燃え尽きる程ホットな戦いを編集
戦闘が終わり、聞こえていなかった音が脳に流れ込んでくる。
自分の荒い息、観客達の怒声。
勝者に対する称賛、そして……敗者への侮蔑と、
「オラもう一発! 今度は顔面にお見舞いしてやれよ! 」
「おいおいあいつ気絶しちまいやがったぜ!? こりゃあ確実に死んだなぁ! 」
「何やってんだ殺せーーーーーッ!! 」
人間とは生きる環境が違えばこんなにも残酷になれるものなのか。
ナチのユダヤ人虐殺然り、魔女狩り然り、今の様な事も。
俺は……、俺には彼らの望みを叶えることは出来ない。
ゆっくりと対戦相手に近づき、体をゆすって起こす。
「起きて下さい。降参してくれますか? 」
「う……、俺を殺さなくてよかったのか……? 」
「はい。何の得にもなりませんから」
観客の方へ顎をしゃくり、
「あいつらは対戦者の戦いと死、レ●プを望んで見に来ている。気絶したり、降参できない相手を殺すのはパフォーマンスみたいなものだ」
「俺は甘い人間ですから、これはあくまでもエゴですよ」
「……そうか。ありがとう、この恩は絶対に返す。降参だ」
*
「よくやったな十君! 」
Yey! とハイタッチを交す。
「今日は二回戦までをやるらしい、相手は……」
第二回戦も熱いバトルの末、俺はどうにか勝利を収めた。
しかし尺の都合もあるので、今回は割愛させてもらいます。
さて、今始まりまするは第二回戦。
我が師たる猫又、華焔紅白の戦いを見られる。
対戦相手がどんな戦いをするのか見ていた所、正直どの程度の実力か分からないうちに勝ってしまった。
正直紅白も油断できないと言う。
「頑張ってね」
「うむ」
*
「猫と人間の混血、遺伝子操作……。いや、地獄の使者、猫又……かね。君」
紅白の対戦相手、眼鏡をかけた三十代半ばくらいの男が語り掛ける。
武器としては銃や近代兵器に近い見た目の杖を持っている。
「ああ、返事は良い。喋り終わってからにしてくれ。ええと? そうそう、私はドワーフの技術、エルフの魔術の融合を目指す研究者でね。あれを見給え」
コロシアムの上の方に優勝賞金と、腱を断たれた少女がオークの眷属達に囲まれて存在する。
彼女を指し示し、
「私が欲しいのはあの奴隷だ。金なぞ食いつなげるだけあれば構わない。聞くところによるとあれは中々に強いハンターだったと聞く。エルフの奴隷は顔が良いから値が張る、その割すぐ死んでしまってね。全く困ったものだ。だからよく耐えてくれそうな彼女が欲しいのだよ。まあ個人的趣味というのもあるのだがね」
「……それで、何だと言うのだ? 」
「この勝負、譲ってくれ給え。次の相手のため、少しでも体力を温存しておきたい」
「残念ながら吾輩の求める者も彼女でな、それは出来ない」
「そうかね、残念……」
かち、という音が彼の杖から出た。
少しずつ杖内部のタービン音が増して行く。
「来たれ、日出ぬ国の白魔『神吹雪』」
「『叫喚地獄』……ッ!! 」
男の杖は荒れ狂う吹雪を、対する者は地獄の業火を互いに放つ。
南極の映像で見た恐ろしい吹雪を思い出させるそれは、暴風と相まって人一人を殺すには十分すぎる威力を誇るだろう。
しかし、
「詠唱から察するに、君の魔術は極地の天候を呼び起こす物と見た。この惑星、地球上において、記録の内最低気温は約90度。それを何らかの力でより低温にしているとしても、君の魔力はそこまで高くないだろうからせいぜい更にマイナス数十度。シードでは無い事からの推測だ。それに対して吾輩の炎は千度を超える。君の方が押し負けるぞ」
どうやらすぐに勝負はつきそうだ。
「そんなものは最初から分かっているさ。一応脳の小さい畜生とは違って、ちゃんとした学校を出ているからね」
杖から発される音が変わった。
