ボースハップン③
何事も程度が大切である。
誇りを強ければ、傲慢となり、憧れが強ければ、嫉妬となり、願望が強ければ、強欲となり、食欲が強ければ、暴食となり、性欲が強ければ、色欲となり、休憩が強ければ、怠惰となり、怒りが強ければ、憤怒となる。
これらの7つは人間が生き、繁栄するために必要なものであるが、強すぎる7つは罪となり、身を亡ぼすものとなる。
前回のあらすじ
ゲーム『ボースハップン』もついに終わりを告げる。それぞれの思いを胸に秘め、ゴールに向かい、優勝を目指す。
****
シュガーとフラース、その弟子スノウは4、5、6、7の結晶を手に入れ、3のチェックポイントに向かっていた。
魔獣と戦った以来、その後も襲撃されていた。怪我こそはしていなかったが、対処するのに手間取り、進行が遅れていた。
「このままだと無理そうだねー」
「確かにな」
シュガーは何か逆転できる手を考えると同時にスノウが使う魔術を頭に浮かべ、ある疑問を感じていた。
「スノウ、聞きたいことがある」
「なんでしょうか、師匠」
「お前が魔獣を倒すときに水の魔術を使い、攻撃していたが、誰から魔術のやり方を教えてもらったんだ?」
「師匠が初めてですよ」
スノウの答えに更なる疑問をシュガーに抱かせた。
魔術とはやり方を誰からか学ぶ必要があったからである。魔術に最も適性がある森人でも学ぶ必要がある。しかし、才能が有れば、魔術を使用するところを見ただけで使えるようになるものはいた。
シュガーは考え、それ以外の方法で魔術が使える方法を頭に浮かんでいた。なぜなら、自分もそうであったからである。
「お前も俺と同じ変換の才能を持っているのか」
「変換?」
「通常の魔術は外からマナを取り込む工程が必要だ。しかし、変換持ちはこの工程を必要しない。魔力を流すだけで魔術が使えるようになっている」
「かなり便利ですね」
「ああ、マナを取り込む必要がないから、工程が減ることになり、素早く魔術を放つことができる。しかし、変換持ちにも欠点がある。魔力を自動的に変換されてしまうため、他の魔術が使えにくくなることだ」
シュガーが火の魔術を使う際に詠唱しないのは使い慣れていることもあるが、火の変換を持っていることが大きかった。さらに繰り返し、火の魔術を使うことでイメージを固め、変換によって、咄嗟に出せるようにしていた。
「しかし、スノウ。安心しろ。訓練をちゃんと詰めば、ほかの魔術が使えるようになる。通常の場合と比べ、長い時間が掛かるがな」
「どれくらいの時間が掛かるんでしょうか?」
「半年から1年ぐらいだな」
「長いですね」
「その代わり、生まれた時から魔術が使えているようになっているものだ」
魔術の修得はリミュエール・ブランコ・アークで2日、レイ・シルバで2週間、通常の魔術師で約1ヵ月かかる。変換持ちが普通に使えるようになるのに半年から1年である。これらと比べるといかに長いのかが分かる。
「私、恵まれていますね。同じ才能を持っている人が師匠になってくれているなんて」
「ここまでの旅に付いてこれてはいるし、俺と同じ変換持ち。これなら、弟子にしてもいいな」
「やったー。ところで師匠、変換持ちは珍しいんですか?」
「人で変換持ちは珍しいが、変換の性質を持った鉱石はある。この鉱石は魔晶ともに俺たちの生活を支えてくれている。あと、弟子にするのはまだ決まったわけではないから、最後まで気を抜くな」
「分かりました」
スノウとシュガーが話し終わるとフラースが話しかけてきた。
「スノウちゃんもシュガーちゃんと同じ変換持ちだったんだね。なら、シュガーちゃんが師匠になってくれてよかったね」
「まだ、弟子にするとは決まったわけでない」
「そうなんだ。何か、逆転の手は思い付いた?」
シュガーはスノウと話しながら、逆転する手は思いついてはいた。しかし、その手はかなり強引な手段であった。
「一応、思い付いた」
「本当に?」
「フランもおそらく思いついている手だ」
「なら、いっせいのせで同時に言おう」
「分かった」
フラースはそう言い、シュガーはフラースに合わせて、思い付いた手を言った。
「いくよ。いっせいのせ」
「「ほかの参加者から結晶を奪う。」」
シュガーとフラースの意見は見事に同じだった。2人は結晶を奪うことがルール違反にならないことを把握していた。
「やっぱり、それしかないよね」
「そうだな。ゴールである町の外で待ち伏せするべきだ。町中の戦闘は禁止にされている」
「外で起きたことは自己責任だからね」
