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X:もうすぐ成人

はい……未来だから、少し日本の文化を変えました。

お分かり頂けますでしょうか?

「はい、エヴァレット君……この問題解いて」



 急に指名されたアランは慌てて頬杖を崩し、ノートを持って立ち上がる。しかしノートは落書きしか書かれていない。



「おい、ノエル! 答え何?」



 アランはひそひそとノエルに助けを求めるが、ノエルは頬杖をついて上の空。アランはノエルの机の上に開かれているノートが見えないか目を細めて頑張ってみるが、字が小さい上に字体が大人っぽく崩されているので読めない。


 ノエルの右隣で呆れ溜息をついて悠璃がノートをわざとらしく持ち上げて、どっから出したのか虫眼鏡を翳して見せる。



「えーと……5?」



「違います」



 アランは自分で導き出した答えでもないのに何故かショックを受けている。


 問題はただの復習で中学で習う二次方程式。


 クラスに多少の笑いが起き始める。高校一年生の、しかも黄金階級の生徒にしてみるとかなり恥ずかしい失態である。



「え、なっ何で」



 アランの斜め前、つまりノエルの右隣の生徒が声を抑えて笑っている。



「……っ! てめっ!」



 またしても垣間見える悠璃の黒い腹。


 そう、悠璃はアランに間違った答えを教えたのだった。



「自分で宿題やって来ないのが悪いんだよ、バーカ」



 幸い、クラスの生徒には聞こえず、アランの耳だけにその声は届いた。


 リオはそのやり取りを何故かハラハラして見守るのだった。



「くそ、てめぇ! ノエルの執事だからってなぁ!」



 短所である短気が表に出て、アランは声を荒げた。クラスの女子と臆病な男子が肩を震わせて怖がる。


 彼等が恐れているのは声を荒げたアラン……ではなく、さっきから一言も喋らないノエルであった。きっと今は機嫌が悪いに違いない。だからそっとしておこう……皆がそう思っている矢先にその後ろでアランが声を荒げてしまったのだ。


 アランはいつも無礼を許されているが……いつ堪忍袋の緒が切れてもおかしくはない。そうクラス中の……いや、学園中の者が思っていた。



「俺は悪くない。大体、こんなの宿題やって来なくても即座で答えられるだろ。恨むなら自分の無知さにしろ」


「馬鹿だの無知だのうっせぇ! 大体、言わせてもらうけどよ! お前より俺の方が一応地位は上!」


「知るか。ノエル様に対して無礼な奴を何故俺が敬わなくてはいけない? 殺さないだけ感謝しろ」


「感謝しません! そういう決まりなんです〜! 分かりましたかぁ?」



 アランはおどけた顔で頭をツンツンしながら悠璃に言った。



「あぁ、その馬鹿面。あまり人前でやるなよ。王家の名に傷がついても知らないぞ」



 少なくとも今、アランの心が傷がついた。



「あのさ、煩いんだけど」



 その声に教室中が凍りつく。先生でさえ直立不動に。


 頬杖を崩したノエルが後ろに体を捻り、真っ直ぐ二人を見つめる。その顔はいかにも不機嫌な感じであった。



「お前の執事がさぁ!」


「申し訳御座いません、ノエル様。コイツに問題の答えが分からない様でしたのでお教えしたら突然逆切れを……」


「はぁ!? てめっよくも抜け抜けと……」



 アランは反撃しようとするが、ノエルのオーラに気がついて声を抑える。そのオーラは口答えすんな、と言っている様であった。


 リオが初めてアランに同情した瞬間だった。





「何をお悩みになっておられるのですか?」



 ノエルは頬杖をつき黙然し始めてからかれこれ一時間が経過しようとしていた。



「うん……、いろいろ」


「宜しければ相談に乗りますが」



 ノエルはパッと開眼したが、約一時間ぶりに目が光に触れてしぱしぱとする。



「一つはエヴァレットの改善の事で、二つ目は俺のその……魂だろ?」



 二つ目の魂は周りの目を気にしてノエルは小さな声で。でも隣の悠璃に聞こえる程度。と言う事は反対隣のリオにも聞こえていた。後ろでは机の間を妙に縮めているアランが耳を傾けている。



