英雄・第3段階エインヘリヤル
英雄について
神に選ばれた存在。選ばれた証としてリトスが与えられ、それは神の魂の一部で作られている。
英雄には4段階に分かれている。
第1段階が英雄の証であるフィデスが使える名前の通りであるフィデス。
第2段階が神との対話を可能にし、神の象徴である神装が使えるようになるノードゥス。
第3段階が英雄の自己を確立させるエインヘリヤル。
第4段階が神人へと近づくテオスである。
これらの段階はあくまでも基本であるため、エヴォルのように第1段階から違っていたりすることがある。また、カテーナのように途中から別の道を歩むこともあるが、意図的にしない限りはほとんどないことである。
前回のあらすじ
シュガーはシリウスを倒すことに成功するが、ミカエルを逃がしてしまう。一方、レイは五大英雄の1人であるシュテルに殺されてしまう。
死亡したレイはリトスの中にいるフォルテと会い、エインヘリヤルに到達するためにも修行する。彼が修行している時、ミラはシュテルから、自分の出生を知る。
****
風の国ウェントゥスにいるミラたちはシュテルからレイの身に起こっていることの説明を受けていた。
「つまり、レイは死んでないんだな?」
「正確に言えば、一度死んだけど、私の蘇生術で仮死状態にしたの。戻ってこれるかは彼次第ね」
「なんで、こんなことをしたんだよ?」
「ミラは体験しているから分かると思うけど、リトスは神の魂で出来ているの。そのため、英雄も魂の状態になった方が会いやすい。だから、殺して、魂分離を起こしてリトスの中に行かせたの」
「もし、そのまま死んだら?」
「運がなかったわね」
シュテルはあっけらかんと言った。
「ミラに用事があるのよ。レイの修行はついで」
「何の用事だよ」
「あなたの出生についてね」
「なんで、あんたがそんなことを知っているんだ?」
「ちょっと、思い当たるがあってね。デネブラエに向かいながら、話しましょうか」
レーゲンボーゲンの手足が胴体から離れ、金色に輝いていく。金色の光を出し、巨大な光の鳥となった。
「これに乗っていきましょう」
光の鳥は頭を下げ、シュテルたちは中へと入り、光に包まれていく。羽根を動かし、空へと飛びだった。
「ミラ、貴方の出生ね。貴方の姿にはある英雄の面影を感じたの」
「ある英雄?」
「人の英雄アリス。光の神ルークスから神核を分けてもらい、テスラという神名をもらった英雄であり、私たちと対立してしまった英雄」
「似ているということは私はその英雄の親戚なのか?」
「アリスは当時16才ぐらいで封印され、姉妹もいなかったし、子供もいないと思っていた。しかし、ある神から聞いたことがあったの。リスクが高い行為であるけど、神は意図的に転生できると」
シュテルの話を聞き、自分の正体にたどり着いたミラ。それは彼女にとっては信じがたい想像だった。
「もしかして……いや、まさか……」
「貴方の想像通り、貴方は光の神ルークスと英雄アリスの転生体よ」
「だけど、私の中には誰の存在は感じないし、私の意思だ! それに転生したなら、500年後にいるんだよ!?」
自分の疑問をシュテルへと投げつけるミラ。
「これからは私の想像になるけど、封印したときにそばにいた神と英雄が妨害したんじゃないかしら」
「その英雄と神って、だれなんだ?」
「火の神イグニス、五大英雄の1人シュガー。その2人も中に混じることで妨害したんだと思うわ。そして、4人とも意図してないことが起きた」
「なんだよ、それは?」
「ルークスは500年後まで送られたこと。アリスは適した転生体ではなかったこと。イグニスは転生体が英雄になるとは思っていなかったこと。シュガーはそもそも転生体ができるとは思っていなかったこと」
「要するに?」
「圧倒的に才能がない転生体ができるとは思っていなかった。まあ、そのおかげでミラ自身の意思が乗っ取られていないから、助かったけど」
シュテルが言った『才能がない』という言葉にミラの心を落ち込ませる。
「やっぱり、私には才能がなかったのか……」
「大丈夫よ、ミラ。私が鍛えてあげるから。それに貴方は今までの事例のない英雄になったんだから」
「どういう意味?」
「ミラは2人の神と2人の英雄が不本意ながらも力を合わせた結果、貴方が生まれた。そして、英雄にも選ばれた。私の予想ではリトスの中に神がいるように4人の力もリトスの中にいると思うの。だから、会いに行きなさい」
英雄の証であるリトスは神の魂で出来ている。英雄はノードゥスの段階に入ることで神の力を借りることができる。基本、リトス1つに1人の神である。しかし、ミラの場合は神フレイヤに加え、神力をもつ4人がいると予想していた。
シュテルが言ったリトスの中にいる神に会いに行くという言葉を聞き、ミラは先ほど、レイの身に起こったことがいやでも目に浮かんだ。
「まさか……私もレイと同じ目に……?」
「そこの子はフィデスにも目覚めていないし、ミラはリトスの中に5人分の力があると思っていたし、何が起こるかが分からなかった。だから、レイみたいに強引な手を取らなかったのよ。普通の方法で会いに行くわ」
今までの話を聞いていたルリがある疑問が浮かび上がり、そのことを口にした。
「今までの話を聞く限り、ミラちゃんはシュガーさんとそのアリスさんとの間にできた子供なんですか?」
