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第20話 臥薪嘗胆にて復活を狙う

 「臥薪嘗胆がしんしょうたん」とは将来の成功を期して苦労に耐えること。薪の上に寝て苦いきもをなめる意から。「臥」はふし寝る意。「薪」はたきぎ。「嘗」はなめること。「胆」は苦いきも。もとは敗戦の恥をすすぎ仇あだを討とうと、労苦を自身に課して苦労を重ねること。

 中国春秋時代、呉王夫差が、父の仇である越王勾践を討つために薪の上に寝て復讐心をかきたて、長い艱難の末にこれを破った。一方、会稽山で夫差に敗れた勾践は、苦い胆を寝所に掛けておき、寝起きのたびにこれをなめてその恥を忘れまいとし、のちに夫差を滅ぼしたという故事から。「臥薪」「嘗胆」ともに越王勾践の故事とする説もある。

 出展は「史記」越世家、「十八史略」春秋戦国より

 ふたりが入室した部屋は事務室らしく、事務机がいくつか並んでいた。その奥に応接用なのか、ソファーがテーブルを挟んで向かい合わせに置いてあり、その奥―壁際に―ひときわ大きな机があり、そこに座っているのがオーナーのようであった。

しかし、その人物を見て不運な運ちゃんAは面食らった。それは、先ほど死役所庁舎にて見かけた人物であったからである。死役所では背広姿であったが、今は私服であろうか、ポロシャツ姿である。


「課長」

 ロリンダがそう呼びかけた。そう、オーナーは転生支援課の課長だったのだ。


「おお……ロリンダ君か」

 課長は顔をほころばせた。


「アリシアさん。もう戻っていただいて結構ですわ」

「わかりました。では、私はこれで」

 アリシアは退室して、ドアを閉めた。

 

「おや?いっしょにいるのは……転生予定の、確か不運な運ちゃんAさん、と言ったかな?」

 課長は美少女のことを、そう言い当てた。


(な、なんで、わかったのかしら??)

 不運な運ちゃんAはひとりごちるが


「はい、その通りですわ、課長」

「転生は速やかに実施すべき……だが、何か事情があるのかね?」

「はい、実は……」

 ロリンダが事情を説明する。


「ふむ……ミマサカ君か……彼女にも困ったものだ」

 課長は苦笑した。


「課長、お察ししますわ」

 ロリンダはにこやかに返す。そして不運な運ちゃんAのほうに向き直り、


「課長に正体を言い当てられて動揺されてますかしら?」

 と、いたずらっぽく微笑んだ。


「ええ、どうしてわかったんでしょう??」

「うむ……私には目の前の相手の、身体に入っている魂がどんなものなのか、わかるのだよ」

 課長はこともなげにそう言ったのだが


「ええ!? そうなんですか!?」

 もちろん不運な運ちゃんAにしてみればビックリである。


「なので、課長はもちろん私の正体もご存知ですわ」

 ロリンダがそう話すと、課長は驚愕した。


「ロ、ロリンダ君……君、まさか??」

「はい、私がヴァルキリーの試作体で副課長の魂を宿していること、彼女に明かしてしまいました」

「……いや~……驚いたよ。君が自ら正体を明かすとは……どういった心境の変化かね?」

「そうですわね。彼女の魂がわたしと同じく『男』のものだから……でしょうか。もちろん、それだけではありませんが」

「ううむ、そうかね……」

 課長は納得しきれないのか、盛んに首をひねっていたのだが


「ま、君は副課長でもあるわけだし……君がそう判断したのなら、問題あるまいよ」

 と、課長は言ったのであった。


「それで? 彼女の協力が必要なのかね?」

「マスターがそう判断されたのです。わたしもマスターの判断を支持しますわ」

「ふむ……まあよかろう。では、彼女の短期滞在許可が出るように計らえば良いのかね?」

「察しが良くて助かりますわ。課長」

 ロリンダは課長に頭を下げた。


「ところで、課長補佐代理はどうしたのかね?」

「はい、実は……」

 ロリンダは、サキュバスへの転生者の件、すなわちミノタウロスをベースにした乳が出る生き物を作成したうえで、さらにその生き物にチートを大盤振る舞いしたため、その処理のために課長補佐代理が未だに庁舎に残っていることを説明した。