「奪うことは禁止にされてない以上、ルール違反にならないはず。ということでスノウもいいか?」
「師匠とフラースさんがそう言うなら、付いていきます」
「本当はちゃんと回ってから、結晶を揃えたかったのだがな」
「本当だねー」
そう言いながら、シュガーたちは3のチェックポイントからそこから帰る人を狙うためにゴール付近に行先を変えた。
****
レイとミラはゴールである都市ソルムに向かっていた。
レイはミラの左手の甲にある模様が気になり、質問してみた。
「ミラ、左手の甲にある模様って、何なの?前まではなかったよね」
「ああ、これか。コルヌとの戦いがあっただろ。その時に異能力に目覚めて、それに応じて、浮かび上がってきたんだ」
ミラの左手の甲には青丸に中指に沿って、一本の青い線が引かれていた模様があった。そして、異能力は爪の上に氷の爪を生え、その爪を飛ばすことだった。
「ミラの異能力は氷の爪を飛ばすことだよね。ほかにできることはあるの?」
「今のところは飛ばすだけだな」
「曲げることは?」
「真直ぐにしか撃つことができない。ほかは左手だけにしか氷の爪を生やすことができないな。だけど、フィデスの七力理解を使わなくても使うことはできるのがメリットだな」
ミラはフィデスである七力理解を使うことで種族が持つ独自の力を使うことができた。しかし、異能力だけはフィデスを使用しなくても使うことができた。
「フィデスを使わないで使うことができるのはフィデスをきっかけに私の中で目覚めたからだと思う。フィデスなしで魔術が使えるように」
「ミラの異能力は俺の心剣みたいに名前はある?」
「名前は決めてある。名前は氷の爪だ。氷の爪が生えるところが猫の爪を立てる行為に似ているから、ウーニャだ」
「ウーニャか、いいと思うよ」
ミラとレイが話していると後ろから、何かが飛んできた。それにレイが気づいた。
「なんだ、今のは?」
それは球だった。その球はレイたちに当てるつもりはなく、地面に着くと再び跳び、後ろに戻っていた。
レイとミラは球の行先が気になり、後ろを振り向いた。
「あ、お前たちは」
振り向いた先にはレイとミラが知っている人物がいた。
****
リアマとアモルは7つ全部の結晶を揃え、ゴールに向かっていた。
リアマたちは襲われることなく、順調に進んでいたこともあり、トップに近い順位であった。このままいけば、3位以内に入れることは確実であった。
「リアマ、私たちは順調に進んでいますね」
「ああ、このまま行けばな」
「何か、不安ごとでもあるんですか?」
「順調に進んでいるということは他の参加者より早いということだ。集めることが不可能と判断したら、私ならゴール付近で待ち伏せをする。全部の結晶を揃えた者を襲い、結晶を奪うために」
「そういう考えもあるんですね。気を付けて、進みましょう」
リアマはアモルに注意を促し、歩き続けた。するとアモルの目にある人が止まった。その人は茜色の髪でポンチョを着ていた。アモルの知り合いだったのか、その人物に話しかけた。
「カロですよね。お久しぶりです」
「アモルか。久しぶりだな。そちらの方は?」
「こちらは仲間のリアマです」
「リアマ・フォン・イグニスだ。よろしく頼む」
「イグニスの王族の方ですか。私は教会に所属しています人のカロと申します」
「ああ、よろしく頼む」
お互いの自己紹介が終わるとカロの方から、アモルに話題を振ってきた。
「アモル、教会でお前のことが噂になっているぞ」
「どういう噂になっているんですか?」
「英雄に選ばれたことだ。神に選ばれた天女だとな」
「私は天人ですからね。あと、カロはどうして、ここにいるんですか。ゲームに参加しているんですか?」
「いや、私はゲームには参加していない。用事があって、ソルムのある町に向かっていたからだ」
「そうですか。お仕事頑張ってくださいね」
「お前も英雄の使命を果たせよ。竜姫様も御健闘をお祈りします。それでは私はここで失礼させていただきます」
別れの挨拶を交わすとカロは都市ソルムとは違う方向に歩き出した。
リアマはアモルにカロとの関係が気になり、そのことを尋ねた。
「カロとはどういう関係なんだ」
「カロとは前に仕事を一緒にしてからの知り合いです」
「そうか」
そう話していると前に人がいた。その人は黒髪の少女で髪型はツインテールであり、右手には杖を持っていた。服装は黒いゴスロリであり、年は14~15歳に見えた。少女の特徴は眼の色だった。左目は金色、右目は赤色のフラースと同じオッドアイだった。
黒髪の少女は杖の先をリアマたちに向け、2つの火の玉を放った。
