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VII:買収されたエヴァレット

エヴァレット買収編が終わります。

何かまた国語力の無いような小説に逆戻りした感じがあるのですが……(第六話も国語力があったとは言えないけど、他よりは合った気がしました)。

 ノエルが学院から帰ると、既に王宮には悠璃の姿があった。


「あ、悠璃! どこ行ってたんだよ!」


 部屋に入ったノエルは制服のまま悠璃をポカポカと叩く。


「申し訳ございません、リオだけでしたが……何かご無礼でも?」

「別にないけど! お前は俺の執事だろ! 勝手にいなくなるなって、話!」

「はい」


 ノエルは悠璃から離れて、制服の上着を脱いで部屋の入り口に突っ立っているリオに渡す。

 そして西側に取り付けてある窓を全開にする。

 その日は南西からの風が強く、開けた途端に強風がノエルの部屋を荒らし回る。


「ノエル様、何を……」

「アイツが来てるんだよ」

「アイツ?」


 ノエルは中央城から唯一見える門、西門を指差して言った。

 そこには一台の黒いワゴン車が止まっていた。どこからどう見ても普通のワゴンと変わらない車だが……


「あれはエヴァレットの……ですか?」


 ノエルは無言で頷いた。リオがノエルの制服の上着と引き換えにスカーフを持って部屋へと入ってくる。


「今日は、エヴァレットの国王も招いての晩餐会だってよ……そこになーんでアランも俺も出席しなきゃいけないのか分かんないけど」


 ノエルはリオから手渡されたスカーフを首に緩く締めた。ヒラヒラとしたスカーフがノエルの両胸の真ん中に垂れる。


「今日、ここではっきりおっしゃるのですね……王様は」


 その内容はもちろんエヴァレットの買収が四日後になったことだろう。それを知らないイアンはどう驚くだろうか。

 窓から車の様子を見ているとワゴン車の後ろ座席からウィルが降り、その手を借りてアランが降りた。真ん中の座席からウィルとは違う執事が降りて次に降りたイアンの降りる手伝いをする。

 城の西門前では案内係を任された執事が三名立っていた。


「行くよ、二人とも」


『はい』


 二人は同時に返事して、悠璃は扉を開け、リオはノエルの服をピシッと正す。





「やっぱすげーな! 王宮って!」

「そう?」


 エヴァレットの国城が気になるくらいにアランはノエルの部屋ではしゃぎまくった。フカフカのベットにダイブして靴を脱ぎ捨て、ゴロゴロ転がり回る。


「アアアアア、アラン様! おお、おやめください! ご友人とはいえ皇子の部屋で……」

「貴様も煩い」


 悠璃に首を掴まれるウィル。明らかに悠璃の方が背が低いのに。


「無礼なのはいつもの事だ」

「うん、いいんだけどさ。多少の無礼はね……でもさ、部屋が泥だらけなんだけど?」


 ノエルは辺りを見回して言った。確かに泥がついた靴跡でいっぱいだった。

 綺麗な赤いカーペットが薄汚れている。

 無造作に脱ぎ捨てられたアランの靴は元の色が分からないほど泥で汚れている。一体どこで遊んだらああなるのだろうか。


「普通さ、王宮来るなら靴くらい綺麗なのを履くよね?」

「ももも、申し訳御座いません……あ、新しい靴などエヴァレットにそんな余裕……」


 つまりは靴も買えない不況なわけだ。しかしイアンの格好を見る限り貧しいようには見えない。


「親父はお洒落のために何でも買っちまうから、ただでさえ金ねぇのに……」


 ノエルは絶句した。エヴァレットが最下層に追い込まれた原因は貧困にある。つまりイアンは国民から徴収した税金を国に使わず、自分の欲にだけ使っていたから貧困に……全ての原因はイアンだったのだ。イアンをどうにかしない限りエヴァレットは危機から脱出出来ないわけだ。


「はぁ……親父の奴、早くくたばんないかな」


 ノエルはソファーに寄りかかり、国にとっては縁起でもないことを口にした。


「といいますと?」

「そうすりゃ、俺が国を治められる……。エヴァレットだって無くならない」


 悠璃がリオの淹れた紅茶をテーブルに置いた。


 白い高級食器に淹れられた紅茶をノエルは手に取り口にした。


「ん? 俺が……?」


 ノエルは飲むのをやめて、紅茶の水面を見つめた。

 そこに映るのは自分の顔だけである。


「どうなさいましたか」


 お得意の読心術で聞くまでもないと笑みを見せながら聞く悠璃と、怯えた表情もなく十二歳らしい笑顔をみせるリオ。

 矢張り二人にはお見通しだった。

 たった今、ノエルが思いついた案。





「シエル王、今宵は我が最下層国であるエヴァレットをこのような素晴らしき晩餐会にお招き感謝いたします」


 イアンが両手を胸の前で絡み合わせ、それを高く上げながら挨拶をした。


「そう思うのであったら、黙れ」


 シエルはピシリと言い返す。その声はここにいる六人の国王達を恐れさせた。


「(あのくそ親父め)」


 ノエルは気づかれない様に下を向きながら横目でシエルを睨む。

 イアンは可哀想に、背を丸めながらすごすごと席についた。

 ここにいるのは第五国までの最上階級の国王達とエヴァレット国。エヴァレット国は傍から見れば完全に場違いなのであった。


「凄いな……ノエル。いつもこんなん食っているのか?」


 アランが目の前に並ぶ料理を見て他には聞こえないように耳打ちをしてくる。


「こんなんって……」


 確かに輝いていて豪華な料理だがノエルにとっては普通食。この面子で食べることはないが、料理はいつもノエルに出される物とあまり変わらない。変わるとしたらお酒があること。

