平和な朝と新しい日常
ジリリリリリリリリリリリリ!!!!!!!
「うーん・・・うるさいなぁ・・・」
部屋中にけたたましく鳴り響くスマートフォンの目覚まし音に夢の世界から引きずり出される。
アラームをとめ、画面を見ると時刻は午前11時。
今日は学校がない土曜日だ。
本来であればもっと寝ている時間帯のはずだが、いったいなぜこんな時間にアラームをセットしたのだろう。
僕は寝る事が大好きであり、通常の休日なら夕方まで寝ている人間である。
そんなダメ人間がなぜこんな規則正しい時間に目覚ましを?
などと不可思議に思っているとスマートフォンの画面にLINEの通知が1件来ているのが目に留まり、それをひらく。
”彩斗くんおはよ!今日は駅前のカフェに12時に集合で変わりないかな?”
だれだこいつは。
休日という僕の大切な睡眠日を邪魔するやつめ。
文句の一つでも送ってやろう。
そう思い相手の名前をみると”コトミ”とあった
ことみ?
僕に女の子の知り合いなんかあの理不尽大魔王の沙奈江先輩しかいないぞ。
スパムだスパムに違いない。
アラームもきっと間違えてセットしたのだろう。
そうだそうに違いない。
そう結論付け再び布団にくるまり夢の世界へ旅立つ。
・・・
「って柊さんじゃんか!!!!!!」
勢いよく布団から飛び出て支度の準備に大急ぎで取り掛かる。
安穏な休日とは裏腹に騒がしい守屋家であった。
* * *
「ご、ごめん柊さん!まった?」
「うん!待った!」
僕の言葉を微笑みながら返してくれる柊さん
うむ。正直でよろしい。
実際には今の時刻は13時5分でありそこまで待ってないと思うのだが、ここは黙っておこう
「本当にごめん!僕寝起き悪くて・・・そうだ!お昼ごはんまだ食べてないでしょ?お詫びにおごるよ。」
「え?いいの?じゃあお言葉に甘えて」
そうニッコリと笑ってくれる。
よかった許してもらえそうだ。
そもそも怒っているのかどうかも分からない人なのだが、そこがまたいい。
こうして僕と柊さんは”僕のお金”で昼食をとることにした。
僕のお金で。
* * *
そいてお互い食事が終わり、食後の紅茶を飲みながら柊さんが話の口火を切った。
「それで昨日のことなんだけど。彩斗くんって何者?」
柊さんがそう言葉にする。
何者。僕は柊さんとは違いただの人間なのだが、おそらくあの機械魔人のことを聞いているのだろう。
「昨日のロボットみたいなやつのことだよね?実は僕自身もよくわかってなくてさ。なんか急に体が熱くなって、地面に魔法陣が出てきて、光に包まれて、目を開けたらでかくなってて、体が機械化してた。ってところなんだけど」
伝わるわけがないのは予想できていた。
実際に柊さんは目をぱちくりさせている。
だがそれもつかの間。我に戻りコホンと咳をして
「つまり彩斗くんもよくわかってないと?」
「そうだね。ぼく、人間じゃなくなったのかな?」
などと笑いながら冗談をかましてみる
「ううん。彩斗くんは正真正銘人間だよ。魔力が感じられないもの。」
「ま、魔力?」
僕の冗談に対し柊さんが聞きなれない単語を投げてきたので思わず聞き返してしまった。
「うん。説明するね。妖怪とかには魔力っていうオーラって言えばいいのかな?そういうのがあふれ出てるんだけど今の彩斗くんには魔力が全く感じられないの。だから彩斗くんは人間のはずなんだけど」
「そうなんだ・・・ん?今のっていうと、前のぼくにはその魔力が出てたの?」
「彩斗くんからっていうよりあのロボットみたいなやつからかな。喰鬼よりも全然おっきい魔力だったからびっくりしたよ。」
そっか。あの機械魔人から・・・
「この際あのロボットみたいなのの存在は認めるとして、どうやってなれるようになったかも覚えてないの?」
そう柊さんが聞いてきた。
なれるようになった理由か。
理由といえばおそらくあれだろうな。
理解してもらえるかどうかは分からないけど僕は起こったことをすべて話した。
喰鬼に殺されたこと。天国みたいなところへ行って女の人の声を聴いたこと。あの研究室みたいなところのこと。そしてそこで見たあの機械魔人のこと。
「その子をあげるわ。あなたの力になるでしょうって言われて目を覚ましたら柊さんの腕の中だった。ってところなんだけど・・・信じれる?」
正直信じられないだろうな。
僕だってこの話を聞いたなら馬鹿にされているとしか思えない。
しかしこの柊さんは困ったように笑って
「ううん、信じるよ。彩斗くんがこんなとこで嘘つくと思えないし」
と理解の意を示してくれた。
「この子って言ってたけど、あのロボットに名前はあるの?」
「確か・・・異端者。異端者レイアルファって言ってたような気がするんだけど」
異端者
普通とは違うものってところかな。
それはあの機械魔人のことを意味するのか、それとも僕自身のことを・・・
「異端者レイアルファ・・・ね。そんな妖怪聞いたこともないけどなぁ・・・きっと私みたいな妖怪とは全く別の存在なんだろうね。」
「僕もよくわかんない」