「避けるまでもない」
リアマはそう言いながら、リトスから槍を出し、火の玉を薙ぎ払った。アモルは右手に天力を集中させ、天術を放ち、相殺した。
それを見た黒髪の少女は笑った。
「クッハッハ!」
黒髪の少女が笑い終わるとリアマとアモルの方を見た。
「私が結晶を奪うにはいい相手だ。冥土の土産に我が名を聞くがいい。我が名はアルト・ケイモーン・オイサースト。魔術連盟トリミニエオスに所属し、ケイモーンの称号を持つ十全の魔術師。そして、究極魔法を極める者」
「指導者の1人ですか。若いのにすごいですね」
「エル、フラース、シュガーといい、あいつも含めて、魔術師連盟の指導者にはまともな奴はいないのか」
「フラース?」
アルトはリアマが言ったフラースという単語に反応した。それは自分の中で引っ掛かったような反応だった。
「フラースのことを知っているのか?」
「ええ、まあ、一応知り合いです」
「なら、尚更遠慮が必要なくなった。フラースの知り合いと言えるぐらいの度胸があれば、手加減の必要はない」
アルトの杖から強烈な光を放ち、リアとアモルの目を眩ませる。目が見えるようになった時にはアルトの姿は消えていた。
「逃げたのか」
「あの口ぶりからそれはないでしょう」
「魔術師は1人だと戦いづらいから、隠れているんだな」
アモルとリアマたちが話しているとどこかしらか、風の刃が飛んできた。それを避けた。
「狙いはベルトか」
アルトの狙いはアモルたちの手首にあるベルトだった。ベルトを外し、回収できれば、もう戦う必要がない。それが相手の考えだとリアマは判断した。
そして、ある1つの案を思いつき、それをアモルに伝えた。
「アモル、お前だけでゴールに行け」
「リアマはどうするんですか?」
「私はこいつと戦う。だが、お前が行けば、ゴールに向かわせないために相手が攻撃してくるかもしれない。しかし、そうしてきたなら、私がカウンターを仕掛ける」
「分かりました。無事を祈ります」
アモルは都市ソルムに向かうために走り出した。リアマからある程度離れるとリアマとアモルの中間の位置の空間のある部分が赤く光った。赤い光が2つの炎の球となり、アモルに向かって飛んでいく。
「アモル、後ろから攻撃されたぞ」
リアマはアモルに攻撃されていることを伝えた。
アモルは右手で剣を抜きながら、体を右に回転させた。火の玉の位置を目で確認し、回転の勢いを利用し、剣で炎の球を薙ぎ払う。足を地面につけることで体勢を整え、次は天力を溜めていた左手を前に出した。2つ目の炎の玉は左手から天撃を放つことで相殺した。背を向け、再び走り出した。
リアマは息を大きく吸い、炎の球を現れた場所に炎の息を吐いた。アルトは姿を現した。
「激流よ、我が手に集え」
アルトは詠唱し、炎の息に向かい、大量の水を放った。結果、水は気化し、水蒸気になると辺りが包まれ、アルトの姿が再び見えなくなった。リアマはアルトがいたところに走り出すが、水蒸気がなくなると そこにはアルトの姿はなかった。
リアマはアルトに向かって、挑発した。
「姿を現したら、どうだ。それとも、魔術師連盟の指導者といえども実力には自信がないのか」
「私は魔術師。魔術以外に戦う術を持たない。魔術で勝負する」
リアマが槍を持ち、周りを警戒した。しかし、ある方向から、走る足音が聞こえた。足跡はだんだん大きくなり、こちらに向かっていた。
こちらに向かって来ている人の姿にリアマは見覚えがあった。赤いコート、腰には刀が提げられていた。しかし、首から上はプレートアーマーの兜を被っていた。
兜を被った男はリアマの姿を見つけると近づき、話しかけてきた。
「リアか」
「その名で呼ぶということはシュガーなのか」
「そうだ」
兜に手を掛け、外すとそこにはシュガーの顔があり、頭には獣人の証である赤い狐耳があった。リアマはなぜシュガーがここに来たのかが気になり、それを尋ねた。
「シュガー、なぜお前がここに来たんだ?もしかして、私は助けに来てくれたのか」
「いや、違う。ある奴と戦って、ここまで来た。リア、お前が戦っているのはアルトか」
シュガーは感知し、リアマと戦っているのがアルトと分かるとアルトに話しかけた。
「アルト、久しぶりだな。お前が隠れているのは分かっている。俺に姿を見せてくれないか。リアを警戒しているなら、俺がお前を守ろう」
そう言うとアルトは姿を隠すことを辞めた。姿を現した後はシュガーとリアマの方に近づき、シュガーはアルトに話しかけた。
「シュガーさん、お久しぶりです」
