魔女のひとりごと
初投稿です。
読みたいと思ったモノのうち、纏められそうな部分だけ抜き出して書いてみました。
ヤマ無しオチ無し捻り無しなのでご用心。
「あなたが常闇の森の魔女殿か?」
その男の子は私に問うた。
10代半ばを過ぎたあたり、青年と少年の境目のキレイな男の子。
ずっと昔に別れたきりの兄弟子を思い出させる、黒い髪のキレイな男の子。
「そうよ。あなたが今代の勇者様?」
「その通りだ魔女!このお方こそ我らが勇者、ダイ・コンドウ様だ!」
私の問いに答えたのは勇者様の左に進み出た金髪に琥珀の瞳に美髯を蓄えた美丈夫。
騎士の装束だが、随分偉そうにしている。貴族だろうか?ひょっとして王族かもしれない。
無粋なヤツ。せっかく私が勇者様とお話しているのに。
「そして私は王弟アレクシス・エウセギア・ホルンテルンである!」
暑苦しい。いくら王族で美形でも暑苦しいのは好みじゃない。
私の機嫌が少しばかり傾いたのを察したのか、勇者様が私に質問する。
「魔王の居場所を教えてくれないか?」
まっすぐな瞳が眩い。
魔導の研究に明け暮れ幾星霜、いつしか住んでいた都が滅び深い森の奥に隠された様な我が家に、まさかこんなにキレイな男の子が勇者様として訪れてくれるとは感無量である。
「聖なる森の賢者殿が、あなたに魔王の居場所の場所を教わるように言われました」
勇者様の右に控えていた娘が言葉を添える。
へえ?この闇の中で平然と言葉を発することができるのが勇者様以外に2人もいるとはね!
私の前にはこの3人以外にも何人かいるにはいるが、私の闇の中では意識を保つだけでもやっとの様子。
むしろ誰一人倒れていないことを驚くべきなのだろう。
「申し遅れました。私は今代の聖女にしてホルンテルン王国第1王女、メリティティス・ユーレシア・ホルンテルンと申します」
この娘もやはり王族か。しかも聖女とはね!
金髪と琥珀の瞳の、なんとも美しい娘さんだこと。
私だって昔はそりゃあ…やめよう、虚しい。
勇者様に王族2名様を客人に迎えるとは…我が草庵たる小さな廃城は遠からず観光名所になってしまうかもしれない。
それにしても「聖なる森の賢者殿」とはね!お師匠様、まだご健在だったのか。
弟子が魔王になってしまうとはなんとも情けない賢者殿もあったものである。
沈黙を拒否と受け取ったのか王弟殿下が
「ここでキサマを倒してやってもよいのだぞ!」
ヤメロ暑苦しい!
それに…
「選ばれた勇者である俺ならあなたを倒して無理やり訊き出すこともできるが、無闇な戦いは避けたい。どうか教えてくれないか」
キレイな男の子に強引に迫られるのってステキ。
でもね…
「たとえ選ばれた勇者様でも、私を倒すことはできないと思うよ」
「聖女の私もいるというのに、強気ですね」
ほんの少しだけ聖女様が気色ばむ。こちらの方が地なのか、ツンと澄ました顔よりよほど生き生きとして美しい。
ちょっと意地悪のひとつもしたくなるね。
「そうよ。あなたたちは『私を倒すために選ばれた』んじゃないもの」
「戯言を!死ね!」
抜く手も見せず切りかかってくる王弟殿下。おお速い!って私が死んじゃったら魔王城の場所訊けないよ!?
剣が私に届くわずか手前で後ろに吹っ飛ぶ王弟殿下。うむ、我が守護の結界は万全である。
あ、後ろにいた人を何人か巻き込んだ…怪我してないといいなあ。
「なんてことを!?」
慌てて詠唱を始める聖女様。え?なんで攻撃呪文!?
風の礫かな?速さといい練度といい、若いのになかなか巧みだ。
聖女様の放った風の礫もキレイサッパリ撥ね返す我が守護の結界。相変わらず会心の出来栄えです。
あ、やば…跳ね返った魔法の後始末を忘れてた。
「メリィ!」
咄嗟に聖女様の前に立ちふさがった勇者様に礫が当たる前に、どうにか魔法を打ち消した。
「クッ…どうしても戦わなきゃいけないのか?」
悲痛な声を上げ、剣を抜く勇者様。
いや私はあなたたちにまだなにもしてないよね?…どーしてこうなった。
「どうか魔女殿。世界を救うために協力してくれ…ください!」
数分後、ボロボロになってしまった勇者様一行。
死者が出なくてよかったです。
どうにか誤解を解き和解した私に謝罪し、続けて懇願する勇者様。
短気を起こさずに最初からそう言えばよかったのに。
兄弟子と同じ色をした青みを帯びた黒い瞳の、そのひたむきな輝きが私を貫く。
そんな風に見つめられたら、とてもじゃないが断れない。
私は勇者様に今代の魔王の住む城の場所を教えた。
そしてもし魔王の城に辿りつけなければ、もう一度ここを訪れるように念を押すことも忘れない。
あの城の周囲は深い霧と強力な幻術による結界に護られている。
勇者様や聖女様がいたとしてもあの結界はおそらく突破できないだろう。
私はきっと、もう一度だけこの勇者様にお会いできる。
再び訪れた勇者様ご一行に結界破りの魔道具を渡した。
兄弟子との思い出の品だが、どうせもう使うことは無いだろうし。
その時は勇者様達とゆっくりお話も出来たし、なんとお茶会や食事会までした。
いい思い出だ。
聖女様は魔王を討伐したら私に弟子入りしたいそうだ。
少し驚いたが、受け入れることにした。
後継者はちゃんと育てないとね。
彼らはあの城に辿り着けるだろう。そして魔王を倒すのだろう。
あの魔道具を作ってくれた兄弟子は色っぽいお姉さまが好みだったのに…なんとも気の毒なことだ。
この世界は随分古びて、もう滅びかけだ。
世界の延命は可能だが、それには禁呪が必要になる。
禁呪を使えるのは、ごくわずかの賢者や魔導士だけだ。
禁呪を使用した者は魔王になり、その魔力で世界を満たし、世界を活性化する。
そしてその反動によって異世界から召喚された勇者が魔王を討伐することで、世界は再び平和を取り戻す。
勇者と共に世界に外の世界の力をこの世界に取り込む。
これが魔王と勇者の物語の舞台裏だ。
その都度召喚され、元の世界に帰ることなくこの世界に骨を埋めることとなる勇者様達には同情を禁じ得ない。
今回のことで勇者と縁が結ばれた。
次の魔王はお師匠様で、その次は多分私だ。
弟子に二度も先を越されるような間抜けを師と仰いだ覚えはないので、きっとがお師匠様が先に逝くのだろう。
それでも私はいつか禁呪を使うだろう。
兄弟子がそうしたように。
師がそうするであろうように。
どうかその時は、私好みの男の子が私を殺してくれますように。




