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男たちの挽歌(3)

 

「マック! いったいどういうことだ?」



 駆け込んできたティンプリーミにみなまで言わせず、マッカートニーは首を横に振る。



「私ではありません」



 その言葉を聞いて、ティンプリーミはとりあえず大人しくなった。


 マイケル・マッカートニーが自分ではないと言っているのなら、それは真実だ。少なくともティンプリーミにとっては、その言葉だけで充分だった。



 ティンプリーミとうなずきあった次の日、マッカートニーは町長選に出馬を表明した。


 その数日後に泡沫候補の何人かが出馬を取り消したことから見てもわかるように、彼の当選は出馬と同時に確定していたといっていいだろう。


 だがそこに、驚くべき情報がもたらされる。


 マッカートニーが大量の武器を買いつけ、あまつさえその代金を踏み倒したというのだ。


 大量の武器は大きな抗争を意味する。


 そして、その代金を踏み倒すということは、マイケル・マッカートニーが信用するに足りない人物だという印象を与える。


 人々は驚くと共に、期待を裏切られた怒りに燃えたが、しかし、まさか「あの」マッカートニーに詰め寄るわけにも行かず、燃え上がった怒りは行き場もないまま膨れ上がっている。



「とにかく、誤解を解かなくちゃならならないだろうな」



 ティンプリーミが言うと、マッカートニーはかぶりを振った。



「いいえ、それは後でもいいです。何もあわてて今回当選する必要はありません。それよりも、私の名を騙った連中の真意を探らないと」


「なるほど、そうか。しかし、どういう連中なんだろうな? お前を敵に回そうって言うんだから……あ、あれか? 例のグリフ・シュナイダー……」


「それはないと思います」



 即座にマッカートニーが答える。


 首を傾げて無言のまま説明を求めるティンプリーミに、彼は穏やかな口調で答えた。



「彼が景気回復したかに見えるトパーズタウンを欲しがっているのは事実ですが、しかし、あの町が本当の意味で回復したわけではないことが判らないほど、彼は愚かではありません。彼ほどの切れものなら、私に景気回復と言う、金と時間のかかる仕事をさせて、充分にうまみが出てきたところで改めてちょっかいをかけてくるでしょう」


「はあん、なるほどな。てーと、オマエの名前を騙った連中ってのは、いったい誰なんだ? 見当はついてるのか?」


「見当というか、もう、犯人はわかってますよ。これでも一応、マッカートニー家というのは、情報収集をもっとも得意としているので」



 恐怖政治のような力技の支配をしていた先代と違い、マイケルの代になってからのマッカートニー家は、情報の収集と解析および操作による配下のコントロールに力を入れていた。



「なに? 誰なんだ?」



 ティンプリーミが詰め寄ると、マッカートニーは穏やかに微笑む。



「それじゃあ、今から彼らに会いに行きましょう。彼らの真意を聞いてみないと」


 



「ジャック、どうするんだ?」


「どうもこうもないだろう。こうなったらマッカートニーのヤツラが俺達を狙ってくるのは間違いない。それに……あのティンプリーミもな」



 ジャックの言葉に、周りの連中は絶望のうなり声を上げる。


 ジャックを責める言葉は出尽くし、責任転嫁の相手も思いつかず、あとはマッカートニー一味を待つばかりとなってしまった彼らに、他にできることはないのだ。



「どうして、こんなことになっちまったんだ?」



 誰かのか細い声に、ジャックが吠える。



「いまさらそんなことを言って、どうなる! こうなったらもう、腹をくくるしかないんだよ!」


「しかし……」



 腹をくくれているのは、当のジャックだけのようである。 その情けないさまを見て、ジャックはため息をついた。それからみんなを叱咤しようと息を吸い込んだ、その瞬間。


 ごん。


 目の前が真っ暗になり、ジャックは意識を失う。



 数分後。


 目を覚ましたジャックの前には、人っ子一人いなくなっていた。誰かがジャックの後頭部を殴りつけ、彼が気を失った隙に、みんな逃げてしまったのだろう。


 ずきずきと痛む頭を押さえながら、ジャックは大きなため息をついた。



「まあ、殺されるのが俺ひとりで済むなら、ある意味、いい選択かもしれないな」



 半分本音、半分強がりで独り言ちてみる。


 と。



 バルルン!



 太い排気音と共に、一台の大きな単車が現れた。



「おい、てめえ、ジャックか?」



 ジャックがうなずくと、単車に乗った男はでかい声を張り上げる。



「早く乗れ。もうすぐマッカートニーとティンプリーミがやってくるぞ」



 イヤも応もない。このまま殺されるくらいなら、一か八かこの男に乗ってみたって損はないだろう。どうせこれ以上のマイナスはないのだから。


 一瞬でそう決断したジャックは、男の単車のタンデムシートに飛び乗った。



きゅきゅきゅっ!



 激しいスキール音をあげて、単車は走り出す。


 ジャックを助けた男は、しばらく走ってハイウェイに出ると、あっという間に150キロまで加速する。


 ビリビリという風切り音に負けまいと大声を張り上げて、ジャックは男に話しかけた。



「なあ、あんたなんで俺を助けてくれる?」


「オマエ、例の株式投資の一件でグリフ・シュナイダーを止めただろう? オマエのおかげで、俺のダチが身包みはがれなくて済んだのさ」


「そうか、そいつはよかった。人助けなんてつもりはなかったんだが、こうなってみるとあの時グリフをさとしたのも、無駄じゃなかったな。ところであんたの名前は?」


「ユダだ」


「なに? じゃあ、あのバイクウィークを計画した、あのユダか?」


「そういうことだ」



 奇妙な因果の元、二人の男はハイウエイを疾走する。


 と。


 前方に人影。


 なんだ? とユダが目を凝らした瞬間、



ばしゅ!



 単車の前の道路がぜた。


 あわててブレーキをかけられた単車は、ゆらゆらと蛇行しながら、道を外れる。道を外れかけ、スピード が遅くなったところに、第二波がやってきた。



がん!



 激しい音と共に、ユダの単車のフロント周りが大破し、単車は荒野の土の上を、かなりの勢いで滑る


 もっとも、先ほど減速していたおかげで、それほどひどいことにはならずに済んだのだが、それでも二人は単車から投げ出され、気を失った。




 

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