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XV:四人の執事と怒りのノエル

書き終えたときの笑いが止まりません。

ノエルのキャラ崩壊が……


では。

 成人式が無事に終わり、次の日からは何の変わりもない生活が始まった。何事もなかった。ただ矢張りノエルは嫌な思いをする羽目になったのだが……


「ノエル様……クッションを噛むのはおやめください」


 成人式の翌日。普段通り学院から帰ったノエルはソファーに座り、左足で地団駄を踏んでいる。腕に純白のクッションを抱え、端を強く噛んでいた。


「うるさい! なんで俺があんな……」


 ノエルの機嫌を損ねたのは学院で言われた様々な言葉から始まる。



 それはノエルが学院に足を踏み入れた瞬間からもう既に起こった。


「あ! ノエル皇子! お早う御座います!」


 いつも通り、すれ違った教師、生徒達から頭を下げられ、ノエルは適当に笑顔を作った。小さい頃から笑いたくない時にも笑顔を作らされてきたので、今やもう国民に声を掛けられたら条件反射で笑顔だ。


「皇子! 昨日はおめでとう御座います」


 ノエルに頭を下げている人々の間から一人の青年がやってくた。ノエルより一、二歳年上に見える青年は満面の笑みで頭を下げる。

 彼は第四属国のフロックハート国の次期王である。


「昨日はお祝いを申し上げる時間がありませんでしたので、今日は言わせて頂こうと探していた所です」


 わざわざ探さなくてもいいものを、とノエルは笑顔の下で呟いた。執事に似た主になっているように思える。


「これでノエル皇子が後継者となるのが確定したも同然です。皇子が国王になられたらさぞシエル国王のような立派な国王に……」


 ノエルは笑顔のままで眉をピクリと動かす。その様子を悠璃は困ったように見て、リオは心配そうに見つめた。

 シエル国王のような? ノエルは小さく右足で地団駄を踏んだ。本当に小さいので目の前にいる次期国王は気がつかない。


「皇子、恐れ多くも今回はお願いがございまして……そのぉ、父が“エリアス様”に一度お目通りをと……。皇子からエリアス様におっしゃって頂けないでしょうか?」


 エリアス……その名が出てきた時、ノエルの眉は再びピクピクと動いた。シエル以上に聞きたくない名前であったのだ。

 エリアス・ディーリアス。前国王陛下でシエルの父。つまりはノエルの祖父である。数年前に退位し、現在は隠居……ではなく、退位した今も政治に口を挟み王であるシエルを裏で動かす影の王。退位した後、その姿は王族にしか見せておらず、ノエルでさえも一年に五回姿を確認できれば多い方である。


「それは……自分にも難しいです。申し訳な……」


「いやいや、是非ともお願いします! ノエル様にはシエル様やクレイグ様の七光りも御座いますし……」


 七光り……。ついに笑顔自体が引きつり始めた。

 祖父に会うのに何故、七光りを使わなければいけないのか……。悠璃は呆れため息を吐く。

 随分と失礼な属国皇子だとノエルは心で呟いた。その心に気がつかないフロックハートの次期国王は必死で頭を下げている。


「そんな、頭を上げてください。出来る限り父に言ってみますから!」



「世界で一番大きな国の皇子に七光りだって!? そんなのあるわけないだ、ろっ!」


 噛んでいたクッションを投げ飛ばしてノエルは言った。純白の高級素材を使って作られたクッションは皺だらけに。投げ飛ばされたクッションを回収するのはリオの仕事。


「お気持ちは分かりますが、今はお静めください」


 もう一つのクッションを取り上げたのは悠璃だ。ノエルは地団駄を踏んで暴れた。


「うわー! 苛つく! 誰がシエル国王のように、なんてなるかあああ!」


 ノエルはいつもの性格を壊して叫んだ。この声がシエルに届くことはない。シエルは現在、ディーリアス属国の中で一番の北にあるグリフィス王国へ行っている。


「しかも……お爺様に会わせろだぁ!? 無理だっ! 話したくも見たくもない! 大体、爺様は俺の事なんて餓鬼だとしか思ってないし、話もどうせ無視だっ! 成人になったからって何でも出来ると思うなよー!」


 ノエルは思いっきり足で地面を叩いた。床に穴が開くのではないかと、城が揺れるのではなかと思うほどに強く。城を壊されるより増しだと悠璃はクッションをノエルに手渡した。

