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VI:約束

第六話までお読み下さり感謝です。

どうぞ、最後まで蒼空の妄想にお付き合いくださいませ。

「あ……」

「ノエル? お前もパーティーに呼ばれてたのか」

「えと……(しまった。主催は我が家なんて言えない……)」


 偶然というより当たり前だが、二人はパーティーで出会ってしまった。ノエルは口元を引きつらせて苦笑いばかり。


ガツッ


 アランの後頭部から鈍い音が響く。


「いってぇ! 何すんだよ! 親父!」


 突然、アランの頭を後ろから殴るイアン。全く容赦なしでアランは会場の隅に飛ばされる。イアンは怒りと恐怖が混ざり何だか良く分からない表情をしていた。イアンがアランを殴った理由は大体想像がつく。


「ノエル皇子を呼び捨てなどするな! ノエル様は次代の王だぞ!」

「あ」


 またもや……しまった、と落胆するノエル。周りに騒ぎを聞きつけて野次馬達が集まりだした。それにしても格好が綺麗な野次馬達である。


「……」

「……」


 当然、何とも言えない空気が会場の一部に流れ始める。綺麗な野次馬たちの視線の中央にアランとノエル。逃げ出したくとも逃げ出せず、話も気まずくて出来ない。

 ノエルは下を向く彼の顔を覗きたい気持ちでいっぱいだった。

 どんな顔をしているのだろうか。矢張り驚いているのだろうか。それとも怒っているだろうか。二つの考えがノエルの頭の中を交互に飛び交った。


「ノノ、ノエル様……王様がお呼びです。緊急の国事会議を……」

「はぁ!? 今? 何考えてんだ、あのくそ親父!」


 状況が状況なだけに態度を爆発させるノエルだが、ここはパーティー会場。

 周りの視線に気がついたノエルは直ぐ様、表情を和らげ野次馬達を見て会釈した。

 その後、アランの方に視線を戻し、一礼する。


「コホン、しばらく席を外させていただきますね……アラン様」





「もっと気が乗らなくなった……」


 緊急国事会議を終わらせたノエルは二人の執事を連れて会議室から出た。

 ここは東城にある会場から大分離れた西城なので、廊下には会議室から一緒に出てきた大臣や貴族達の姿しか見えない。

 ノエルは腰を斜め前に倒し、ふてくされた顔で東城の方へ足を運ぶ。

 ふてくされている原因はたった今終わった会議にある。

 内容は……


「何て言えばいいんだよ」


 “エヴァレット買収の件を一週間後に早める”


 元々来年という話だったのをガーネット国王の願いで今年中と言うことになり、次にディーリアスのとある都合上から来月に早められ、今度はガーネット国の砂漠化により土地が不足しているために早められた。

 数十年前からガーネット国は砂漠化してきて、今では国土の半分が砂漠である。それとは反比例して人口だけが増えていく。だから、土地を広めなければならない。

 そこで標的となったのはガーネットとは違い、農作物の沢山取れるエヴァレット国。


「しかも何で俺が言わなくちゃいけないんだよ! 馬鹿親父が!」


 ノエルは癇癪を抑えきれずに壁を殴る。

 幸い、既に廊下にはノエル達以外いない。皆、さっさと会場に戻ってしまった。


「本当です……なな、何故ノエル様が、じ直に言わなくてはいけないのか……」


 リオがノエルに恐れながら黒い上着を手渡す。手伝おうにもノエルは上着を受け取っただけで着ようとしない。


「しかも、ノエル様の正体もばれましたしね」


 さらに悠璃がノエルにとどめを刺す。ノエルは頭を抱え込んでしゃがみ込む。そして力なくこう言った。


「あーあ、アランなら……友達になれたかもしれないのに」

「……」

「……」


 二人はしゃがみ込んで落ち込んだ表情を見せる主をただ見つめる。悠璃に至っては同情の眼差しで見つめている。

 ノエルには気軽に話せる同年代の子がいない。

 いるとしてもそれは親戚の姫や皇子、それくらいの者だった。その他の子達はノエルの機嫌を取るのに必死で自らノエルと話そうなどという者はいない。それは城にいても同じこと。