「ふーむ……まあ、仕方あるまいな。……さて、では彼が来るまで、君ら、代わりに付き合いたまえよ」

 課長はそう言って、インターホンで酒盛りの用意を命じたのであった。


 ほどなくして、アリシアがワゴンにおつまみやお酒を載せて入ってきた。それを手際よくテーブルに並べていく。課長はアリシアに、このまま接待も命じた。

ソファーに腰掛けた不運な運ちゃんAの隣にアリシアが座り、向かい側に課長とロリンダが並んで座った。とりあえずビールで乾杯。天界製のビールは麦芽とホップと水だけで作られていて、雑じりっけのない美味さであった。


「課長さん」

 不運な運ちゃんAが声をかける。


「何かね?」

「そういえば、役所で課長補佐代理サンが、戒名料がどうとか言ってましたけど、課長さんてお坊さんかなんかですか?」

「うむ……私の実家は天界においてはそこそこ名が知れている寺院でな。私は跡取りなので、役所の休みの時は僧侶としての仕事もしとるんだよ」

「そうなんですか……でも、ここのお店のオーナーなんですよね?」

「うむ……まあ、ここは彼女たちを救済するために作った店だから、ほとんど儲けはないんだがね」

 課長はアリシアのほうを向いてそう言った。


「はい。オーナーにはとても良くしていただいてますわ。毎月の利益から経費を差し引いた残りのほとんどを、私たち従業員に分配していただいているのです」

 アリシアが感謝の眼差しで言うと


「うん……ほとんど慈善事業に近いんだよ、ここは。ただ、役所で話せない用件を話すための密会場所としてはうってつけなんだよ。従業員は全員、口が堅いのでな」

「わたしは……この身体になったあと、マスターに連れられてここに来たのです。課長にはすぐに事態を察していただけて、天界人としての戸籍を用意していただいたうえに、死役所の非常勤職員としての採用に手を尽くしていただいたのです。課長には感謝してもしきれませんわ」

 ロリンダも課長に感謝の眼差しを向けた。


「アリシア君には昼間、別の会社の事業で貢献してもらってるのでな。アリシア君だけではなく、ここで働いているエルフの諸君の半数以上がそうなのだが」


 な、なんと、課長は魂の鑑定を行う会社も経営してるのだそうだ。そして、ここのエルフィンPUBにいるエルフ型生体化ラブドールは50人ほどいるのだそうだが、そのうちの半数は課長と同様、魂の鑑定が出来るのだそうだ。そしてアリシアも、そうなのであった。

そういった能力の持ち主は天界において貴重な存在であるため、保護を兼ねて課長が「魂」鑑定会社を設立して、魂の鑑定証を発行する事業を始めたところ、大当たり! 業績はうなぎのぼりで猫の手も借りたい有様らしい。

 そちらの会社の利益を使い、このエルフィンPUBもオープンさせたのだそうだ。そして、所属するエルフ型生体化ラブドールとの信頼関係を築き、彼女たちが所持している能力やスキルやチートを明かしてもらったうえで、鑑定会社で役に立つ能力を持っていたらそちらでも働いてもらっていると言う事であった。

 魂の鑑定能力以外でも、戦闘系の能力を持っているものにはセキュリティ部門で能力を発揮してもらっているとのことであった。ちなみにアリシアは魂の鑑定能力持ち(以下、『魂鑑定』チートと記す)のうえ、戦闘系の技能も持っている、課長に言わせると稀有な存在と言う事であった。


「それじゃ、アリシアさんは、あたしの魂がどんなだかわかるんですか?」

 と不運な運ちゃんAが問うと、アリシアは頷き


「30歳ぐらいの男性の魂に見えますわ」

 と答えた。


「じゃあロリンダさんに連れられて、この店に入った時にはわかってたの?」

「はい。魂が男性のものであることはすぐわかりましたわ」

「そうだったのね……ばれてたんだ、あたしのこと。一応言っておきますけど、あたし、好きで女になってるわけじゃないですから」

「大丈夫です。身体も心も女性のようでしたから、きっと訳ありだと思いましたので」

 と言ってアリシアは微笑んだ。


 乾杯後は各自、自分が飲みたいものを自分のペースで適当に飲むことに。課長は清酒に見える酒をチビチビ、ロリンダはかなりアルコール度数が高そうな酒をガバガバ飲んでいた。不運な運ちゃんAは生前はアルコールに強かったのだが、今の身体はアルコールへの耐性はあまり高くはないようなので、最初に注がれたビールをチビチビ飲んでいた。


