俺にとっての異世界、皆にとっての元の世界
ピンク色が見える。
目が覚めるにつき、輪郭がはっきりしてきた。
「十様! 」
『無血』だ。
完全無欠で、しかし血と涙の無い彼女は、全身を細かい紋章や文字の書かれた拘束具で縛られ、周りを黒コートの人に囲われている。
彼等はコートだけでなく、山高帽や十字の描かれたサングラスも黒色の物を着用している。
こちらに来ようとして動こうとしたため、黒コートの一人が瞬く間より速く動き、彼女を糸で縛る。
「……おは、よう」
思っていたよりは簡単に声が出た。
「おはようございます……」
『無血』はエジプトの王の如く、ぐるぐるに縛られながらもそう返す。
先程から黒コートの一人が病室の隅で電話をしていたと思うと、その電話相手なのだろう、扉を開けて更に一人の黒コートが入って来た。
「起きたのか!? 」
息を切らした彼女は、良く聞いた声でそう言って、帽子とサングラスを外す。
よく見た顔がそこにあった。
「おはよう、紅白」
「ああ、……おはよう。具合は……? 」
『無血』を縛った黒コートが、
「全く問題無え。そもそもが精神の問題で寝てただけだからな」
と言う。
「それは、良かった……です」
どうやら目上の相手の様だ。
「絇鎖理は……? 」
「おれ等や華焔に聞かれても分かんねえぜ。家族や友人に再会して、んでから社長と話があるから、その時に聞くと良い」
「ありがとうございます」
「後、こいつ、しばらくは三重県の伊勢って市の、『鏡界』って所に収容されるから。詳しくは社長にな」
『無血』を抱えてそういうと、動画を飛ばしたように消えてしまった。
残りの黒コート達も何人かは次の仕事に向かい、何人かは連れだってファストフード店に行く様だ。
夢の中での生活に慣れてしまったせいか、違和感をあまり感じなかったが、実際にこの世界で超人的な動きを見ると、自分がもう普通では無いのだと実感する。
そして、周りの事を三次元的にしか捉えられない事から、ここが俺の世界では無い事を感じる。
「さて、今からは家族の面会だ。起きた十の顔も見られたし、吾輩はそろそろお暇しよう」
少し前に椅子に腰かけて、もうすぐに立ち上がってそう言う。
「ちょっと待って」
「ん? 」
「闘技場の時も、最後も、紅白がいなかったら俺はどうなってたか分からない。ありがとう」
「それはこちらこそだ。吾輩だけでも連れ戻さないといけなかったのに、かなり助けられていた」
階下から、家族が来たのだろうか、多少声と足音が聞こえる。
「紅白、家族が来たみたい。何かまずかったりしない? 」
「ん、そうか? ……確かに、足音が聞こえなくも無い、かな」
「今エレベーターで上がってくる。あ、ついた」
さっきの黒コート達を見て不思議に感じていたが、どうやら俺も中々超人的な身体能力を得たらしい。
「問題ない、ゲームの友達と言う事にしてあるし。ほら、耳も尻尾も無いだろう」
確かにそうだ、ついでにしゃべる口にも猫の様な牙や舌は覗かないし、目も人間と同じ構造をしている。
勢いよく扉が開く。
「起きたのか!? 」
息を切らした父が入って来た。
スーツが乱れて仕事用の鞄を持っていることから、仕事を切り上げてきてくれたのだろう。
さっきの紅白と同じセリフで入って来たから、少し笑みがこぼれる。
同じように母や友人が続く。
笑みの次にこぼれたのは、涙だった。
夢の中、最後二人に言った言葉をもう一度言おう。
「ただいま」
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| ー完ー |
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この話で完結となります!
読んでくださって誠にありがとうございましたッ!
そんな皆様に最後のお願いです。
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是非よろしくお願い致します!
では、また次の作品、もしくはTwitterもやってますのでそちらでお会いいたしましょう!




