ラブレター
ねぇ更夜、貴方は知ってるかな。
私が出会う前からずっと、貴方に片思いしてたこと。
知ってるかな・・・。初めて顔を合わせて、私の名前を呼んでくれた時、心臓が止まりそうになって、貴方から目を離せなくなったこと・・・。
私の恋は、そんな風に始まった。
声が出せない私に、貴方はとても親切にしてくれた。
真面目でしっかり者で、あまり笑顔を見せてくれないお医者さん。
年下なのに、私よりずっとずっと大人に見えた。
寒い日でも暑い日でも、貴方が診察に来てくれる日は、ワクワクしながら待っていた。
或る日真冬に、縁側で花に水やりをしていたら、診察が終わっても側に居てくれた貴方が、寒いだろう、と羽織をかけてくれた。
振り返る私に、優しい笑顔を向けてくれて・・・時が止まったと思うくらい素敵な笑顔に、胸が苦しくなったの。
その頃から毎日、貴方の名前を呼びたくて、何度も何度も声を取り戻そうと頑張った。
そしてある日から、私の声が戻って・・・貴方に大好きと伝えられた。
驚いて目を丸くしていた貴方に、そっと抱き着いた時、本当はね・・・怖かったの。
でも貴方は、知ってるよ・・・と短く答えて、抱きしめ返してくれた。
貴方の名前を、ずっとずっと呼んでいたい。
その薄くて淡い桃色の唇を紡いで、私の名前を呼んでほしい。
溶かすようなその灰色の優しいまなざしで、私を映していてほしい。
貴方の白くて綺麗な掌と指先で、私の頬に触れてほしい。
私の狂気に似た愛が、貴方を壊してしまわないように、ずっと代わりに自分の心を壊していたの。
貴方といると舞い上がってしまう自分を、必死で抑えて平静を装いながら、普段通り話しながら、心の中で大好きを唱えてた。
貴方に伝えきれない気持ちを、こんな風に残しておくのは恥ずかしいけど
いつか私が側に居られなくなったとしても、私のことをたまに思い出してくれると嬉しいの。
そしていつか、貴方は別の人と幸せになるのかもしれない。
でもきっとその時は、私は貴方のことを思って死ぬと思う。
ずっとずっと独りよがりだった私の恋を、私自身を受け入れてくれてありがとう。
家族にしてくれてありがとう。貴方の子供を産ませてくれてありがとう。
私はずっと、貴方を知って出会った時からずっと、幸せだった。
こんな妻でごめんなさい。
こんな手紙を残してごめんなさい。
でも貴方を愛しているの。
貴方の側で、眠りたいの。
ねぇ更夜、今どこにいる?
ねぇ・・・早く会いたい。