迷いの森と自然の回転
種族について・ドラゴン
生まれながら、強大な力を持つ種族。
ドラゴンはブレスを吐き、蛇のような尾、鳥のような翼、魚のような鱗を有するハイブリッド生物が一般的である。種類により、一般のイメージと違い、翼を持ってなかったりする個体もいる。それどころか、鱗の代わりに毛が生えているドラゴンもいる。
体色は種類によって異なり、赤や緑、黄金といった様々な色をしている。
暮らす世界によって、モンスターとも扱われていることもあるし、人と共存していることもある。
第3世界ではドラゴンだけが住む王国があると言われている。
前回のあらすじ
一晩で消えた町ムストに着いたレイたち。彼らは原因を探るためにセルバ、テリーの2人の森人を連れ、地下へと向かって行く。
地下の中は環境がころころ変わっており、回りが氷で出来ている極寒地帯で敵の強襲を受けるが、これをなんとか撃退し、敵であったアオイという人の魔術師を仲間に入れ、更なる地下へと向かう。
****
敵であるアオイを仲間に入れたレイたちは氷の洞窟を抜け、先へと向かっていた。
その道中でレイはアオイに残り3人の魔術師について、聞いた。
「アオイさん、残り3人はどんな魔術を使うの?」
「そうですね。戦う可能性があるので教えます。幻獣を操る魔術を使う獣人のミド、幻覚を操る魔術を使う魔人のプリス、土や植物を操る角人のアスタの3人です」
「強いの?」
「強いというより、厄介ですね。特に幻覚を操るプリスは。この洞窟で魔物が出れば、ミドの魔術と思って間違いないでしょう」
「扉がありましたよ」
セルバがそう声を上げた。
「この扉が先に続いているんですかね?」
「そうかも」
耳を扉に近づけさせ、中の様子を疑うレイ。彼が聞いたのは話し声や歩く音であった。
「中に人がいるみたい」
「先輩の言う通りなら、この先には沈んだ町があるんですね」
レイは扉を開けていく。その先には町があり、人々は日常のように過ごしていた。空を見上げるとそこにはないはずものがあった。そのことをセルバが口に出した。
「なんで、洞窟の中なのに青空が広がって、太陽があるんですか?」
洞窟の天井には青空が広がっており、太陽まであった。そのことをアオイがフォローした。
「この青空と太陽はおそらくプリスが作り出した幻想で光はミドの魔術でしょう。しかし、アスタと同じようにここまで規模の魔術は2人にはなかったはず」
「町の様子を調べよう。聞き込みをするんだ」
ミラの提案により、2人組になり、町中で聞き込みを始めた。
聞き込みを初めて、1時間後。彼らは情報を集めて集合した。皆から聞いた情報をセルバがまとめた。
「まとめるとこうですね。町の人たちは魔物退治のために地下へと移動していると説明を受けていること。ここの生活は外と同様に昼夜がちゃんと繰り返されているということですね」
「フォレストボーイの言う通り、まだ町は混乱していないようだ」
「それなら、町が混乱しないように先に進むのは夜に行こう」
テリーが言った町は混乱していないという言葉を聞き、レイはそう提案した。この環境がミドとプリスの魔術で保たれているなら、2人を倒したら、それが保たれなくなると考えていた。
これが明かりが出ている昼だったら、急に明かりが無くなり、人々はパニックになるだろう。しかし、夜ならその心配はないし、眠っている。起きて、洞窟ではなく、外だったら魔物退治が終わったからだと思うだろうとレイは考えていた。
それはミラも同じことを考えていた。
「そうだな。私もレイの意見に賛成だな。アオイとの戦いで私たちは消耗しているはずだ」
「……すいません」
ミラの言葉にアオイは申し訳なそうに謝る。
「アオイさんは操られただけなので気にすることはないですよ。もし、気になるなら、宿屋を紹介してください」
「分かりました」
アオイの案内に従い、宿屋へと向かっていた。
****
やがて、夜を迎えると外に出た。皆が寝静まっている町は静寂が支配していた。鳴り響くのはレイたちの足音だけだった。
彼らは先に進むため、扉を探し、見つけた。扉を開くとその先の壁は岩でできていた。先へと進んでいるとテリーがレイに話しかけた。
「助手君」
「何ですか?」
「やけに一本道だと思わないか」
「まあ、そうですね」
「こういうところは罠が張ってあるものだ」
「そうなんーー」