そういってお互いに苦笑いをする。
とりあえずあの機械魔人・・・異端者のことはある程度整理はできたようだ。
僕自身の中でもあの存在をまとめれたので柊さんに話してよかったと思う。
むしろこの人にしかそんなこと話せないのだが。
重くなった空気を払拭するように柊さんが口開く
「私がいっぱい質問しちゃったね。ごめんね?次は彩斗くんが私にいろいろ聞いていいよ」
これ以上僕から情報を引き出すのは無理だと感じたのか、はたまた僕があまりに深刻そうな顔をしていたからなのか柊さんのほうは質問を切り上げてくれた。
しかし質問か。
何を聞けばいいのやら。
「えっと。じゃあ・・・柊さんの事教えてほしいな。」
「あたしのこと?」
うーん、と考え込むしぐさをする柊さん。
質問が抽象的過ぎて困らせちゃったかな。などと考えていると
「柊琴美です。年は16歳で高校一年生やってる妖狐です。私の親も妖狐なんだよ?好きな食べ物はお肉とお稲荷さん。お家は風街町で一人暮らししてます。あとは・・・えっとえっと・・・」
と語り始めてくれたが、途中で詰まったようなので気になったことを聞いてみる。
「柊さんって一人暮らしなの?」
「うん。今年からね。高校通い始めたと同時にはじめたよ」
「へぇ。前はどこいたの?中学は?」
そこから、あっという顔をして頭を悩ませる表情をしながらたどたどしく口を開いた。
「えーとね。その、前いたとこはね、この人間界とは全く別の世界っていうのかな。私も詳しく説明はできないんだけど妖狐の村みたいなとこがあって、そこのお屋敷で勉強してたんだ。」
そしてさらに説明は続く。
「私みたいな子供の妖狐はそういう決まりなの。お屋敷で人間界の常識とかほかの妖怪の事とか、あとは普通に計算とか国語とか。それでお屋敷での勉強が終わる16の歳になったら人間界へ出ることが認められてるの。」
「え?じゃあ人間界に来たのって結構最近ってこと?」
「そうだね。だからたまに常識外れみたいなこともすると思うけどその時は教えてくれたらうれしいな」
そう言いながら顔の前で手のひらを合わせ、お願いのポーズをした。
うむ。かわいい。
「あとはね・・・」
それからお互いのことをいろいろ話した。
妖怪や妖狐のこと。柊さんと僕の事。そして機械魔人、異端者のことも。
気が付けば日は暮れており、柊さんのそろそろ解散しよっかという言葉をきっかけに会計を済ませカフェの外に出た。
「今日はいっぱいお話ししちゃったね。あとお昼ご馳走様。」
「いやいいよ。遅れた僕が悪いしね。またいつでも。」
「ふふ。ありがと。じゃ、帰ろっか。私はこっち。彩斗くんは?」
「僕は反対方面。じゃあまた。」
「うん。また学校でね。」
そっか。柊さんと僕は同じ高校だから高校でも会えるのか。
等と考えていると柊さんが改まって
「昨日は助けてくれて本当にありがとう。私は彩斗くんに会えて本当に良かったって思ってるよ。これからもよろしくおねがいします。」
とぺこりとお辞儀をした。
「いやいやいや。僕もいっぱい助けてもらったよこっちこそありがとう。僕のほうこそこれからもよろしくね。」
「うん!」
最後に今日一番の笑顔を見せてくれその笑顔に顔を熱くさせた。
そうして互いに反対方向へ歩き始める。
今まで休日は寝て過ごすのが正義だと思っていたが、こんな日も悪くない、いやむしろ最高じゃないかと思いながら帰路についた。
* * *
日曜が過ぎて平日の月曜日の朝。
僕は今通学路を終え、自分のクラスへと着いたところだ。
日曜?寝ていましたとも。
それはともかくこの風街高校の校舎校庭には、この前の喰鬼との戦いの跡は見る影もなく傷跡一つなかった。
本当に別世界に行ってたんだななどと思いながら自分の席へ着く。
すると
「いよーっす彩斗。休日何してたんだー。ま聞かなくてもわかるけどな!!だっはっは!」
この月曜の朝から騒がしいのは数少ない僕の友達”田中 庄司”
ヘアワックスで固めたツンツン頭とメガネが特徴だ。
この先大した出番もないとので覚えなくて構わない。
「はいはい。寝てましたよ。なにか?」
「だろうな!!!しょっぺえ休日!!!」
「うるさいな。睡眠は人間にとって必要不可欠なんだ。僕は自分の本能の赴くままに・・・」
と睡眠について庄司に熱く語っていると。
「はぁー。相変わらず詰まんない人生おくってんのね守屋は。生きてて楽しい?」
と女子生徒が一人失礼なことを言いながら僕と庄司に近づいてきた。
彼女の名前は”木村 妙”
茶髪のロングヘア―とそばかすが特徴のギャルっぽい子である。
彼女は僕の友達というより庄司の友達なのだ。だから僕とはあまり仲良くない。友達の友達といったところだろう。
「はいすいません木村さん。生きててすいません。」
「ったく、つまんな」
「おいおい妙。そんな本当のこと言うなよ。ちょっとは気を遣えよな。こんなやつでも睡眠を生きがいに生きてんだから」
お前も気を遣えよ。
言葉のナイフは結構切れ味いいんだぞ。
そもそもつまらないなら近づかなければいいのでは?
