II:爽やか美少年執事
二話も完成しました!!
夏休みが終わり、学校が始まってしまったので……描く時間少なくなってしまいました。
僅かに読んで下さっている方!!
不思議な執事さんを見捨てないで下さいね!!
「お前等って日本から来たんだよな?」
町に向かう車の中で、ノエルは向かいに座る悠璃に話しかけた。本当はリオにも話し掛けたつもりだが彼は今全身震わせて違う世界へ行っている。そんなリオを見て申し訳なさそうに悠璃は頭を少し下げた。
「いいえ、日本には二年あまり帰っておりません。いままでは国内の執事養成学園に通っておりました」
車に差し込む陽光に負けないくらい悠璃は笑う。そうすると本当に美少女と間違えそうな美少年だった。
艶のある髪と瞳に、長い足、張りのある肌に似合う笑顔。しかし少女のような彼は執事。
「全てはノエル様にお仕えするために……」
美少女ならぬ美少年にそう言われると流石に顔が火照るノエル。
そんな台詞は生まれて少なくとも五十回は聞いた。皆どれも二十歳を超えた青年や、主に忠実で冗談の通じないメイド、好かれようとする地方の知事と大臣……うんざりするほどノエルはそれを聞いてきた。
だが、そう言われてまんざらでもない気持ちになったのは今日が初めてかもしれない。
考えてみれば回りに他人の同年代は全くいない。ノエルにとって悠璃やリオは滅多に話さない同年代の子。
室内の広いリムジンが止まった。
車内だというのに沢山の視線が彼等を襲う。街に入る一歩手前の道に停めてもらったのに、矢張り目立ってしまう。
黒と金で塗られたリムジンはディーリアスの証。
「だから、一般車両が欲しいんだ」とノエルはブツブツと誰に対してか文句を言う。
ノエルと先ほど執事になったばかりの悠璃とリオそしてお付人一人は町人達の視線を受けながら街へと進む。
「それは無理でしょう」
美少女……ではなく美少年の悠璃が屈託のない笑顔で笑い出した。
「次期国王がそれではいけません、おいリオ。真っ直ぐ歩け……怯えすぎだ、ノエル様に失礼だろう」
彼の言葉に気がついてノエルは後ろを向いた。
何に怯えているのか分からないリオが足をふらつかせて歩いている。
「申し訳ありません、あのクズが。彼は極度の恥ずかしがり屋で……それから臆病者でして」
「ふーん……要するに、執事になる覚悟がないわけだ」
「おっしゃる通りです、しかし執事の成績はトップクラスで御座います。慣れればあの者もきっとお役に立てるかと……」
実際ノエルは執事が役に立とうが立たまいが関係ない。いればいいのだ。
執事という存在さえ近くにいればノエルは自由。平民はいつ何時も執事が側にいるという状態を不自由だと思っている。
しかしノエルにとっては執事は自由になるための扉の鍵。ノエルにとっての不自由は家の者達に一人は心配だからと言う理由で外へ出してもらえないこと。学校にだって行かれない。
「うん、頼りにしてる」
ノエルは適当に作った笑いを見せた。
「勿体無きお言葉」
同い年位の少年がさわやかに笑って頭を下げた。
彼の周りを囲う全ての空気が輝いた気がした。
◇
「今日は我儘にお付き合い頂き有難う御座いました、ノエル様」
ノエルが久々の疲れをお風呂で癒し、部屋へ戻るとベットを綺麗に整えた悠璃の姿があった。
「別にいいよ、俺も久々に行きたかったし」
主が頭にタオルを被せている様子を見て悠璃は
「失礼しますね」
と、ノエルの頭を丁寧に拭き始める。
当のノエルはそれが当たり前なので表情変えずに拭かせる。でも何か今までとは違うような気がする。
「ホットミルクが飲みたいな」
「リオ、今すぐホットミルクをご用意して」
「は、はいぃ!」
ノエルの何気ない一言はいつも大げさに回っていく。
背筋をピンッと伸ばして急いで用意しに行くリオ。
「な! 明日から学校に行っていいんだよな?」
「はい、俺達がお供いたしますが」
悠璃はノエルの髪を一束一束、丁寧に拭いていく。段々、ノエルの髪は元のさらさらを取り戻す。
「生徒として? じゃぁ悠璃は人気あるだろうなぁ……」
「そんなことありませんよ」
多分、彼にとって今のノエルの言葉は生まれて何回も聞いているのだろう。だから照れもせず、綺麗に謙遜が出来ている。
「リオもあれで……ヘタレってとこがなぁ……」
「そうですね、あいつはノエル様の前での緊張と女子の前での緊張が違います。女子の前でだと母性本能をくすぐるらしいです」
同じ男子にとってはとんでもない奴等が来た、とノエルは思う。恐らく明日からクラス中の女子……いや、学校中の女子が彼等の虜になってしまうだろう。
「おお、お待たせしましたです!」
リオが湯気を立たす真っ白な飲み物を持ってきた。
それを渡した後……悠璃のお咎めを受ける。
「言葉を正せ、ノエル様の前で恥ずかしいだろう。それから手を震わすな、零れたらどうする?」
「す、すすすいません!」
「俺に謝ってどうする、ノエル様に謝らんか!」
「……あーいいよ、いいよ(面倒臭いし)」
ノエルは二人を落ち着かせ、温かい液体を口の中へと流し込んだ。火傷のしない程度で冷まされた飲み易い温度、最高級の物を使用して作られた、ノエルの好きなブランド物のホットミルクであった。
今度の執事は凄いな、と思うノエル。
今までの執事はちゃんと学園を卒業し、王宮に仕えるほどの成績だったにも関わらず悠璃達と同じ他国の者で王宮での作法が時々間違っていたり、主であるノエルへの気配りが少々下手だったり、そうかと思えば真面目すぎて詰まらなかったり、スパルタだったり……。つまりはノエルの気に入るような執事は今までいない。ディーリアス王国内に執事養成施設を設けて正解だったとノエルはつくづく思う。国内の執事養成施設は三年ほど前に作られ、それまでは属国の国から派遣されていたのだ。
悠璃とリオは日本というディーリアス王国の属国であるが一応他国出身者。
それなのに完璧であった。真面目そうなのに気さくという爽やかさを持ち、その上執事としての態度も良い悠璃に、すこしオドオドしているが、執事としての仕事はきっぱりこなすリオ。リオに至っては慣れたら苛めがいがありそうでノエルは楽しみだった。
「ありがとう、美味しいよ」
ノエルが笑顔を見せるとリオは急に赤くなり、下を向いてしまった。
悠璃は呆れ溜息を吐く。
「お飲みになりましたら、今日はお休みくださいね」
まるで今までノエルが夜更かししていたことを知っていたみたいに悠璃は言った。
「うん、今日は眠れそうだ」
◇
窓から見える綺麗な三日月。
それを悠璃は悲しそうに眺めた。
悠璃の表情に気がついたリオもつられて眺める。
“あと、どのくらいで紅赤満月だろう”
二人の心に囁いた小さな言葉。
今回のは悠璃が多く出ました。というか出しました!!
題名が題名なんで!!
悠璃を書くのは楽しいです!!
唯一の日本人……
蒼空は黒髪の日本人じゃないと恋愛対象に入らないのに、
何故か舞台が日本ではない、という事が多々あります。
ではでは三話へどうぞ。