XXI:お騒がせな使用人達
ちゅ、中間終わった~……
どうも、お久しぶりです。蒼空=神無=出水です。
結局元に戻りました。少し事情があって。
「ちょっと! 拳銃邪魔よ! そんな物騒な物、こんな所に置かないでよ!」
ジュリーが拳銃を蹴り飛ばした。それを慌てた様子でキャッチするシリルは勢い余って足を滑らせる。その後ろには洗濯籠を持って部屋を出ようとするアリシアの姿があった。
「うおっい……」
案の定、シリルはアリシアの上に倒れ掛かり、山のように積まれていた洗濯物が一斉に宙を舞う。
「シぃリぃル?」
アリシアは悠璃程ではないが怒ると怖い。
「ちっげーって……お前のジュリーが」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃなぁい! シリル!」
言い訳を考えるシリルの言葉にジュリーが喜ぶ。しかしアリシアは……
「お前もだっ! ジュリー! そこへ直れ!」
一体どこの国の何時の時代だ、と二人は小首を傾げたがそれどころではない。アリシアの説教は悠璃程怖くないが長いのだ。しかもくどい。
「お前等はまず、落ち着きがないんだっ! 俺達は主を持つ身なのだぞ! 自覚が足りん、自覚が! 育成学園で習わなかっ……ん?」
不意に巻き上がる三人の髪の毛。それと同時に散らかった洗濯物も動き始めた。
微量の風が入ってきたのだろう。
しかし突然、部屋に何の前触れもなく突風が吹き荒れた。カーテンは外れるし、戸棚のガラスは割れてしまうし、先程アリシアが綺麗にしたベットも無残な姿に。洗濯物は四方八方に舞い散らかり、立っていては顔に何かが飛んでくる始末。
「つーよーいー! 髪がボサボサになっちゃうわー」
スカートと髪を押さえながらジュリーは感歎の声を漏らした。
ジュリーが飛ばないようにアリシアはジュリーに腕を絡ませた。ジュリーが顔を赤く染めているのは言うまでもない。
「またか!」
シリルは怒鳴り声を出したつもりだが、突風によってそれは掻き消されてしまった。
三人の視線の先にはソファーで心地よく眠っている青年がいる。
「だ、誰か起こさないと……このままじゃ城が」
風は治まることを知らず、勢いをますばかり。部屋の二つの出入り口が意外にも頑丈で風が外に出ないように頑張ってくれている。
一見、古い建物だが一応、防音設備もしっかりしている。防火設備もあるが風が相手では話にならない。
「トレイシー! 起きろ!」
この強風を作ったのは風使いのトレイシーだった。性格はおっとりしていて一言の発言がその場を和ませる。だがそれは良い言い方で悪い言い方をすればこうだ。のろまで空気読めない。
その性格は寝ていても健在なのか、彼が夢を見ているとたまに能力の箍が外れて暴走するのだ。
シリルは幼馴染ということで何故か責任を感じ、強風に叩かれながらトレイシーの近くへ向かう。途中でガラスの破片群やフォークが数本飛んできた時にはぎょっとしたが。
「おーきーろー!」
やっとの思いでトレイシーの側に来たシリルは彼の頬を摘み上げた。
「いひゃいひゃい……」
彼が悲鳴と共に目を開けた瞬間、風はふつりと止んだ。残るのは台風がきた後のような荒んだ部屋だけ。
「何するの? 人が気持ちよく寝てたの……に? 何これ、どーしたの?」
上体を起こし、トレイシーは初めて部屋の荒れた状況を確認する。
カーテンは外れ、破け、棚にきっちり収まっていた飾り用の食器たちは無残に割れている。部屋中にガラスの破片が散らかり、とても危険な状況だ。一国の次期国王である皇子の部屋という面影はもはや無かった。
「皇子、帰ってきたの? でもアシュレイはこんなやんちゃじゃ……」
本人、自覚なし。シリルと物陰で見守っていた二人はもう呆れることにすら馬鹿馬鹿しさを感じる。これをかれこれ何千年も繰り返していれば諦めが出てくるのだ。
◇
「フロックハートって……確か……」
最近はいろいろな事があり過ぎて頭の整理が出来ないノエルは必死に記憶の糸を辿った。
