さらば、異世界の英雄
蛇王が蹂躙する暴虐
石鱗人の英雄ピエドラが使用するエインヘリヤル。
石鱗人には魔獣化し、バジリスクになる能力があり、その力をさらに強化した能力である。
具体的に説明すると体のあらゆるところから毒をまき散らすことができる。それがよだれであろうが息であろうが毒が追加される。
ただし、バジリスクになる知性が低くなるという特性までは克服していない。そのため、発動すれば、ただ暴れ続けるだけの存在となる。
そのことから、ピエドラはあまり使いたがらない。しかし、使っていないため、知性が低くなるという弱点が克服できていない。
1行で分かる前回のあらすじ
アモルたちが石鱗人の英雄ピエドラを確保しました。
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ようやく生きる価値のすべてを知った。
幸せが私を呼んでいる。
喜びにあふれる私の魂は愛のとりこ。
すぐにも私の飢えた欲望を満たすであろう
もし、飢えた欲望を満たすことができねば、愛は私を責め、狂気を倍加させよう。
愛のためにあなたを忘れ去ることができず、幕が引けない。
なら、未来永劫、あなたを求め、生き続けよう。
たとえ、その果てにすべてを失くしたとしてもその愛は無くさない。
「神格 膠着する運命の牢獄 」
レイとリリィはある英雄に出会っていた。
その英雄は燃えるような赤髪を背まで伸ばしており、黒いローブを羽織っていた。一見すると死体と間違えるほどに生気が感じられなかった。おかしなことに子供のようであり、老人にも感じられる雰囲気だった。名前はズヴェズダと言った。
「……懐かしい顔だね」
人生とは未知の克服。
人は知らないがゆえに知ろうとし、拒絶する。
知らない何かを求めているのに知らない何かに恐怖する。
それは人に違いを求めているのにその違いが受け入れられないことと同じ。
最高のスリルが欲しいなら、未知を求めよ。
そこには前人未到の牢獄がある。
「英霊 運命の一本道 」
ズヴェズダはエインヘリヤルを発動するために詠唱した。
この光景は2人が10回以上見た光景であった。
「……ここから出て行ってくれ。今回の世界線は少し違うようだから。面白そうだ」
毎回、その言葉から始まる。
「何度、見たんでしょうね」
「記憶に残っていませんが、既知感がありますね」
レイとリリィはこの状況を突破するため、ズヴェズダと戦っていた。戦闘力ではズヴェズダの方が強かったが、レイとリリィのどちらかが死ぬと彼がエインヘリヤルを発動する状況に戻っていた。奇跡的にズヴェズダを倒したとしても同じ状況に戻るだけだった。
つまり、堂々巡りの状況になっていた。
「リリィさん。もう、ほっといたらどうですか?」
「彼はおそらくフォルテと同じテオスの段階の英雄です。エインヘリヤルでも厄介なのにテオスを発動でもされたら、とんでもないことになります」
ズヴェズダは2人が戦う様子を見せない限りは襲ってこなかった。
「ズヴェズダと言えば、シュガーがそう呼ばれていた気がする」
「そうでしたか。私の勘ですが、相手の英雄は何かとんでもない勘違いしていると思います」
2人は戦いではなく、話し合いで何とかすることに決めた。
「ズヴェズダさん、話し合いをしましょう」
「……なにも話すことはない」
「気になることはありませんか?」
「……特にない。また、新しい世界を歩くだけ」
「ここは違う世界なんです」
「……なに?」
無反応だった彼が反応した。
「シュガーという英雄があなたをここに連れてきてしまったんです」
「私がここにいると迷惑なんですか?」
「……残念ながら」
レイはとても言いにくそうだったが、それでも言った。
「……どうやら、この世界でも違うようだ。あなたたちについていこう」
ズヴェズダはエインヘリヤルを解き、レイたちに降伏した。
…………
……
レイたちが時空の穴にたどり着いたのは覇王アルティと英雄ピエドラ、未来ルキスを元の世界に帰した後だった。
