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機械仕掛けの魔人と妖怪の物語   作者: あっくす
初出動オカルト部!学校鬼退治編
16/20

突撃

「さてさてさてさて、皆の者条はそろった!いざ出陣の時じゃあ!準備はおーけい?」

「お、おー!」

「はい・・・」


先輩の掛け声のもと、柊さんが戸惑いながらもこぶしを天に挙げ、賛成の意を示す。

僕はというと、先輩からの高速な往復ビンタをくらい頬がはれ、痛さのためあまりしゃべりたくはない。

そのためか気の乗ってない返事になってしまった。

それをいぶかしげに思ってか先輩は


「ん?どうした彩坊。気合が感じられんがね?もう一発ビンタいっとく?」


などと横暴なことを言ってくる


「いえ、大丈夫です!気合出してます!」

「ならばよし!じゃあさくさくはじめるわよ!まずはえーっと」


僕のカラ元気に満足が行ったのか颯爽と僕に興味をなくし本題の”えにしの儀式を始めようと顔引き締める。

ただその儀式を始める前に僕にはどうしても気になることがあった。

そしてそれを確認するために中断させる形で申し訳ないが先輩に声をかける。


「先輩?」

「ん?」

「先輩はこの縁の儀式ってやったことはあるんですか?」


僕が気になったことはこれだ。

沙奈江先輩が妖怪の知識が豊富ということはさっきの会話で十分に理解した。

しかしいくら沙奈江先輩が妖怪博士であろうと、このような儀式などは話が別だ。

もしかしたら僕たちに危険が及ぶかもしれないし、そもそも成功するのか、発動するのかどうかさえ信用ならない。

そしてその嫌な予感は的中することになる。


「んなもんないわよ。ただ本で読んだから手順を知ってるだけ。成功するかどうかは五分五分ってところね。ミスってもやばいことも多分起きないと思うし、そんな生贄用意したりする大掛かりなものじゃないからさ。大丈夫でしょ。」


やっぱりないのか・・・

そもそも本で読んだってどんな本だよ。

この世界にそんな怪しげな儀式を書した本なんか存在するものなのか?

そんな僕の疑問を先輩は読み取ったのか、教室の端においてある自分のカバンのもとへ行き、なにやら古めかしい結構な厚みの本を取り出したと思えば僕の前に見せつけるように突き出した。


「ぱぱぱぱーん。妖怪全書ようかいぜんしょー!」


未来から来た青タヌキのようなセリフとともにその怪しげな本の説明をする。


「この本は世界中の妖怪、不可思議な出来事、その他もろもろをすべて記載されている貴重な本よ。あ他紙たちが今からしようとしている縁の儀式もしっかりとこの本に記載されているわ。せっかくだしあんたらにも手順を説明するわね。」


そう言ってその妖怪全書の本のページをぱらぱらとめくり、目当てのページを開けたのか、そのページを僕らに見せつけるように突き出す。


「ここをみてみ。」


そこには古語だろうか?なんとも難しそうな筆記体で書かれた文字が羅列されている。

みてみ。なんていわれても僕にはその文字を全く読めない。

ぎりぎりそのページの上部にタイトルのように記載されてある”縁”の字だけは読み取れたので、おそらくは縁の儀式の手順がかいてあるのだろう。

そのページをさしながら先輩が再び口を開く。


「儀式の準備は簡単。まずは紙とペンを用意します。柊ちゃん持ってる?」

「あ、はい。」


先輩に促されるのに従い、柊さんが自分のカバンから筆箱とルーズリーフバインダーを取り出し、それらから油性ペンと一枚A4サイズの紙を取り出し机の上に置く。


「さんきゅ。次にー。用意した紙にペンでこのページに書いてあるような魔法陣を描きます。」


片手で本を持ち、そのページに書いてあるような魔法陣の絵と全く同じ形の魔法陣の形をA4の紙にペンで描いていく。

器用だな・・・


「そしてこの魔法陣の中心にこの水晶玉を置きー」


いつの間にかどこからか取り出していたこぶし大の水晶玉をその魔法陣の中心部に置く。

この人いっつも水晶玉持ち歩いてんのか・・・

いやそれより今この人どっから取り出した?

毎度毎度驚かされる。

本当に人間離れした人だ。


「さて!そしてこのページに書いてある呪文を唱えればあら不思議!持ち主と持ち物が同一の場所に存在してるってわけ!」


儀式の準備は以上のようだ。

あとは先輩の手にしている妖怪全書に書かれている呪文を詠唱すれば儀式は成功らしい。

本当に簡単なんだな。


「あのー」

「なーに柊ちゃん?」


礼儀正しく沙奈江先輩が説明し終わるのを待っていたのか、タイミングを見計らって柊さんが先輩に手をおずおずと挙げながら問いをかける。


「それだと鬼の巣に行けるのはカメラの持ち主の先輩だけってことになっちゃうんじゃないんですか?」

「・・・それもそうね。」


確かにそうだった。

僕と沙奈江先輩は条件が揃ったことに注目しすぎていて、そのことを見落としていた。

そもそもの話、この鬼退治作戦には唯一まともの戦力である柊さんが乗り込まないことには話にならないのだ。


沙奈江先輩は手の甲を口元にあて暫くブツブツ独りで呟きながら考え始める。

それをただ黙って見守る柊さんと僕。

思わぬところでつまづいてしまったななどと反省してると先輩が何か閃いたのか手をパンと叩き口を開く。


「よっし!じゃああのカメラはこの考古学研究会の備品ってことにしましょ!それなら皆行けるっしょ!」


・・・それでいいのか縁の儀式。

適当しすぎやしないか?

