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機械仕掛けの魔人と妖怪の物語   作者: あっくす
初出動オカルト部!学校鬼退治編
17/20

鬼二つ

激しい頭痛と吐き気が身を襲い僕はその場にヘタリ込む。

このとても不快な感覚を僕は知っている。


「彩斗くん!」


倒れこむ僕を心配し、抱えようとする柊さんを手で制し、何とか立ち上がる。

確認しなければならないことがあるのだ。

そのままよろけ足で部室の窓まで歩きカーテンを開ける。

そしてそこに広がる景色は想像通りの忌々しいもの。

この世界の空を覆い尽くすほどの大量な不気味な雲と、見れば心を竦ませるほどに妖しく光る血色の三日月。

来てしまったのだ。

ここに。


「鬼の巣・・・」


「うっひゃー。何今の。すっげえ気持ち悪かったわ。」


そんな言葉とは裏腹に飄々としている沙奈江先輩。

そして僕のいる窓まで歩き、感嘆の声を漏らす。


「おっわ。ほほう、本当に鬼の巣らしいわね。」


その言葉に無言でうなづく。


「ねえ柊ちゃん。今喰鬼がどこにいるかわかる?」

「すみません。この校舎の何処かにいるってことはわかるんですけどそれ以上は。」

「了解。まぁあたしたちは幸か不幸か本当に縁の儀式が成功して鬼の巣に来たってことね。」

「ともかくここにいてもしょうがないわ。外へ出ましょ。」


僕らに目を配せ提案をする先輩。

それに無言でうなずく柊さんと僕。

この教室を出れば喰鬼と出くわす確率が上がるが、こんなところでじっとしているわけにはいかない。

それに今回は前回とは違い向こうの手の内は知っている。

そしてこちらには妖怪大博士の沙奈江先輩がいるのだ。

何も怖くはない。

そう自分に言い聞かせ教室の扉に手をかける。


「じゃあ、行きますよ」


先輩と柊さんの肯定の反応をみて扉を開ける。

そして深呼吸をし、一歩を踏み出す。


* * *


「彩斗くん、あれって」

「うん。間違いない。僕のカバンだよ。」


教室を出てから、上から順に探していこうと僕たちは学校の4階に来ていた。

そしてそこの廊下に黒色の物体が落ちていたのだ。

そう。先ほど言った通りの僕のカバン。

この階は僕と喰鬼が初めて出くわした場所で、その時無我夢中で逃げてきたためここにおいてきてしまった。

なのでおそらくはこの階にあるとは思っていたが、本当にあって何よりだ。

柊さんに「ちょっと待ってて」といい、僕一人でカバンのある位置まで歩み寄り中身を空ける。

中には縁の儀式の対象であった先輩のカメラが入っている。


「先輩。カメラありましたよー」


中からカメラを取りだし先輩に見せつけるように手に持ち宙にあげる。

先輩が大事にしていたカメラが見つかったのだ。きっと喜びの表情が見えるだろうとおもったのだが。


反応は僕が思っていたのとは真逆の者だった。


「ばか!うしろ!」

「彩斗くん逃げて!!」


想像とは違う切羽詰った表情の二人の荒げられた声に従い後ろを振り返る。

そして全身から血の気が引くのを感じる。


『ヴァギャアアアアアア!!!!』


今まさにその瞬間。

不快な咆哮をあげ僕に飛びかかろうとしている化け物と目が合う。


喰鬼だ。


そのシーンがまるでスローモーションのように目に移るが、あまりのことでよけるという発想が出てこず体は動かなかった。

そして迫りくる脅威を見て死を覚悟する。


しかしその刹那

目の前の喰鬼が爆炎をまき散らしながら軌道を変え、僕の横を通り過ぎ廊下に転げ落ちる。


「彩斗くん!けがは!?」


今何が起こったんだと頭の整理が追い付かなかったが、柊さんの言葉で我に返る。

そしてその声の方をみると狐の耳としっぽをはやし、妖しい雰囲気を放っている柊さんと目があった。

なるほど。

どうやら僕は彼女に助けられたらしい。

喰鬼はその横っ面に柊さんの狐火を浴び床にたたきつけられたのだろう。


「アギャギャギャアアアアアアアアアアアア!!!!」


僕と柊さんたちの間の位置にいる喰鬼が咆哮を上げながら起き上る。

そして先ほどの攻撃の主である柊さんをちらりと見たが、すぐに振り返り僕を直視する。

明らかに敵意がこもっている。

こいつは覚えているのだろうか、理解しているのであろうか。

前回僕が異端者になってこいつと対峙し戦ったことに。

明らかにそれしかない。

この敵意は異常だ。


「ヴァアアアアアアアアアアア!!!」


ゲ!いきなりかよ!

