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機械仕掛けの魔人と妖怪の物語   作者: あっくす
初出動オカルト部!学校鬼退治編
9/20

覚醒 ー 異端者レイアルファ


「うそ・・・だろ・・・」


一瞬前まで僕と柊さんがいた場所に破壊痕の道が続いている。

いったい何が起きた?

いや、僕はこれを知っている。

これは喰鬼くいおにの・・・


「くっ・・・!」


僕に覆いかぶさっていた柊さんの苦悶の声に我に返る。


「ひ、柊さん!?大丈夫!?」


「う、うん。でもちょっと脚を、やられちゃったみたい・・・」


その言葉を聞き、柊さんの脚に目を向けると脚の肉がえぐられ大量の出血をしていた。

幸いにも脚が丸ごとなくなっていたということではないがそれでも重症なのは間違いない。


「全然大丈夫じゃないじゃないか!なんで僕なんかを!」


「僕なんかなんて言わないで・・・それより・・彩斗くんだけでも逃げて・・・あいつから・・・!」


そういうと同時に柊さんは燃え盛っている体育倉庫のほうを見る。

それにつられ僕も同じ方角を見るとそこには激しい炎の渦のなかにゆらゆらと揺れる巨大な人型の影がゆっくりとこちらに近づいてきた。

その影が近づくにつれやがてその姿をしっかり視認できるようになり、奴の姿があらわになる。


「喰鬼・・・倒せなかったのか・・・!」


やつの全身の筋肉繊維は激しいやけどのためか、そこら中ただれており、その胸部には心臓がむき出しとなっている。

腹部に開いている巨大な口は形を変化させていて、そこからドス黒い息を吐きだしている。

一目で瀕死の状態であると認識できた。

しかしそれでもゆらゆらとゆっくり確かにこちらに近づいてきており、むき出しの眼球からも明らかな敵意を感じる。


『ヴァガ・・・ガガ・・・ガ・・』


苦しそうなうめき声と一歩一歩確実にこちらに近づく音で正気に戻り、逃げろと脳が命令してくる。


「彩斗くん早く逃げて!あいつ今はあんな状態だけど徐々に再生してきてる!」


柊さんの言う通り、確かに徐々にだがただれた筋肉繊維が元に戻っている様子が見える。

あんな重症でもあと数分とすれば完全な状態に戻るだろう。

逃げるなら今しかチャンスがないのは明白だ。

そう確信し逃走の準備を開始する。


-柊さんを背に負ぶって


「ちょっと、何してるの!そんなことしてたら、」

「わかってるよ!」


僕の背に背負われている柊さんの言葉を遮り語気を荒める。

急な状態に冷静さを欠いていた。

大きく深呼吸をし今度はゆっくりと語りかけるように口を開く


「僕じゃ君を背負いながら逃げることができないなんてわかってるよ。でも君をおいて行くなんて事できないよ。約束したじゃないか。一緒にここを出るって。」


「でも・・・」


「それにあいつを倒さないとここから出れないんでしょ?僕だけ逃げて時間を稼いだとして、その後に何ができるのさ。二人で逃げ隠れてまたあいつを倒す作戦を練りなおそうよ。」


そう言い終わると同時に足を進める。

それでも柊さんは僕の子の行動に対する抗議をやめない。


「私も妖怪で再生力はあるけどあいつ程はないのよ!こんな傷どれだけ時間がかかれば治るかなんて分かんない。それだけの時間逃げ切るなんてできるわけない!だから早くおろして!」


「まいったな・・・」

新しい発見だ。

柊さんはけっこう頑固者らしい。

こんな場面でも彼女の新しい一面をみれた。

それがなんだか嬉しくて顔がにやけるのを止められなかった。


そうだ・・・

こうやって彼女の新しい一面をいっぱい見たくて僕は・・・

僕はこうして生き返ったんだ!


