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5分シリーズ

ラブレター

作者: 理春

ねぇ更夜こうや、貴方は知ってるかな。

私が出会う前からずっと、貴方に片思いしてたこと。

知ってるかな・・・。初めて顔を合わせて、私の名前を呼んでくれた時、心臓が止まりそうになって、貴方から目を離せなくなったこと・・・。


私の恋は、そんな風に始まった。


声が出せない私に、貴方はとても親切にしてくれた。

真面目でしっかり者で、あまり笑顔を見せてくれないお医者さん。

年下なのに、私よりずっとずっと大人に見えた。


寒い日でも暑い日でも、貴方が診察に来てくれる日は、ワクワクしながら待っていた。

或る日真冬に、縁側で花に水やりをしていたら、診察が終わっても側に居てくれた貴方が、寒いだろう、と羽織をかけてくれた。

振り返る私に、優しい笑顔を向けてくれて・・・時が止まったと思うくらい素敵な笑顔に、胸が苦しくなったの。

その頃から毎日、貴方の名前を呼びたくて、何度も何度も声を取り戻そうと頑張った。

そしてある日から、私の声が戻って・・・貴方に大好きと伝えられた。

驚いて目を丸くしていた貴方に、そっと抱き着いた時、本当はね・・・怖かったの。

でも貴方は、知ってるよ・・・と短く答えて、抱きしめ返してくれた。


貴方の名前を、ずっとずっと呼んでいたい。

その薄くて淡い桃色の唇を紡いで、私の名前を呼んでほしい。

溶かすようなその灰色の優しいまなざしで、私を映していてほしい。

貴方の白くて綺麗な掌と指先で、私の頬に触れてほしい。


私の狂気に似た愛が、貴方を壊してしまわないように、ずっと代わりに自分の心を壊していたの。

貴方といると舞い上がってしまう自分を、必死で抑えて平静を装いながら、普段通り話しながら、心の中で大好きを唱えてた。

貴方に伝えきれない気持ちを、こんな風に残しておくのは恥ずかしいけど

いつか私が側に居られなくなったとしても、私のことをたまに思い出してくれると嬉しいの。

そしていつか、貴方は別の人と幸せになるのかもしれない。

でもきっとその時は、私は貴方のことを思って死ぬと思う。


ずっとずっと独りよがりだった私の恋を、私自身を受け入れてくれてありがとう。

家族にしてくれてありがとう。貴方の子供を産ませてくれてありがとう。

私はずっと、貴方を知って出会った時からずっと、幸せだった。

こんな妻でごめんなさい。

こんな手紙を残してごめんなさい。

でも貴方を愛しているの。


貴方の側で、眠りたいの。


ねぇ更夜、今どこにいる?

ねぇ・・・早く会いたい。


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