「吹き荒れろ」
その言葉と共に吹雪が暴風に変じた。
「知ってるかい? 竜巻って言うのは冷たい空気と熱い空気の混ざり合う事で起きる現象だ。さっきの吹雪は竜巻を作るための物、そして今の暴風は馬鹿な猫を殺すための物。あったかいこたつで丸くなってればいい物をね」
彼の言う通り二人の間には竜巻が発生し、それは紅白の方に走った。
「九個も魂があるんだ。一個ぐらい無駄にさせてもらうよ」
直撃のその刹那、紅白の口が笑った……、気がする。
鼠を追い詰めた猫を彷彿とさせる、〈にゃはあ〉って感じの口の形だ。
「炎色反応、蜃気楼。吾輩を畜生とのたまった君ならわかるだろう? 」
その声が聞こえると共に男が火柱と化した。
最後の言葉は驚愕に見開かれた目と共に発された〈え? 〉の一言。
竜巻がかき消える。
戦地に残ったのは一人の、いや、一匹の猫。
彼女の周囲を灰が舞う。
男が攻撃したのは彼女の蜃気楼、そして炎色反応(炎色反応についてはあとがきで解説するよ。詳しく知りたかったら調べてね)で作った風景で彼の目から自分の姿を隠したのだろう。
「勝者は華焔 紅白! 相手選手は一瞬にして塵芥と化しましたッ! 」
司会者の怒声と観客の黄色い声援。
程なくして紅白は戻って来た。
「……それが、普通なんだよね。この世界では」
もう慣れても良いころなんだろうと自分でも思う。
「元居た世界にあった物語で見る異世界〇〇モノの主人達は、こんなことすぐに慣れていたんだけどね」
……俺にはやはり人を殺せない。
「君は、自分に厳しすぎると思うぞ。物語の主人公となどと比べるのはおかしい。
彼等は何と言っても《《主人公》》であるのだ。それに対し十君は普通の少年。そもそも彼等には勝つどころか並ぶ事すら難しいのだ。自分の努力を認めてやると良い」
自分の努力を認める……、俺はまだまだ何も努力なんて言える物はしていない。
「……俺は」
「吾輩は今日の疲れも、明日の戦いの事もある。術式を編んで呪符を作らないといけないし、適当に宿をとって日が暮れる前に寝る。先程の言葉以上に上手くは言えない。寝るまでじっくり考えれば理解できるはずだ」
そう言うと彼女は闘技場を立ち去った。
*
努力を認める……か。
脳内でもう一度その言葉を反芻する。
いつか胸を張って俺は頑張ったと言える日が来る様に頑張る、そのために今の俺が出来ると思う事はこれだけだ。
「ステータスオープンッ! らああああッ! 」
一瞬左斜め下を見てウィンドウを出し、それを伸ばしながら走ってテキストチャットで示した的の中央を切る。
最近はどこに的を置いても大体三センチ以内を切る事が出来るようになってきた。
まだ確実では無いし正確性も足りない。
まだまだ……後五十回……!
*
「おおっと! 先日の試合では圧勝を収めた華焔 紅白、開始早々に痛恨の一撃を腹に貰ったあ! 余りの痛覚のためでしょうか!? 気を失った様です! 」
解説者の興奮に満ちた声が響き渡る。
「弱え、弱えよ子猫ちゃん。おおっと? 降参の声は無しかぁ、ってことはだぜ、観客の皆々様? 」
身長二メートルを超し、筋肉の装甲を纏うオークの眷属の巨漢が笑う。
「やっちまえええええええ!!! 」
「ブチ●せええええええええええええええ!!! 」
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十 「炎色反応って言うのは金属によって燃えた時の色が違う事だよ。利用例は夏の風物詩、花火とかだね。紅白は炎の色を細かく調節して作った偽物の景色を見せて後ろの物を見え失くしたりしたんだと思う。それにしても心配だ……」
十 「次回、『拳を叩きこめ! 』 次回も、ステータスオープン! 」