レイのその後に続く「ですか」はテリーが聞くことはできなかった。なぜなら、その場から全員の姿は消え、バラバラになったからであった。
****
レイが飛ばされた先にはアオイだけがおり、彼女以外は誰もいなかった。
「バラバラになりましたね」
「ミラとルリは英雄ですから、大丈夫ですよ。みんなを信じて、前に進みましょう」
「ええ」
洞窟の先へと進む2人。しばらく進むと1人の人影が見えた。それは青髪の男性だった。
「アオイさん、あれは誰ですか?」
「少なくとも私の知り合いじゃないですね」
レイたちが警戒していると先に青髪の男性が話しかけてきた。こちらに近づく際、彼の後ろから猫のような尻尾が見えた。
「こんにちはニャ」
「こんにちは。あなたは?」
「ミーは竜人のサフィールニャ。職業はニートニャ」
「竜……人……?」
レイにはサフィールが竜人には見えなかった。生えているのは猫のような尻尾であり、リアマのような竜の尻尾ではなかったからであった。
「君、英雄ニャね。懐かしいニャ」
「英雄に知り合いがいるんですか?遅れましたが、俺はレイ・シルバです」
「レイ君ニャね。英雄の知り合いなんて、いないニャ」
「じゃあ、なんで、懐かしいんですか?」
「500年前に起きた神界大戦が懐かしいニャ」
「一体何歳ですか?」
「1億と2000歳ニャ。ついでに異世界からきたニャ」
「……」
今まで話を聞いていたレイだったが、サフィールの話を聞けば聞くほど胡散臭いとしか思えなかった。最後にあることを聞いた。
「異世界から来たって、どういう世界から来たんですか?」
「ドラゴンが住む世界ニャ。ミーが一番強かったニャ。でも、あまりに強すぎて、神を怒らせたニャ」
「そうなんですか。先を急ぎますので、これで」
「ここでクイズタイムにゃ」
「なんだよ! もう!」
サフィールの突然の行動にレイは大きな声を出してしまった。
それを見たアオイがサフィールに話しかけた。
「クイズタイムということは私がクイズを出してもいいのでしょうか?」
「もちろんニャ」
彼に確認を取ると彼女は銃を取り出し、彼に向けた。
「これで撃たれるとどうなると思います?」
「もちろん、すごい痛いニャ」
「違います」
「じゃあ、なんニャ?」
「それは自分の体で確かめてください」
アオイは引き金を引き、サフィールに3発の銃弾を撃ち込んだ。
「うがー! 答えは死ぬほど痛いニャ……」
「正解です。さあ、レイ君。先に行きましょう」
アオイとレイは倒れているサフィールを放置し、前へと進んでいった。
****
ルリはセルバと同じ場所に飛ばされていた。2人は洞窟の中なのに生い茂る林が枝を絡め合うように広がっている森にいた。その森は洞窟の壁が見えないほどに樹木が茂っていた。
「セルバ君、これは何でしょう?」
「おそらく、町を地下に取り込むと同時に木なども取り込んで、ここに集めたんだと思います」
歩きながら、セルバが説明した。
2人はしばらく歩き続ける。しかし、一向にたどり着く気配がなかった。
「この洞窟、かなり広いですね」
「そうですね。でも、この環境は僕にとっては落ち着きますね。木が回りにありますから」
「あたしも落ち着きます。セルバ君とは合うかも?」
「そうだったら、うれしいですね」
そう話し合いながら、森の中を歩き続けた。歩き続けたことでやがて息切れを起こした。
「ハア……ハア……。たどり着かないね……」
「そうですね……」
「もしかして……迷わせられているじゃないかな……」
セルバはその答えにたどり着いた。彼は森人である。森の中を歩くことは日常茶飯事である。
「それにアオイさんが幻を見せる魔術師がいるって、言っていた。えーと、名前は……」
「魔人のプリマ」
「名前も知られているですね」
何処からか声が聞こえてきた。セルバとルリは周りを見るが、姿は見えなかった。
「姿が見えないですね」
「幻術で姿を隠しているんだよ」
「何か、デジャブを感じます」
「私の場所は分からないでしょう?」
セルバはルリに小声で話しかけてきた。
「ルリさん。僕が今から弓を撃ちますので同じ場所に撃ってください」
「分かりました」
セルバは矢筒から矢を取り出し、弓を構えた。ルリは矢に体内で生成した麻痺毒を塗ってからボウガンにセットした。
そして、セルバが矢を放った。
「うがっ」