全てを思い出した。



喰鬼に殺されたこと

あの暖かい優しい空間のこと

誰のかわからない声のこと

その後に見た異様な研究室のような場所のこと

そしてそこにいた巨大な人型のこと・・・


全て思い出せた。

僕が何をしたくて生きたいと願ったのかを



「なにわらってるの!?聞いてる?早く彩斗くんだけで」


「そんなこと言わないでよ。」


再び彼女の言葉を遮り、さらに僕の言葉を続ける。


「たとえ短い時間でも一緒に笑って、協力して、約束だってした仲じゃないか。そんな人を見捨てていけっていうの?絶対いやだよそんなことは」


人ひとり背負い、喋りながら足早にかけているためかだんだんと息切れを起こしてくる僕の体。

そんな状態でも背負うことも、かける足を止めることも、言葉を口にすることもやめない。


「それに、例えばこれが逆の立場だったら柊さんは僕を見捨てていく?」


「それは・・・」


「自分ができないことを人にやれっていうの?自分ならいいけど僕はダメって?それはあんまりじゃないかな?」


「・・・」


なんとか納得させられそうな雰囲気が出てきた。

だが言いくるめようとして言葉を発しているのではない。

これ僕の本心からの言葉だ。


そしてこれも僕の心の底から湧き出てくる正直な気持ち


「長い長い期間を過ごしたわけでもない。多くの二人の思い出があったわけでもない。それでも。たとえそれでも・・・君は僕の大切で・・・大好きな人なんだ。」


「・・・へ!?」


横眼から見える彼女の顔が赤くなっている気がする。

もちろん僕もとっても恥ずかしいが、それでも僕の言葉を止める気はない。


「だからね、ここから出て、二人でね、もっともっと思い出を作って行きたいなって・・・僕は思ってます!」


最後にそう語気を強め僕は口を開くことをやめて地面をかける脚に全神経を集中させる。


「は・・・はい。よろしくおねがいします・・・」


柊さんが最後何を言っていたのかうまく聞き取れなかったが、不思議とうれしい気持ちが湧き上がってきた。

絶対に背に負うこの子を離さない。この足を止めはしない。

すでに体力の限界は通り越している僕の体だが、どうかまだ力果てないでくれ・・・


そして我を忘れたように走り続けていた僕の目の前にやがて風街高校の校舎が見えてきた。

とりあえず校舎に入り隠れてやり過ごそう。

どれだけの時間を稼げるかは分からないが、これでひとまずの希望をつかめた。


(これで・・・なんとか・・・)


そう気が緩んだ瞬間


『ガギャギャアガアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!』


「う、うわ!」


急な鬼の激しい咆哮に驚き足をもつらせてしまった。

そしてそのまま自然の摂理で柊さんと僕は崩れ落ちた。

すでに聞きなれていたはずの断末魔なのだが、思った以上にその存在の距離を近くに感じたため体が対処しきれなかった。

まいったな。せっかくさっきまで我ながらかっこいい姿を演じれたのに・・・


「いてて・・・柊さん大丈」

と言い終わる前に、すぐ後ろにやつの存在の気配を感じ、素早く立ち上がり後ろを振り返る。


いつの間にかすぐそこまで喰鬼のを確認し恐怖する

見れば体の火傷は四分の一程度は治っておりむき出しの心臓はその姿を隠し始めている。

こいつだって重症だったくせにすでに元の速さで走れるほどに回復しているのというのか。

そんなバカげた生命力に舌打ちを隠せない。


「彩斗くん・・・」


すぐそばでは不安そうに僕を見上げる柊さんがいた。

この状況下で僕を頼ってくれている様子が垣間見えるような気がし、喰鬼に向かい合うように喰鬼と柊さんの間に立って入る。

後ろの柊さんはもう一人で逃げてなどとは言わず、無言で僕の袖を指でつまんでくる。

信頼を勝ち取れたのであろうか。

そんな仕草を見て頬を緩ませるが、すぐに喰鬼をにらみつけ戦いの意を見せる。


(意気込んだはいいけどどうしよう・・・僕にはなんもできないぞ・・・)


もちろんこんな時僕にはどうする力もない。

それに鬼のほうを見て、さっきまでとは違い極限の瀕死状態ではなく、押せば倒せそうなんて考えはみじんも起きない。

とりあえず立ち向かったのだ。

考えも策もあったわけではない。

柊さんの不安そうな顔を消そうと、とりあえず立ち向かってみただけだった。

それでも押し寄せてくる恐怖と無謀の行動の後悔を押さえつけ目の前の鬼から目を離さない。

僕は立ち向かう。




『そう・・・あなたは立ち向かう道を選んだのね。』




急にどこからともなく声が聞こえる。

柊さんの声ではないのは間違いない

ではどこから?