本当に成功するのかますます危うくなって来た。

そして先輩が長考してる間僕からも一つの疑問が出た。

それを先輩に問いかける。


「先輩僕からもいいですか?」

「はぁ?なに?」


ちょっと。柊さんの時と対応違くない?

そんな理不尽を飲み込み、構わず質問を続ける。


「この縁の儀式ってのは持ち主と持ち物を出会わせるってヤツですよね?」

「そうよん。」

「それって都合よく僕らのほうがカメラのあるところに行けるってことはあるんですか?逆にカメラが僕たちのいるほうに来てしまうってことはないんですか?」


僕の質問は浅はかだったのか沙奈江先輩はハンっと鼻で笑い、バカにするように僕に答える。


「ばかねー。向こうは仮にも神様よ?身分の低いものが迎えに行くのは常識でしょうが。」


そういうものなのか?

常識と言われても全くピンとこないぞ・・・

同じ性質の妖怪ならその常識は通じるのか?と疑問を持ち柊さんの方を見るが、困ったような笑みを浮かばれただけだった。

今の表情から察するにおそらくそんな常識はないんだろう。


「まぁそれはともかくそれは詠唱する呪文次第でどうこうなるもんらしいわ。ほれ、ここに書いてあるでしょ。ここ。」


ここ。と指さされても、僕にはその本に書かれている文字が読めないのだ。

だがまぁおそらくそう書かれているのだろう。

少し腑に落ちないがそれを飲み込む。


「はい!ほかに質問は!」


少し大きめの声をあげ僕と柊さんを見回す先輩。

僕からはもう特にない。

知識がない以上、かなり不安だが先輩を信じるしかない。

柊さんも同じようで、特に質問を口にする様子はなく黙りこんでいる。

それを見越して沙奈江先輩は再び口を開く。


「よし、ないようね。」


そしてその言葉を発すると同時に先輩の顔つきが変わる。


「本当にみんな準備はいい?あたしたちはこれから鬼の巣にいきます。あんたらは分かってると思うけど一応行っとくわね。」


覚悟せよという意を読み取り僕は唾を飲み込む。

この部室内の雰囲気が変わるのを感じ取れた。

本当にいよいよ始まるらしい。


「喰鬼は妖怪の中でも守り神級に属する強力な力を持つ妖怪。生命力、腕力、殲滅力。どれもぴかいちもんよ。」


喰鬼。

僕と柊さんが一度は撃退できた相手。

結果だけ見れば上々だが、その過程には何度も死にそうになった覚えがあるし、もうダメだと諦めさせられそうになったことも多々あった。


撃退できたのはほとんど奇跡だった。

そしてその奇跡とは異端者。

そう。

僕がどういうわけかなることができた機械仕掛けの魔人。

もう一度それにさえなれれば、この戦いも確実なる勝機が見えてくるのだが、今の僕には異端者になれる片鱗すら感じ取れない。

なんとかしてこの戦いの間にそのきっかけを掴まなければと心の中で焦りが生じる。


「でも大丈夫!この考古学研究会のあたしたちならきっと鬼退治できるわ!」


でも何故だろう。

異端者になるきっかけを掴まなければならないというのに、不思議と沙奈江先輩がいれば今回は大丈夫そうな気がする。

いつの間にか僕はこの先輩に信頼を寄せていたのだろうか。

そう思ったら今まで緊張してたのが嘘のように気が緩み頰に笑みが浮かぶのを感じる。


「いいえ、あたしたちしかできないの。この学校の平和をあたしたちが守りましょう!」


その通りだ。

僕らが喰鬼を退治する。

危険を野放しにしておくわけにはいかない。

僕たちがやるんだ。

その決意を目に宿し、先輩がそれを読み取ったのか


「うっし!みんな覚悟はあるようね。そんじゃ行くわよ!」


と締めくくる。



そしてその後再び先ほど用意した魔法陣の書かれた紙と水晶玉に向かい合い目をつぶり口を開く。



八百万やおよろずの神にう。我らが縁のもと、今再び汝と、かの地にて運命の出会いを求む。」


決められた呪文を詠唱し始める先輩。

その姿は普段の先輩とは思えないほどの神聖さを感じさせる。

最初はうさんくさがってた僕だが、その雰囲気にこの儀式の正当さを信じられずにはいられなくなってくる。

そしてそれは続く。


「奏者は我らが考古学研究会。その我らの所有物に宿りし八百万の神よ」


驚くことに、その言葉のすぐあとに水晶玉がポウッと光り始め、その中に淡くカメラが浮かび上がる。

間違いない。

僕が鬼の巣において来た先輩のカメラだ。

その不可思議な現象に息を飲む。


「幾何の時を得て育まれし運命の縁をたどり、その力をもって我らを汝のもとへ導きたまえ」


その言葉のすぐあと部室内の雰囲気がガラリと変わったのを感じた。

普段の穏やかな日常の雰囲気とはまるで違う。

初めて柊さんとあった時のような、鬼の巣へ潜り込んだ時のような妖しい空気がこの部室内を充満していた。

そして理解する。次の瞬間僕らは本当に鬼の巣へ潜り込むんだと。



「縁の誓いを・・・ここに。」



そしてその言葉をいい終わると同時。


激しい目眩と吐き気が僕の体を襲い、それに耐えきれず僕はその場に崩れ落ちた。

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