一晩で消えた町ムスト、地下の氷の洞窟
五大英雄について
五大英雄とは獣人の英雄シュガー、天人の英雄シュテル、魔人の英雄ギオン、狂武人の英雄アイラン、霊人の英雄セレネの5人を指す。本来なら、シュガーではなく、夢人の英雄ピラトがそう呼ばれるはずだったが封印されてしまったため、シュガーが後釜に座った。
この言葉で勘違いしやすいが、英雄そのものは7人選ばれている。後の3人は表舞台に出てきてないため、一般的には認知されていない。
角人の英雄イディナは神界大戦前に石像として、シュガーの魔術により500年間近く封印されていた。これは英雄たちが敗れても全滅を防ぐためである。
人の英雄アリスは理想を貫くが、仲間である英雄たちと敵対した。
前回のあらすじ
シュガーが異世界から来たということ分かったレイ。シュガーはデネブラエに向かい、レイたちは一晩で消えたというムストという町に向かう。
そこで2人の森人に会い、一緒に冒険することになる。
****
レイたちと別れたシュガーたちはアイランの提案により、都市ウェントゥスの外へといた。アイランが先に歩き、シュガーたちはそれについていく。
「止まって……」
先に歩いていた彼女はいきなりそう言った。シュガーたちはその言葉に従い、歩みを止めた。アイランの手にはリトスであるナイフが握られていた。
「どうした? アイラン」
「1つ……聞きたいことがある。……なぜ、ペテルギウスと一緒にいるの?」
「事情を説明していなかったな。それを説明しよう」
「近づかないで!」
シュガーが事情を説明するためにアイランに近づこうとすると彼女は普段では考えられないほどの大声でシュガーを制止させた。
「この距離が大切……。私が質問するからそれに答えてほしい……。それで判断する……」
「分かった。お前には話していなかったが、ペテルギウスは使徒であったため、神力を介して洗脳されていた。今は使徒の契約を解除することで洗脳からは解いた」
「……嘘は言ってない。信じよう……」
アイランはシュガーの目を見ながら、彼の言っていることを信じた。シュガーたちの元まで近づいた。
「だから、ここまで誘導したのか」
「そう……。町中で戦うわけにはいかなかったから……」
「師匠とアイラン様って、どっちが強いんですか?」
危うく戦いになりそうな2人だったが、そんな状況でも自分のペースを貫いていたスノウが聞いてきた。
「アイラン世代の英雄は3人を除けば、ほぼ同じ実力だ。だから、個人の相性で決まるな。俺とアイランなら、アイランの方が若干有利だと俺は思う」
「……私にはシュガーの炎が効かない」
「実力が違うといえども、フィデスや神装などで結果はいくらでも変わる。さて、デネブらへと向かうか。来い、幻想の黄金竜」
シュガーがフィデスを発動させると彼の右肩に黄金竜であるゴルドラが現れた。それと同時に彼の右腕に金色の竜の形をした紋章が表れる。
「いくぞ、ゴルドラ」
竜力を紋章へと注いでいく。それに伴い、ゴルドラがどんどん成長していった。最終的に人の5倍以上はある大きさへと成長し、金色の鱗に光が当たることで輝いていた。
「ゴルドラは自然に成長するが、俺が竜力を与えれば、一時的だが必要に応じて成長させることができる。こいつに乗って、デネブラエに向かう」
ゴルドラはシュガーたちを乗せるために体を低くし、彼らはドラゴンの背に乗っていく。黄金の翼をはためかせることで飛翔した。
スノウがシュガーにあることを聞いた。
「師匠、ゴルドラちゃんはオスですか? メスですか?」
「そう言えば、どちらだろうな。俺はドラゴン雌雄判別資格を持ってないから、分からないな。ペテルギウスは分かるか?」
「僕もちょっと分からないね。ドラゴン雌雄判別資格は持ってないから。ドルチェは?」
「あたしも分からないですね。ドラゴン雌雄判別資格を取っても食っていけませんから」
「ドラゴンは話せる知能はあるし、人化の際に性別は分かるからな」
シュガーたちはそんな会話を交わしながら、デネブラエへと向かって行った。
****
レイたちは都市ウェントゥスにて、一晩で消えたムストという町の情報を集め、そこに向かっていた。
ルリはレイにシュガーのあることを相談した。
「先輩、前から聞きたかったことがあるんですけど」
「なに?」
「シュガーさんって、何者でしょうか?」
(なんで、ルリは勘が鋭いの?)
