XX:現れたメイド
中間試験が近いので投稿が大分遅れました。
お久しぶりです、元蒼空……改名して神無月悠雅になりました。
「はいはい、皇子様! 起きて!」
誘拐された翌日。
熟睡中だったノエルを布団から転がり落としたのはトレイシーだった。開けられた窓から太陽の光がいっぱい注ぎ込まれ、ノエルは眩しさのあまり、開けた目を再び閉じた。
「今日は休んでもいいじゃん……。寝かせろ」
流石に気分を害したノエルは不機嫌そうな顔をして身を起こした。
「そうも言ってられないぜ」
部屋の洗面所から低い女の子の声がした。洗面所の扉を開けっ放しにしているのか黒い髪がちらちらと見える。
「って……誰? 悠璃?」
しかし悠璃はそこまで長くない上に、後ろの髪はもっと少ない。しかも結んでいるはずだ。それから、声は爽やか美少年風だ。実は美少女なのだが。
「ノエル様、俺はここにいます。というか……単刀直入に言いますと、午後からパーティー、四時からエヴァレットの視察、八時からシエル様とのお食事会ですね」
単刀直入すぎてノエルは再び布団に潜り込んだ。昨日のことを思い出してみろ、とノエルは言いたい気分だ。
怪我どころの話ではない。普通なら死んでいた。
「変ねぇ……私が癒しの術を掛けてあげたんだけど……まだ疲れてる?」
再び洗面所から今度は違う声がした。先程とは真逆の可愛らしい声だ。
「ちょっ! 本当に誰!?」
ノエルはがばりと布団から身を起こした。
「うわっ……」
水の出る音がして、低い声の女の子が小さな悲鳴を上げた。
「きゃぁ~、水で濡れたアリス可愛い!」
「ちょっ、おい! ジュリー、やめろっ!」
執事達は一斉に呆れた溜息を吐いた。悠璃の隣にいた復活したばかりのリオも呆れている。
ノエルは見れない、けど見たいという衝動に駆られ俯いた。
「やめろって、ジュリー! あ、うわ……」
――何やってんだー!
ノエルの心の叫びは周りにいる執事達の心にも響いていた。
そこへ丁度、部屋へ入ってきたシリルは足を止めた。
部屋の扉を開けると小さな廊下があって、その奥に家二軒分の広さの部屋がある。その途中にトイレやら、皇子専用バスルームやらがある。
「……お、おい」
一人、洗面所の現状を見てしまったシリルは急いで瞼を伏せ、怒りを露にする。しかし顔は何故か赤い。
シリルも見たし、自分も見よう、ということで洗面所を覗いたノエルは慌てて目を閉じた。
そこには……水で濡れ、胸部が透けている黒髪の少女にピンク色の髪をした少女が跨って、何やらいちゃついている。
少し赤みのかかった薄いシャツ一枚という簡素な身なりでいた彼女は水がどんどん自分の胸部を透かしていくのを拒めないのだ。
透けなければ分からない程の小さな胸だ。だから下着を着けていなかったのだろう。
アリシアは叫ぶ声も出ないのか、状況と立場的に叫べないのか口をぱくぱくさせている。
「やーん、アリスの胸見ていいのは私だけなのに!」
ジュリーは慌ててアリシアを抱きしめた。
どうせそんなことだろう、と検討をつけていた他の執事もそろって洗面所へ向かった。
「ジュリー、アリシア。いちゃつくのは一向に構わないが、場所を考えてくれ。クビになってもしらないぞ」
悠璃が大変呆れた目で二人の少女を見下した。それは多分、同性に対する恥だろう。
アリシアは冗談じゃないっと顔に険を滲ませるが、今はそれどころじゃない。
「あっ、悠ちゃん! 嫉妬してるの? 心配しないで、アリスの次は悠ちゃんだから」
悠璃の拳が強く握られた。その気持ちも分からなくはない。
「何の心配を俺がしなくちゃいけないんだ? どうして俺がアリシアに嫉妬しなきゃならないんだ!」
ノエルは悠璃に何となく同情の視線を送った。きっと腹の黒い悠璃の事だ。自分に害が及ぶなら同胞であるアリシアが犠牲になっているというままで満足だろう。