ズヴェズダを見たシュガーとアリスは彼の姿に驚いていた。彼を元の世界に戻すことを優先した。
「……迷惑をかけた」
その一言を言うと時空の穴へと入っていった。
これで戻っていないのはリリィと黒餅たちだけとなった。
「あのズヴェズダには何があったんだ?」
ズヴェズダの体はアリスの体であったが、感じ取られる神力はシュガーの神力であった。この2つだけでシュガーとアリスにはズヴェズダが凄まじい苦労を重ねることを察した。
レイはリリィにこれからのことを尋ねた。
「リリィさんはどうするの?」
「私はシュガー様についていきます」
「レイ、アモル、ルキス、ミラ、ルリ。俺は異世界へと行ってくる」
シュガーは現英雄たちに対峙するとそう言いだした。
「……何を言ってんだ?」
彼の言葉を聞いて、最初に発言したのはミラだった。
「異世界に行ってくると言ったのだ」
「英雄の使命とどっちが大切なんだ!?」
「異世界に行くことだ。俺がいなくとも立派な英雄たちがいる。お前たちを信用してのことだ。頼む、異世界に行かせてくれ」
「分かった。行ってくるといいよ」
シュガーの頼みを最初に承諾したのは事情を知っているレイだった。
「その代わり、約束して。どんな結果になってもシュガーを絶対に責めないけど、一度帰って、事情を説明してくれることを」
「分かった。絶対に帰ってくることを約束しよう」
シュガーがレイに約束するとエクレールがやって来た。彼女のそばにはラヴァがいた。
「シュガー様、ラヴァを連れてまいりました」
「ラヴァ。これから異世界へと行ってくるから、この世界や使徒たちは頼んだぞ」
「分かった。必ず帰って来いよ」
「約束は守る男だ。それじゃあ行くか」
シュガーが先頭に横にはエクレール、アリス、スノウ、スラヴァー、メロディが並んでおり、その後ろには黒餅、紅葉、羅刹の3人の妖怪に英雄リリィがいた。
彼はある違和感を覚えた。
「なぜ、メロディがいる?」
「メロディも連れていけ。じゃないと……暴れるぞ」
「頼りにしているぞ」
気を取り直し、一行は時空の穴へと入っていく。すると穴は閉じられていき、そこに残ったのは青い球だけだった。
その球の正体にレイは気づいた。
「これは僕たちが探しているものだ」
彼はその球を手に取ると地図を広げた。新たなマークが出ており、そこは大陸から離れた小島だった。
それをアモルに見せた。
「この小島に行くためには船が必要ですね」
「当てはある?」
「ありませんが、地理的にソルムかルークスのどちらかで船を探しましょう」
英雄たちは次の目的地へと向かうべく、まずはここから近いソルムへと向かった。
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壁は金属だけで出来ており、岩や樹木などはまったくといってもいいほど使われていない部屋があった。
そこにはルキスの故郷であるグラッドでレイたちを襲ったズロンとその部下がいた。
「まったく役に立たないな」
「す、すいません、ボス」
ズロンが謝っている相手は彼のボスで彼らがいる場所はアジトであった。
「次はないぞ。私の期待は裏切るなよ」
「分かりました」
ボスにそう言われたズロンは返事した後、部屋から退出した。
「ウェルス」
「ここに」
ボスから呼ばれたウェルスは彼の前に出てきた。ウェルスのほかにも男性と老人の2人がいた。その老人はレイとアモルに1度会っていた。
「もう一回、確認するぞ。地下にいる魔獣は復活させたものの言うことを聞くんだな?」
「はい、そうです。地図は英雄たちに取られましたが、問題はありません。最後に勝つのは我々です」
「それで生贄は見つけられたか?」
「はい。名前は天人のアモル・リベラ。彼女のフィデスが適合させたようです」
「計画通りだな」
「心配はありません、ボス」
英雄たちが活躍している裏には暗躍している組織があった。




