漫才:「娘さんを僕に下さい」
ツッコミ「はい、どうも~! 『コンビ名』です!」
ボケ「僕たちの名前だけでも、憶えて帰ってくださいね」
ツッコミ「よろしくお願いします」
ボケ「憶えました? 大丈夫ですか? ……では、お帰りください」
ツッコミ「ちょちょちょっ! なんで帰しちゃうの!?」
ボケ「いや、もう憶えたって言うから」
ツッコミ「まだ、漫才始まってないでしょ! 折角来てくれたんだから、見てもらおうよ!」
ボケ「……めんどくさ」
ツッコミ「今、めんどくさって言わなかった!?」
ボケ「そんなこと言うわけ……ハァ……」
ツッコミ「否定する途中で完全に面倒くさくなってるじゃん!」
ツッコミ「面倒くさがってないで、ちゃんと漫才しようよ」
ボケ「面倒くさいって言えば、俺、そろそろ結婚したいと思ってるんだよね」
ツッコミ「どういう入り方なんだよ!」
ボケ「だから練習がしたいんだよね。娘さんを僕に下さいってやつ」
ツッコミ「そうなの? それじゃあ、やってみようか」
ボケ「………」
ツッコミ「………」
ボケ「………」
ツッコミ「えっ、なんなのこの無言の時間?」
ボケ「いや、お前が『娘さんを僕に下さい』ってなかなか言わないから」
ツッコミ「えっ、僕が言う方なの!? てっきり君が言いに来る方なのかと」
ボケ「俺の頭の中ではもう結婚してるから。それで娘が生まれて、小学校から大学までエスカレーター式のお嬢様学校に入れてさ。大学も無事に卒業して、これから夢を持って大きく未来にはばたくんだろうなと思ったところで、これですよ! 何が、娘さんを僕に下さいだよ! 絶対に娘はやらないからな、この泥棒猫!」
ツッコミ「この泥棒猫じゃないよ! 君の妄想をずっと聞いてた僕の気持ちがわかる。無だよ無!」
ボケ「こういう設定で頼むよ。やっぱり、最初は反対しても、最終的には可愛い娘の幸せを願いたいからさ」
ツッコミ「わかったわかった」
ツッコミ「お父さん、僕に娘さんを下さい!」
ボケ「お前にお父さんと言われる覚えはない! この泥棒猫!」
ツッコミ「また出た、泥棒猫!」
ボケ「だいだい、どの娘なんだ。うちには娘が10人いるんだぞ!」
ツッコミ「10人!? 頑張りましたね、お父さん……。えぇとじゃあ、ユカリさんを僕に下さい!」
ボケ「そんな娘はウチにはいない!」
ツッコミ「そこは適当でいいでしょ!」
ボケ「適当ってなんだよ。俺にとっては全員が可愛い娘だから。10人全員に愛情を注いで育てて……」
ツッコミ「あーわかったわかった。でも、名前を知らないからさ」
ボケ「上から、パトリシア、ジェーン、ステイシー、キャンベル……」
ツッコミ「外国人!? えっ、君、国際結婚してたの!?」
ボケ「いや、全員日本人だけど?」
ツッコミ「だって、パトリシアとかジェーンとか完全に外国人の名前じゃない」
ボケ「なに言ってんだよ、羽に鳥に幸せって書いてパトリシアだから」
ツッコミ「でた、ヤバいやつ!」
ツッコミ「そんな名前つけたら駄目だって。学校でいじめられたりして、『なんで、こんな名前つけたの』って恨まれちゃうよ」
ボケ「そんなことないって。パトリシアが言ってよ、『私はこの名前素敵だと思う。私はパパのこと全然怨んでないから』って」
ツッコミ「パトリシアちゃんに気を遣われてるじゃん! だいたい、『私は』って他の姉妹は良くないと思ってるし、恨んでるってことだからね!」
ボケ「な、いい子だろ、パトリシア?」
ツッコミ「そうだけども!」
ボケ「いいから、早く娘さんを僕に下さいってやって」
ツッコミ「君のせいで脱線してるんだけどね」
ツッコミ「お父さん、パトリシアさんを僕にください!」
ボケ「お前には絶対にやらん!」
ツッコミ「お願いします! パトリシアさんのことを愛しているんです!」
ボケ「駄目だ! パトリシアは3年前に結婚した!」
ツッコミ「本当に駄目じゃん! てか、もう結婚許してるじゃん!」
ボケ「そうなのよ、あの時言いそびれちゃったのよ。だから、いまやりたいわけ」
ツッコミ「知らないよ、そんなこと! 脳内設定なんだから変えたらいいでしょ!」
ボケ「娘の幸せを壊すようなことが、俺にできると思ってるのか!」
ツッコミ「だから、知らないっての!」
ボケ「他にも娘がいるんだから、頼むよ!」
ツッコミ「じゃあ、ジェーンさんを僕に下さい!」
ボケ「ジェーンは2年前に結婚した!」
ツッコミ「この子も結婚してるのかよ! じゃあ、ステイシーさんを僕に下さい!」
ボケ「ステイシーとキャンベルは、『こんな名前を付けたお父さんを一生恨んでやる』って言って、出てっていった……」
ツッコミ「やっぱり恨まれてるじゃん! てか、全滅じゃん!」
ボケ「まだ、オリヴィアもミアもイザベラもアリアもゾーイもリリーもいるんだよ、だから頼むよ」
ツッコミ「もういいって、名前も全然頭に入ってこないし」
ボケ「せめて、名前だけでも憶えて帰ってください」
ツッコミ「もういいよ」
二人「どうも、ありがとうございました」