戦人のアスラと人のミラ
前回のあらすじ
異世界に来たレイは同じ英雄である天人アモルと獣人シュガーと共に行動することになり、英雄が集る予定である都市ルークスへと向かう。
その旅路の途中で魔物退治をすることになったが、危険な目にあいつつも英雄の力に目覚め、危機を脱出することに成功した。
そして、次の朝へと向かえた。
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レイは目が覚めた。体を起こして、部屋の中を見回した。そこにアモルの姿はなかった。朝食を取るために、下に降り、食堂に向かった。そこにはもう3人が集まり、朝食を取っていた。3人に挨拶を交わし、今日の予定を聞いた。
「朝食を取ったら、村を出て、ルークスに向かう。昼ぐらいに着く予定だ」
「そうだね。残りの人はルークスに着いていると思うし」
「よし、俺のせいで遅れたし、ご飯を食べたら、出発しよう」
村に出ようとしたとき、村長がやってきて、魔物退治のお礼の言葉を言った。
「皆様、ありがとうございました。ぜひ、あなたたちの旅にルークスのご加護がありますように」
「私たちは当然のことをしたまでです。困ったら、いつでも教会に頼ってください」
アモルはそう言い、アモルたちはルークスに向けて、出発した。
ルークスに向かっている時、村長との会話でレイが知らない単語が出てきたので、アモルたちに質問した。
「アモル、さっきの会話に出ていたルークスって、なに?」
「この世界の神の名前です。この大陸では7人の神が信仰されています。神の名前はそれぞれの国の名前になっています。そして、イグニスは火、アクアは水、ウェントゥスは風、トルトニスは雷、ソルムは土、デネブラエは闇、ルークスは光を司るといわれています。レイ、私と一緒にルークスを信仰しましょう」
「あー、うん、考えておくよ。ならさ、教会って?」
「教会とは世界が平和になるようにするための組織です。国内で事件が起きれば、その国で解決します。しかし、国同士を巻き込んだ事件などに対しては解決が難しくなるので、教会が中立の立場になって、手を貸しその事件を解決します。あとはどの国にも所属してない人が犯罪を犯した場合、捕まえたりします」
「シュガーもそれに入っているの?」
「いや、俺は魔術連盟という組織に入っている。連盟の仕事は魔術の悪用を防ぐことと魔術の研究だ」
「そうなんだ、ありがとう」
疑問になっていたことを聞き終わるとルキスが口を開いた。
「それにしても、昨夜に聞いたフィデスって、すごいよね。ボクのはどんなフィデスなんだろう」
「それは発現しないと分からないな」
「俺のフィデスって、どれくらいすごいの?」
「そうだな。魔術で例えるなら、究極魔法レベルだと思う」
「究極魔法って、なんですか?」
「そもそも、魔術というのは神が行った奇跡を人の手で使えるようにしたのが魔術だ。しかし、魔術は神の奇跡と比べて、劣化していた。魔術師は神の奇跡に近づくために研究していった。その結果、完璧に再現した魔術ができ、それを魔法と呼んだ。しかし、魔術師たちはそれでは満足できなかったのか、さらに先を目指した。それが究極魔法だ。究極魔法とは神の奇跡を超えた魔法のことをそう呼ぶ」
「何のためにそこまで求めたんだ?」
「さあ、わからん。神の力でもどうにもならないことがあったのか。それとも、人の身で神に成ろうとしたのかもしれない」
シュガーが話し終わるとレイは神について、考えた。神はどうやって生まれたのだろうかと。
「この世界の神って、どうやって誕生したの?」
「言い伝えだと元々4人の神がおり、4つの大陸をそれぞれが管理する大陸を決め、別れたと言われています。そして、この大陸では管理することになった神が今の7人の神を生み出したと言い伝えられています」
「その中にウルズって、いう神様いる?」
「いや、私は少なくとも聞いたことはありません」
「え。でも、最初に会った時、神の声を聞いたって、言っていたよね?」
「ええ。しかし、神の名前までは名乗っていませんでした」