そんな疑問を払拭するために周りを見るがなにも見当たらない。

それでもその声は続く



『なら精一杯立ち向かいなさい。あなたにはできるわ。』


その言葉と同時に心臓が大きく跳ね上がる

思わず心臓を抱えうずくまるがそれでも心臓の激しい鼓動は止まることはない。


「かはっ・・・!」


体の奥底から熱が湧き出るのを感じる。

体があつい。

耳鳴りがひどい。

目頭が焼けそうだ。

のどの渇きが半端じゃない。

無意識にそんな体から湧き出る熱を押さえつけようとしていたが、そんな抵抗もむなしく早々に限界を迎える。


「うぁぁぁ・・・ああああ・・・!」

悲痛な声が漏れる。





『あなたはもう・・・異端者いたんしゃなのだから』




その声の終わりを聞くともう体の我慢がつかなくなった。

体からあふれ出る熱をどこかに放出したい。

そんな思いで自分のものとは思えない断末魔を上げる


「ああああああああああああああああああ!!!!!!!」


それと同時

僕の体を中心としてサファイア色の輝きを放つ魔法陣が地面に描かれるように浮かび上がった。

そんな魔法陣の図を意識を振り絞り見つづける。

これから自分の身に何が起こるのかを見逃さないために。


やがて魔法陣はその円周に沿う様に、光を天に向かって放ち僕の体を包み込む。

一周全体光に立ちふさがれ何の景色も見えない。

さらにそのまぶしさにとても目を開けていることができず力を入れて瞼を閉じる。


(なんだよこれ・・・はやくおさまってくれ・・・)


もはやどうすることもできない

僕ができたことは一つ。

激しく光る外周に耐え続けた・・・


* * *


そして数秒後。

激しく輝いていた光の収まりを実感し恐る恐るに瞼を開く。


(ここは・・・ぼくは・・・どうなった・・・?)


それを確認するため周囲を見渡すが、そこには先ほどとなんら変わらない景色があるのみ。

空に広がるおぞましいほどの数の妖しい雲。不気味に光り続ける血色の三日月。

その下の地に広がる風街高校の校庭。

そして目の前にたたずむ喰鬼と目が合う。

何ら変わりのない景色。


・・・いや

違う。


景色は何ら変わりない。

ただ

目線の高さが明らかに違うのだ。

僕は今成人男性3人分くらいある喰鬼と目線の高さが同じだ。

僕の身長は170cmちょっとだからそんなことはあり得るはずがない。

僕の体に何が起こったんだ?

それを知るために体を確認する。


(・・・・・・はぁ!?)


僕の体に何が起こったかを確認するために、目の前に広げた掌は皮と肉からできた人間のものではなく、


鋼鉄と複雑な部品からできている機械仕掛けの掌だった


加えて胴体からつま先までサファイア色の鎧を身にまとっており関節部分も例外なく機械仕掛けのものである。


どうなっているんだこれは・・・


なにか全身を確認できるものはないか。

そう思いつき、辺りを見回して視界に入る風街高校校舎の窓ガラス。

その校舎の窓が反射している景色


そこには二つの巨大な物体

一つは喰い鬼

そしてもう一つはそれと向かい合う位置、つまりは本来なら僕が立っている位置なのだが、そこにはあの不思議な研究室のような空間で見た機械でできた巨人がいた。


それを目の当たりにし、遅れながらに理解する。


ぼくが・・・

あの部屋で見た”機械仕掛けの魔人”になっていると




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