五大英雄ギオン
前回のあらすじ
シュガーの依頼により、学園に侵入したレイたち。
個人的な我が儘により、転校してきた魔術師連盟マーティスの指導者である天人のエルにレイとミラは魔術の修行をつけてもらうことにした
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「すいません」
放課後になり、エルのところに行き修行しようと思っていたら、一人の少女に話しかけられた。少女の隣には女性が一人立っていた。少女は桃髪で赤眼だった。その眼にはなんとなく見覚えがあり、学園の制服を着ていた。もう1人の女性も学園の制服を着ており、金髪をポニーテールにしており、赤眼と緑眼のオッドアイだった。少女の胸はほんの少しだけ出ており、女性のほうはエルと同じくらいの大きさだった。
「あなたが異世界から英雄様でしょうか?」
「いや、違います」
「隠さなくていいよ。君がある目的のために学園に来たって、シュガーちゃんに聞いているから。それにしても異世界から来た人でも、私たちとあまり変わらないんだね」
女性がレイの体をベタベタと興味深そうに触ってくる。少女のほうはじっとこちら見ていた。
「そうだ。名前を教えてなかったね。私はフラース・アンヴィ・セニュエロ」
「私はアイン。アイン・アンピュルテ・ザイリーベ。愛を伝えるものです。愛を信じていますか?」
「何の用でしょうか」
「何もしないから、警戒しなくていいよ。そんなに警戒されるとお姉さん悲しいなー。ちょっと異世界から来たという君を見に来ただけだよー」
「あなたに愛を伝えましょう」
「そこまでだ」
アインが両手を広げ、そう言うとエルが止めに入る声が聞こえた。
「ちょっかいを出すのもそこまでにしとけ」
「エルちゃんを敵に回すと厄介だし、帰ろうか。アインちゃん」
「あなたに愛を伝えられないのが心残りです。ではまた」
2人はレイに背を向けて、反対の方向に歩いて行った。
「あの2人は何者なんだ」
「あの2人は魔術師連盟クリムに所属している魔術師で余と同じ地位のものだ。フラースは興味心で来たんだろうが、アインは考えていることがあまり分からない。余から言わせれば、あの二人のほうがよほど厄介だ」
「どっちが強い?」
「余。さあ、レイ殿、修行しに行くぞ」
エルは当たり前のことように言った。エルたちは修行をするために学園の広場に向かった。
広場にはミラがいた。放課後だったこともあり、ミラ以外の姿は見られなかった。
「遅いぞ」
「すまない。変な人に絡まれてしまって、遅れた」
「さっそく、修行と行きたいが、その前に1人ずつ説明といこう。まずはレイ殿。お主はなんか変身ができるとシュガーから聞いているが、その状態で魔術は使えるのか」
「ちょっと、待って。フォルテに聞いてみる」
レイは意識を集中させ、フォルテに語りかけてみた。そうするとフォルテの声が頭の中に響き渡る。
「話は聞いていた。俺様は魔術が使えないわけではないが、マナを取り込むことができない。つまり、マナを取り込む必要がある魔術は使えない。俺様が出ている時に使っているのは今のところ、身体強化の魔術だけだ」
「分かった」
フォルテの説明が終わるとフォルテの声が聞こえなくなった。フォルテから聞いたことをエルとミラに伝えた。
「なんていうか、ずいぶんと変な体質だな。聞いたことがないぞ」
「さすが、異世界から者だな。この世界の常識にとらわれていないな。それは魔王殿の話であって、レイ殿では違うかもしれない。レイ殿、この球を持ってくれ」
エルはレイに片手で持てるぐらいの球を持たせた。レイはそれを両手で持ち、下に落とさないように持った。さらにエルはレイの手の甲に何かの液体を塗った。
「この球は?」
「その球は手から体内にある魔力を吸収する魔具だ。その魔具はマナを取り込んだ魔力を吸収することで取り込んだマナによって、球の色が変わる。そして、手に塗ったのは塗った場所にマナを取り込む液体だ。この2つを使うことで体内にマナを取り込んで、マナと魔力を混ぜ、混ぜた魔力が球に吸収され、色が変わる。球の色により、自分の適性の魔術が分かる」
エルが魔具と仕組みの説明をしていると球の色が徐々に変わっていった。その色は透き通るような緑色だった。
「緑色だな」
「緑か。それなら、レイ殿は風の魔術に適性があるぞ。まずは風のマナを取り込むことからだ」
「どうすればいいんだ。あと、風の魔術って、どんなことができる?」
「今、手の甲からマナを取り込んでいる。その感覚を覚え、自力でできるようにする。風のマナは聞いたところによると風が吹くような感覚がする。この修行をするときはずっと魔具を持っていて、自力で緑色に染められるようにできれば、第1段階は終了だ。風の魔術はイメージ通り、風を操る。切りつけたり、風を吹かせたりする。ランクが上がれば、空を飛ぶこともできる」