「久しぶりだな、アルト。お前のことだ、お前が先に手を出したんだろう。俺も人のことを偉そうに言える立場ではないが」
「はい、その通りです。シュガーさんも結晶を横取りするために都市の近くで待ち伏せをしていたんですよね。なぜ、ここに来たんですか?」
「手を出して、逃げようとしたら、追いかけられてしまってな。ほら、来たぞ」
シュガーは指を指した。指を指した方向には魔獣が2匹、プレートアーマーが2体いた。しかし、プレートアーマーの片方は兜を被っておらず、そこにあるべきはずである頭がなかった。
頭がないプレートアーマーを見たアルトはシュガーに質問した。
「あの鎧の中には人がいないようですが、魔術で操っているんですか」
「いや、違う。周りを感知したが、鎧を操っている魔力は感じ取れなかった。しかし、思い当たることはある。詳しい説明は除くが、霊人という幽霊みたいな特徴を持つ種族がいて、操っていると思う。そうでなければ、天力で作成したか古代遺産かだ」
「霊人…。まだまだ私の知らない種族がいるんですね」
「霊人は数が非常に少ない希少な種族だからな。フンケの種族である昌人みたいなものだ」
「あいつの話はしないでください。で、どうすればいいんですか」
「鎧を木端微塵に破壊すればいい。それか、霊人はマーキングをして、物を操るからその印を壊せばいい」
「分かりました。それでは行きましょう」
シュガーの説明が終わり、アルトが合図した途端、次はリアマがシュガーに話しかけてきた。
「すまない、シュガー」
「なんだ、リア」
「ここはお前たちに任せて、先に行っていいか」
「変だな。普段のお前なら戦いそうなのにな。あと、なんで、コートを掴んでいる?」
コートを握っているリアマの手を見て、シュガーはそう言った。その手は少し震えていた。
「相手が幽霊なら、私の攻撃が当たらないではないか」
「今回の戦いで克服しろ。見えない相手に攻撃を当てようと思うな。見える相手だけに集中するんだ。アルトはサポートを頼む。魔獣は魔術を使ってくるから、油断するな」
そういうとシュガーは走り出し、遅れながらもリアマも走り出した。シュガーとリアマは走りながら、それぞれの武器を手に取った。
2匹の魔獣は魔術を唱え、光の球を放ち、2人を狙う。リアマは息を吸い込み、炎の息を吐いた。炎の息で光の球を消し飛ばす。シュガーたちの前に炎の壁ができたが、意に介さずに前に突っ込んでいた。魔獣たちがシュガーとリアマの姿をとらえたのは殺される寸前だった。
炎の壁から出てきて、魔物の姿をとらえた瞬間、攻撃する動作に入った。リアマは魔獣の頭を槍で突き抜かし、シュガーは魔獣の頭に右手の刀を投げ飛ばした。2匹の魔獣の頭は槍と刀により突き飛ばされ、動かなくなった。
「次は鎧だ」
「マーキングを破壊するか、足を優先に破壊しろ。そうすれば、動くことが困難になる」
シュガーはリアマに警告し、そのまま2人とも続けて鎧との戦闘に入った。
頭のない鎧をシュガーは相手にした。魔獣との戦いで刀を投げてしまったので、手元には1本の刀で戦うことになった。鎧は大剣で戦い、大剣を振るう。シュガーは剣を打ち合うのではなく、避けることに優先をした。刀を使うのは必要最低限。大剣と刀では強度が違い、打ち合えば、折られることが分かっていたからである。
斬り合いしている時、鎧が剣を横に振るい、シュガーはそれを下に屈むことで避けた。続けて、鎧の胸に目掛けて、足を上げ、攻撃し、体勢を後ろに崩した。すぐさま、体勢を直し、次は足を払い、転ばした。
鎧の上に乗り、中身を覗いた。マーキングを見つけるためである。しかし、予想外の事が起こった。中から剣が飛んできて、シュガーを狙う。剣を刀で横に払い、再び中を見て、マーキングを見つける。
「マーキングは背にあった」
シュガーは鎧の中に手を伸ばし、マーキングに合わせた。そして、手が赤く輝き、ゼロ距離で炎の球を放つことでマーキングを破壊した。
「仕方ない、やるか。最悪、シュガーがいるから大丈夫だろう。速攻で終わらせてもらう」
一方、リアマも鎧と戦闘態勢に入っていた。
リアマは竜力を普段以上に高めていた。リアマが竜力を使う時は身体強化、炎の息を吐くなどである。しかし、今は普段以上に高めていた。
そして、リアマに変化が現れた。見た目は変わっていなかったが、変化したのは眼であった。眼の動向が丸から縦に長くなっており、竜眼になっていた。リアマは竜力を高めることで竜化したのであった。眼を変化させるのは竜化の第一段階である。
「久しぶりに竜化だな。竜化すると闘争本能が強くなるからか、敵味方の区別がつかなくなることがあるが、この程度の竜化なら多分大丈夫だろう」