「……無理無理無理! シュガーが父なんて無理! 今度からあいつにどんな対応したらいいんだよ!?」
「光の神ルークス、火の神イグニス、アリス、シュガーの神力が混合して、できているから違うと思うけど」
そんな話を聞きながら、英雄たちを乗せた光の鳥はデネブラエへと向かって行く。
****
レイが目を覚め、体を起こすとそこには褐色肌で上半身裸、金髪のフォルテがいた。以前、会った時とは周りの景色が違っていた。
「熱い……」
どこまでも黒い景色ではなく、空は赤く、荒野が広がっており、樹木などの自然物が一切なかった。ところどころ、炎が燃えていた。その炎の熱がレイを襲っていた。
「来たか」
「フォルテ、ここはどこ?」
「ここは俺の深層心理だ。神装などを貸していることでより深い場所まで来れるようになったんだ。ここでお前を鍛え上げる。最初に言っておく」
「なに?」
「ここでいくら修行してもノードゥスの次の段階であるエインヘリヤルにはたどり着けない」
「どういう意味?」
「自分で考えろ」
フォルテは自分の胸に手をかざす。それを見たレイもリトスを左手で握り、右手をかざした。
フォルテの胸からは白い槍が、レイのリトスは白い仮面と黒い剣に分かれて、取り出された。
「喰え、俺の魔力を!」
純白の槍はフォルテの魔力を喰わせることで漆黒へと染まっていく。
「月蝕」
「風嵐弊絶 絶風壁」
黒い斬撃が飛んでくるが、レイはフィデスを使用し、風の壁を作ることで攻撃を防いだ。剣に風を纏わせ、風の刃を飛ばした。しかし……。
「絶風刃」
「はっ!」
風の斬撃はフォルテの左手によって、ハエのごとく払われてしまった。フォルテは距離を詰め、レイに槍を振り下ろすが、剣を受けとめ、鍔迫り合いが起きた。
「月蝕」
至近距離の月蝕がレイを襲う。彼はマントを前に出したが、防ぎきれずに後ろに飛ばされてしまう。
「弱い弱いなぁ! 俺たちは同じレイだぜ。どうして、同一人物なのにここまで差があると思う?」
「経験の差?」
「確かにそれもある。だが、根本的に違うところがある。それは本能だ! 戦いを求める本能がねえ! 戦いに絶対に勝とうとする意志が感じ取れない。お前は周りに流されているだけだ。 ましてや、俺たちの心剣は思いが具現化されているんだ。心でも負けていれば、勝てる道理がない!」
「……」
フォルテの言う通り、彼らが使う異能力は想いを武器に具現化する。レイはフォルテの心剣を、フォルテはレイの心剣を。思いが強さに繋がるなら、フォルテの思いが具現化されている剣はレイの心剣と比べ、限りなく強いはずである。
つまり、フォルテは弱い武器で強い武器を持つレイを圧倒していた。レイにはそれが痛いほどわかっていた。
フォルテは近づき、レイの心剣を手で粉々に握り折った。
「俺はごめんだぜ……。弱い英雄を支え、自分ごと切られるのはよ! 弱いお前が諦めるなら、俺がお前になるまでだ!」
「そんなことが!?」
「おいおい、何の見返り無しに力を貸すわけがないだろ。お前が神装を使ったおかげで俺たちは深く繋がっている。エインヘリヤルの到達条件は神魂の具現化。つまり、リトスの中にいる神を具現化し、打ち勝ち、己の身に喰らうことだ。逆に言えば、己が喰らわれることもある。そしたら、乗り移ることができる」
「乗り移るということは何か後悔していることがあるの? 何かやり直したいことが……」
「他人の心配している暇があるなら、自分の心配をしろ!」
レイに槍が突き刺さろうとした。剣を具現化し、黒い刀身で受け止めた。
「決めたんだ。世界を守るためなら、戦うって!」
槍を横に弾き、剣に風を纏わせ、それを放つ。
「絶風刃!」
「うおっ!」
今度はレイが至近距離で放つ。フォルテは月蝕を自分の前に出すことで攻撃を防ぐが、防ぎきれなかった。
「他人を乗り越えるのは難しいけど、相手に勝つことでそれを証明することができる。だけど、自分を乗り越えるのは姿が見えないからさらに難しいんだ。俺、自分を乗り越えるよ。フォルテを倒して、自分を乗り越えてみせる!」
レイは黒い剣を振り下ろし、フォルテは白い槍で受け止めようとしたが、一刀両断に斬られた。それは以前の自分の思いを超えた証明でもあった。
「なるほど、心剣を斬れたか。俺も本気を出すか」
フォルテがそう言うと彼の前に黒い剣が出現した。その剣は柄も鍔、刀身までも黒く、それは夜を象徴しているようだった。その剣にレイは見覚えがあった。
「今まではお前に合わせていたが、これは俺様が使っていた神装だ」
「それは……」
「おそらく、シュガーのあれは知らないが、お前が持っている俺の心剣はこの神装が関係しているかもな」
違う道を歩んだ2人は剣を交え続ける。
****
ミラは座禅を組んでいた。シュテルは彼女の頭を叩こうとしたが、避けることに成功した。
「避けないで」
「避けるだろ、普通」
「集中が足りない証拠ね。これじゃあ、いつまでも会えないわよ」
シュテルが言う普通の方法とは精神を集中させ、自らの意思でリトスの中に行くことだった。シュテルが叩くのはきちんと行けているのかの確認のためだった。
「500年前から始まった因縁ももう終わろうとしている」
「なぜ、そんなことが分かるんだ?」
「私の神装で予言ができるの。あと、1週間以内に終わる」
500年間続いた因縁も終わりを告げようとしていた。