修行の方法を教えてもらうが、レイはマナが風のマナを感じ取ることも体内に取り込む感覚もつかめていなかった。
「いまのところ、まったく感覚が分からない」
「始めたばかりだからな。次はミラ。お主だ。説明自体はレイ殿も聞いてくれ。ミラが使うフィデスは魔力、天力、竜力、翼力、闘気、魔眼、異能力の7つが使える能力と聞いておる。これらの力について、どこまで知っている?」
「魔力、天力、竜力、闘気は知っている」
「なら、翼力と魔眼、異能力の説明といこうぞ。翼力は翼人が持っている独自の力で空を飛ぶ能力だな。魔眼は角人がもつ独自の力だがよく分かっていない。聞いたところによると色のついた幽霊みたいなものを出せたり、嘘をついてるかが分かったり、五感が強化されたりする能力らしい。この魔眼は異能力とよく似ているといわれている。最後に異能力だが、説明が難しい。これは種族に関係なく、発現し、肝心の能力は千差万別だ。魔力無しで魔術みたいな能力が使えたり、レイ殿みたいに武器が出せたりする。異能力も魔眼と同様、研究はされているが、実態はよく分かっていない。ただし、異能力が使えるものは非常に少ないといわれている」
「何を教えてくれるんだ?」
魔術の説明が終わり、今度はミラがエルに尋ねた。
「余は天力について、教える。まずは何を具現化するか。そして、どんな能力を付属させるかだな」
「具現化……。アモルも使っているのか」
「いや、使っていない。天人としての身体能力があるからな。しかし、お主はそうはいかん。お主は人間だ。身体能力だとアモルたちに勝てず、魔術だとシュガーとルキスに勝てん。差を埋めるにはフィデスをうまく使い、使える能力は早めに使っていき、慣れていかないといかん。しかし、具現化をすれば、やり直すことができない。そして、あまり無理な能力を付属させることもできない。慎重に決めないといかん」
「なら、鎖がいい」
「鎖か。なんでだ。よく見られるが」
「鎖自体か鎖に氷の魔術を乗せて、拘束すれば、最低でもサポートはできる。これから習得する能力も鎖に付属すれば、分かりやすくイメージがしやすい。修行の方法は?」
「実物の鎖をイメージできるようにし、具現化させる。具現化させるには実物に触れ、どんなものかを理解していく必要がある。ミラ、今日から1日中鎖を持ち歩け。常に鎖を持ち歩き、どんなものかを理解を深めていくんだ。それと同時に、7つの力をどんな形で鎖に能力を付けるのかも考えろ」
その後、レイは風のマナの感覚を掴み取る練習をし、ミラは店に行き、鎖を買った。修行をし、1日が終わった。
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学園生活にも友達ができ、修行は初めて、3日が経った。
レイは自分の力だけで風のマナを取り込む感覚を掴み、球を少し緑に染めることができていた。ミラは鎖を観察続けながら、フィデスも使い、持続力時間が伸ばそうとしていた。ミラのフィデスは七力理解。フィデスを使うと金色の瞳になり、その間、種族が持つ独自の力を使用することができる能力である。持続力時間は8分だった。この時間を少しでも伸ばそうとしていた。ミラは鎖をいじりながら、レイに話しかけた。
「私って、どうしたらいいのかな」
「何が?」
「この間、エルに思いっきり弱いみたいなことを言われたから」
「英雄に選ばれたんだから、何か意味があるはずだよ。それとは別にしても、ミラに会えてよかったよ。アモルの次ぐらいに一緒にいるからね」
「そこで別の女の名前が出てくるのか、それでもありがとう。好きで英雄になったわけではじゃないけどね」
最後の言葉はレイに聞こえないようにつぶやいた。
他愛のない話をしているとエルが走って、こっちに来た。
「2人とも、今、ルークスに劇団ギルドリースス・レーニスが来ているそうだ。見に行こう」
「修行は?」
「休むのも修行だ。それに2人の修行は見ながらでもできる」
レイは球、ミラは鎖を持ったまま、エルに引きつられて、町に出た。
レイたちは劇団ギルドリースス・レーニスに向かっていた。レイはミラにリースス・レーニスについて尋ねる。
「ミラ、リースス・レーニスって、何?」
「リースス・レーニスはギルドの一つだ。ギルドは同じ技術や目的などで集まっている集団や組織のことをいう。リースス・レーニスは劇団を見せるギルドだよ。リースス・レーニスの特徴は普通のギルドは一か所に留まるのにこのギルドは各国を回って、劇団を行っているんだ」
「劇団は何度見てもよいぞ」
話していると劇団を行っている場所にたどり着いた。人だかりができていた。
「入れるかな」
「無理だろ。諦めよう」
「いやだ。見るぞ」
「何しているの?」
なんとかエルを説得しようとしていたところに聞き覚えのある声が聞こえた。その声の持ち主はルキスだった。
「ルキス、久しぶり」
「久しぶり、何しているの?」
「劇団を見に来たんだけど、人が多いから諦めようとしていたところ」