やたらに甲高い咆哮をあげ突如として喰鬼の腹の部分からいびつな形の大きく開かれた巨大な口が現れる。

何度も見たのだ。これから起こることが嫌でもわかってしまう。

次の瞬間あの開いた口から圧縮された空気のようなものが高速で放出され、僕を消しとばすだろう。

先輩曰く、暴食砲(ぼうしょくほう)

聞かされた胃袋を放出し、それに触れたものを喰らうのだとか。

冗談じゃない。

その場から全力で横っ飛びをし、その一瞬後、僕のいた場所に高速の破壊衝撃が通り過ぎる。


「ふぉおお!!あれが暴食砲ね!いや破壊力すっげえ!」

「感心してないで助けてくださいよ!」


喰鬼の向こう側から沙奈江の感嘆が聞こえる。


「待ってて彩斗くん!今助けるから!」


そんな頼もしい声と共に柊さんが腕を振りかざし掌に炎が浮かび上がる。


「喰鬼、あなたの相手は私よ。こっちを見なさい!」


柊さんが放った炎が一直線に喰鬼へと向かっていき衝突と共に激しい爆炎が広がる。


『ガガガ・・・』


忌々しそうに先ほどの攻撃源の柊さんのいる後ろを振り返る喰鬼。

なんとか僕から注意はそれたようだ。

しかしこのままでは柊さんと先輩が危ない。


「沙奈江先輩、このまま戦闘に入りますね。少し離れて。」

「はぁい!了解しましたあ!想像以上に怖いので、この沙奈江一目散に逃げたいと思います!」

「あんたぁ!何しに来たんだよ!ちょっとは対策立てろよ!」


その情けなさにおもわず反対側から突っ込みを入れてしまう。

本当に何しに来たんだこの人は・・・


「うっせえよばか!思った以上に怖かったんだよ!こんな化け物に戦おうなんてふつう思わねえよ!」

「妖怪大博士の知識はどうしたんですか!頼りにしてたのに!」

「ぶははは!そんなもん恐怖でどっかに飛んでったワイ!」

「うわ、使えねえ!」

「二人ともうるさいよ!ほら、来る!」


柊さんの叱責の言葉の通り喰鬼が腹の口を大きく開いているのが見えた。

暴食砲か。


『ガ・・ガ・・ガ・・』

「来るよ沙奈江先輩!」


そう良い柊さんは先輩の首元をつかみそのまま後ろへと飛び退く。


「いや・・・違うわ柊ちゃん!」


子猫みたいにつかまれた状態になってる先輩が柊さんに異を唱える。

違うとはどういう事なのか。

その言葉を確かめるため喰鬼をよく観察する。


『ガ・・・ガガ・・ガガガガガ・・・』


確かに暴食砲の時のように腹の口は大きく開かれているが鼓膜に響く甲高い咆哮が聞こえない。

それどころかどこかくぐもった声を漏らしながら喰い鬼がうずくまる。

柊さんの炎が効いたのか?

もしやダメージが出てきて案外このまま楽に勝てるのではないかと言う考えがよぎるが、その甘い思考はすぐに消える。


『ガガガガガガガガガガアアアアア!!!!!』


急にうずくまった体勢から反対に海老反りになるように立ち上がり、いつもより音量の増した咆哮をあげる。

そしてその次の光景を見て青ざめる。


開いた腹の口から丸太のような太さの腕が二本伸びるのが見える。

そしてその腕は廊下をつかみ、這いつくばるようにその腕の本体を喰鬼の口から引きずりだそうとし、やがてその頭、肩、体感が姿を現してくる。


「・・・うそ!」


柊さんが唇をかみその光景を見て驚愕の表情を表にし、次に驚愕の事実を口にする。


「二体目が・・・!」


その言葉の通り、今まさに喰鬼の腹の口からもう一体の人型がその全身をこの地に出そうとしていた。


『ア・・・ア・・』


その腹から出てこようとしている人型は不気味なうめき声をあげながらやがて脚も喰鬼の腹から取り出し、その全身をあらわにさせる。

全長は喰鬼よりすこし小さめだろうか、しかしその体の表面は喰い鬼と同じく筋肉線維に覆われており相当な筋力があることをうかがわせる。

筋肉質な体中に粘液をまといながら、四つん這いの体勢でいるところをみると、今まさに生まれてきたと表現するしかないような図だ。


『アアアアアア・・・アアアアアアアアア!!!!!』


そしてその体勢のまま沙奈江先輩と柊さんのいる方向を見て、喰鬼の迫力ある咆哮とは別の、精神を汚染するような不気味なうめき声をあげながら進みを始める。


「げぇ!こっち来た!逃げるわよ柊ちゃん!」

「でも彩斗くんが!」


その言葉の通り喰鬼が僕の方へ振り返り口をゆがませる。

笑っているのか、こいつ・・・


「僕は大丈夫!先輩たちも逃げて!」

「よく言った男彩斗!あとで部室で落ち合うわよ!!!」

「了解しました!柊さん、先輩をよろしく!」


柊さんは僕を心配そうに見て何か言いたげな表情をしていた。


「心配ないよ。僕は・・・異端者だから!」


機械魔人のなり方を思い出したわけでもない。

多田柊さんを安心させるためについた嘘だ。

一瞬困ったような表情をした柊さんだがそれ以上は何も言わず無言でうなずく。


「それじゃあ・・・また!」


その言葉と同時に後ろを振り向き全力で走り始める。

もう何度目か。

喰鬼からの闘争が開始される。




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