槍を持ち直し、戦闘に入る。鎧が持つ大剣が上から振り下ろされるが、難なく避ける。そして、持ち上げられる前に剣の柄を足で抑え、槍で薙ぎ払い、鎧から大剣を離す。槍で攻撃し、鎧は防戦の一方だった。
シュガーからマーキングは背にあることを伝えられた。
「弱点の場所が分かったなら、すぐに終わらせてやる」
リアマは鎧に攻撃を続ける。そして、わざと手を抜いた。それは大剣を拾わせるためだった。案の定、鎧は大剣を拾いに行った。その隙をつき、全力で槍を胸に突き貫いた。槍は胸から背にかけて、貫通していた。見事にマーキングを貫き、鎧は動かなくなっていた。
「安物だったか。次はもっと質のいい物を使うんだな」
リアマはそう言いながら、鎧を足で抑え、槍を引き抜いた。シュガーとアルトが駆け寄ってきた。
「私の出番がありませんでしたね」
「まあ、あの程度ならな」
「2人には迷惑をかけてしまったな。助けてくれたことに礼をいう」
シュガーはアルトとリアマに礼を述べた。そして、リアマの口が開いた。
「シュガー、礼を要求するわけではないが、私と手合わせをしてくれないか?」
「ゲームの方はいいのか」
「アモルがいるから、大丈夫だ。久しぶりに竜化をしたのでな。お前と戦いたいのだ」
「まあいいが、アルトはどうする?」
「それなら心配はいらん」
リアマはそう言いながら、ベルトを手首から取り、アルトに渡した。
「これで邪魔者はいなくなる。1対1でやれる。」
「では、私はこの場から去りますね。シュガーさん、時間あるときにお話ししましょう。」
アルトはゴールに向かい、リアマとシュガーは戦いだした。
****
「師匠たち、遅いなー」
スノウは都市ソルムの中にある店にいた。シュガーとフランにここで待つように言われたからであった。
「スノウ、お前はここで待っていろ。俺とフランはベルトをしていると魔術が制限されてしまう。だから、俺たちのベルトは取る。そうすれば、全力で魔術を使うことができる。しかし、そうするとたとえ奪えたとしても優勝することができない」
「だから、スノウちゃんのベルトは取らないで。私たちが回収したものをスノウちゃんに渡して、優勝しちゃうよ」
「フランの言う通りだ。だから、スノウはこの店で待っていてくれ。ソルムの中なら奪われることはない。一番安全だ。それでは行ってくる」
シュガーとフラースにそう言いつけられ、スノウは席に座って待っていた。
スノウが待っていると女性が1人近づいてきた。
「ここに座っていい? あなたと話したいの」
「暇なのでいいですよ」
「ここで何しているの? ゲームの参加者でしょう?」
「師匠たちにここでお留守番するように言われて」
女性はスノウの師匠に興味をもったのか、質問してきた。
「何の師匠なの?」
「魔術の師匠です。師匠はすごいんですよ。魔術を悪用する人を捕まえる仕事をしているんです」
「貴方、獣人だし、もしかして貴方の師匠って、シュガー?」
「そうです。やはりシュガー師匠は有名なんですね」
「魔術師連盟に所属している獣人は少ないし、指導者だしね。何より、私の弟だし」
「えっ、お姉さんは師匠のお姉さんなんですか?」
「姉と言っても義理だけどね。そうそう、自己紹介が遅れたわね。私の名前は天人のシュテル。世間では五大英雄って言われているわ。シュガー以外には秘密にしておいてね」
スノウの話し相手はギオンと同じ五大英雄だった。シュテルの髪の色は金色で腰まで伸びていた。瞳の色は瑠璃色だった。シュガーは前拾われたと言っていたが、拾ったのがシュテルだった。
「私の名前は獣人のスノウです。よろしくお願いします。師匠のお姉さんが五大英雄なんて。昔話は本当だったんですね。師匠も英雄でしたし」
「あの子も英雄になったの。昔は英雄になりたがっていたわね」
「シュテル様は500年も生きているとは思えないほど、お若いですね」
「私は生まれつき、長く生きられる体だったから、今も生きているの。あの子が来るまで貴方と話そうかな。なかなか会わなくなったから、久しぶりに会いたいし」
昔を懐かしむようにそう言った。シュテルは話が終わったら、離れようと思っていたが、離れずにシュガーに会うことに決めた。
****
キルト、ルキス、アスラの3人は最終チェックポイントである4のチェックポイントを回り、ゴールである都市ソルムに向かっていた。
3人はリアマたちと同様、誰の邪魔が入らず、順調で早かった。少なくとも、彼らが上位に入っていることは確実だった。キルトたちはリアマと同じ心配をしていた。そのことをキルトは口に出し、注意に促した。