 ノエルは目の前にあった酒瓶を見た。緑と赤に藍色のボトル。栓が開けられているものもある。そして……


「これなんかのジュース?」

「……っっ!」


 ノエルは声にならない叫びを上げた。十六に満たない未成年者の飲酒は許されない。酷い時は死罪になる時もある。それほどディーリアスは酒にうるさい。

 それなのにたった今、アランはノエルの視線の先にあった瓶を手にしてグラスに注ごうとした。当然、客達の視線が集まる。


「馬鹿! それは酒だろうが!」

「うおっ、何す……」


パシャ……


 ノエルがアランから奪い返そうとした酒瓶から少量の酒が飛び出て、ノエルのスカーフにかかる。白かったスカーフは薄い赤へと変色し始める。どうやら葡萄酒だったらしい。


「ノエル様……。リオ、直ぐにタオルと香水を用意して」

「はい」


 悠璃はリオに命じた後、すぐにノエルに目を移す。


「ごめん、ノエル……」

「いいよ、こんくらい」

「でも、スカーフが汚れちまったし……」

「リオがまた染み抜きしてくれるからさ!」


 しかし今気にするのはスカーフなんかではない。周りの国王達の視線だった。

 大事な皇子に酒を零しただけでなく、皇子と敬語無しで話している……と国王達は驚きを隠せない。ノエルとしても焦りを隠せない。


「もうっしわけありません! この愚息がっ!」


 スライディング土下座……というベタなやり方で地面と額を睨めっこさせるイアン。アランもイアンによって額を地に押さえつけられる。


「いーよ、本当にこれくらい……」

「いけません! あんな高そうなお酒を零すなどぉ!」

「そっちぃぃぃ!?」


 意外とイアンは金遣いが荒いだけでなく無礼者でもあった。

 しかもあの葡萄酒は高級物ではない。むしろ、金に困っていない平民であれば買える酒だった。貧しいエヴァレット目線でディーリアスが買った酒だ。その証拠にイアン以外は誰も飲んでいない。ノエルはそれに呆れていたが。


「(エヴァレットとの貧富の差は痛感してたけど……まさか酒を知らないとか言うんじゃないだろうか……?)」

「ごめん、見たことない飲み物だったから」


 あの二人の執事と一緒にいるうちにノエルにも多少の読心術が身についた。

 これはもう哀れとかいうレベルではない。呆れしかない。


「皆さん、息子のことは執事に任せ話し合いを進めましょう」


 進める必要もなく結果の分かっている話を進めようとするシエル。


「あの……お父様」


 スカーフを汚したままノエルは手を上げた。後ろからリオが丁寧に香水をつけてくれる。葡萄酒の匂いである意味香水がいらない気もするが……


「エヴァレット買収の件なら取り下げんぞ、例えお前の願いでもな」


 俺の願いなんか聞いたことないくせに、とノエルは内心で呟く。


「いいえ、もっといい案です。俺がエヴァレットを買う……というのはどうでしょう?」


 室内にざわめきが起こる。とくにガーネット席で。

 隣で執事の二人と一緒にノエルのスカーフについた染みを即席セットで抜くアランは手を止めて顔を上げる。

 イアンは喉を通ろうとしていた物がつっかえたようだった。

 そしてその中で唯一自分達のすべき事をしている悠璃とリオは笑みを浮かべる。


「意味が分かりませんぞ、皇子」


 自分の計画に思わぬ邪魔が、自分の物になるものを横取りされてしまう、という不安に駆られたガーネット国王は語尾を震わせながらノエルに言った。


「こういうことです、ノエル様の私財でエヴァレットを買うと」


 悠璃は用意していた大きな鞄を開けた。

 中には数え切れない紙幣がこれでもか、というように詰め込まれ、開いた口から溢れ出す。


「ここにはノエル様の私財、一千万ドルがあります。ノエル様はこちらをガーネット王国に差し上げると申しています。その代わりにエヴァレットの支配権をノエル様にお渡しください。どうでしょう?」

「だが、国を買うことの意味をノエル様は……」


 国を買う……それは自分の領地を持つことだった。


「もちろん、分かっているよ。ねぇお父様? 俺も将来、ディーリアスの国王になるなら今のうちに小さな土地でも治めて問題ないでしょう?」


 ノエルは甘えるように上目遣いでシエルに言った。内心ではとてつもなく嫌だったのだが、仕方がない。

 これは単なる口実。


「ノエル様……」


 イアンは何とも言えない表情でノエルを見つめる。


「我は意見せん、ガーネット国がそれで良いならば良いだろう」

「へ?」


 ノエルは立っている力を緩め、両腕をテーブルにつけて体を支えた。こんなにあっさりと受け入れられるとは思っていなかったのだ。


「は、はい……我々も意見はありません(一千万ドル、一千万ドル〜)」

「本当? じゃぁエヴァレットは無くなったりしないのですか?」

「ノエル、お前が頑張ればな」


 何となくノエルは生まれて初めてちゃんとした達成感に包まれた。

 今まで何かをやり遂げた後に感じてきた気持ちとは少し違う。嬉しくて喜びが心の底から笑顔になれるような……

 こうしてノエルの国第一号にエヴァレットの名が加わった。


いや〜、シルバーウィークって最高ですね。

いや、連休全てが最高です。

蒼空は土曜も授業があるために今日からシルバーウィークって感じです。

連休のお陰で二日連続投稿が叶いました。

ペースが良ければ今日中にもまた更新したいのですが、

それでは早すぎますでしょうか?


では八話でお会いできることを願っています。

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