「それなら、なんとかなるよ。ついてきて」
そう言うとルキスは歩き出した。レイたちはその後ろを追いかけていく。人が少ない場所に着き、そこはスタッフなどが出入りしていた。ルキスは入り口の男性に話しかけ、道を譲ってもらい、中に入っていた。そして、劇団を見るための席に着き、一番の前に座った。それに続き、レイたちも座った。あまりにスムーズに行ったので、レイはルキスに質問した。
「ルキスはここのギルドに所属しているの?」
「いや、していないよ。ギルドの団長がボクのおじさんだから、事前にお願いして入れてもらったんだ」
「大丈夫なのか、俺たちまで連れてきて」
「大丈夫大丈夫。おじさん優しいから、ほら始まるよ」
劇団の司会が前に立ち、挨拶を始めた。集まったことにお礼を言った。司会が演目を言い、劇が始まった。
英雄になれなかったヒーロー
ある少年が世界を救う英雄を目指した。
しかし、年端もいかない少年には力も知恵もなかった。
少年は無い知恵を絞り、考えた。
世界で英雄と呼ばれる人の力を借りるため、世界中を旅することを決めた。
あるときは魔力を持たない魔法使いが住む火山へ
あるときは無敵とされる戦士に頼み
あるときは無敗とされる騎士のところに行き
あるときは無敗の騎士が仕える不視の王を尋ね
あるときは仙人となった老人が住む森へ
長旅の末に英雄たちに会うことができた。
しかし、少年は英雄ではなく、ただの旅人にしか過ぎなかった。
英雄は誰も力を貸さず、借りることができなかった。
少年は英雄をあきらめ、せめて笑顔を人々に送ろうと決めた。
芸を身に着け、皆の前で披露した。
人々は笑顔になり、少年はヒーローと呼ばれるようになった。
英雄になれなかったが、ヒーローになれた。
そんな物語。
劇が終わり、司会が前に立ち、別れの挨拶を言った。観客は席から立ち始め、帰る準備を始めていた。ルキス達は今の劇についての感想を言いあった。
「なんで、英雄たちは力を貸さなかったんだろう」
「英雄たちも忙しかったとか」
「だけど、助けを求めているんだから、協力しても良くないか」
「英雄とはなろうとするものではなく、人々に呼ばれる称号だ。英雄たちは周りから英雄と呼ばれていただけだろう。お主たちも英雄に選ばれているが、英雄と呼ばれるような努力をせねばいかんぞ」
「そうだね。これからさ、おじさんにお礼を言いに行こうと思うんだけど来る?」
「行く」
「おじさんはすごい人だからね。びっくりするよ」
ルキスがそう言い、レイたちはルキスのおじさんがいるという楽屋に向かって、歩き出した。
楽屋に着き、ドアをノックした。すると部屋の中から声が聞こえた。声を確認してから、ドアを開け、部屋の中に入った。
部屋の中には1人の男性がいた。男性は赤髪金眼で服装はスーツだった。
「ルキスか。それに友達もいるのか。アーク様もいらっしゃったんですね。劇は楽しんでもらえましたか?」
「英雄とは何かと考えられる話だったぞ」
「それはよかった。紹介が遅れました。私は魔人のギオン・テアトロと申します。以後、お見知りおきを」
「余の名はリュミエール・ブランコ・アーク。連盟からブランコの称号を与えられし魔術師である」
エルに続き、レイとミラも自己紹介をした。
「おじさんはボクの自慢だからね。おじさんは昔話で語り告がれている五大英雄の1人だからね」
ルキスの口からギオンが五大英雄と聞いて、レイたちは驚いた。五大英雄とは昔話で出てくるものであの話からすると約500年前の出来事である。レイは500年前の人物が生きているとは到底思ってなかった。
「あの話って、本当だったのか」
「確かに魔人だから、500年以上生きていてもおかしくないけど」
ミラが知っている種族で500年以上生きていられるのは森人と魔人だけだった。
「ルキスが言ったなら仕方ありません。確かに私は人々から五大英雄と呼ばれています。あなたたちと同じように神に選ばれ、リトスを授けられ、同じ選ばれた者たちと旅をしていました」
「ならさ、俺たちと一緒に戦ってくれませんか」
「それは断ります。私たちの選ばれた者としての使命は500年以上前に終わりました。しかし、今に至るまでは事件や戦いが起これば、世界を守るために戦って来ました。今はあなたたちという選ばれたものがいる。時代を作れるのは今の人たちだけです」
「なら、昔のことを聞かせてもらえませんか。異世界から来たという人のことを聞きたいんです」
「許可を取らずに話せませんが、結論だけ。彼は帰ることができませんでした。しかし、諦めることはありません。諦めなければ、方法はあるはずです。困ったら、自分たちだけではどうにもならないときは来てください。そのときは力を貸します」
レイたちは劇のお礼を言い、部屋を出た。レイは五大英雄の話を聞いて、不安になった。異世界から来た五大英雄は帰ることができなかった。自分も無事に元の世界に帰れるのかを不安に思った。