なんで寄ってたかって僕をバカにしに僕の席まで来るんだこいつらは。
いじめか?いじめなのか?いじめだな。
などと月曜の朝から涙目になっていると
「こら!あさっぱからいじめを働かない!あと人の趣味をバカにすんな!守屋だって必死に生きてんだ!」
と助け船を出してくれる子がきた。
助け船か?
この子は加賀”(かが)輝”さん。
薄みがかった青のボブカットが特徴の女の子。実はこのクラスの委員長でとてもお世話焼きな子である。
文武両道ができるすごい子で1年生にして弓道部の副部長だとか。
ちなみに僕とは友達でも何でもありません。
正義感が強い子なんだろう。
「おーおっかない委員長が来たぜ。べつにいじめてねえよ。なぁ妙?」
「うん?興味ない。別にこんなのいじめても面白くないし」
「ボクはおっかなくない!それに妙、今のも結構心をえぐると思うから・・・」
今日は一段と騒がしいなー。
「あー彩斗くんだ!おはよ!2組だったんだね。友達の子に教科書借りに来たら、いたからびっくりしたよー。」
あ。柊さんだ。
まさかこんなに早く学校で会えるとは思わなかった。
今日もかわいいなー。
「おはよ。柊さんは5組だっけ?」
「うん!」
月曜の朝からなんてさわやかな笑顔なんだ。
こっちも元気が出てくる。できればこのまま会話を楽しみたいところなのだが
「おーい。ことみー。はやくいこー。」
と教室の外から柊さんに声をかけてくる子がいた。たぶん柊さんと同じクラスの友達なのだろう。
「あ、うん!もう行くー!それじゃまたね彩斗くん。」
「うん。またね。」
ぱたぱたと手を振り教室を出る柊さん。
朝っぱらから執拗な言葉によるいじめにあってナイーブになっていた僕の気分を一瞬にしてぽかぽか陽気な気分にしてくれる僕の太陽。僕の救いの女神。
ん?
そういや周りが静かだな。さっきまでの罵声はどこへ行った?
と周りを見渡すと。
3人が3人様々な顔をしてこちらを見ていた。
ぽかーんとした顔をしている加賀さん
ありえないという衝撃の表情をしている木村さん。
ムンクの叫びみたいなブサイク面の庄司。
そして沈黙は長くは続かず、それを破ったのは庄司と木村さんだった。
「ささささ彩斗てめー!あんな子とどこで知り合った!」
「え!?あの子って5組の柊さんだよね!?なに守屋知り合いだったの!?」
「いーや妙。こいつの周りに女っ気がないのは毎週俺が確認している。つまりあの子とあったのはつい最近であったと言える!てめー!おまえ!この土日なにしてやがった!!!!!」
「え・・・寝てたって・・・」
「寝ながらあんな美少女とお知り合いになれんのか!?おぉん!?正直にい言えやもりやあああ!!」
「な、なんでこんなコアラみたいな男と柊さんが・・・」
木村さんの質問攻めと庄司の罵倒は続く。
やがて始業のチャイムが校舎に鳴り響き加賀さんが意識を取り戻す。
「っは!?ボクは何を・・・ってそれよりお前たち!チャイムだ席に座って!」
加賀さんが教団の前に立ち朝礼を始めようとする。
木村さんと庄司はこちらに鋭い視線を送りながら自分の席へと戻っていった。
おだやかだった棒の日常の幕引きだ。いったい誰のせいで・・・
柊さん?あの子はかわいいから許す。柊さんに罪を擦り付ける奴は僕が許さない。
じゃあ喰鬼だ。喰鬼のせいにしよう。
いやまて。あいつの存在を誰が信じるだろうか?そもそもあいつに会うことになったのは誰のせいだ?
僕は知っている。
沙奈江先輩だ。
絶対に許さないぞ沙奈江先輩。
と恨みを送っておく。
* * *
「へぶちっ!」
「おーい怪越きたねーぞー」
「はぁ!?汚くないし!!ちょっとだれかティッシュ頂戴!」
登場人物
風街高校1年2組
守屋彩斗 主人公。
田中庄司 特徴:ツンツン頭、メガネ モブ1
木村妙 特徴:茶髪ロング、そばかす モブ2
加賀輝 特徴:薄い青のボブ、委員長、弓道部副部長 ボクっ子