「ロリンダさん、強そうなお酒ですね?」

「はい、これは『ユーキーノの手招き』という名前のお酒で、アルコール度数は60度ありますわ。名前の通り、神界へ昇天しそうなお酒ですわね」

「でも……だいぶ飲んでるのに、全然平気そうですね?」

「わたしの身体はアルコールの代謝が常人の数十倍まで高められているので……強いお酒をたくさん飲んでもほとんど酔わないのです。ですが、強いアルコールを摂取することにより、活動エネルギーに効率良く変換できるので飲む意味はあるんです」

「でも、いくらお酒を飲んでも酔えないんじゃ、つまらないのでは?」

「お酒の味自体はわかりますし、親しいひと達と楽しく語らうことで雰囲気に酔えますので、決してつまらないことはないですわ」

 事実、ロリンダはリラックスして楽しそうにしているように見えた。


「ところで、ユーキーノって何の名前なんです?」

「それは私がレクチャーしよう」

 課長がいきいきと話し出した。


 神話の時代。天界は神界と人界の区別もなく、唯一神のみがいた。唯一神は、ただ一柱の神ゆえ名前はなかった。また男神にして女神であった。これは男の姿にも女の姿にもなれたからと言われている。その唯一神は自分を補佐させるために3人の女神を生み出した。長女である秩序の女神・アフタ、次女である豊穣の女神・フェルド、三女である叡智の女神・マンテンである。長女のアフタは女王様気質のいわゆるゴージャス系美女、次女のフェルドはほんわか癒やし系美女、三女のマンテンは保護欲をくすぐるロリ系美女と伝えられている。

 唯一神は3人の女神に神界の統治を任せ、自らは人界に下り立ち、天界の民を生み出した。現在の天界人は唯一神が生み出した民たちの末裔とされている。そうして神を信奉するものたちを生み出したのち唯一神は神界へ戻ったものの、以後は楽隠居を決め込みつつ、たまに人界へお忍びで降りてくるらしい。

 さて、ひとが増えると宗教も発生する。最初に出来た宗教は豊穣神を崇めるフェルド教であった。そしてここで名前のなかった唯一神に名前がつけられた。その名はナナシーノ。またフェルド教の教祖は……両性具有者のみが就くことが出来、信者からは「ゴンノヒョウエ」と呼ばれていた。「ゴンノヒョウエ」とはフェルド教においては「神の代弁者」を意味する言葉であったが、フェルド教が凋落した現在では「出来損ないの神」を意味する言葉へと変化したと言うのは余談ではある。

 教祖であるゴンノヒョウエは、時の権力者や大金を寄進したものに対して、教祖自らが性的な奉仕をしたり、女性信者の求めに応じて子種を授けることもあった。そのため、その後出来た秩序神を崇めるアフタ教や叡智神を崇めるマンテン教を抑え、幾世紀もの間、隆盛を誇った。ただ、教祖は代々、両性具有者しか就けないことがネックであった、なぜなら両性具有者が自然に産まれる確率はかなり低い。その低さゆえ、神に選ばれし神子みこと喧伝されてはいたのだが。そのためか、フェルド教団の内部において、非人道的な実験が神の名の下に繰り返され、人工的に生み出された両性具有者が、ゴンノヒョウエを襲名し教祖を引き継いで行ったのであった。

 しかし……そのような体制は長くは続かず、人心は徐々に離れていき、フェルド教は凋落していった。代わりに台頭したのが、現在の二大宗教のひとつ、マンテン教である。マンテン教はフェルド教から離れた男性信者の大半と女性信者の一部が入信した結果、瞬く間に天界における最大宗教となった。またフェルド教から離れた男性信者の一部と女性信者の大半はアフタ教に入信し、アフタ教は天界第2位の宗教となった。

