第4話 酔生夢死の人生
「酔生夢死」とは酔っているように生き、夢を見ているように死んで行く。何をするでもなく虚しく生きそして死ぬこと。出典は「程子語録」より。類義語には「遊生夢死」がある。
「それで……覚醒するまでどのくらいかかります?」
「魂抜きの罪に関しては司法官が断罪できなくなる時効が来るまで2年です。ですので最長でも2年我慢していただけば大丈夫です」
「うん……まあ……わかった」
「おや~? どことなくご不満そうですね?」
「姫として転生しなければならないのは理解したよ。でも28年も男として生きてきたのを、今後は女になれと言われても、そんな簡単に納得できるハズないだろ?」
すると、担当職員は事務的な態度から一変、優しそうな顔になり慰めるようにこう声をかけた。
「わかります。ご不満なのは。なので新たな提案があります。大船に乗ったつもりで全て私に一任していただけませんか? 決して悪いようにはしませんから」
「一任ですか……?」
「ハイ」
満面の笑顔で担当職員は答えた。
「すみません……やはり提案の中身を聞いてからでないと」
「チッ……これだから疑り深いヤツは嫌いなんだ!」
『あ……危なぁ~』不運な運ちゃんAはひとりごちた。
「では、提案の中身ですが、その前に今一度確認しますが、姫への転生はご不満ということですね?」
「当たり前じゃないですか!!」
「ええと、あなたのパーソナルデータを確認しますよ?」
と言って担当職員はタブレットらしき端末を操作する。
『…それって真っ先に確認するんじゃないのか? 普通は』
不運な運ちゃんAはひとりごちた。
「え~……お名前は……不運な運ちゃんA、これ本名ですか?」
「んなわけないだろ? 作者が男の名前などどうでもいいと言いやがった」
「その気持ちは私も痛いほど良くわかります! 私だって肩書きだけで名前をつけてもらえないんです。名前が欲しいと言ったら作者が何と言ったと思います?」
「TSしろと言ったんだろ?」
「その通りです。…とと、楽屋話はこのぐらいにしますか。年齢は……28歳、童貞は……10年前に卒業、特定の彼女なし、風俗好き。ここまでは間違いないですね?」
「……確かに正しいけど、後半はどうでもいいだろ!?(涙)」
「いえいえ、これは必要な情報なんです! ……あとは……おおっ! ナ、ナント!?」
担当職員が絶句する。
「……これまでの射精回数は8223回? 1日1回以上やってますね!? それじゃあ、確かに男には未練がおありでしょう。いやはやなんとも、酔生夢死とはこういうことを言うんでしょうな」
「余計なお世話だ(涙)しかもなんで射精の回数までわかるんだ!?」
「私は転生支援課の課長補佐代理です! なので普通の職員がアクセス出来ない情報まで見ることが出来るのですよ!」
担当職員改め課長補佐代理はドヤ顔でふんぞり返った。
「課長補佐代理? なんか中途半端な役職だな?」
「違います! 課長・副課長・課長補佐・副課長補佐・課長補佐代理、課内ではトップ5に入るんです! ウチの課の課員100名! その中で上位から5番目です!」
「だったらさ~もうちょっと融通が利くんじゃないの?」
「残念ながらそうはイカの金玉! 私の査定に響くんです!! 私の評価に響くんです!! 重要なことだから2回言いました!」
「イカの金玉って昭和のギャグだろ、それ? ……それで男に未練があるんなら何だよ?」
不運な運ちゃんAはヤケクソ気味に言ったのだった。