レイはシュガーから話を聞いたり、行動を見たことで異世界から来たと判断した。しかし、ルリは五大英雄としか、聞いていないのにシュガーを怪しんでいた。レイは彼から秘密にするように言われていたので誤魔化した。
「何者って、種族は獣人だよ」
「そういうことじゃなくて、初めに会った時から何か感じるんですよね。魔物や魔獣ような気配を」
レイはルリの言いたいことが何となく分かった。
「つまり、君はこう言いたいの?シュガーは獣人じゃなくて、魔獣の類だと」
「その場合はシュガーさんの種族は魔人になるんですけど、それは違うと思います。感じているのは魔獣の気配でなく、魔獣のような気配なんです。」
「同じことでしょう?」
「いや、魔獣そのものではなく、魔獣に似た気配なんです。今まで感じたことがないような気配で魔獣の気配に似ているんです」
「今度、シュガーに聞いてみたら?」
「そうします。最も答えてくれるとは思っていませんが」
レイとルリがそんな会話を交わしているとムストの町に着いた。
「本当にここに町があったのかよ」
ミラがそう言うのも無理はなかった。なぜなら、そこには何もなかったからである。あるのは冒険者と思われる者数人と地下へとつながっているであろう入り口がいくつかあった。
その場にいた男の子がレイたちに声をかけてきた。
「お久しぶりです、ミラさん」
「セルバか」
声をかけてきたのは明るい緑色の髪で青眼、森人のセルバだった。彼はレイたちとはソルムで行われたボースハップンというゲームの際に会ったことがあった。ミラに至ってはその後も付き合っていた。
「セルバは町が一晩で消えたという噂を聞いて、わざわざ来たのか?」
「まあ、そうです。だけど、僕の故郷ランドの森は都市ウェントゥスの比較的近い場所にありますので」
「そうか。セルバはこの場所がどんな状況か分からない?」
「分かる範囲で説明しましょうか?」
「頼む」
「分かりました。この消えた町ムストからはギルドに依頼が出ていないため、物好きな冒険者が集まっているだけです。あと、依頼が出ていないということは町から脱出できた人はいないですね」
「良い推理だね」
セルバの説明に赤髪の男性がほめた。
「あなたは?」
「私は森人のテリー・エリュトロン。探偵さ」
「探偵なら町が消えた現象を推理できるんですか?」
「もちろん。町が消えたのは大規模な魔術が使用されている。あの入り口は町へとつながっていると考えられる」
レイの疑問に答えたテリー。今度はルリが彼に質問した。
「なんで、町を消したんでしょうか?」
「考えられるのは3つ。1つ目は町の人を利用するために邪魔されないようにするため。2つ目はどこまでできるのかを試した。3つ目は町を消したのは世間の目を逸らすためであり、術者は更なる魔術の準備をしているかだ」
「要するに術者を倒せばいいんですね」
「良い飲込みだね。そのとおりだ」
「じゃあ、行こうか」
レイ、ミラ、ルリは地下へとつながっているであろう入り口へと向かった。
「よろしくお願いしますね、レイさん」
「事件を解決するか」
レイたちの後ろにはセルバ、テリーの2人の森人までいた。
「あなた達も来るんですか?」
「僕、英雄と一緒に冒険してみたかったんです」
「事件が起きた時は現場に行くのが鉄則だ」
2人の森人を加えた5人は入り口に入り、地下へと向かって歩き出した。
****
洞窟の中は暗く、歩くのにも苦労しそうだった。しかし、それはセルバが解決した。
「ちょっと待ってくださいね。今、明るくします。照らせ、ライト」
彼は手の平に光球を出し、回りを照らした。
「魔術って、便利だね」
「フォレストボーイ、その必要はなくなったみたいだ」
テリーはセルバにそう言った。暗かったのは最初の入り口だけで大部屋に入ると明るかった。なぜなら、マグマが流れていたからであった。