矢が放たれた方向から、うめき声が聞こえてきた。その声を聞き、ルリも引き金を引き、矢を放つ。再び、うめき声がし、姿を現した。
相手はピンク色の髪の女性で足のすねには2本の矢が刺さっており、そこから赤い血が流れていた。
「何故、居場所が分かったの?」
「マナです。魔術を使うためにはマナが必要なのでマナが集中しているところに当たりをつけました。もっとも、これは僕が森人で慣れている森の中だったからマナを感知することができました。そちらの作戦が裏目に出ましたね」
「今です」
ルリは相手の姿が見えると走った。相手の指を確認すると緑色に輝いている指輪があった。それを確認すると彼女はプリマの指を踏みつけ、指輪を壊した。
「あれ……今まで、私は何を……」
「相手が正気に戻ったようですね。ルリさん、治療をお願いします」
セルバがルリにそう頼むと解毒薬などを作り、治療を始めた。
「実はあたし、新たなことができるようになりました」
「治療と関係があるんですか?」
「もちろんです。今までは魔薬を指から染み出していましたが、指先から針が出せるようになりました」
ルリの指先からは細い針が伸びていた。
「これを刺すことで直接体内に魔薬を送ることができるようになります」
ルリは躊躇なく針をプリマに刺した。
「痛い痛い痛い!」
「ん!? まちがったかな?」
プリマは痛みが治まるどころか、ますます痛がっていた。
「どう見ても失敗していますよね?」
「……失敗は成功の母と言いますし、治療の発展には犠牲が付きものです。今度は頑丈そうなシュガーさんで試そう」
ルリは針を使うことを辞め、指を吸わせて治療することにした。
やがて、吸い終わらせるとプリマは2人に自己紹介を始めた。
「魔人のプリマです。ムストという町の町長をやらせていただいています」
「森人のセルバです。ムストという町は今……」
セルバはプリマにムストに起こっている現状を説明した。その説明に彼女は驚きを隠せなかった。
「私の町でそんなことが! 許せません」
「あなたもその1人ですよ」
「ぐさぁ!」
「ルリさん!」
ルリの悪意のない言葉でプリマは自分の町を危険に陥れた1人という認識が強くなり、心が傷ついていく。
「それはそうですけど……。町を戻せば、問題ないんですよ! 一番いけないのはいつまでも罪悪感で何もしないことですよ!」
「待ってください、プリマさん」
プリマは奥へと歩きだし、セルバとルリはプリマの後ろを追いかけていった。
****
一方、ミラはテリーと共にいた。
「何だ、こいつらは?」
「ブルーガールが言っていた幻獣だろう」
2人はここに着いてから、獣に襲われていた。ミラは魔術と異能力で、テリーも魔術を使っていたが、それと同時に鉄球も使っていた。
テリーはミラの異能力である氷の爪の回転を見て、アドバイスした。
「リトルガール、そんな回転ではだめだ。それではただ回しているだけだ」
「そうなのか。というか、小さいって言うな」
「私の鉄球の回転は自然の回転だ。自然物を参考にし、回転させ、螺旋の軌道で投げる。クイスのような回転とは違う」
クイスとはボースハップンの時にルキス達と一緒に行動していたキルト・クイスの一族のことである。
「リトルガール、蜂の飛び方を知っているか?」
「知るか、そんなもん」
「蜂は大きな弧を描いて、飛ぶ。この弧は対数螺旋に近い」
「対数螺旋?」
「回転中心から引いた線と螺旋の接線とがなす角度が常に一定になる回転だ。もっと分かりやすく言えば、台風も対数螺旋だ。このように自然には様々な螺旋がある。これを見て、私は投げている」
回転を受けるとミラの中で新たな疑問が生まれ、それを彼に尋ねる。
「ここには蜂も台風もねーよ。何を見ているんだ?」
「植物だ」
「植物?」
「花びらの生え方、茎にある葉の並び方は代数螺旋と呼ばれるもので周間の距離が常に一定の回転だ」
洞窟に生えていた5枚の葉がついた植物をテリーは適当に折り、ミラに見せた。
「葉っぱを見てくれ。一番下の葉を0としよう。これを下から見ると0、1、2、3、4の順で見てくれ」
「あっ、ほんとだ。螺旋を描いている」
植物の葉を下から順番に見ると螺旋を描き、0の葉の上に4の葉がきていた。
「この螺旋を見て、回転させている。君にもできるはずだ」
「やってみる」
「それができたら、次は対数螺旋による回転だ」
「これも植物か?」
「いや、これだ」
