サキ2
毎日の生活は自分のためではなく娘や夫のため、家族に”なった”人たちのためだった。
”私”は本当は何がしたかったのかと考えてみる。
普通に生活して普通に働いて普通の人と結婚して普通の家庭を築いて普通の老後生活を送れればいいなというのが小中高とずっと目標であり夢だった。
現実は実際にほとんど思い通りでうまくいかないことと言えば実際にやってみると普通って結構大変というくらいでこれくらいの苦労は誰でも経験してるはずなんだと思っていた。
だけど最近はこんな風に思うことがある。もっとお金に困らない生活ができたらよかったな、もっとお金持ちの人と結婚してればよかったのかな…と。
生き甲斐だとか、やりがいだとかは特に感じたことはなかった。
仕事とは1時間あたりにもらえる給料分働くことだった。OLの仕事とはお茶くみとかコピーとかやっておいてと言われた書類の整理とか。
自分で何かするとか考えて行動するとかは結局偉い人とか、自己啓発本を読んでやる気になってる人とかって印象だ。だから自分に変化が起きるとは思ってなかった。
今の私は子供を育てるためとはいえ外に働きに出ている。家に帰れば子供たちや夫が待っている。
必要とされているのがわかる実際に私がいないと生活できなくなるだろう。商品整理にレジ打ち、品だしなんかは誰のためにやっているのかふと考えることがある。
この店によく来る子供たちは近所に住んでるんだろうなとか、毎日お昼にお弁当を買いにくる作業服の人はこの辺の工事現場で働いてる人なんだろうなとか。OLさん、初めてみかけるお兄さん、この人たちはみんなどこかの社会で生活している人なのだ。
いい人か悪い人か?友達と話しながらレジに並ぶ人たちの話を聞いてるとどこどこのだれだれと会っただとか、どこどこのだれだれが気になっているだとか。
普通に聞いているだけではとても判断できないような話だ。テレビでやるような大きな事件だとかはこの平凡な世界には起こらないだろうなと思う。
ごく一部のきっとまだ若いんだろうなと思われる人達が炎上と言われるような動画を撮って企業や社会に迷惑をかけるんだろうけど普通の生活に準ずる人達には関係ないよねと安心しきっていた。
”あれ”を目撃するまでは。日常が異常に変わったのは突然のことだった。
「いらっしゃいませー」入ってきたのは男女の若者だった。何やら話が盛り上がってるようで小突いたり辺りを見回したり落ち着きがない様子だった。
若い子にはありがちな見慣れた調子だったので特に気にもせずいたんだけど…「はいこれ」「ん…」「ギャハハハハハ」と笑い声が聞こえてきた。
なんだろうと思ってみてみるとゲッ!アイスの蓋あけて舐めてるきもー!これ関わりにならないほうがいいやつ…と思ってると裏から店長出てきた…あっやるんですかやるんですねやっちゃうんですねぇー目がキラキラしてた自覚はある…
「いいね!次はこれでお願い!」ってプリンおすすめしてるー…そうじゃないでしょ店長…
「しらけるわー」「うへー」
「面白かったからやってほしかったんだけどなー残念」といってアイスの方を差し出す店長。一応悪いことした自覚はあるのか若者の方も受け取って料金を払いに来る。
…ってこっちに来る!
「120円になります」若者たちはしぶしぶアイスの代金を払って出ていく…ちゃんとできるなら最初からしててくれ~
「ありがとうございました~」あれは神対応なのかな…塩でも撒いておきたい…ケッもう来るんじゃねぇ~…
はぁ疲れたまさか実際に目撃するなんてあるんだ…。
「大丈夫だった?」
「あ、はいちょっと気を張ったので緊張しましたけど大丈夫です。店長も大丈夫ですか?」
「うん、これも役目だからね。大丈夫」店長が心配してくれたけど気疲れしただろうなぁ…役目?そっかこの店で起こることは全て店長に責任があるんだもんね。
でも”次はこれでお願い!”なんて言ってもしもまた来たらどうするんですかもぅ…それに全然面白くないじゃないですか。あんなことされて買いに来る人は誰も笑えませんよ!サキは直接は言わないけど心の中で思っていた。