 アランは幸いにも馬鹿なために、家柄なんか気にしていなかった。





「ノエル様!」

「お待たせしてしまい、申し訳ありません」


 重い足を何とか動かしてノエルは広いパーティー会場に戻った。

 出来れば会いたくないが、ノエルは何故か彼を探してしまう。


グィッ


「へ?」


 襟を誰かにつかまれ、凄い力で引っ張られていくノエル。ノエルが連れ去られる速度が速すぎて客達は呆然と見ているしかできなかった。





 引っ張られる力にも、床に引きずられることにも慣れたノエルはやっと顔を上げて、人物を目にした。

 そこにいたのは清楚な格好をしていても内側から軽い感じのオーラしか出ない男の子。


「ア、アラン……」


 アランは東城からまた大分離れた西城の裏庭で、ノエルの襟をパッと放した。

 パーティーが始まる前はまだ空は明るかったが、今はもう暗い。空には星が転々と見え、雲の端から月が顔を出した。

 西城の裏庭面を見ると、明かりのついている部屋が一つだけ。そこはシエルの書斎だった。

 ここはパーティーを行っている東城に比べて凄く薄暗い。城壁にそって設置されている街燈に似た電気柱数本だけがノエル達の足元を照らす。


「何で黙ってた?」

「さぁ?」


 本当はちゃんと分かっている。それにしてもコイツは馬鹿だと改めてノエルは思った。

 ノエルが次期王だと知っても、敬う気などないのだろうか。黙っていたことを怒っているようにも見えない。

 ノエルは態度を変えないアランを見て心の中でくすくすと笑った。アランがそれに気づくことはない。


「お前は一体……」

「ディーリアス王国第十六代目国王になる」


 ノエルは真っ直ぐアランを見てそう言った。月が雲の陰から抜け出し、全力で夜空を照らし始めた。ノエルの金髪の髪が輝く。赤い瞳にはアランのきょとんとした顔が映る。

 いきなり目の前で王宣言をされたアラン。


「お、おう……知ってる」


 知ったのはつい先ほど。アランは一瞬、ノエルの髪が放つ反射した光に目を細めた。


「それでね、お願いがあるんだ」


 先ほどまであったアランへの不安はいつの間にかどこかへ消え去り、ノエルは微笑みながら口を動かした。ぐるりと辺りを見回しても二人以外の姿はない。音だって風がないので二人の話し声しか聞こえない。耳を澄ますと東城の方向からダンスの音楽が聞こえてくる。


「普通に接して。お願いだから」


 ノエルは真剣な面持ちで言った。対するアランもいつものおちゃらけた様子は欠片もなく、頷きもせずにノエルを見据えた。


「……交換条件。俺の願いも聞いてくれたらいい」

「うん?」


 アランは俯いて悲しそうな声で言った。


 アランの願いは聞かなくても直接頭に浮かんでくるようだった。


<エヴァレットを助けて欲しい>


 アランに言われなくとも何とか出来ないか考えていたノエルは口端を少し上げて笑った。アランはそれに気づかず、俯いている。


「頑張ってみる。来週までに何とかしないとね」


 ノエルは先ほどの会議内容を大まかに説明した。あの時の自分は何が不安だったのか分からない。それほどノエルの気持ちは軽くなっていた。


「そうか、話は勝手にそこまで……」


 哀れな話だ。五百万ドルなんかで自分の国が売られてしまうなど。ノエルのお小遣いたったの五ヶ月分だった。

 やがて姿の見えない主を心配して悠璃とリオがやってきた。





 翌日。

 ノエルは学校を休み、廊下で出会った父に話を持ちかけた。

 その日のシエルはいつもと比べて仕事が少ないのか、出かける様子は全くない。


「駄目だ。エヴァレットにはもう用がない」

「大丈夫! これから成り上がらせる!」

「ガーネット国は人口が多くて領地だけでは治まらん。それからディーリアスとしてもエヴァレットのような無駄な土地の奴等に食わすものもない」


 これでも王様かよ、と心で呟くノエル。

 シエルは息子の脇をすり抜けて前に進もうと試みる。

 その様子を二人の後ろから悠璃と悠璃の背に隠れたリオが見守っている。


「だからディーリアスはガーネットに五百万ドルでエヴァレットを売るのだ」

「(そういうことか)」



 ディーリアスはユーラシア大陸全てが領土で、その中でも二十ヶ国に分かれている。つまりはエヴァレットの領土はディーリアスの物でディーリアスが売ると言ったら売られてしまうのだ。ガーネット国に。

 エヴァレット国は本当に哀れな国だと再度ノエルは思う。

 エヴァレットには何も得がない。損をする一方だ。

 ガーネット国に得もないまま買われてしまうエヴァレットはどうなるのだろうとノエルは考え始めた。

 ガーネット国は砂漠化、人口増加で土地不足、水不足という問題を抱えているのに、エヴァレットの国民まで養う余裕があるだろうか。産業都市であるが、人口は有り余るほどなので働き口が見つかる確率も低い。エヴァレットには農産業があるとは言え、きっとその仕事も直ぐ取られてしまうだろう。


「ノエル様……」

「旦那様、行ってしまわれましたよ」

「あ」





「無駄足でしたね」


 結局、最後まで話をしてもらえず、シエルは仕事に行ってしまったらしい。行ってしまったと言っても南城から西城の書斎に行ってしまっただけだが。


「ったく、頑固親父が!」


 昨日の国事会議後と同様に癇癪を抑えきれず足で床を叩くように歩くノエル。

 城の廊下を曲がると誰かにぶつかってノエルは派手に尻餅をついた。


「おっと、すまん、ノエル」

「クレイグ兄貴!」


 同じ城に住んでいるが、ここ数日会っていない兄の顔を見てノエルは思わず飛び上がった。

 相変わらず光り輝く金とエメラルドグリーンの髪を揺らして颯爽と現れたのはクレイグ・ディーリアス、二十三歳。


「忙しそうだね」


 クレイグの手には数えるのも面倒な程の資料があった。曲がってきた方からすると東城の図書室から持ち出したものだろう。


「ああ、義父さん……人遣い荒いからね」

「しかも頑固な」


 二人は兄弟揃って首を縦に二回振った。

 クレイグはディーリアス家の血筋を正式には継いでいない。シエルの妾の息子である。母親が亡くなったのでディーリアスが責任を持って引き取ったという。しかし、これを知るのはディーリアスの極一部。若いメイドや執事……召し使い達は皆、クレイグとノエルが義理などではなく本当の兄だと思っている。だから皆不思議に思う。何故長男が玉座を継がないのか。