 悠璃からクッションを渡されるとノエルは腕に抱えて顔をクッションに沈めた。


「ノエル、うるさいぞ」


 隣の部屋にいたクレイグが顔を顰めながら入ってきた。


「丸聞こえだ。幸いにも中央城に人は少ないが……」


 ノエルの部屋やクレイグの部屋、シエルの部屋などは全て中央城にある。つまり中央城全てが王室のようなものなのだ。


「兄貴の七光りならいいんだよ! それは貰う!」


 がばっとクッションから顔を引き離し、ノエルはクレイグを見る。


「は? 何の話……?」


 話の分からないクレイグは呆れたように弟を見やった。



 数時間後、シエルが帰ってきたとの報告を受け、ノエルは二人の執事を従えて西城にあるシエルの書斎へ向かった。シエルは仕事の殆どを書斎で済ます。

 二回、書斎の扉を叩き、中から返事があったのを確認してノエルは扉を開けた。中は目が痛くなりそうなくらいの本が壁に備え付けられた天井まである棚に並んでいた。


「お父様、少しお時間いいでしょうか……フロックハート国の皇子がお爺様にお目通りをと……」


 部屋の奥に大きな机があり、豪華な黒い椅子に腰掛ける王の姿がある。机の前には黒い影が二人並んで立っていてシエルの顔が良く見えない。


「おお、ノエル。丁度良かった。お前に誕生日プレゼントをやろう」


 嘘だ、と一瞬でノエルは見抜いた。あのシエルが子供に誕生日プレゼントなど考えられない。実際にノエルはこの十五年間、一度も貰ったことがない。

 ほれ、とシエルが指差したのは前にいる二つの黒い影。その人物達がゆっくりとノエルの方を見た。

 その顔は……


「え……シリルとトレイシー?」


 そこにいたのは昨日、成人式の時、従兄に仕えていた二人の執事。シリルとトレイシーだった。


「チェスターが寄こした。優秀な執事だから是非、ノエルに。だそうだ」


 執事が物と化している、ノエルは口をあんぐり開けて立ち尽くす。当初の目的を見事に忘れてしまった。


「宜しくお願いいたします、ノエル様」


 あのシリルがノエルに様付けした挙句、頭を下げた。ノエルは口の次に目を見開く。


「ノエル様、目的を忘れずに」


 悠璃の呆れた呟きを何とか耳に通したノエルは我に返って父を見た。


「お父様、お爺様にお会いになりたいとフロックハート国の次期国王が……」



「だぁああああ! ムカつく! 何が『お前、まだ爺様に認めてもらってないのか』だっ! 知ってるだ、ろう、がっ!」


 ノエルは本日何度目の癇癪を起こしているだろうか。書斎から四人に増えた執事を引き連れて部屋へ帰ったノエルはそのままベットへダイブして暴れまくる。


「ノエル様、せめて履物をお脱ぎになってからベットに……」


「怒ると意外に我を忘れるタイプか。まだまだ餓鬼だな」


 ノエルの執事になったシリルは敬語をはずし、主を馬鹿にする。それを心配そうにリオは見つめていた。


「うるさいっ!」


 ノエルはシリルに枕を投げつけた。純白の枕はシリルの顔面に的中。投げつけられた枕を手に取ってシリルは反撃する。

 ノエルは間一髪、天蓋を支える柱に身を隠し、枕の攻撃をかわした。


「大人気ないよ、シリル」


 トレイシーはとても呆れているようには見えず、むしろ笑っている。しかも突っ込むところはそこではない。大人気ない以前に相手は皇子だ。


「ノエル様、部屋が……」


 ノエルは再び枕を投げ飛ばした。シリルを狙ったつもりが……あらぬ方向へ。部屋の空気が一瞬にして凍りつく。

 枕は見事に悠璃の顔面へ。


「……ノエル様?」


 悠璃がそっと枕を手で退ける。枕の下には神じゃないが、神々しく恐ろしい黒いオーラを放つ笑顔がある。


 その時、部屋にいた四人は鬼を……悪魔を見た。


やっと執事を増やすことが出来ました!

しかも一気に二人!

賑やかになると思われます。

既に後半は喧嘩で終わりました。

なんか修学旅行で男子がやってた枕投げを思い出します。


では。

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