「ルキス、アスラ。気をつけろよ。ゴールに近づけば、近づくほど、ゴールをするために必要な結晶を奪うハイエナが出てくるはずだ」
「とりあえず、襲い掛かれたら、殴り飛ばすか」
ゴールを目指していると前にほかの選手を見つけた。アスラとルキスはその選手の姿に見覚えがあった。
「前の人が着ているあの黄色の上着。あんな目立つ服を着ているのはレイぐらいしかいないよ」
「なんだ、おたくらの知り合いか」
「それを確かめるためにも挨拶をしよう」
ルキスは腰のベルトから鉄球を取り出し、手の平で回転させた。そして、威嚇するために前に投げた。ただし、当てるつもりはなかった。前の人が投げた鉄球に気付けば、確かめるために後ろを向くと考えていた。
「なんだ、今のは?」
ルキスの考えは見事に当たり、後ろに戻った鉄球の行方を確かめるために前の選手は後ろを向いた。
「あ、お前たちは」
ミラは後ろを振り向き、鉄球の行方を確認した。そこには仲間であるルキスとアスラの姿を確認した。
「やっほー。久しぶりだねー」
「どうする、レイ。反撃に出るか?」
「まだ、様子見をしよう」
このときにミラはウーニャを発動させていた。
アスラがレイとミラに向かい走りだした。
「それ以上近づいたら、撃つぞ」
ミラはアスラにそう警告したが、アスラが止まる様子は無かった。
左手から5発すべての氷の爪を飛ばした。氷の爪はアスラに向かい飛んでいくが、アスラは右腕を前に構え、防いだ。アスラの右腕に当たったが、傷つけることはできなかった。
受け止めたアスラはミラたちのある程度の距離で止まった。
「さあ、レイ。フォルテに変身して、俺と戦え。前から、戦ってみたいと思っていた」
「レイ、構うことはない。先に向かおう」
「いや、戦わないといけないなら、ここでやる」
レイは鍵型のリトスを胸に刺し込み、フィデスを発動させた。
「未来召喚」
光に包まれ、フォルテに変身した。フォルテは左手をミラの胸にかざし、アニムスを抜こうとした。しかし、アニムスが現れることはなかった。
「なんで、アニムスが抜けねえんだ。まあいい。男なら拳で語るか」
フォルテとアスラは拳を武器に戦闘に入った。
ミラの前にはルキスが立ちはだかった。その手には鉄球が握られていた。そして、キルトはこの場をルキスとアスラに任せ、先に進んだ。
「ここを任せたぞ」
「分かった。ミラ、覚悟してよー。新たな力を見せてあげるよ」
「新たな力を手にしたのは私も同じだ」
ミラに向かって、鉄球が投げられる。ミラはその鉄球に向かって、氷の爪を3発飛ばし、軌道をずらした。これで自分に当たることはないと思い、ルキスに対し、飛ばすために狙いを定めた。
しかし、予想外の事が起こった。鉄球が空中転換し、ルキスの手元に戻っていく。ミラは戻ることを防ぐために氷の爪を2発飛ばした。鉄球にヒットし、軌道をずらすことに成功したが、それでもルキスの手元に戻っていく。
「何か、戻すためのからくりがあるな。ウーニャはダメか」
ウーニャは効かないと判断したミラはフィデスを発動させ、鎖を具現化し、瞳が金色になった。
一方、アスラとフォルテは殴り合っていたが、ややアスラが押されていた。フォルテの拳がアスラに入り、倒された。アスラはすぐに立ち上がり、体勢を整えた。
「強いな、やはり」
アスラが距離を詰めようとしたら、間に1匹の猫が入り込んだ。アスラがそれを怪しんでいるとその隙にフォルテはその場を離れ、ゴールに向かった。
「じゃあな、決着はまた今度だ」
「おい、待て」
アスラの言葉を聞かずにフォルテはゴールに向かっていた。猫はアスラに近づく。そして、アスラの顔まで登り、顔に拳を入れた。
殴られた箇所を抑えていると手首に奇妙な違和感を感じた。手首にしていたはずであったベルトがなく、猫が口に咥えていた。
ベルトを咥えた猫はその場を走り出した。
「おい、ちょっと待て」
アスラも走り出し、猫を追いかけていった。
****
アモル、キルト、レイはほぼ同じ時間帯で都市ソルムの南からゴールに向かっていた。それに少し遅れて、猫を追いかけているアスラも入ってきた。
アスラは鉄球を手に取り、猫に向かって投げた。そのことをその場にいた人に注意されてしまった。
「ここで戦うのはやめてくれ。ルールにも書いてあるはずだろ」
「害獣駆除だから、セーフだ」
猫は鉄球を簡単に避けられてしまう。そして、建物の屋根まで登っていく。それに続き、アスラも屋根に登っていった。
「待て、ベルトを返しやがれ」