「お前、エヴァレットの餓鬼と仲良いんだな」

「は?」

「いや、昨日のパーティーでさ……」


 仲良い素振りを見せた覚えはあまりない気がするノエル。首を捕まれ連れ去られたのは仲良いとは言えないだろう。


「まぁある種の等価交換をしたからね……物じゃないけど」

「旦那様に抗議しに行ったところですよね」


 抗議……そこまで大層なことはしていないとノエルは思った。


「ところで、今日はエミリアを連れていないのか?」

「ああ、エミリアなら大学に行っている」


 またか。ノエルは溜息をついた。

 エミリアとはクレイグの専属メイド。美人でしっかり者で無口。見るだけで男性を虜にしてしまう恐ろしいメイド。しかし彼女の趣味は研究と研究と研究。とにかく研究。エミリアの頭に研究の二文字がない日はない。今までどれくらいの男性が彼女についていったことで犠牲になったか……考えただけでノエルは背筋を震わせる。

 今も大学の研究室でどこかの男性が犠牲になっているに違いない。最近では一般国民に苦役を与えるわけにもいかないので、死刑囚を使用しているだとか。


「専属メイドなのにあんまり兄貴に尽くしてないよな、殆ど大学の研究室じゃん」

「まぁな。それにしても酷い話だよな、エヴァレットの……」

「うん」

「まぁ……金で解決できるならまだ良いか。昔のようにならなければと祈るしかない」


 クレイグのいう昔とは……五百年前の二十一世紀末のことだろう。今では伝説としか言われていないが、世界は一度滅びた。核を使用した恐ろしい戦争で……


「抗議は良いが、程々にしろよ」


 そう言って、クレイグはシエルのいる西城の書斎へ向かっていった。





「よぉ! ノエル! 昨日は何で休んでたんだ?」


 次の日。陰気なオーラを出すノエルの前にアランが寄って来た。


「昨日はまた朝からパーティーだったし、親父にエヴァレットの事で話があったからな」

「駄目だったか……」


 馬鹿でもノエルの雰囲気から結果を読むことは出来たみたいだ。


「うーん……あの親父がすんなり良いとは言わないだろうしな」


 言ったら逆に気持ちが悪い。ノエルとアランとリオは教室に向かって足を進めた。


「それにしても、今日は執事一人か?」


 エレベーターで二十一階へと向かう際にアランがリオを見て言った。

 アランと目が合い怯えるリオ。その隣に悠璃の姿はない。というより朝からいない。


「ゆ、悠璃様は少し用があるとおっおおおっしゃって……」





「そうか、やはりガーネット国王は……」


 薄暗い部屋。足元にはフカフカのカーペットが敷き詰められ、昼間からカーテンを完全に閉め、電気の明るさを省エネ以下にした部屋へ悠璃は足を入れた。

 省エネというか、もう電気が殆どついていない状態なのでエネも何もない。


「ああ、お前の思っている通り」


 発しただけでその場を制圧してしまいそうな暗い声が明かりの少ない部屋に響いた。


「リオは気がついているのか?」

「多分」


 悠璃は今までにないくらい深刻な声で言い返した。


「それにしても、あの主は可愛いね」


 大人びた青年の声が辺りに響く。


「今回もいつものようになっちゃったらどうするのぉ?」


 甘えた小さな子供の声。どこからともなく子供の走り回る足音がする。


「流石にいつも通りなんてできねぇだろ」


 突っ張った少年の声。


「相手は皇子だからな」


 初めて聞こえた威勢の良い女子の声。


「悠ちゃんの秘密ってぇ……ずぅっと隠しきれないものねぇ」


 高くて語尾を無駄に延ばしているためかその声は頭に残る。


 悠璃は足を止め、上着を一枚脱いだ。そこから生徒手帳がバサリと床に落ちる。それを一人の女子が拾って……


「やだぁ、生徒手帳にまで嘘が書かれてる……学院側は知らないのかしら?」

「学院どころか、王族も知らないんじゃないのか?」

「それ、バレたらやばくね?」


 悠璃の生徒手帳を餌に話がどんどんと離れていく。


「仕方ないだろう。俺達の組織が外にバレる訳にはいかない。王族には特に」


 悠璃は静かな声で言い放った。


ちょっと時間をかけて描きました。自分としてはアランとノエルが約束を交わすところが気に入りません(じゃぁ何でサブタイトルにしたんだか……)。やっぱりもう少し間にトラブルというか……ワンクッションあった方がいい気がします。


と言うのはほっといて……

時間をかけたものの、焦って描きました。

もう直ぐ塾なんですよ。


では、また七話でお会いしましょう。

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