それを見たミラが一言漏らした。
「地下に入れば、マグマって流れているものなのか?」
「いや、もっと深くなければ、流れていないものだと思うけど」
ミラの疑問にレイが答えた。
マグマが流れている部屋を見て、テリーが推理を口に出す。
「やはり、事件は現場に入られなければ、分からないことがあるな」
「テリーさん、この状況はなんですか?」
「これは洞窟を魔術で作り変えている。これは魔法に近いな」
レイの疑問にテリーが答えた。
「それにしても暑いですね」
「マグマが流れているからね」
暑さから逃れるためにさらに先へと歩いていくレイ一行。
次に彼らを襲ったのは猛烈な寒さだった。進んでいくとマグマから離れたことで暑さはなくなったが、壁や地面が凍っており、寒さに襲われていた。
この環境にミラがキレた。
「どうなっているんだ!この洞窟は!?」
「魔術で作り変えているなら、自由自在に環境を変えられる。いわば、この洞窟は相手の腹の中同然だろう」
「この環境の変化でこちらの体力を奪う作戦かな」
「助手君、いい推理だ」
「助手になった覚えはないんですが……」
テリーの言葉をレイは否定した。
寒さに耐えながら、先へと進んでいく。歩いていると突然動けなくなってしまった。足元を見ると足首まで凍っていた。
「敵の攻撃だ!」
レイの言葉で全員周りを警戒した。周りを見るが、敵の姿は見られなかった。
「敵の姿が見えない」
「このまま、敵は姿を現さないだろう。数が不利だから」
「なんで、それが推理できるんですか?」
「もし、敵が何人もいるなら、拘束した時点で一気にやるだろう」
冷静に状況分析をするテリーはレイの質問に答えていく。
「私は火の魔術を使える。しかし、今発動しようとしたが、極端に火のマナが少ない。おそらく、この環境を作り出す共にマナもある程度調整して、魔術を発動させにくくしているのだろう。加えて、この寒さ。これでは魔術に必要な集中力が乱されてしまう」
自分たちの認識を共通させているとバンという音が鳴り響く。鳴り終わった後にテリーが前に倒れた。彼の太ももからは血が流れていた。
「うぐっ……。敵は姿を現す気がさらさらないようだ。銃で確実に我々を片付けるつもりのようだ」
「ウーニャLv.2!」
ミラは氷の爪を作り出し、回転させてから鳴り響いた場所を狙撃した。しかし、壁に穴を空けた結果だけで終わってしまった。
「なんでだ!?」
「おそらく、跳弾。氷の壁を経由して、場所を探らせないようにしている」
ミラの疑問にレイが答える。再び、バンという音が鳴り響いた。今度はレイの足を貫いた。立てずに倒れてしまう。腕が地面に着くと足と同じように凍っていった。
「このままだと先輩が氷の彫刻になって、永久保存されてしまいます」
「ミラ、ルリ。攻撃の準備をお願い」
「何か策があるんですか?」
「全員の力を合わせて、ここを切り抜ける」
レイの言葉を聞き、テリーが作戦を聞いた。
「助手君、作戦を聞こう」
「テリーさん、火の魔術は使えますか?」
「1回しか使えないな」
「それで充分です。テリーさんは火の魔術を、セルバは光の魔術をお願いします」
ミラは氷の爪を回転させ、ルリはホウガンに矢を装填した。矢の先には体内で作ったマヒ毒が塗られてあった。テリーとセルバは魔術を発動させていた。
「まずは火の魔術をあらゆる地面に向かって放ってください」
「分かった」
テリーは手の平で作った炎をいくつかに分けて、地面に向かって放つ。すると地面を凍らせていた氷は溶け、辺りに水蒸気が満たされていった。
「次にセルバ。君は壁に向かって光の球を投げて、壁から光が放たれるようにして」
次にセルバが魔術で光の球を作り、壁に向かって放つ。光の球が氷の壁に当たることで光が反射され、レイたちに光が差し込む形になった。