 マンテン教においてはマンテンの仕える主神は男神と定められていた。またアフタ教においてはアフタが仕える主神は女神と定められていた。このふたつの宗教の信者たちの祈りが神界へ届いた結果、始原の神ナナシーノから男神の部分である天界神ユーキーノと女神の部分である至高神カーナが独立、と同時にユーキーノとカーナがナナシーノから神の力の大半を奪ったことにより、ナナシーノは力を失ったとされている。


 そして、現在。マンテン教は天界における最大宗教となり、主神であるユーキーノは神界においても権勢を誇っているとされている。ちなみに課長の実家はマンテン教の寺院だそうだ。なので、課長の口癖である「天界神のご加護のあらんことを」における天界神はユーキーノのことなのだそうだ。

 マンテン教と並ぶアフタ教は、至高神カーナを信奉する女性信者が多いことで有名なのだが、カーナを補佐するアフタ女神は秩序を司っているので、司法省の職員はほとんどがアフタ教の信者であるらしい。

そしてフェルド教はというと、始原神ナナシーノがほとんど力を失ったことにより、豊穣の女神の力も衰えたとされていて、信者もほとんどおらず、今ではほとんど泡沫宗教となってしまったらしい。「ゴンノヒョウエ」の名前を継いでいる教祖は存在しているようだが、信者以外の前には姿を見せないためその正体を知るものはいないそうだ。


 「ひょっとして、ミマサカ副課長補佐サンってアフタ教の信者なんですか?」

  不運な運ちゃんAが問うと


「おそらくそうでしょうね」

 ロリンダが肯定した。


「ロリンダさんは、どの宗教を信じてるの?」

「わたしですか? わたしは……」

 問いかけられたロリンダは目を泳がせつつ、やや躊躇していたが


「……わたくしはマンテン、あたしと、わたしの中のロリンダはアフタを信じています……」

「じゃ、副課長サンはフェルド教の信者なんですか?」

 不運な運ちゃんAが問うと


「はい。そうなのです」

 ロリンダはとても言いにくそうに答えた。


 ロリンダによると、「ヴァルキリー・プロジェクト」には相当数のフェルド教信者が入り込んだ結果、酷家プロジェクトの皮を被ったフェルド教団のプロジェクトにすりかわっているとのことであった。

その目的は……ナナシーノを人界に降臨させて宿らせる依巫よりましとなるヴァルキリーを作り出し、ナナシーノを顕現させるというもの。また顕現させたナナシーノに付き従う不老不死の巫女としてヴァルキリーを活用することも考えられていた。かつては栄華を誇っていたものの、その後凋落の一途を辿り、現在は泡沫宗教と化したフェルド教団であったが、臥薪嘗胆、復活を狙っていたのであった。

副課長はフェルド教団では、教祖、司祭に次ぐ司教の地位にあったのだが、教祖からの直接指令によりアンドロイド設計の第一人者であった生前のロリンダをプロジェクトに勧誘したのが、副課長自身であった。


「……そのせいで、わたしはこの身体になってしまったのですが」

 ロリンダは自嘲気味に吐露した。


「ロリンダさんは今でもフェルド教を信じてるの?」

 不運な運ちゃんAが問うと


「ナナシーノ神やフェルド神は信じてますが、教団は信じてませんわ……仮に信じたくとも、わたくしもあたしも許さないですし、それにわたしの中のロリンダも許してくれませんから」

「教団の信者でプロジェクトに係わっている死役所の職員はいるかね?」

 課長が口を挟んだ。


「わかりません。死役所にも教団の信者はいると思いますが、こういうことは皆、隠してますから。すべてを知っているのは教祖だけですわ」

「うーむ。何やら話が大きくなってきたな」

 課長が腕組みし、頭をひねった。


「それにしても……アフタとフェルドとマンテンでしたっけ? 3人の女神」

 と不運な運ちゃんAが言うと


「そうだが……どうかしたかね?」

 と課長。


「いえ、あたしの生前に聞いた言葉に『アフター フィールド マウンテン』と言う言葉があるんです。何か関係あるのかしら?」

「どのような意味の言葉かね?」

「え~と……『後は野となれ山となれ』って意味で、無責任を象徴する言葉なんです」

「……この件は、この場限りにしたまえ! いいかね! この場限りだ!! 大事なことだから2回言ったよ」

 課長が言い、ロリンダとアリシアも首肯したので、不運な運ちゃんAはこれ以上、この話題に触れるのはやめた。本当は、ナナシーノとゴンノヒョウエの関係とかも追究したかったのだが。