アスラはそんな発言をするが、猫は屋根の上を走り始め、次々とほかの屋根に移っていた。それを追いかけていくが、猫の身軽さに勝てず、見失ってしまった。そのことを悔しがり、言葉に出し、叫んだ。
猫は振り返り、振り切ったことを確認した。屋根から降りて、地面に足を着ける。しばらく、走り、ある店で足を止めた。その店にはシュガーとフラースからここで待つようにと言われているスノウがいた。猫は店に入り、スノウの席まで移動し、スノウとシュテルがそれに気づいた。
「シュテル様、猫がいますよ」
「猫じゃないよ」
「この猫は猫じゃないそうですよ」
「猫が話していることを疑いましょうか」
猫が話したことにスノウはのんきだったが、シュテルは疑っていた。そして、間違いなく猫に変身した人だと確信していた。
シュガーと組んでいる人が変身しているのがシュテルの予想だった。スノウとの会話で師匠たちと言っていたこととシュガーは狐の獣人であるため、猫には変身できないの2つの根拠からそう予想していた。その予想は見事に的中していた。
「スノウちゃん、私はフラースだよ。計画通り、ベルトを盗ってきたよ」
その猫はフラースであった。猫から人へと変身していく。口に咥えられていたベルトを手に取り、スノウに渡した。フラースの姿を見たシュテルは反応した。
「はい、これ。全ての結晶が揃ってあるよ」
「貴方がフラース……」
「私って、そんなに有名かなー」
「貴方のことは初めて見たわ。貴方の名前は知れ渡っている有名な魔術師だし、指導者の中でも厄介と聞いているしね。次も同じ姿で会えるのかしら、千変の魔術師フラース・アンヴィ・セニュエロ」
「会えますよ。でも、私って、有名さではシュテルちゃんに負けていると思っていますよ」
「フラースさん、結晶をはめ終わりました。あと、シュテル様は師匠のお姉さんだそうですよ」
「シュテルお姉さん、これからもよろしくお願いしますね。シュガーちゃんにはいろいろとお世話になっていますので。スノウちゃん、行こうか」
「次からはお姉さんと呼ばないでね」
フラースはシュテルからそう注意された。そして、スノウを連れて、店を出て、ゴールに向かい、走り出した。
****
あと、10分以内にこのゲーム『ボースハップン』の優勝者が出る。
優勝者候補は5人だった。英雄であるレイ、アモル。シュガーの弟子スノウ。デネブラエの鉄球使いキルト。スノウと同じように奪い、揃えたガイツの5人であった。偶然か、スノウを除いた4人は南からゴールに向かっていた。
レイは1位の栄光。アモルはリアマに託された思い。スノウは師匠の期待に応えるため。キルトは名誉。ガイツは野心。それぞれの思いを胸に秘めていた。
レイはフォルテに変身していたまま、キルトと共に町に入り込んだ。町に入る前は足に向かって、鉄球を投げられていたが、フォルテは辛うじて避けていた。町に入った後は直接的な妨害はなかった。
「町中の戦闘は禁止にされているが、別に妨害までは禁止にされていないよな」
キルトは鉄球を前に投げた。投げた先には果物屋があり、果物を乗せている机の脚に当て、折った。色とりどりの果物が地面に転がっていく。転がりきる前にキルトは走り抜けた。そして、果物屋の主人に話しかけた。
「後で弁償にしに来るから、金額を出しておいてくれ」
果物が転がっている地面をフォルテは走った。いつものように走れず苦戦しており、何とか走り抜いた。
そして、ゴールの前にある1本通りの道に出た。ほかの道から、走ってきた選手がいた。それはガイツだった。ガイツは赤髪で赤紫眼であり、緑色の長袖である服を着ていた。しかし、フォルテは少しのおかしさを感じた。おかしさを感じたのはガイツの眼だった。どことなく、自分の目とは違うと感じた。
そう感じているといきなり前にいたキルトが叫びだした。
「避けろ、あぶねえぞ」
前を見るとなぜか馬がこちらに向かい、走ってきた。キルトが避けると馬はフォルテでなく、ガイツの方に向かっていく。馬はさらに速くなっており、ガイツは避ける動作を取ったが、避けきれず引かれてしまった。ガイツは普通ではとても走れないほどの怪我を負っていたが、それでも体制を整え、走った。しかし、スピードが出ずにキルトとフォルテに置いていかれた。
そして、フォルテが顕在できる時間に限界が来てしまった。
「俺様がここまでやったんだ。一位になれ」
フォルテはそう言い残し、体が光り包まれていった。そして、レイの姿に戻った。
キルトとレイはゴールを目で捉えた。もう1分もしないうちに優勝者が決まる。