レイはアモルの話を聞いて、ウルズという神の存在を疑った。しかし、この世界に来る前に聞いた『なら、異世界に行くときに力をやる。本来の力と別にな。』という言葉を思い出した。前は分からなかったが、今なら分かる。本来の力とはフィデスで、別の力とはアニムスを指しているだろうと。こうして、力がもらっているのだから、ウルズという神は存在するのだろう。なら、なぜ、この世界ではウルズという神がいないのだろうか。
こうして、考えているとルキスの声が聞こえた。
「ルークスが見えてきたよ」
「そうか。入国したら、残りの仲間と合流しよう」
レイたちはルークスに向けて、足を速めた。
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ルークスに入り、レイは物珍しそうに見回した。建物が並んでおり、その建物はおそらくレンガで作られているのだと思った。町を見ていたら、ある店から、喧嘩の声が聞こえてきた。
「おう、どこに目を付けていやがる」
「治療費をよこしやがれ」
二人組の不良が少女に因縁をつけていた。おそらく、体をぶつけてしまったのだろう。その様子を見ていたら、黒髪の男が少女の前に立った。
「おい」
「なんだ」
「肩をぶつけただけだろう。そこまでにしておけ」
「関係ないやつは引っ込んでろ」
「うるせえ」
黒髪の男がいきなり相手の顔面を殴った。男が何を考えているのかがレイには分からなかった。
「てめえ、何しやがる。覚悟しろ」
「最強の俺たちに勝てるのかな」
「助けてもらったのはうれしいけど、これ以上厄介ごとに巻き込まないで」
言い争いをしていたら、憲兵がやってきて、男たちは逃げ出した。少女は黒髪の男に手を引っ張られ、一緒に逃げていた。シュガーはレイの手を取り、少女たちを追いかけた。
「いきなり、なんだよ」
「あの2人からリトスらしき反応を感じた。おそらく選ばれたものだ。追いかけるぞ」
黒髪の男たちは追いかけてくるレイたちを見た
「なんだ。あいつらは。さっきの奴らの仲間か。しかし、俺たちに追いつけるかな?」
「手を放して。お願いだから。もう疲れた」
「馬鹿野郎。仲間を見捨てられるか」
「いつ、仲間になったの?」
2人が漫才をやっていると瞬間移動で移動したシュガーが前に立っており、それに気づくと少女たちは驚きながら、立ち止まった。
「なんだ。お前は」
「俺の名前はシュガー・シャルロット」
「俺はアスラ・グロスヤだ」
「単刀直入にいう。お前たちの仲間だ」
「そうか、よろしく」
そういうとアスラとシュガーは握手を交わした。その間にレイは少女に話しかけていた。
「ねえ、君、リトスを持っているよね。俺も持っているんだ」
「リトスって、これ?」
少女は腕のブレスレットをレイに見せた。それは間違いなく、リトスだった。
「こちらも確認が終わった」
「これから、どうするんだ?」
「先ほどの店に戻って、残りの仲間に紹介して、自己紹介だな」
レイとシュガーは新たな仲間となったアスラとミラの2人を引き連れて、店に戻った。
レイ、アモル、シュガー、ルキスの自己紹介が終わり、残りはアスラと少女の2人となった。
「俺の名前は戦人のアスラ・グロスヤ。目標は最強であることを証明することだ」
アスラの恰好は袖のない青のシャツでズボンは瑠璃色だった。首には水色のペンダントをかけていた。
「私の名前は人間のミラ・ピラン。小さいが頭は撫でるな。あと、よく間違えられるが、年は17才だ。いいな」
ミラと名乗った少女の第一印象は小さいである。あらゆるものが小さかった。身長はもちろんのことであるが、胸も平坦だった。17才とは思えないほどに小さかった。服は紫のシャツの上に白のフードが付いてるパーカーを着ており、黒のミニスカートを着用していた。
「これで残りの選ばれしものはあと一人だね」
「そうだな。これからは3人ずつに分けて、探そう。レイとアモルとミラで探してくれ、アスラとルキスは俺と探そう」
「レイ、アモル。よろしくな」
「こちらこそよろしくお願いします」
「よろしく」
「残りの1人って、どんな奴だ?」
できたグループで挨拶を交わした後、アスラがそう尋ねた。