 「なんか暑くなってきた……」

 と言って、自分の着ているセーラー服を無意識に脱ごうとした不運な運ちゃんA。だが……服の裾が肌に密着していて手が掛けられないことに気がつく。

(そうか……この服って脱げないんだっけ……)


「ちょっと夜風に当たりに外へ行ってもいいですか?」

 と尋ねた不運な運ちゃんAに


「では私がいっしょに参りましょう」

 アリシアがそう申し出た。ロリンダは腰を浮かしかけたが、アリシアがついていくのなら問題ないと判断し


「ではアリシアさん。お願いしますわ」

 と、アリシアに頭を下げた。


 不運な運ちゃんAとアリシアが部屋から退出すると、ロリンダは真剣な面持ちで課長に向き直った。

「課長」

「なんだね?」

「サキュバスへの転生予定者の件です」

「それがどうかしたかね?」

 課長は涼しげな表情。


「あれって、課長の指示では?」

「……なぜ、そう思うのかね?」

「転生予定者は少年ですよね?」

「課長補佐代理から聴いたのかね?」

「やはり……マスターも知ってましたか……」

 ロリンダは嘆息した。


「あまり強引なことはされないほうが良いのでは?」

「剛腕で鳴らした君らしくもない。そうではないかね? 鬼の副課長」

 課長が茶化すように言うと


「わたしは……もう男とは言えませんわ……課長。マスターを愛してますし、マスターのことを想うと心がときめくんです。わたしは……ほとんど女なのです」

 それでも、完全な女と言い切れぬロリンダ。


「すまない。君を苦しめるつもりはなかった。許してほしい」

 率直に頭を下げる課長。


「課長。頭を上げてください。気にしてませんから」

 柔和に微笑んでロリンダは課長にそう言ったのだった。


 「……君の言うとおり、あれは私の指示だ」

  課長はあっさり認めた。


「やはりそうでしたか。年度末が近いせいですわね?」

「やはり君は副課長だよ……察しが良い」

 課長は自分のひざを手のひらでポンと叩いた。


「すると予算消化のためですか?」

「うむ……このまま行くと予算が大幅に余りそうなんだ。裏金に回すとしてもそれなりに手続きが必要だ。そのためには……」

「転生予定者がゴネそうな転生を強要して、代わりにオプションを大盤振る舞いする、と言うことですわね?」

「その通りだよ。聞けば、サキュバス転生の見返りにチートを大量に付加したミノタウロスを進呈したのだろ?」

「はい、そのように聞いています」

「あとは課長補佐代理がチートの付加に要する費用を大幅に水増し操作して裏金に付け替えてくれれば、課のプール資金も増えて、予算も使いきれる。万々歳だよ」

 課長がほくそ笑んだ。


「……わたしが副課長であった時は、わたしがやっていたことですわね。ただ……マスターに負担を押し付けているわけですし……」

「うん、次の査定では評価を十分に考慮するよ。汚れ仕事も厭わぬ部下は貴重だ。なにより、君がついてるわけだしな」

「課長。どうか、マスターのことよろしくお願いします! わたしも課のために今後も尽くしますので」

 ロリンダは頭を下げつつ


(不運な運ちゃんAさんには……聞かせられないわね。こんな話)

 と心の中でつぶやいたのであった。

 天界神「ユーキーノ」はサキュミルの作者である、木野さんの名前から。ま、サキュミル世界においては、唯一神ですから。また、至高神「カーナ」は、漢字で書くと「仮名」です。始原の神「ナナシーノ」は教祖「ゴンノヒョウエ」とセットにすると「名無しの権兵衛」となります。

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