悠璃は憤慨しながらもアリシアにタオルを手渡した。
「待って! この子達は?」
自分と変わらない年頃の二人の女の子を交互に見てノエルは言った。
「俺、じゃなくて私は昨日より皇子の専属メイドとなりました? アリシア? と申します」
敬語が使い慣れていないのか殆ど棒読みである。その上、自分でも訳が分からなくなったのか名前まで疑問系になってしまっている。
悠璃と同じ黒髪と黒い双眸を持つ彼女は何となく男らしい。髪も長く腰まで届く程だというのに何故か放たれるオーラだけが男のような……。女中服の上着を脱ぎ、一番下に着るシャツ一枚で下はしっかりとスカートを穿いているのだが、第一印象は矢張り男勝りな女の子だ。
男だと間違えられない分ましだ、とノエルは悠璃を一瞥した。
「って……イーヴァに敬語使ったことないんだが」
そして彼女もまた守護者の一人であった。
「え、あ? 別にいいけど……シリルなんて当たり前のようにため口利いてるし」
トレイシーもそうだが、彼は皇子のご機嫌をちゃんと伺いながら口を利いているので別に何のことはない。たまに子供扱いをする彼だがはっきり言うと彼の方がノエルより子供っぽい。
「え? いいんですか? ノエル様。今ならアリシアを跪かせられますよ?」
振り返った悠璃の言葉に意味分からず、ノエルは首を傾けた。
「そうよっ! イーヴァなんかに敬語を使わせるなんて! アリシアは私の物なのに~!」
ピンクの髪を宙に踊らせ、腰に手を当てて、顔に険を滲ませた少女がノエルの前に立ちふさがった。
アリシアとは違いピンクと赤の女中服を可愛く着こなし、女中服の色と似通ったピンクの長い髪を旋毛のあたりで高く結い上げた少女は何とも言い難いオーラを発していた。
色はピンク、紫だろうか。アリシアに対してはたまにハートが飛んでいそうだ。それがノエルが見た彼女のオーラだ。
波紋一つ立てない水のような静かな瞳がノエルを睨みつける。
「私はジュリー! アリシアの彼女……っ!」
ジュリーの後頭部から鈍い音が響き、しばらくして彼女の瞳が水で満たされていくのが見て取れた。
「いい加減にしろっ! 俺は同性を彼女だとか……そんな趣味を持った覚えはない」
ジュリーを殴った拳を強く握りしめて怒りを露にしていた。
「えと……つまりはレズということで……?」
「違うわ! ビアンよっ!」
恐る恐る問いかけたノエルをジュリーは圧倒した。
再びジュリーの後頭部から同じような鈍い音が響いた。
今度はアリシアではなく悠璃の拳がヒットしていた。
「本気でいい加減にしろ。いちゃつくなら二人でやれ。ノエル様の前でなんて……」
二回連続で同じ場所を殴られたジュリーは流石に耐え切れなくなったのか、その場で蹲った。
水色の瞳は微かに滲んでいるように見える。
「これで守護者は六人揃ったんだ……あと四人だよね?」
ノエルが言葉を確かめるようにして悠璃に確かめた。
悠璃は一瞬、考える仕草をしたが、すぐに首を縦に振った。
◇
「あの子を呼び戻さねば……いけませんね」
言ったのは肩で髪を揃えている二十歳前後の女性だった。青の布に蝶の刺繍が施された美しい着物をきっちりと着こなし、彼女は真顔で対する女性に話しかけた。
畳の上で着物を着た二人の女性が眉間に皺を寄せながら小さな声で会話していた。
二十歳前後の女性と対して座っているのは三十代後半と思われる美しい女性だ。綺麗に結われた黒髪を飾る赤の簪を挿し、その女性はゆっくりと頷いた。
庭の木に留まっていた二羽の烏が忙しく泣き喚く。
「悠那様の……如月の後継として」
三十代後半の女性を悠那と呼んだ女性は、悲しげに目を細めて俯いた。
どうも。
最近、記憶力低下中。
だから電子辞書の脳鍛ゲームで頑張ってます。
もちろん、国語の漢字と四字熟語を。