「そうですね」


「でも……一番悩んでるのは……どっちでも、あ、ありませんね」



 毎回の読心術パターン。言ったのはリオだが、悠璃も分かっていたような雰囲気だった。



「う……。ら、来週俺……誕生日会」



 毎年毎年、ノエルにだって誕生日がある。十月四日……ノエルはこの日がいつも嫌いだった。


 毎年の誕生会は盛大なパーティーが必ず催され、貴族はもちろん地方の大臣、知事、その上他国であるダーウィン、ケアードの者までくる。皆誰もが皇子の誕生日を祝い、皇子に生を与えた神に感謝する。しかし、皇子であるノエルは賑やかな催し物を進んで参加する性格ではなく、むしろ苦手だった。父であるシエルの言いつけと、皇子である自覚が無かったらとっくに逃げ出している。



「十六歳ですか……あ、そうですね」



 ノエルが悩んでいる根本的理由は誕生日、ではない。悠璃とリオは分かったような顔をして、誇らしげな笑みを浮かべる。


 一方のアランはディーリアスの属国とは言え、そこまでディーリアスの文化を知っていると言うわけではないのであろう。いや、普通は知っているはず。誕生会には属国全ての代表が出席しなければならないのだから。



「何が悩みなんだ? 誕生会はいいじゃないか、開いてもらえるだけ感謝した方がいいぞ」


 容貌とは相反する意見を述べるアラン。ますますエヴァレットの文化が気になってくるノエルだった。



「じゅ、十六歳の誕生日は……ディーリアス王国で、せ……成人なのです」





 まだ一週間前だというのに王城は慌ただしかった。それもそのはず。一週間後はただの一週間後ではない。ディーリアス王国次期国王の成人式なのだから。


 招待する客は三百を優に超え、招待状の印刷が間に合わない。招待状の柄は三種類に分類され、身分によって柄が違う。招待客以外の一般国民にも御触書を出す。


 料理だって三百人分で、何種類も作らなければならない。属国が力を振り絞ってその地の特産物を沢山提供してくる。


 一番困るのは予算額である。いくら王族でお金が有り余る程だと言っても予算額ぐらいはきちんと決めている。しかし毎回毎回、ギリギリのライン。上質な紙ばかりを使用するため紙だけで十万ドルを超え、地方の特産物を輸送するのにさえ多大な金額が……



「日本は二十歳だっけ? 成人……」



 城の状況を見てノエルは呆れながら後ろの悠璃とリオに聞いた。



「はい、十八歳か二十歳ですね。自分で選べます」



 同じ国でも地域が違えば文化も違う。特に日本は他と比べて大分文化の違いが多い。成人の年を自分で選べる国などあまりない。



「へー……んじゃ、リオはまだまだだな」


「は、はい」



 飛び級で高校一年生とはいえ、リオはまだ十二歳。あと六年後か八年後である。



「ノエル様、所用がございますので自分は失礼させて頂きますが……よろしいですか?」



 悠璃は腕時計をチラリと見た後、ノエルに頭を下げた。



「うーん、まぁいっか。早く帰って来いよ〜」


「はい」





 悠璃は国内のとあるビルの前で立ち止まった。玄関先には綺麗な花が活けてあり、目の前にある道は車通りの多い大きな国道だった。


 悠璃は黙ってそのビルの敷地に足を踏み入れ、玄関からは入らず横を通って裏庭を目指した。所々にある一階の窓から見えるのは悠璃と同い年くらいの少年、青年が黒い服に身を包んで黙って何かを書いていた。黒板は残念ながら見えないが、どうやら勉強しているのだけは分かった。


 違う窓からは女性の声が聞こえてくる。


 見るとそこにいたのは二十歳未満の少女達。フリルの沢山ついたエプロンを着て、料理をしている。


 ここは執事育成学園とメイド育成学園であった。


 悠璃は裏庭に出て、こっそりと裏口から施設内に入る。裏口を入ると直ぐに最上階まで上がれるエレベーターがあった。中は広く、地上に十五階、地下三階まであるのでボタンの数は多い。


 最上階より一つ下の十四階で悠璃はエレベーターから降りた。


 真っ直ぐ続く廊下を早歩きで進み、突き当たりの部屋で足を止めた。


 生徒会室。その部屋の扉にそう書かれていた。


 悠璃はその扉のドアノブに手を伸ばし、ゆっくりと回した。



「遅い!」



 扉を開けた悠璃に日差しと共に黄色い小さなクッションが当たる。


多分、お分かりになりましたよね。

すいません……今、18にするか20のままでいくか、話になってるじゃないですか。

だからどっちか分からないので選択方式に……


では。

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