「周りを見て」
ミラとルリは周囲を見回すと内側は青で外側は赤い丸い虹が人影の回りに浮かんでいた。
「レイ、虹が浮かんでいるぞ。なんだ、この現象は?」
「光が背後からさしこみ、霧などによって光が散乱されることで見る人の影の周りに虹と似た光の輪となって現れることがあるんだ。今回がうまくいったよ。虹が浮かんでいる反対側を狙って、攻撃して」
セルバの光の魔術を壁に放つことでどこかにいる敵の後ろから光を放つようにした。その光はテリーが起こした水蒸気により散乱された。後ろから光が放つということは影ができ、影のそばにある水蒸気により散乱した光は虹の輪となり、影の回りに現れる。影の反対側にその本体がいることが容易に推理できる。
ミラは氷の爪で、ルリはホウガンで虹の浮かんでいる反対側を狙って攻撃した。
「うがっ」
攻撃した先は痛みで声が上がっていた。負傷により、姿を現し相手も血を流していた。その血は地面に流れ、目印になった。
「もう隠れても無駄だ! もう諦めてくれ!」
レイがそう相手を説得するが、何も返事は返ってこず、逆にますます寒さがひどくなっていく。地面に伏せていたレイとテリーは手足だけではなく、ついに顔まで凍らされてしまった。
「やばい! このままだと呼吸困難で死ぬぞ!」
再び、指先を相手に向けるミラ。虹は見えなくなっていたが、相手が流した血を目印にし、標準をつけた。
彼女が相手を観察すると指輪が青く輝いていることを気づいた。
「あれが元になっているのか? 狙う価値は十分にある!」
ミラは残っている3発の氷の爪を指輪に目掛けて、撃ち放った。そのうち、2発は外れたが、最後の1発は見事に指輪に当てることができた。
「あれ……、私は今まで何を……体が動かない」
「早く、術を解いてくれ! そしたら、解毒薬を渡すから!」
「状況はまったく分からないけど、とりあえず言うとおりにするね」
相手がそう言うと凍っていた場所が溶けることで解放されていく。ミラはレイの呼吸を確認した。彼は気絶していたが、呼吸はしていたため、命に別状はないと判断した。
相手はミラに声をかけてきた。
「解毒薬を早く……」
「その前に聞きたいことがある。ここで何をやっている?」
「おそらく、洗脳されていたので記憶がないわ」
「ちょっと、待て。仲間と相談する」
ミラはルリとセルバに解毒薬を渡していいのかの相談を始めた。
「どうする?」
「僕は渡していいと思います。それにけがの治療をしないとあの人、危ないですよ」
「あたしも賛成です」
「分かった」
ルリは相手に近づき、手の指を彼女の口に差し出し、吸わせた。
「初めは動きづらいと思いますが、徐々に良くなっていきます」
「お前の名前を聞かせてもらおう」
ミラは相手の名前を尋ねた。
「私は人のアオイです。ムストという町にいました」
「その町が無くなっているんだけど……」
「えっ」
ミラはアオイにここで起きたことを説明した。
「そんなまさか……」
「見覚えはあるか」
「ムストという町は私を含めた4人の魔術師が町を守っています。そのうちに1人が土の魔術を使うことができます。しかし、彼にはそれを可能にする実力はないはずです。魔法に近い魔術ですよ。これほどの規模だと」
それを可能にする方法にミラは思い当たることがあった。
「まさか、道標か」
「その可能性はありますね、ミラちゃん」
「引けない理由ができたな」
「私も同行させてください。ほっとくことはできません」
レイ、テリー、アオイの怪我を治し、先へと進んでいった。
魔術と環境を利用され、危うく全滅の危機を陥ったが、ミラの尽力によりなんとか撃退した。アオイの洗脳を解き、先へと向かうミラたち。
4人の魔術師はなぜこの事件を起こしたのだろうか。