「フロックハート国の皇子がエリアス様と面会をと申していたことがありましたよ、それからノエル様が攫われていた火山。あれもフロックハートです」
悠璃が目の前にいるシエルやクレイグに聞こえないように耳打ちした。
ノエルの脳内にはあの失礼な皇子の顔と、痛めつけられた暗い闇の部屋が浮かんだ。
「そのフロックハートの次期国王、フェリックスが行方不明に……」
告げたのはシエルではなくクレイグだった。彼は表情を変えずに淡々と調査書らしき書類を読み上げる。
「先週の火曜日、学校で姿を消したらしい。朝には普通に登校した記録がデータに残されているが、一時限目には出席しておらず。所持していたと思われる学生鞄等も消えている」
そこまで真面目に聞いた自分は馬鹿だ、とノエルは溜息を吐いた。“ただの”誘拐ではないのか。ノエルにとって誘拐は恐ろしくも何ともない。過去に数十回は誘拐されている。幸い、皇子は見えないところで守られているので、どれもこれも未遂だが。
「そして……彼のロッカーに」
クレイグが書類の挟まっていたファイルから数枚の写真を取り出した。
「うっ……」
それを見て絶句したのはノエルではなく、その場に同行していた彼の執事二人だった。
悠璃もリオも顔を青くし、今すぐトイレに駆け込みそうだ。しかし、顔が青くなっているのは気分の問題ではなかった。
写真はフェリックスのロッカーの中を丸々写していた。そこにあるのは分厚い辞典が数冊と体育着……教科書は矢張り持って帰っているのであろう。一冊もない。入っている物が少なすぎて広いロッカーは寂しく映っていた。ロッカーは四段に分かれていて三段目に何やら小物が沢山ある。
「これ……なんだろうか? 和風っぽい」
その小物を指差してクレイグは小首を傾げた。彼は行った事がないのだ。日本に。
ノエルも行った事がないので、一緒に小首を傾げるが両隣の執事はどうやら見覚えがあるらしい。それもそのはず。彼等は日本生まれの日本育ち。
「赤くて細長くて……針みたい。でも、こんな太い針、見たことない。しかも尖がってない方の先端には飾りがつけてある。変だな……」
クレイグの言葉に悠璃はびくびくしながら下を向いた。
木で出来た細長い櫛のような物体。一方の先端は少し尖っていて、もう一方の先端には赤い飾りが垂れている。
その他にも同じようなものがあった。
「これなんだろーね? 悠璃」
わざとらしくノエルは悠璃に言い寄った。
「そ、それは……簪ですね」
今現在、二十六世紀には殆ど存在しない木で作られた簪。今ではプラスチック製の物もあまり存在しない。大体、着物を着る女性がいない。
「誰のか、知ってるー?」
リオが段々青ざめていくのを見て、ノエルは確信をつく。悠璃とリオはこの簪を知っているのだろう。
「し、知りません」
「悠璃さー、簪付けてみる?」
ノエルは不敵な笑みを浮かべ、隣にいる執事の顔を覗いた。
悠璃は一応、日本人女性である。しかも古くから続く由緒正しいお家柄の。似合わないはずがない。
「俺なんかよりも、きっとノエル様の方が似合いますよ。金髪と赤はとても良く似合う組み合わせです」
少々焦りながらも反撃を開始した悠璃は一歩後ろへ下がった。
「隠しても仕方がないでしょ。こうしてわざわざ手掛かりまで残してくれたってことは見つけてくれって事でしょ」
確かに悠璃はフェリックスを誘拐した犯人に心当たりがある。それは許し難いことで早く助けねばならない。だが、彼女も助けて欲しい気持ちなのだ。だってその人は彼女を一番苦しめる存在であり、出来ればもう一生会いたくない人だ。
「それは……は、母上のものです」
なんかお騒がせな執事とメイドを書きたかった。
トレイシー……あんた今現在、一番の危険人物。寝てたら台風並みの風が吹くとか。普通だったら隔離ものです。
誰かがトレイシーの寝てる中を見張っとかなきゃ。
きっとシリルがやってくれる!
では。