奪って怪我を悪化させてしまう事態となる。そうなっていないのが、せめてもの救いだと美樹は思った。

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