「名前はリアマ。竜人の女性で年は19才。服装は赤の長袖に白いスカートをはいて、マントをしている。最大の特徴は竜人である証の赤い尻尾だ。アスラとは違う意味でトラブルを起こしやすいやつだから、気を付けてくれ。それと同時に最近何か変わったことが起きていないか、聞き込みしてくれ。日が沈んだら、宿に戻ってきてくれ」
レイたちは3人ずつのグループに分かれ、聞き込みとリアマを探しにいくため、宿を出た。
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レイはシュガーとアスラが言っていた獣人、戦人、竜人という言葉が気になっていた。人がついているということは種族の一つだろうと予想はついた。予想はついていたが、どんな種族が知りたかったので、アモルに聞いてみた。
「ねえ、アモル。獣人と戦人と竜人って、どんな種族?」
「はい。獣人とは動物の特徴を持つ種族です。彼らは他の種族と違い、天力みたいな独自の力を持っていません。しかし、動物がもつ能力を持っていたり、身体能力が高いです。あと、外見の特徴としては動物の耳と尻尾があります。次の戦人は闘気と呼ばれる力を操ることが得意な種族です。彼は共通の特徴は黒髪黒眼であることです」
「闘気って、何?」
「闘気とは身体強化に特化した力です。彼らはこの力を纏い、戦います。優れたものであれば、闘気を放出して、攻撃することができるそうです。ちなみに闘気と魔力は人間が持つことが最も多い力といわれています」
「俺にも使えるかな」
「それは才能がなければ、無理だよ」
ミラはレイに冷めたように言った。
「でも、俺、シュガーに魔術は使えるかもって、言われているよ」
「それでも、努力しなきゃいけないよ」
「そうか、魔術って、どう使うの?前、シュガーに聞いたんだけど、教えてもらえなくて」
「それはアモルの講義が終わってからな」
ミラはそう言い、アモルは説明の続きをした。
「最後の竜人は竜の特徴を持っています。この種族は尻尾を持ち、竜力と呼ばれる力を持っています。竜力は闘気と似ており、力を纏い自分を強化しますが、闘気と違い、竜力は踊りや歌などに乗せることで竜力を分け与え、周りの人を一時的に強化できると聞いています」
「ちなみに魔力は人、森人、魔人、翼人以外で持つものはあまりいないんだ。次は魔術だな」
ミラはまるで自分に言い聞かせるように説明を始めた。
「人の中に魔力があり、外にはマナがある。例えば、水の魔術を使おうとしよう。この場合、外から水のマナを体内に取り込み、魔力に混ぜる。そうしたら、水の魔力ができ、これを元に魔術を使う。マナを取り込むのは才能の一種でどのマナが一番取り込めるかで得意な魔術が決まる。大抵の魔術師は2つぐらいまでのことが多い」
「マナを感知するにはどうすればいいんだ?」
「修行あるのみ。どのマナをたくさん集められるのかがポイントになる。そして、魔術だけに限ったことじゃないが、イメージが大切だ。魔術を使う時詠唱することが多いが、これは自分の中でどの魔術を使うのかイメージさせやすくするためだ。詠唱することで魔術を使う自分になりきり、イメージをさせやすく、マナを取り込みやすくすることで精度と威力を上げる」
レイは自分にはどのような魔術を使えるようになるのだろうかと考えた。このような話を続けながら、事件などが起こってないか聞き込みしていった。
「大分、時間がたったね」
「聞き込みで聞けたのは知能を持つ魔物が最近よく見られるということですね」
「いわゆる、魔獣だな」
「魔獣って、魔物とは違うの?」
「知能を持つまたは人語を話す魔物、動物を魔獣と呼ぶんだ。魔獣は魔物と比べ、人を襲うことが少ない。襲ったら、退治されると理解しているからな」
「その魔獣がよく見かけられる。これはこの間の村のことといい、何か繋がりを感じますね」
「もう、日も暮れそうだし、宿に戻ろう」
最近、魔獣がよく見られるという情報を手に入れ、事前の打ち合わせ通り、シュガーたちと合流するために宿に向け、歩いて行った。
果たして、シュガーたちはリアマという女性の情報を手に入れることができているのだろうか