テリーがミラに渡したのは1枚の貝殻だった。
「この貝殻の外側が弧になっているな」
「この貝殻の弧を見て回転させる。角度は82度をイメージしろ」
「いきなり、言われても分からねーよ」
「後で紙に書いて渡そう」
代数螺旋と対数螺旋の違いは次元である。代数螺旋は平面的な2次元であり、渦巻きと呼ばれている。対数螺旋は立体的な3次元であり、螺旋と呼ばれている。
例に出すなら、階段である。渦巻き階段は上下に降りることはできないが、螺旋階段は上下に降り登りができる。
テリーが回転の説明をしていると幻獣が襲い掛かってきた。
「さっそく、やってみるか」
ミラは植物を見て、渦を見た。そして、爪の回転も渦のように回していき、敵を狙い発射させた。幻獣に避けられるが、2発目を発射させていた。幻獣とは違う方向に撃っていたが、途中で軌道を曲げることで当てることができた。
「この回転だと曲げることができるぞ!」
「それはよかった」
ミラが喜んでいると緑髪で黄色の眼をした獣人が姿を現した。
「幻獣じゃあ、敵にやれないから、直接来たぜ。俺の名はミド」
「お前を倒せばいいんだな?」
ミラは左手の指先をミドに向けて、氷の爪を発射させた。しかし、簡単に避けられてしまった。
「余裕余裕。今度はこっちの番だ」
ミドは2体の幻獣を生み出してから、ミラの方に走り出した。それに対し、彼女はフィデスである種族理解を発動させていた。青眼から金眼へと変わっていき、右手に鎖を具現化させ、ミドに攻撃した。
上にジャンプすることでまたしても避けられてしまった。それどころか、鎖の上を走り、近づいてきた。
「くらいな」
ミドがミラに攻撃を仕掛けようとすると2人の間に炎の壁ができた。それを見たことで攻撃を辞め、距離を取った。
「大丈夫か?」
「ああ、なんとか」
「なら、こちらの番だ」
テリーは貝殻を見てから、鉄球を回転させた。その回転は渦巻きではなく、螺旋の回転だった。それをミドに向かって、投げる。避けられてしまうが、回転の余波で皮膚を切り裂いた。
投げると同時にミラは鎖を壁に沿って、動かしていた。それは後ろから攻撃するためだった。その様子を幻獣が見ていた。
(よし)
鉄球を避けられた後に鎖で攻撃した。しかし、後ろを振り返ることなく、身を低くすることで避けられた。そのことにミラは驚きを隠せなかった。
「なんで、今の攻撃を避けることができた?」
「ミド自身は見ていなかったが、幻獣は見ていた」
「幻獣が見たとしても吠えるとかの合図はなかった」
「視覚の共有か。幻獣が見た情報はそのまま、ミドに伝わっているのだろう」
「攻撃が当てることがかなり難しいな」
「取る手は1つ。逃げるぞ」
テリーとミラはミドの反対側に走り出した。
「おい、待て!」
ミドも2人を追いかけた。
(獣人から逃げられるわけがねー)
ミドはそう考えていたが、その予想は見事に裏切られた。1本道だが、すぐに2人の姿を見失った。
「どこに行った?」
「こっちだ!」
ミドの後ろから女性の声が聞こえた。振り返ると大きな火の玉がこちらに向かっていた。ミドと幻獣の1匹は上斜めにジャンプすることで回避するが、幻獣の1匹は火で焼かれることになった。
(どこにいたんだ? こいつら)
ミラとテリーはミラの魔術で2枚の氷壁を作り、壁を底辺にすることで三角形を作成し、鏡に似たものを作っていた。氷に周りの景色を移すことで違和感を失くし、氷の三角形の中に身を隠していた。
「リトルガール、幻獣を」
「だから、小さいって言うな!」
氷の爪を渦の回転に回し、幻獣を攻撃した。爪に貫かれた幻獣は光となり、消えていった。
「これで攻撃を当てることができるな」
テリーは鉄球を螺旋の回転で回し、ミドに投げる。空中にいた彼は避けることができず、鉄球を命中させることができた。
「痛てーな!」
地面に背をつけたミドが起き上がろうとした瞬間、彼の顔面にミラの蹴りが入る。
「うぼっ!」
「これで終わりだ!」
再び倒れたミドの黄色の指輪をミラは踏み壊した。
「大丈夫なのか? 気を失っているようだが」
「私には回復させる術が大丈夫だろ。……たぶん」
テリーとミラは見事にミドを倒すことができた。
バラバラになったレイたちだったが、見事に敵を倒すことができた。残りの敵は土の魔術師アスタだけになった。
彼と会うことで道標の秘密を知ることになる。