レイの前にはキルトが走っており、徐々に差を着けられていった。本来ならキルトが1位であったであろう。
しかし、また予想外の事が起こった。横の道からスノウが出てきたのである。どうやら、キルトたちとは別のルートで来たようであった。
スノウが1番前に出た。そして、石か何かに躓いたのか転んでしまった。キルトとレイは直線状の道だったため、かなりの速度で走っていた。そのため、キルトはスノウにぶつかり、倒れてしまう。しかし、レイはキルトとの距離に差があったため、避けることができた。もし、フォルテのままであったなら、この距離の差ができず、キルトと一緒に倒れてしまっていただろう。
そのまま、前に出て、トップになりゴールした。レイの1位は必然のものでなく、いくつかの偶然が重なり、1位になった。
「これは必然の勝ちじゃない。偶然の勝ちだ。運が良かっただけだ」
続いて、立ち上がったキルトとスノウがゴールした。キルトが2位であり、スノウが3位であった。しばらくした後、アモルがゴールし、4位になった。ここまでに走る間にガイツに会い、心配の言葉を掛けたが、きつい言葉で返されていた。
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そして、レイ、キルト、スノウは表彰を受け、賞品を受け取ることになった。しかし、レイはその場では受け取らなかった。
ミラと組んで、ゲームに参加したため、相談してから受け取りたいと考えたからであった。
レイはキルトから話しかけられ、お祝いの言葉をもらった。
「1位おめでとうさん」
「ありがとうございます。自分が勝てたのはハプニングがあったからです。なければ、1位ではありませんでした」
「そんなことはあまり気にするな。人生はハプニングの連続だぜ。勝った奴が勝者だ」
「そう言われると気が楽になります」
キルトと別れの言葉を交わし、レイは賞品のことを相談するためにミラを探しに行った。
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レイたちがゴールする前の時間のこと。
シュガーはスノウが待っていた店に入った。しかし、スノウはフラースと共にもう店を出ていたため、そこにいなかった。その代わり、懐かしくもお世話になっている人がいた。
「シュガー、久しぶり。スノウに聞いたわよ。英雄に選ばれたって」
「ああ、選ばれたよ」
そう言いながら、右手の中指からリトスである指輪を抜き、それをシュテルに見せた。
「これがシュガーのリトスね。私のリトスと同じ指輪とは。これも姉弟だからかしら」
シュテルの右手の人差し指にはサファイアブルーの指輪がはめてあった。これが500年前に英雄として選ばれた証、シュテルのリトスだった。
「そうかもしれない。シュテル、2つ確認しておきたいことがある」
「なにー。大切なこと?」
「シリウスに会った。」
シュテルの表情が少し変わった。そして、シュガーが言ったもう1つの確認したいこともなんとなく分かった。
「あの娘、生きていたの」
「ああ、シリウスが生きていたということはベテルギウスも生きているかもしれない」
「それはないと思うけど、一応用心しとくわね」
「ああ、ではまたな」
そう言うとシュガーは席から立ち上がり、その場を立ち去ろうとしたが、シュテルが話しかけてきた。
「たまには家のほうにも顔を出しなさい。あなたの家でもあるんだから。そして、お姉ちゃんと呼んで。最後に1つ、口調が変」
シュテルにそう言われ、シュガーは少し傷つきその場を去った。
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レイと別れたキルトは果物屋に行き、ゲームの賞金で賠償した。その後、ルキスとアスラを見つけた。
「おたくらともここでお別れだな」
「寂しくなるね」
「俺がいないからって、回転の修行は続けろよ。俺からすれば、まだまだだ」
「キルトから教えてもらったことは忘れないからね」
「じゃあな、また逢う日まで。元気でな」
「そっちこそね」
そして、ルキス、アスラはキルトに感謝と別れの言葉を伝え、別れた。短い間だったが、そこには確かな絆があった。
こうして、ボースハップンはレイの優勝という形で終わった。レイの優勝は様々な偶然の重なりによって、勝ち取ったものであった。しかし、物語とは偶然の連続で出来ている。
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